第二十九話 囚人から技能を奪う
夜になったので、地下牢に行く。
この世界でも月は輝いていた。月光が入ってくる廊下を歩きながら、俺は地下牢へ向かう。階段を下り、地下牢の入口に着く。
「待っていたよ」
そこにはアルがいた。アルが来る必要が無いが、【技能奪取】の使ってるとこを見たいらしい。
「よし、じゃあ、いこうか」
そう言って俺たちは歩き出した。
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俺たちは地下牢の中に入っていく。薄暗く、気味が悪い。俺はそう思いながら、歩いていく。
「……この先で待っている」
とアルは静かに言った。
「そういえば、地下牢っていう割には囚人が少ないですね」
「ここは本当に超凶悪犯しか入れない仕組みなんだ。ここに収容されているのは、確か、全員で三十人ぐらいだったはずだよ」
そうだったのか。通りで空の牢屋が多い訳だ。
「よく来てくださいました。歓迎します」
そう言って、微笑んだの美少女だった。
美しい銀髪を靡かせて、違う色の両目を眠そうに擦る。
あれ? 王が待っているんじゃないの?
「王もサプライズとか止めた方がいいのに。第二王女が待ってるなんて」
アルがボソッと呟く。
「【異界勇者】の卵の方に地下牢を案内するように言われています。どうぞ、こちらに」
王女が歩き始めた。俺はそれを追う。
「てか、第二王女様? 大丈夫なの? 確か、魔力欠乏症じゃなかったけ?」
「毎日、一定の魔力供給でどうにかなります。貴方様の純度の高い魔力を大量にストックさせてもらいましたので、後数年は大丈夫です」
「そっか」
アルは軽く王女と話しているが、俺はそんな気にはなれなかった。
「さて、ここが、【獄罪の間】です。ここに収容されているのは数人しかいません。こいつらから、技能を奪えるのなら奪ってください」
辿り着いたのは、十字架が五つ並んでいる場所だった。全員が十字架に磔にされていた。中には美人な女もいる。しかし、全員、人生に絶望、後悔したような顔をしていた。
「……殺すのか」
か細い声で囚人が言った。まるで、全てに絶望したような声だった。
「いえ、殺しはしませんよ。どうぞやってください」
俺は囚人に触れる。十秒が経つ。
【特殊技能【多重存在】を【テル】から奪いました】
【技能【時空属性魔術】【次元属性魔術】【並列思考】を【テル】から奪いました】
さらに十秒触れ続ける。
【技能【光属性魔術】【分析】【鑑定】を【テル】から奪いました】
よし、このくらいでいいか。
「確かに技能を奪えてるな」
アルが言う。すると、王女が少し考えるようにして、言った。
「では、どんどん奪って言ってください」
俺はそいつらから、技能を奪った。
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そして、最後の一人になった。
俺は十秒触れる。が、何も起こらない。
「あれ、発動しない……」
「なぜでしょうか」
「条件とかがあるんじゃないか?」
俺はアルに言われた通り、発動条件を見直してみる。
【技能奪取】
【分類】技能系
【希少度】特殊
【説明】対象の技能を奪える。奪える技能の【希少度】は特殊まで
そして、創造神の追加説明により、対象者のランクが俺より低い者からは奪えない……あっ、もしかして、こいつ……
「こいつのランクって何?」
「うん? ランク? Ⅲだね」
なるほど。だから、技能が奪えないのか……
その旨を王女とアルに伝える。
「なるほどね。じゃあ、ランク上げの必要もありそうだね」
「そうですね。上位天職を取れれば、自然にランク制限が消えるんですけどね」
「まぁ、今日は面白いものを見せてもらったからいいか」
俺は部屋に戻り、ぐっすりと眠った。




