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CAMELOT  作者: 甘崎みかん
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SKiRMiSH

 SKiRMiSH

日曜日、今日は休日にもかかわらず退屈な午後だ。アーサーは朝、教会に行ってから授業の復習をしてぼんやりテレビを見ていた。ムサシとウィリアムは今朝のマスクドライダーとパワーレンジャーについて熱く語り合い、朝早く起きていたせいか、今はいびきをかいて昼寝している。マーリンは青一色に白抜きの字でタイトルが書かれているだけの表紙の本を一生懸命読んでいる。ジュリアスは二、三冊レシピ本を広げてメモを取って、バインダーノートに閉じている。恐らくあれが女子の間でどんな男の胃袋でも鷲づかみにするレシピが載っていると噂されている「ジュリアス・ノート」なのだろう。同室の五人は思い思いに過ごしていた。

するとマーリンの端末が電子音を発した。着信だ。マーリンはメールを確認した。【客人が来ています。校舎三号館二階応接室まで来て下さい】とのこと。

「ちょっと行って来るわ」

マーリンは端末と財布を持った。ついでに何か買って来ようと思ったからだ。部屋を出ようとドアノブに触ると、マーリンの野生的感が理由もわからぬまま危険を伝える。彼がドアノブを開けるのをためらっていると、ドアノブは急に開かれ何者かがマーリンに抱きついた。

「元気してた?私の可愛い可愛い坊や!!」

美しい中年女性がマーリンに抱きつき、キス、ハグ、?ずり。愛情表現のフルコースだ。

「かーちゃん、ダチの前だからやめてくれよ」

「かーちゃんじゃなくてママでしょ?悪ぶっちゃって。可愛いんだから」

マーリンの母親で魔法省技術研究所所長のアンジェラ・ヘグストロムは同室の仲間には「世界最強の親バカ」で知られている。この思春期真っ盛りの息子に、いわゆる「にゃんにゃん言葉」的なもので話すあたり、以前ムサシが言っていた「マーリンの性格が腐っとるのは八割が母親のせい、残りがわしらのせい」の理由がなんとなくわかる。

「あれ?なんか一人多くない?ムサでしょ、ジュリィでしょ、ウィルでしょ………」

アンジェラは部屋にいる者を指差し数えた。そしてその指がアーサーの顔に向くとアンジェラは嬉しそうで懐かしい目つきになった。

「あなた、一目でわかるわ。眼はケイトリン、顔立ちはユーサーのまんまじゃない。懐かしいわ」

アーサーの顔をペタペタ触り頬を引っ張る。

「ユーサーとケイトリンは私のキャメロットでの同級生だったわ」

アンジェラは懐かしい目をした。


*********************


三十年前、キャメロット。

リカルド・デルリネッチはため息をついた。いつものことながら問題のある生徒が授業を中断したのだ。

「ユーサー、もう一回言ってみなさい」

彼はこの問題児をクラス中に笑わせて、辱めを与えてやろうと思った。クラス中の嘲笑の中、彼は立ち上がり、堂々と胸を張り、大きく息を吸い込んだ。

「俺はさっき先生が言った『吸血鬼は人の形をしているが、欲望を貪るケダモノだ。よって説得などは無意味である。交戦状態になり次第即時抹殺せよ』って言うのが気に入りません!吸血鬼にも心があるから話してみるのは無意味ではないと思う!」

ユーサー・ペンドラゴンはふてぶてしくモノマネを交えて演説した。

「だから!吸血鬼の殺し方とか、武器の扱い方よりも吸血鬼についてもっと理解する授業がしたい!」

デルリネッチが担任をするクラスは吸血鬼に魔法試験のみの特別受験で入学した生徒たちのクラスだった。本来なら人類の未来の為にいつか吸血鬼を打ち負かす為の学業に励むクラスなのだが、このユーサーの目標は吸血鬼と共存する世界の実現である。彼は何度言っても吸血鬼と共存したいと聞かない。ユーサーはそのキャメロット生らしからぬ考えを持っているせいか、成績もあまり良くなく劣等生の類いに入る。だが何かを変えてしまいそうな雰囲気と勢いのある若者だ。デルリネッチは十年の教師生活の中で怖れにすら近い感情を抱いたのは彼が初めてだ。

