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CAMELOT  作者: 甘崎みかん
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HeLL G@te pert2 

 HeLL G@te pert2 (1/1)

五年前、ブリタニア王国首都、ロンドン。

「本当にいいのか?ダビデューク。騎士団を辞めてしまって」

騎士団長の問いかけにクリスカはこくりとうなづく。

「でもどうしていきなり除隊を決めたんだ?」

クリスカはもじもじと手嬲りをしながら小さい声で答えた。下を向いたままだ。

「何というか。故郷のウクライナのボルシチが恋しいといいますか………」

「そうか。だが、ウクライナ料理店ならロンドンにもあるじゃないか」

「でも、ロンドンのボルシチはあまり美味しくなくて……。お母さんの手料理が食べたいですし……」

クリスカの声はどんどん小さくなる。ソビエトの片田舎の出身である田舎娘がブリタニア騎士団の精鋭部隊にいるのには理由がある。彼女の理由は実に明白であり簡潔。彼女は世界ではまだ数例しか存在しない、人間でありながら悪魔の力を持つ、【悪魔化人種(デモニアック)】なのだ。

「お世話になりました」

クリスカはそれだけ言い残して騎士団を除隊した。

「クリスカ、あんたこれからどうすんの?あたまだ若いんだからそんなじゃだめよ」

部屋に引きこもり、毎日母とはこれしか口を聞かない。やりたいことが分からない。だから騎士団を辞めた。次に何をしようか迷う日々。だが、「悪魔憑き」と罵られ差別された心の傷がちくちく痛む。そんなある日だった、キャメロット現校長ヴィンセント・エイドリアン・ヴァン=ヘルシングが現れた。

「クリスカ、キャメロットに来ないか?」

闇に光が差したような気がした。


*********************


「マーリン、お前のヴァッフェルガングってエルダーケインか?」

「よく知ってんな。そうだよ」

「カレトヴルフは持ち主にしか使えないんじゃないの?」

「あぁ。こいつはカゲウチだよ」

「カゲウチ?」

「オルタナティブ・エディションさ」

アーサーはよくわからないとぽかんとしているとダビデューク先生が振り返った。

「カレトヴルフはね、片方が暴走したときに壊すために二本作るの。出来のいい方を真打ち。悪い方を影打ちって言うわ」

ダビデューク先生は世にも恐ろしい表情で説明した。

「因みにペンドラゴン君、君のイクスカリバーも影打ちだ」

「そうなんですか?」

「真打ちはユーサー・ペンドラゴンとともに行方不明」

そんな会話をしているとダビデューク先生が何かを掴んだ。目玉にコウモリの羽を付けたような下級悪魔だ。

「ナイトウォッチには気をつけて。奴らに見られたら軍隊がくるわ」

ダビデューク先生はそれを握りつぶした。その時三人の女子生徒がアーサー達の元に走ってきた。三人はダビデューク先生の容姿に驚き失神するなり後ろからは黄泉の軍勢が現れた。

「なんだこいつら!?古代の兵士みたいだ」

ジュリアスが構える。

「彼らは黄泉の兵士。ヘルゲートの向こうの住人よ。全員、下がりなさい。私が道を開く」

ダビデューク先生は猛獣のように飛びかかり、悪魔の怪力で兵士達を引き裂く。

「あなた達は私のとりこぼしを片付けて。最大火力で吹き飛ばすのは避けて一体ずつ慎重にやりなさい」

一行はダビデューク先生を先頭に鏃型に展開して、極力消耗を避けた戦闘を繰り広げる。すると兵は引き、黒い鎧の巨人が現れた。

「全員、これより我々は目標を目の前のデカ物に絞る。奴目掛けて好きなだけ暴れろ」ダビデューク先生は服を脱ぎ、下着姿になった。意外に巨乳である。だが、驚くのはそこではない。彼女の体のいたるところに刺青で魔導印が彫り込まれていた。

