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CAMELOT  作者: 甘崎みかん
4/8

Made Maid 

 Made Maid (1/1)


春真っ盛りのキャメロット、学生たちにはあるイベントが待っている。そう、「春祭」だ。キャメロットのあるブリタニアでは昔から夏の豊穣を祝うために祭をするのだが、近代化の進んだ社会において豊穣は来なくとも無理矢理作れる。だが、人々の祭を愛する心は祭り以外の他のものでは満たされない。それによりキャメロットでは春祭と十月に行われる「武闘大会」が人気のイベントとなっている。が、それも全員ではなく、大多数の楽しみである。一部の人間には、特にクラスで役立たず扱いされているムサシにはまったく楽しくないのだ。ムサシはため息をついた。クラスを手伝おうと張り切る女子たちに言えば「ムサシは余計なことしかしないからあっちに行ってて」の一点張りでさすがにつらい。マーリンは女子にモテモテで手伝いに引っ張りだこ。ジュリアスは料理クラブの打ち合わせ、模擬店の準備で忙しいだろう。アーサーは働き者で責任感が強く自分のクラスの仕事が終わるまではかまってくれそうにない。ウィリアムは滅多に端末のメッセージを読まないから読んでも来ない。ムサシはため息を付いた。そして頭の後ろで腕を組むと髪を結んでいる紐が切れているのに気付いた。まったくついていない。ムサシは髪を下ろしたままベンチに寝転んだ。しばらくして意識が薄れかけてきたところでムサシは起こされた。

「レディがこんなところで寝るものではありませんわ」

誰かに肩を揺すられて目を擦ると生徒会の腕章をした女子生徒がいた。生徒会役員風紀委員長の一年生ジャンヌ・デュレコだ。

「あなた女装男装カフェをやるクラスの人ね。いくら春祭の準備だとしてもあまり男装で学園内を歩き回らないでいただきたいわ。学園の風紀が乱れますの」

どうやらムサシが女だと思い込んでいるらしい。ジャンヌは丁寧な口調でムサシを咎め、隣にいる背の高い男声のように凛とした女子生徒に向き直り予定を聞いている。そして、丁寧に結い上げられた金髪の髪を少しいじりながら、大きな青い瞳を閉じぱちくりさせている。その様子を見るなり、学園一の美少女ジャンヌと男より凛々しく、ハンサムなデュレコ家の召使いでジャンヌと同じくキャメロット生であるオスカルを一目見ようと周りには人が集まって来た。もはや周りの状況的にはムサシなどどうでもいい。

「わしゃ男じゃ。ほら、おっぱいぺっちゃんこじゃ」

ムサシはシャツをめくり胸をみせた。するとジャンヌはきゃっと声を出しオスカルの背中に顔を埋めた。

「女の子がそんなことするものではありませんわ!!」

「だからわしは男じゃ!ちんこか?ちんこ見せたら納得するか?あぁん!?」

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

耳を貸さないジャンヌ、真実を主張するムサシ、二人はこの押し問答を繰り返した。すると見かねたオスカルがジャンヌを前に出した。

「お嬢様、ご覧ください。男性です」

オスカルに宥められジャンヌはやっと落ち着いた。

「あら、本当」

すると掌を返したように態度を変えた。

「あなた!そんな長い髪をしていては紛らわしいわ!髪を切りなさい!」

「嫌じゃ!髪を切るとチクチクして嫌じゃ!」

ムサシはふてくされて立ち去ろうとすると集団の中から女子生徒が飛び出した。

「ジャンヌ!あなたちゃんとメイドさんやってよ!うちのクラスの人なんだから、クラスで決めたことをやるのは当然でしょ?あなた用のフリフリのメイド服もちゃんと……」

話の長そうな女子生徒がジャンヌに言い寄るとジャンヌは先ほどとは違い、もじもじしている。見かねたムサシは女子生徒のブレザーの襟首を掴んだ。

「オドレ、嫌がっとるじゃろ。やめんかい」

トモエ・ヒグチは目を見開いた。クラスの出し物でメイド喫茶をやるのだがメイドが足りず、ジャンヌ・デュレコに頼みに来たら女の子のような少年に襟を掴まれている。この子を育てればトモエのメイド喫茶の目玉になるかもしれない。トモエのプロデュース魂に火が付いた。

「あなた!女装メイドやってくれないかな?その髪、雰囲気、言葉使い!少し恥ずかしくしてくれたら最高に萌え上がり………」

「断る」

トモエの熱意をムサシの非情なる拒否権の行使が踏みにじる。

「わしゃ男じゃ」

彼は自分が男であることを噛み締め、女装をしない決意を固めて歩き出した。もう戻らない。自分の決意はこれまでになく強固なものだ。自分は男だ。彼がそう思った時、事態が急変する。