「ユーサー、君の言いたいことはわかった。だが、今は吸血鬼と戦う時代だ。どうしても仲良くしたいなら時代を変えなさい」

デルリネッチは嫌味を言ったつもりだった。だがユーサーはにっこり笑って頷いた。

「わかりました。俺、時代変えます」

ユーサーは席に座り一生懸命板書を書き写した。

授業が終わり、アンジェラは友人のケイトリンと食堂に向かう中でユーサーに出くわした。アンジェラははっきり言ってユーサーに良い印象を持っていない。度重なる授業妨害、世論にそぐわぬ持論の展開。真面目に勉強し、高額な学費を払いキャメロットに送り出してくれた家族の為に立派な魔法使いになることを志すアンジェラには邪魔な存在だ。この際、ガツンと言ってやろうとアンジェラはユーサーの前に立ちはだかる。

「ユーサー、あなたははっきり言って邪魔だわ。吸血鬼と共存なんて到底無理よ。真面目に勉強するつもりがないならキャメロットをやめて欲しいわ」

クラスメイトからの一言ならユーサーも堪えるだろう。自分に感謝するデルリネッチ先生の顔が頭をよぎる。だが、ユーサーはアンジェラの肩に手を乗せてまっすぐアンジェラを見据えた。同級生の男子にそんなことをされてはいくら相手が変わり者のユーサーでも意識してしまう。

「そうか。悪かったな。アンジェラは真面目だからな」

ユーサーはそう言って、食堂に駆けて行った。てっきり何かキツい一言を返すのかと思えば、彼はアンジェラの意見を認めたのだ。

「ねぇ、アンジーもユーサーのことが好きなの?」

隣でもじもじしていたケイトリンがアンジェラの制服の袖口を摘んで問う?

「誰があんな異端者のことなんか!」

「そっか……」

アンジェラはケイトリンの言葉を思い出した。『アンジーも』の部分が引っかかる。まさか、自分と同じくらい優秀で、さらに美人のケイトリンがクラスメイトからもあまり近寄られないほど変わり者のユーサーのことが好きなのか。

「まさかケイティ、ユーサーのこと………」

アンジェラが恐る恐る尋ねるとケイトリンはしばらく躊躇ってから大きく頷いた。

「このこと絶対ユーサーに言わないでね!約束よ!親友のアンジーだからこそ言うんだから!」

なぜ、どうして、何があってあのケイトリンがユーサーのことを好きになったのか。他の男子が聞けば泣いて悲しむであろう悲劇だ。よりによって相手がユーサーなのが輪をかけて悲劇だ。

「ねぇ、なら聞かせて。なんでユーサーのこと好きになったの?」

「隣のクラスにネロって子いるじゃない?ユーサーね、いじめられてるネロをボロボロになりながら助けてたの………そういうのってなかなか普通の人にはできないじゃない」

ネロ・カンベッタ。いつも黒いパーカーのフードを深々とかぶった不気味な生徒だ。噂によると彼の母親は吸血鬼にレイプされ、ネロを身ごもったらしい。吸血鬼は近年、常識を覆す早さで生物的進化を遂げ、人間のように昼間に行動できるようになったが、まだ日光に対して皮膚が弱く荒れやすいらしい。さらに彼らは人間と同じ食事でも生きていくことが可能で、もはや血を吸う理由がないのだが彼らの血に対する渇望は近年の人間と吸血鬼の戦いの原因となっている。そして、その吸血鬼の「人間化」とも言える進化により、ネロのような人間にも吸血鬼にも受け入れられない「半吸血鬼(ヴァンピール)」を作り出しているのだ。

アンジェラはそんなことを考えながら、学食のきつねうどんをすすっていた。そしてケイトリンの方を見ると、彼女は本を読みながらサンドイッチを頬張るユーサーに熱い視線を向けていた。


ーー何がいいんだか。


アンジェラはため息を吐いた。すると、ユーサーはサンドイッチをすべて口に詰め込んで食堂を飛び出した。ユーサーが飛び出した後にデルリネッチ先生が慌てて入ってしたのでユーサー側の事情はだいたい理解出来た。どうせ何かやらかしたのだろう。そんなことを考えているとケイトリンの横に誰かが座った。ネロだ。彼は室内にも関わらず、フードを深々とかぶっている。

