第二十五話 組合長
「そこまでだ」
俺たちはその声の主を見た。白い髭にステッキをつきながら歩いてくる御爺さん。第一印象はそれだった。
「なっ!? 組合長……」
彼は驚いた顔をしながら言った。
「さてさて、新入り君、挨拶をしよう。名前をトル・ミアレという。一つの街の長をやっておったこともある。まぁ、今は組合長なんかを任されておるがのう。お主の名を何という?」
「天野翔」
俺は短くそう伝える。なぜか、迂闊に挨拶すらできない感じがした。一瞬でも気を緩めれば、殺されそうな濃密な殺気が俺を襲っていた。
「そうかそうか。カケル君。君はこやつから決闘を受けていたんだね」
「そうだ。組合長が出てこなくてもいいだろう」
「いや、そうもいかん。王の親衛隊が先ほど組合まで、彼を迎えに来た」
「はっ?」
彼はポカンとした顔になる。
「彼は王より直々に王城への招待を受けているのじゃ。つまり王の客人なわけじゃ。さて、どうなるだろうな。お主の人生の破滅程度で済めばいいがな……」
そこで察した。恐らく御爺さんは決闘を中止させようとしている。
「まぁ、お主も実力がわからんまま、こやつとの勝負を終わるわけにはいかんだろう。そこでだ。あるチャンスをやる」
御爺さんはそこで一息をついた。
「儂の魔術を喰らってみよ」
笑顔でそう言われた気がした。俺は一瞬、判断が遅れたが、弾丸の雨が飛んできたのを見て、咄嗟に回避行動をとる。
「どういうことですか」
「そのままじゃ。儂は魔術はあまり得意ではないが、Sランクぐらいの魔術なら使えるぞ。それを完全に避けきれるなら、お主は回避だけならトップクラスだろう。それが、彼にとっての証明にもなる」
まぁ、このおじさんが最初に言ってたのも、魔獣から身を守れるかってことだし、回避センスがそれだけあるなら、彼の勝負の証明にもなる。
ただ、理論的には正しいが、避けきれなかった場合、いくら回復可能な結界があるからといって、王の客人を傷つけることになる。
「お主に傷がついたら、治癒魔術をかけるから安心せい」
そう言って、いきなり魔術を放ってきた。
「【空間破壊】」
ステッキから術式が走った。
まずい。魔術の初心者の俺でもわかるぐらいに不味い。この御爺さんの攻撃は本気だ。一歩間違えば死ぬ。
「【形状変化:形態:金聖剣】」
俺は急いで元の姿に戻す。そして、剣を迫りくる何かに当てる。
【付与】の一つ【術式干渉】。これは事前に使い方を教えてもらっていた。
対象の術式に剣を当てることによって、その術式に干渉することができる。術式を直接弄れるので、一カ所でも弄れば、ほぼ全ての術式は壊すことができる。
なので、俺はズラッと並ぶ文字列の一文字だけを消す。
すると、何かが消えた。感覚的な物だから表現しにくい。ただ、眼に見えない魔術だったから、危なかった。
「ほう。やるな。術式に直接干渉してくるか」
と言って御爺さんは感心してくれた。だけど、これ、殆ど剣の力なんだけどね。
「まぁ、予想外の回避行動じゃが、よいとしてやる」
そう言って、ステッキをこちらに向けた。
「【転送】」
眩ゆい光が俺を包んだ。そして、俺は組合の外に移動してた。
もう、どうなってんだよ。無茶苦茶だよ。