「君、ムサシ君だよね?マーリンとかとつるんでるムサシ君。ムサシ君の女装見たいな」

「絶対可愛いのに!ムサシ君が可愛い系だから絶対似合うのに」

「他の女の子たちもきっと喜ぶのに」

ムサシの中で「似合う」「可愛い」「女の子たちも喜ぶ」のワードが脳内をめぐる。トモエの元にたまたま居合わせた同じクラスの女子たちが口々に言う。トモエ軍団の壮絶なラッシュがボディタッチという反則行為を交えてムサシに浴びせられる。彼は気が付けばトモエのクラスにいた。

「わしはなんと情けないんじゃ」

ムサシは己の無力を嘆いた。彼は女子たちとのふれあいのために男の尊厳を犠牲にした。落胆しているムサシの横にジャンヌがもじもじしながら座ってている。どうやら彼女は他人が持つ自分のイメージを守るために気を張っているが、いざ困難を目の前にしてしまうと尻込みしてしまう性格なのだろう。ムサシにはそう見えた。

「オドレ、嫌なもんは嫌でいいんじゃぞ。無理すればするだけ嫌になるぞ」

ムサシはジャンヌに自分のしたくないことをわざわざする必要はない。自分の意見をちゃんと通せ。と言いたかった。だがジャンヌはぷりぷり怒りながらムサシを睨みつけた。

「このデュレコ家の令嬢、ジャンヌ・デュレコが『メイドさんなんて出来ません』なんて言えるもんですか!あなた馬鹿でなくって!?私はジャンヌ・デュレコなの!何もかもできて当然。それが普通なの!」

ジャンヌはやりたくないのを我慢してそんなことを言っているのか目がうっすら潤んでいる。だが、言いたいことを言えない乙女心を理解するなどムサシには不可能である。

「オドレ、人が気を使ってやればなんじゃその口の利き方は!」

「あら、まだわかりませんの?私はあなたに気を使われるような落ち目ではありませんのよ。女装好きな変態さん」

「好きでするんじゃないわい!わしはただ女の子と仲良くなりたいだけじゃ!令嬢だかなんだか知らんがオドレのようなヘタレじゃない!」

そんな二人を見てオスカルはくすくす笑っている。楽しそうだ。ジャンヌがぷりぷり怒りながら理由を聞くとオスカルは「お嬢様もムサシ殿も可愛らしくて」しか言わなかった。するとジャンヌはムサシに向き直り、ヴァッフェルガングを展開した。美しさと冷徹さを感じる銀色のカトラス型で、放出されるエネルギーブレードは白銀色。イクスカリバーと同じくなんらかの条件を満たさないと抜剣できない特別なヴァッフェルガング、カレトヴルフの一つである【白銀の剣(エペ=アルジャン)】である。

「決闘よ、ムサシ・ミヤモト」

「上等じゃ。ボコられてもあの世で後悔するなよ」

ムサシも二本の刀を構えるとトモエが二人の頭を小突いた。

「二人とも、メイドさん対決にしなさい」

フリフリの可愛いメイド服を二人分持って現れる。そしてムサシにフリフリを。ジャンヌにもっとフリフリを手渡し準備に勤しみ消えていった。ムサシは目を丸めて着方のわからない服を見ていると、ジャンヌは得意げに鼻で笑う。

「着方もわからないようじゃ、全然似合わないんじゃなくて?」

挑発的な目つきだ。ジャンヌはメイド服をオスカルに預け、更衣室に入った。メイドさん対決の火蓋が切って落とされた。

「トモエ!」

ムサシが呼ぶと待っていたように現れる。

「わしをあいつより可愛くしろ!」

「アイアイサー!!」

こうして血で血を洗い、フリルにフリルつけるメイドさん対決が始まった。ムサシは下の毛以外のすべての体毛を剃り、伸びっぱなしの髪をヘアアイロンで手入れして、いまの彼らにとっての戦闘装衣である、フリフリメイド服に袖を通す。化粧をすれば女子っぽく見える。一方ジャンヌはオスカルから借りたデュレコ家使用人マニュアルを読み、メイドとはなんたるかを叩き込んだ。明日から二日間、トモエによる放課後の地獄のメイド研修に向けて準備した。