「隣いいかな?」

「いいわよ」

ケイトリンは笑顔で返事した。すると、ネロをよく思わない生徒とケイトリンに好意を抱く生徒、または両方の事情をかけ持つ生徒が睨んでいる。

「やっぱり、僕いない方がいいね。帰るよ」

ネロが食事を乗せたトレーを持ち、席を立とうとするとアンジェラは少しほっとした。いじめっ子絡みのトラブルなんてごめんだ。

「ネロ、いいじゃない。一緒にお食事しましょう」

ケイトリンは小さな声で呟き、ネロの袖の肘のあたりをそっと摘んだ。それを見たアンジェラはため息を吐ききつねうどんのつゆを飲み干した。そして威勢のいいゲップをすると頬杖を突いてあくびしたい。なんだかほったらかしにされた気分だ。アンジェラがふとネロの方を見ると顔を赤くしていつもより楽しそうだ。案外悪い子じゃないかもしれない。アンジェラはなんとなく嬉しかった。

それからしばらくして、彼らにとっておたのしみ行事、ハイキングがあった。アンジェラは実感から送ってもらった新しいパーカーとリュックサックで臨んだ。張り切りすぎて集合場所に早く来すぎた。まだ誰もいないだろう。そう思っていたら、ユーサーが荷物を枕にして寝ていた。アンジェラが鼻で笑い、近くに膝を抱えて腰掛けた。

「君も早いんだね」

ネロがユーサーに上着を掛けてからアンジェラの横に腰掛けた。

「あなたも」

このあとの沈黙はアンジェラには少しもどかしかった。ネロには聞きたいことが幾つかある。噂は本当なのか、前から気になっていた。

「僕が怖くないのかい?」

「なんで?」

「僕はヴァンピールだよ」

「噂は本当だったんだ」

「うん。でも全部本当じゃない。僕の両親はちゃんと恋愛して僕を産んだんだ」

「そうなんだ。じゃあなんで本当の事みんなに言わないの?」

「本当のことを言ったら僕のお母さんの名誉が傷つくから。両親が死んでキャメロットに来た時に先生からそう言うように言われた」

その後、ネロは暗い話はしたくないと「羊になった山羊」という話をしてくれた。山羊に白いセーターを何枚も着せて着太りさせ、羊の群れの中に入れるというくだらない話だ。だが、いつも暗いネロからそんな話が聞けたのが嬉しかった。やがて人が集まってきて、ユーサーも起き、一同はハイキングに出発した。

道中、担任のデルリネッチ先生は武闘派でいつも生徒から恐れられているのに大好きな植物の写真を子供のように楽しそうに撮っていた。ケイトリンは他の男子から荷物を持ってあげるだの、しんどくないかいだの男子から声をかけまくられている。ケイトリンは大丈夫の一点張りでみんなが見ていないのを確認してからユーサーの一挙一動をチラチラ見ていた。アンジェラはユーサーにも男子にもケイトリンにも呆れた。そして鼻歌を歌いながら山道を登っていくと山頂に着いた。そして、そこから野外調理訓練という名目でクッキングタイムが始まった。班は自由班で学生は皆思い思いの班で固まった。もちろんケイトリンは人気でいろんなところから誘われた。だが、ケイトリンはユーサーと班を組みたい。ケイトリンはすべての誘いを断ったが、ユーサーを誘う勇気がない。そうやってもじもじしているとネロがアンジェラのもとにやって来た。

「僕とユーサー、まだ班員を集められてないんだけど一緒にどうかな」

ケイトリンには願ったり叶ったりの展開になった。四人は野菜スープを作ることになったがアンジェラとユーサーの反りが合わないらしく二人は野菜をどう切るかで揉めた。

「小さく切ったほうが旨味が出るし食べやすい!」

「具はデカいほうが盛り上がる!」

二人の言い分はこうで両者譲らない。そこでネロが気を利かせて大きい具と小さい具を二つ入れるということでまとまった。

食後、四人は満腹になり、山登りのせいか眠気を感じ、各々の荷物を枕にして寝た。山頂の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで眠るのは清々しく気持ち良かった。そして集合の笛が鳴ると四人は飛び起き列に並んで下山を始めた。山を少し下ったところでケイトリンがある事を思い出した。

