第三十九話 適正階層
三階層に着いた。
三階層は山間を思わせるような感覚だった。木が生え並び、先ほどまでの洞窟の様相とは全く違う。
「ウォーン」
狼の鳴き声が聞こえる。一階層だけでこうも変わるものかと思う。
「では、ここで戦いましょうか」
王女様が言う。
「わかった。でも、気を付けて。低階層とはいえ、階層主が湧くかもしれない」
「わかりました」
階層主とは各階層ごとに湧く可能性のある魔獣で化け物クラスの能力を持つ。特に五の倍数階層に現れやすいらしい。五の倍数階層でなくても全然湧く可能性はあるので、怖いなと思う。
勿論、そうでなくても普通に通常より強い魔獣が湧く可能性なんていくらでもあるから迷宮内は危険だ。
まぁ、でもいくら可能性を論じていても戦わないと強くなれない。俺も適当に魔獣を狩ってこよう。
「しかし、久しく魔獣狩りなどやってませんので、足手まといになるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」
王女様がそんなことを言ってくる。
「こっちも素人だからね。こちらこそ」
「では、」
「じゃあ、一時間後にここに集合で」
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というわけで、沢山、魔獣を狩りに行きます。
「とりあえず、【状況把握】」
【状況把握】で取りあえず、魔獣の居場所を探る。
うーん。言うほどいないな。もうちょっと下の階層に行ってもよかったかもしれない。
「景観破壊にならない程度に、【雷撃】」
森の木々を潜り抜け、俺に向かって、攻撃しようとしていた緑子鬼を打ち抜く。
「【氷風刃乱舞】!」
合成魔術を起動して、俺の周辺の魔獣をねらう。【状況把握】によると、周辺にいる魔獣の数は数十程度。余裕で倒せる。
放たれた氷の刃が緑子鬼や狼を殺していく。
「これで、十七匹。回収が疲れるけど、まぁいいか」
【虚空庫之指輪】に収納していく。改めて考えても本当に便利だよな……これ。
魔獣の死骸は吸い尽くされるようにして、吸収されていった。死骸は後で討伐証明部位だけ剥ぎ取って燃やしておこう。
そこはかとなくしている内に、周辺にいる魔獣たちは刈り尽くした。
「しかし、簡単でしたね」
いつの間にか来たのか王女様が合流していた。左手に血塗れた短刀を持って……いや、怖い怖い。なんか、軽く人を一人や二人、殺めてきましたって顔をしている。
物理で殴ってたのか。魔術も使えるはずなのに。
「一応、強い魔獣はいなかったしね」
と言っていると、冒険者の一行が遠くから来るのが見えた。男三人とパーティだ。その中の剣士の剣に血が付いてないから戦闘を行ってないのがわかる。
「魔獣が全然いないな……異変か?」
「いや、魔獣がいないだけで戦闘があった痕跡は沢山あるし、例えば木が数本倒れている。普通にやっただけだと、焦げないだろうし、魔術が使われたのは一目瞭然だ」
「確かにな」
「うん? お、ちょうどいいところにいるな」
パーティが話している声が聞こえた。こっちに向かってくる。
「おい、あんたたち、魔獣を見なかったか? 全然いないんだよ」
「俺らが狩ったからじゃないか」
俺が普通に答える。特に大したことを言ったわけではなかったが、冒険者の一行は驚いた顔をした。
「んな馬鹿な。魔獣なんて、数十は一時間で湧くだろう? そんな速度で狩れるのか?」
「僕だけで、三桁は討伐しましたし、もう一人の相棒もそうでしょう」
便意上、相棒(王女様)も三桁って言ったけど、多分そこまで狩れてないんじゃないかなと勝手に思ってる。
「そうか……いや、一人で三桁って……うん。まぁ、いいや。だけどな、やりすぎだ」
……
……!?
「三桁討伐ってことはこの階層に留まる必要すらない。適正階層で狩るのが普通だ。駄目だぞ。組合で聞かなかったのか?」
若干、呆れるような顔だ。
「しかも、そのレベルなら十階層より下の階層でも充分だろう」
「……すみません」
「いや、知らなかったならいいんだ。ただ、今度から気を付けろよ。新人の狩る魔獣がいなくなってしまうからな」
と言って、冒険者の一行が去っていた。
「どうしようか」
「適正階層なんて知りませんでした。十階層より下の階層に降りた方がいいでしょうか?」
「でも、そこまでの準備をしてきてない。多分、今から十階層まで行こうとすると数日はかかる」
数日掛かるのにテントや食料を買い込んでない。当然、下の階層に行くことはできない。できたとしても、五、六階層が限界だ。
「どうしましょうか」
「うん。どうしようか」
俺らは少しの間に相談した後、取りあえず今日は戻ることにした。