「出来ればこれはしたくなかった」

彼女はそう呟き、呪文を詠唱した。すると彼女の体から硬質で金属光沢をおびた甲殻が現れたら。

「【甲殻武装(イーヴィルシェル)】までできるとはな。魔導書何冊暗記してんだか」

マーリンが半分呆れたように笑った。無理もない。イーヴィルシェルは人体を変化させる魔法のなかでも極めて難しく複雑な魔導式をたくさん組み合わせないと出来ない。マーリンの知る限りでは歴史上最も偉大な近代の黒魔術師、アンヘル・ディマイアンが成功させたくらいだ。ダビデューク先生は兵士達を力任せに引き裂き、八つ裂きにし、重力魔法で潰すなど女性らしからぬ戦闘スタイルで敵を圧倒した。

「マジで悪魔だぜ、あの人……」

ジュリアスはその奇怪さ、迫力、禍々しさに気を取られ、息を呑んだ。

「あなた達に聞きたいことが二つあるわ」

ダビデューク先生は巨人の拳を交わしながら言う。

「一つは、誰かのために自分の命を危険にさらせる?」

ダビデューク先生は地面に突き刺さる、巨人の腕を蹴りでへし折る。

「もう一つは………」


ーー 絶対に帰って来れる?


「時間が無いから三秒で決めなさい!」

巨人の拳を正面から受け止めた先生が、それを跳ね返しながら言った。

「「出来ます!!」」

アーサー達の思いは一つだった。ジュリアスを除いて。

「なら、マズくなったら絶対に逃げるって約束しなさい」

五人は返事をして走り出した。だが、ジュリアスだけ表情が少し違う。四人はやってやろうとばかりに精悍な顔付きだが、ジュリアスには迷いが見られる。

「ガイアス君!」

ダビデューク先生が叫んだ。

「自分がいて迷惑になるんじゃ、なんて考えないで」

ジュリアスはマーリンやアーサー達とつるんで周りからは彼らと同じように命知らずだと思われて少しイキがっているが、本当はいろいろな物に恐怖をいだいている。暗闇や狭いところだけではない。無鉄砲に立ち向かうマーリンやムサシ、損得を考えずに寛容に振る舞うウィリアムそして自分を犠牲にしてでも誰かに優しくなれるアーサーに恐れや劣等感を感じる。だが彼らといると自分を強く持てる。誰にも負けないと思える。だが、それは自分の強さではない。所詮、自分は周りに依存している後ろめたさが窮地に現れたのを見透かされた。

「あなたの強さは仲間を信じられることよ」

ダビデューク先生はヘルゲートを壊す魔法をジュリアスに授けた。

「それはもしもの時に使いなさい。ジュリアス、自分を信じられないなら仲間を信じなさい。信じることであなたとあなたの仲間は強くなれる!」

ジュリアスは拳を握りしめた。

「行きなさい、ジュリアス。彼らはあなたを必要としている!」

ジュリアスは全速力で駆け出した。ヘルゲートは近づいている。自らの雷で闇を照らしジュリアスは仲間の元に走る。そして闇の中、仲間に迫る魑魅魍魎に雷の拳を叩き込んだ。

「ははは。遅いぜ、ジュリアス」

「悪りぃ。小便してた」

「漏らしたんじゃのぅてか?」

「うるせぇ」

「ま、これで俺らは無敵状態だな」

「そうだな。じゃあ行こうか!」

アーサーを先頭に五人は敵を次から次へとなぎ倒す。そして奥に控えたマーリンが叫ぶ。

「全員下がれ!」


ーー 爆撃火炎魔法(フラマーズ=スフィア)


特大の火球が兵士達を吹き飛ばす。

「ははは。先生はやんなって言ってたのに」

「戦いってのはよ、ぶっ飛んでいかねぇとな」

するとムサシがマーリンの言葉に触発されたのか、体を回転させ炎を纏う刀で灼熱の竜巻を起こし周囲の敵を一掃する。

「イカれてるは褒め言葉じゃ!」

敵をあらかた片付けると五人はヘルゲートにたどり着いた。それは高くそびえる重厚な扉でグロテスクな生々しさを醸していた。

「僕とウィルはルナを探す。マーリン達はヘルゲートを頼む」

二手に分かれて行動を始めた。

「おーし、『チームヘルゲートぶっ壊し』の諸君!この私、マーリン様が呪文を詠唱する間ヘルソルジャー御一行をぶちのめしてくれ給え」

マーリンの算段はまず、術式崩壊魔法でヘルゲートの地盤を崩しそこに三連続で極大魔法を叩き込む。計算上、これでヘルゲートは閉じる。だがこれほどの連続術式展開にはかなりの時間と魔力を要する。捨て身の作戦だ。