「帽子忘れちゃった」

今から取りに行ってすぐに戻れば間に合う。

「よし、俺が行ってくる」

ユーサーが周りに気付かれぬように列を抜けた。それにネロが続くとケイトリンも走り出した。

「もう!」

アンジェラもケイトリンの水色のリュックを追いかけた。四人はぐんぐん山を登り、一気に山頂への道の真ん中まで来た。アンジェラは走り慣れておらずすぐに息切れした。

「君は列に戻った方がいい」

ネロはアンジェラのリュックを担いで列の方を向いた。

「無理するもんじゃないぜ。どうせデルリネッチ先生に絞られるんだからよ」

ユーサーは息も絶え絶えに言う。

「アンジー、戻ったほうがいいわ。優等生のあなたは校則違反なんてすべきではないわ」

ケイトリンもアンジェラを心配する。

だが、アンジェラは列から離れる度に感じる高揚感を抑えられずにいた。胸の高鳴りが収まらず、絶え絶えな息にすら興奮を感じる。

「ケイティ、私……ずっと前からこうゆうのがしたかった!」

アンジェラはネロからリュックを奪い取り走り出した。

「ユーサー、彼女なんだか弾けたみたいだね」


*********************


「その後、私達デルリネッチ先生にこっ酷く怒られたわ」

アンジェラはアーサーの頭をかき回した。そして顔を近づけた。

「この愛らしい目と憎たらしいツラは忘れられないわ」

するとアンジェラは少し涙ぐんだ。ユーサーとケイトリンの事を思い出したのだろう。彼らはもうこの世にいない。

「お父さんとお母さんのことは残念だったわね」

アンジェラはアーサーを抱きしめてから微笑んだ。するとマーリンがアンジェラの耳を引っ張った。

「状況とかどうのも含めて息子のダチを見せしめのように抱きしめてんじゃねーよ、クソババア」

「いゃ~ん、マーリンったらヤキモチしちゃって可愛い~」

アンジェラとマーリンの件がなんだかんだあってから、同室のメンバーは段ボールいっぱいのお菓子をもらった。

「じゃあね、みんな。仲良く食べるのよ」

するとアンジェラはアーサーに向き直った。

「ちょっとあなたを借りてくわね」

アンジェラがぱちんと指を鳴らすとアーサー達は何もないただ広い正方形の部屋にいた。

「ここは魔法訓練をする為の部屋よ。さぁ、イクスカリバーを構えなさい」

アンジェラは自らが持つカレトヴルフ、【接骨木の杖(エルダー=ケイン)】を展開した。

「殺す気で構わないわ。もっとも、ブレードはトレーニングモードでね」

アンジェラはアーサーの足元に落雷を落とした。アーサーはイクスカリバーを展開し、瞬時に構える。そしてエルダー=ケインから放たれた次なる攻撃を王の尊厳でかき消す。

「ある程度は使えるみたいね。でもコントロールは効かないか」

アンジェラは続々と追加攻撃を加える。

「向かって来なさいな。それとも女に手を出せないなんて甘々なことを言う?」

アンジェラは挑発的な目つきになる。

「信じられないわ。あなたもユーサーと同じ腰抜けだなんて」

アーサーはアンジェラの一言に驚愕する。父とは盟友ではないのだろうか。疑念と怒りが湧く。

「それともケイトリンのグズさが移ったのかしら?魔力もからっきしだしこれにイクスカリバーだなんて宝の持ち腐れで笑えないわ」

アンジェラは追加攻撃を加え、アーサーを追い詰める。そして決着を急いだのかアーサーに特大の雷を落とした。


ーー調子に乗るなよ、このクソババア。


雷はアーサーに触れる直前でかき消された。イクスカリバーの剣先をアンジェラに見据え、アーサーは地面を蹴り一気に間合いを詰める。そして縦横右左様々な方向に振り下ろす。アンジェラは細かい防壁魔法をいくつも張り、すべての攻撃を受け止める。だが、アーサーの剣はそれらを潜り抜け、アンジェラに肉薄する。それをエルダー=ケインで受け止める。

「僕の事は馬鹿にしても構わない!だけど、とーちゃんとかーちゃんを馬鹿にするな!」

アーサーから金色のオーラが吹き出し、さらに力が加わる。これは王の尊厳ではない。王の尊厳には能力がそれぞれあり、アーサーの力はあらゆる魔法をかき消す「不可侵」である。攻撃の力を与える力ではない。彼は王の尊厳だけではなく精霊を引き寄せる力もあるのだ。アンジェラはアーサーの足を払い尻餅をついたアーサーに杖を向けた。

