私の入院日記 その2
三
W5病棟には、全部で三十人ほどが入院していた。
『男女混合病棟』と、前に記したが、どちらかといえば女性の方が多く、女性二十人、男性十人といった具合だった。
(混合病棟なんかにして、問題は起きないのかな?)
私は思ったが、どうやらそうした不祥事みたいなものは、今のところ一つもないようだ。
病棟は入り口が閉鎖されている(主治医の許可がない限り)以外は、中では比較的自由で、みんなそれぞれにやりたいことをやって、一日をすごしている。
日によって決められたプログラムみたいなものがあるのだが、参加するかしないかは、それぞれの
意志に任されているらしい。
私が入ることになった病室は、病棟の一番奥にある二人部屋であった。
(相部屋になるのはどんな人かな?)
少しばかり不安な思いがしたが、どうやらそれは杞憂というやつだったらしい。
入院していたのは『ヤマダ君』という、私より少しばかり年下の、十代の終わりくらいの男性だった。
色白で丸顔、大人しそうな顔をしていた。
ついてきてくれた看護師さんが声をかけてくれたのだが、彼はちらりとこちらを見て、軽く頭を下げただけで、それ以上何も言わなかった。
でも、看護師さんがいなくなって、私がバッグを開けて、持ってきた荷物を整理して、ひと段落ついて、僕が一冊の本(私の好きなアニメの設定資料集みたいなものだったが)を見ていると、
『あの、そのアニメ好きなんですか?』と、向こうから声をかけてきた。
聞けば、彼も大のアニメファンで、特にロボットアニメの大ファンだという。
僕があれやこれやとタイトルを上げると、
『あ、それも知ってます』
『それも!』という具合で、お互いに話が弾んだ。
何でも彼は私より2か月前からの入院だそうだ。
ここではテレビがフロアに一台きりしかないので、好きな番組も見ることは出来ない。従って世間の情報にすっかり疎くなってしまって、アニメも何話か見逃してしまったという。
その話を僕がしてやると、彼はとても喜んでいた。
ふと、彼の腕を見ると、何か細かい傷跡が沢山ついている。
(ああ)
と、僕は思ったが、こういう病院では何の病気で入院してきたかなんて、あまり聞かないのが暗黙のルールだと、前に読んだ本に記してあったので、私はそれには触れないようにして、やがて館内放送で食事だと告げられるまで、ずっとアニメや漫画や、好きなミュージシャンの話ばかりをしていた。