*********************


その夜のバスタイムのこと。ジャンヌは一日で一番リラックスできる時間、自分に傅き、丁寧に自分の足の指まで洗うオスカルをいつもと違うように眺めていた。

「ジャンヌお嬢様は足の小指まで可愛らしいですね」

今日の放課後のことを思い出したのだろう。くすくす笑っている。オスカルとは逆でジャンヌはムサシのことを思い出し、不機嫌になり、そっぽを向いた。

「よくもまぁ、そんなお世辞が言えるわね」

オスカルは泡だらけのジャンヌの体をシャワーで流し、シャンプーハットを被せて頭を洗い始めた。

「お世辞ではありません。真剣です」

ジャンヌの金の糸のような髪を丁寧にすすぎ、風呂を出た。そして体を拭きバスローブを着せた。

「ねぇ、オスカル。人に仕えるってどんな気分なの?」

ジャンヌは髪を乾かすドライヤーに負けないように大きな声で言った。

「そうですねぇ、母親になったような気分ですかね」

「それどういう意味?」

「ジャンヌお嬢様は私が着せてあげなければパジャマのボタンを二つも掛け間違えてしまうという意味です」

オスカルはくすくす笑っている。ジャンヌがパジャマのボタンを見るとオスカルの言った通り二つも掛け間違えている。ジャンヌは馬鹿にされた気がして少し膨れたが、オスカルの嬉しそうな顔を見るなり自分も笑ってしまった。そしてジャンヌはベッドについた。今日一日の事を思い出すと改めてオスカルへの感謝が込み上げた。

「ねぇ、ミネルヴァ」

ミネルヴァ・クルツキー。オスカルが男としてジャンヌに仕える前の名前だ。ジャンヌは滅多にこの名を口にしない。だがキャメロットに来て親元を離れてから呼ぶようになった。

「どうなさいました?」

「いつもありがとう」

「もったいないお言葉です」

ジャンヌは起き上がりオスカル、否、今はミネルヴァであろう。ジャンヌは彼女に対しベッドに座り整体した。

「私が何にもできない甘えん坊だってこと、誰にも言わないでね」

「口が裂けても言いません」

「ちゃんと一人でなんでもできるようになるから」

ジャンヌは眠そうに目をこすったのでオスカルは彼女を寝かせた。ジャンヌがキャメロットに来た理由はなんでも一人でできるようになるためである。進学先として自宅から通える、ロームレス魔導女学院フランク王国校もあったのだが、自宅から離れねば何も出来ない箱入り娘から変われないと思い、わざわざ海を挟んで故郷のフランク王国から離れたブリタニア王国のキャメロットに来たのだ。だが急に何ができるようになるわけではなく、困難に直面しているが長所というべきである見栄っ張りでなんとか面子を保っている。

「おやすみなさい、お嬢様」

オスカルは部屋の明かりを消した。


*********************


翌日、すべての授業を済ませたムサシはトモエの元で所作の練習が始まった。最初の方は優しく教えて貰ったが、トモエの言葉使いは徐々に荒くなり、段々熱血指導になった。

「『おかえりなさいませ、ご主人さま』言ってごらんなさい!!」

「おかえりなさいませ、ご主人」

「もっと可愛く!」

「おかえりなさいませ、ご主人さま」

「もっと!」

こんな練習を一時間も繰り返し、お辞儀の仕方や接客の心得を叩き込まれた。やがて、ムサシは女らしく、ジャンヌは皿を割らないようになった。二人は時にヴァッフェルガングを手に切磋琢磨し合い、立派なメイドになった。そして迎えた春祭、トモエプロデュースのメイド喫茶「キトゥン・カフェ」は華々しくオープンした。ムサシの恥かしそうな愛くるしい女装と、ジャンヌのツンデレ接客は反響を呼び見せは大盛況。メイド人気投票はムサシとジャンヌの一騎打ち。果たして勝つのは………


*********************


迎えた春祭当日、アーサーは人生で初めて「ドキドキで死にそう」を感じている。周りの視線の奥の意図が気になって仕方がない。硬く結んだ口は少しでも緩めれば、心臓を吐き出してしまいそうだ。隣では恥ずかしそうに手をつなぐルナ。汗ばむ手。なぜ自分はこうなると知りながら、「デートチャレンジ」をすることにしたのか。アーサーはどぎまぎしていた。「デートチャレンジ」とは男女のペアで手をつないでチェックポイントを巡り、各所にあるゲームに挑戦し、スタンプをもらう。そして景品をもらうというもので、春祭の名物である。アーサーは勇気を出してルナを誘ってみたが、いざ手を繋ぐとお互い照れ臭くて話すことがない。彼は「空が綺麗だね」を四回言ったが、顔を赤らめて下を向くルナはこくりと小さくうなづくだけだ。アーサーたちは次のチェックポイント「キトゥン・カフェ」を目指す中、会話がまったくない。何も話さないまま、キトゥン・カフェのデートチャレンジのゲーム受付のベルを鳴らした。

「いらっしゃいま………んがっ!?」

可愛く女装したムサシが高い声を出しながらアーサーの前に現れたのだ。左にはアーサーの手を握りしめ、俯き加減に震えるルナ。目の前には見たくもない友人の女装。アーサーが口を開こうとすると、ムサシのヴァッフェルガングの剣先がすでに喉元に向けられていた。