「任せたぜ、二人とも」

マーリンは杖を回した。極大魔法は呪文だけでなくルーティンをともなう。

「行くぞムサシ、食べ放題パーティだ」

「替え玉し放題じゃの」

ムサシは猿のように身軽に飛び回り素早い攻撃で瞬時に周りに死骸の山をこさえる。彼のヴァッフェルガング、二本一対の刀【金重】は炎と風の力を宿すヴァッフェルガングでこの武器の利点は用途に合わせ変形合体することだ。ムサシは金重の柄の頭と頭をくっ付けた。

「わしのダチにのぅ、背丈ほどもある物干し竿みたいな刀を使う奴がおるんじゃ、このフォーメーションはそいつとのチャンバラで編み出したんじゃ」


ーー 二天一流奥義、【斬首旋回斬り(ヘッドスナッチャーサイクロン)】


身を低くした体勢でバトントワリングのように刀を回し前方に跳ぶ。ムサシの刀は兵士達の首を掠め取った。

「またの名を、【鎌鼬(かまいたち)

ムサシはまた刀を二本に持ち替え、まだ動いている足元の兵士に突き刺した。

「ジュリィ、そっちはどうじゃ?」

「ローストチキン山盛りに、マッシュポテトだぜ」

周囲の敵をあざ笑いながらジュリアスは唾を吐いた。

「ボリュームまんてんじゃのぅ」

「いや、前菜にもならねぇな」

ジュリアスは拳を握り。前方跳躍で強烈な電撃を見舞う。迫り来る敵を目にも止まらぬ速さの拳が打ちくだく。

「ルナとイーニャ確保!!」

ウィリアムが叫ぶ。彼は泣きじゃくり立つことすらできないイーニャを抱えている。

「よーし、そんなら全員下がんな。花火を打ち上げるぜ」

マーリンは杖を掲げて魔法陣を描いた。


ーー 三連極大爆撃火炎魔法(トリニティ・フラーメラル=スフィア)


詠唱を終えると血を吐いた。そして彼は掲げた杖を振り下ろすと、糸が切れた人形のように倒れた。だが、放たれた超弩弓の火球はヘルゲートに吸い込まれるように進んだ。一発目はヘルゲートの中に入り、二発目は観音開きの右側の扉を破壊した。残すは三発目。だが、それは門から飛び出した巨大な手に握りつぶされた。

「くそ!ヘルゲートの破壊が不十分だ!」

ウィリアムが舌打ちした。するとアーサーは咄嗟にイクスカリバーの刀身を伸ばした。これはアンジェラから教わった魔力を持つものなら子供でも使える簡単な魔法だ。キャメロットでの訓練で少しばかり魔力を培ったアーサーにはこれが精一杯だ。

「マーリン!またあれを出来るか!?」

「おっぱいぷるるぅん」

「えぇ!?」

マーリンは魔力を使い果たすと三歳児以下のアホになるのだ。

「ちくしょう!どうしろってんだよ!」

アーサーの剣を持つ手は震えていた。

「長くは持たない!僕を置いてみんなは逃げろ!」

「そんなもん出来んわい!」

「ダビデューク先生との約束だろ!」

その時、ジュリアスの全身に高圧電流のように何かが駆け巡った。恐怖で足がすくんでいるのにそれが脳に「戦え」と叫び続ける。ジュリアスは笑った。


ーー 俺は今、仲間を信じてるんだ。


「アーサー、あと少し耐えてくれ」

ジュリアスは右手にぐっと力を入れた。するとダビデューク先生から魔法を授かった時の感覚が蘇る。

「なにする気じゃ?」

ムサシはジュリアスがおかしくなったと思い、静止には行ったがジュリアスはそれを振り払う。


ーー 闇を以って闇を制する。


ジュリアスのヴァッフェルガング、【レムス】はある機能を除いては普通のエネルギーブラスター付きのガントレット型ヴァッフェルガングだ。だが、「人の魔法を借りる」という能力は他に類を見ない。