「課題は見えたわ。すぐ感情的になるからまずは精神鍛錬からね」

アーサーはアンジェラの一変した態度に拍子抜けした。先ほどの挑発はなんだったのか。

「ゴメンね、悪口言って。あなたのお父さんとお母さんについてわたしはそんなことは微塵も思ってないわ。あなたを見極める為に色々しなきゃいけなかったの」

アンジェラは手を差し伸べた。

「これから、何回かはデルリネッチ先生と私の交代であなたに特別訓練をするから、改めてよろしくね、アーサー」

アーサーは手を取り立ち上がる。アンジェラはにっこり微笑むとまた表情を変えて疲れた顔をし、ため息を吐いた。

「マーリン、隠れて見てないで出て来なさい」

「知ってたのかよ」

マーリンは透明化魔法を解き姿を現した。

「愛しのマーリンの居場所ならすぐわかるわ。それよりも、アーサーに精霊を呼ぶ道具を上げたのあなたでしょ?私聞いてないんだけど」

アンジェラがアーサーのペンダントに指を差した。

「もぅ、それを知ってたらもっとうまく勝てたのに」

アンジェラは頬を膨らませた。するとマーリンは鼻で笑った。

「いや、どう足掻こうとかあちゃんの負けだよ」

「なんで」

「ジャンプしてみな、クソババア」

アンジェラが軽くぴょんと跳ぶと、アンジェラの服が地面に落ち、下着姿になった。アンジェラは赤面し、マーリンの上着を奪って身を包んだ。

「俺がテレパシーでアーサーに入れ知恵したからさ。俺たち良いコンビだろ?」

マーリンはどす黒く淀んだ笑を浮かべ、自分の母を見下しきったようにじろりとねめつけた。

アーサーはただ笑って誤魔化すだけだった。


*********************


薄暗い部屋。女の悲鳴と鞭打つ音と皮が裂け、そこからこぼれしたたる血の匂い。ネロには我慢がならなかった。されど同胞は鞭を振るう手を止めない。

「ブラッド・プライド、もうやめろ。醜い」

ネロはブラッド・プライドのアドルフに向けて言うがアドルフは耳を貸さない。アドルフは自分が暴虐の限りを尽くし、息も絶え絶え、満身創痍の娘から滴る血を犬のように下品に舐めた。

「ネロ、てめぇこの肉の塊に情でもうつったか?」

アドルフはネロの胸ぐらを掴み、まくし立てる。

「どう食おうが、俺様の勝手だろうが」

アドルフはネロの胸ぐらを揺すり突き飛ばす。すると、ネロはアドルフの胸に手を当て、そこに炎を放出し、アドルフを吹き飛ばす。だが、炎が放たれた先にはアドルフはいない。アドルフをすかさず振り向いたネロに強烈な拳を食らわせた。

「食い方をとやかく言われる筋合いねぇんだよ、カス野郎」

アドルフは続けてネロを踏みつけた。しばらくすると彼は満足したのか、自分の椅子にふんぞり返った。

「品各だの尊厳だのは腕っぷしがあってからの話なんだよな、カトリーヌ?」

アドルフはちらりと目を横に向け、服をはだけさせで悶えながら自分の乳房を愛撫する女に言った。

「そうよね。ん、ん、気持ちい……あぁん。快楽っていうのは一番大事よね」

カトリーヌは悶えながら返事をして、ジタバタしている。

「エリカちゃんはどう思う?」

カトリーヌが聞くと背の低い女が立ち上がったネロに向けて髑髏を投げた。

「羨ましい………アドルフ様にあんなに構ってもらえるなんて羨ましい!!」

女は激昂し、怒りに震えた。部屋の隅ではぐったり寝ている男、一心不乱に死体を貪る大男。さらに舌先で血のロリポップキャンディーを弄ぶ強欲のマリーがいる。

彼らこそ、傲慢のアドルフ、色欲のカトリーヌ、嫉妬のエリカ、怠惰のフィリップ、暴食のテオドール、強欲のマリー、そして憤怒のネロからなる最上位吸血鬼「七つの大罪」である。

「我々は一刻も早く【楽園(シャングリ=ラ)】に辿り着かなくてはならない」

ネロは一冊の本を手にそう呟いた。

「アーサー・ペンドラゴン、君がその剣を持つ限り、私達はぶつかり合うだろう」








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