「行くぜ!!」

ジュリアスは魔法で脚力を強化して飛び上がった。そして上空で構えダビデューク先生の魔法を発動した。黒く伸びた影は竜の頭の様になりヘルゲートから伸びる影に食らいついた。

「おかえり願おうか!!!」

力むとバキバキと骨の折れる音と激痛が迸った。手をヘルゲートに押し込み、門のを完全に破壊した。直後、ジュリアスは地面に落下した。

「あああああああああああああああああ!!」

レムスは破損し、顔には黒魔術の影響で禍々しい蠢めく痣ができていた。さらにジュリアスの腕の骨は三箇所で砕け、尖った骨が肉を突き破り外に出ていた。

「ジュリアス!大丈夫か!」

アーサーも王の尊厳がオーバーフローしたせいか両手がちくちく痛み、麻痺している。その手でジュリアスの頬を軽く叩くが、反応は無く気を失っているようだ。

「うわぁぁん!ジュリィが死んだぁ!」

「立派だったぜ。おまえの事絶対忘れねぇ!」

「勝手に殺すなよ!ジュリアスまだちゃんと息してるだろ!」

吹き飛んだ校舎の屋根から覗く空は星がキラキラと輝いていた。


*********************


三日後、校舎の吹き飛んだ屋根は魔法で修繕された。ジュリアス・ガイアス含め七名は寮謹慎となった。ジュリアスは治癒魔法をもってしても全治一ヶ月の大怪我。キャメロットの医療機関でなければ後遺症が残るレベルだ。五人は寮で反省文の紙で飛行機を作って遊んでいた。

「みなさん、監督に来ましたよ」

ダビデューク先生がのっそりと現れた。両手にはパンパンのビニール袋がある。

「差し入れとーー」

ダビデューク先生は真っ黒な麻袋を出した。地面に置く音からして書物である。中には「合法エロ本」の異名を持つヌードデッサンの資料集がどっさり入っていた。

「ほらあれじゃないですか……女盛り、二十八歳のムチムチ女教師が外界から隔離され溜まりに溜まった青少年の前に現れるなんてエロティックな予感がするじゃないですか…………。これはみなさんへの理解と同情、そして自分の身の安全と潔白のためにどうぞ」

ダビデューク先生は恥ずかしがりながら自意識過剰きわまりない台詞が言えたものか。背負っていた椅子を下ろして座り、足を組み、しきりにスカートを気にしている


ーーあの人、絶対構ってほしいんだ。


襲われたいとかではなく、「そんなぁ~。先生は素敵だけど、僕らはそんなことしないよ」的なことを言ってほしいんだ。そんな顔してる。だが、すぐに表情を変えるとジュリアスを呼び出し、廊下に出た。

「これ。直すついでに強化しました。名付けて【ドラグーン=レムス】それと……」

ダビデューク先生はジュリアスの頬に触れた。

「私の魔法を返してもらうわね」

すると突然、ダビデューク先生はジュリアスにキスをした。ダビデューク先生、よく見るととても魅力的な女性だ。ジュリアスは触られると好きになりそうになる童貞特有の性質とも言える感覚に浸っていると喉奥から何かがこみ上げてきた。ジュリアスはえづきながら吐き出すと、目の前のダビデューク先生が黒いブニブニした動く何かをくわえていた。先生はそのままそれを咀嚼し飲み込んだ。

「ええ!?」

ダビデューク先生は無言で部屋に戻り、驚きを隠せないジュリアスはただ突っ立っていた。ふとガラスに映る自分を見ると顔の痣が消えていた。

「ガイアス君!」

イーニャが深々と頭を下げていた。

「ありがとうございました。皆さんにもお伝え下さい」

「自分で言えよ」

「すいません………」

「事情は聞いたよ。大変だったんだな。ダチのカノジョのついでに助けただけだからそう固くなるなよ」

「ありがとうございます」

「自分が信じられないなら、仲間を信じろ」

「え?」

「ダビデューク先生からだ。一人で出来ないことは一人でやるな。俺らなら手伝ってやるからさ」

ジュリアスはダビデューク先生の言葉を噛み締めて部屋に戻って言った。










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