「オドレ、このことアイツらに話そうもんなら二度とシャバに顔晒せんようにしたるからのぅ」

「誰にも言わないから!僕のことも黙っててくれ!」

二人はお互いに言葉をあびせあった。自分のことを口止めするのに必死で互いに話を聞いていない。するとジェーンの端末からシャッター音が鳴った。ムサシとアーサーは恐る恐る振り向く。

「二人とも、私への態度には気をつけるように」

ジェーンは嬉しそうにスキップして去った。アーサーがジェーンを追おうとすると、ルナがぐいと手を引いた。

「早くゲームしよ………」

「うん、そうだね」

アーサーは十秒以内にシュークリームを食べきるゲームで二秒.五三という脅威のタイムを叩き出し、キトゥン・カフェを後にした。学生パフォーマンス大会が始まり、店も落ち着きだした頃、キトゥン・カフェに怒号が響いた。スパイクスの団体来店だ。彼らは我がもの顔で騒ぎまくり、今度はいちゃもんをつけてきたのだ。皿の割れる音、料理が床に落ちる音と女の子のすすり泣く声が静まりかえった店内に響くとジャンヌが仁王立ちでスパイクスの面々と対峙していた。

「なんだよ?エペ=アルジャンのジャンヌ様がメイドさんごっこか?メイドならもうちょっとサービスよくしろよ」

彼らはメイドにいやらしいことをしようとしてそれをメイドが拒否したところ、逆上したのだ。

「ジャンヌ、ほらここ座れよ。こいつの代わりにお前が接客しろ」

ジャンヌは怒りで拳を握りしめた。いつもならオスカルが飛んでくるのだが、今日は無理を言って来てもらっていない。自立のためだ。

「あれ?カレトヴルフは振りまわせるのに横に座るのはできないの?実は何にもできないんじゃないの?」

図星だ。悔しくて涙が溢れそうになるのを堪えてぐいと顔を上げた。

「わかった。座ろう」

ジャンヌは少し距離を置き、横に座った。すると男はもっと近くに来いとジャンヌの肩を抱き寄せた。すると彼女は普段の凛々しくきりっとしたジャンヌ・デュレコから想像できない情けない声を出して小走りに逃げた。

「あれあれあれぇ?なんだよ今の声?そんな声出せんのかよ!?意外と可愛いとこあるじゃ…………」

男の声は遮られ、顔面にはムサシの鉄剣がさく裂した。

「わしゃのぅ、喧嘩は好きじゃ。スリリングでエキサイティングじゃからのぅ。じゃが、弱いものいじめはクソ食らえじゃ!!!」

ムサシは他のスパイクスのメンバーにも飛びかかった。彼らは大乱闘になり、店は破壊の限りを尽くされ、ムサシも立っていられないほどふらふらになっていた。スパイクスの面々は何度殴られても立ち上がり、返り討ちにされるムサシに呆れて店を出て行った。

「さぁ、終わった!店を再開じゃ」

ムサシは立ち上がり、おどけた様に言った。

「終わったわよ!!何もかもお店がぼろぼろじゃない!!もう再開なんてできないわよ!!」

ムサシはロッカーの制服をトモエに付き出された。

「もう、着替えて帰って」

ムサシは制服を受け取り、トイレで顔を洗い、制服に着替えた。鼻から止めどなく血を流していたので一旦ティッシュを鼻に詰めて保健室に向かった。トモエには悪いことをした。だが、見ていられなかった。悔いはないが、なんとなく寂しい。するとメイド服のままのジャンヌが男子トイレまで入って来た。

「保健室に行きましょ」

「こんなのたいしたことはない」

「話したいことがありますの」

ムサシはこくりとうなづき、制服に着替えた。保健室に向かう途中、二人は一切口をきかなかった。というよりも聞けなかった。保健室の扉を開けると、美人で評判のフィンチャー先生がいた。春祭なので暇なのであろう。いつもこそこそ隠れて読んでいる美少年ばかり出てくる漫画を堂々と読んでいる。先生はムサシたちに気付くなり、それを慌てて隠した。

「どうしたの?ぼろぼろじゃない?」

「すっ転んだんじゃ」

「転んだのに顔に拳の跡が付いてるわ」

先生はムサシの顔を触診し、血が止まらない鼻に詰め物をした。先生は一通り処置を済ませ、報告書を書いた。

「じゃあ、これ担任の先生に出してくるけど。何か欲しいものとかある?」

「先生……」

「何?」

「おっぱい揉ませて」

フィンチャー先生はムサシの顔の痣を指で強く押し、痛がるムサシを見て微笑んだ。

「報告書に【エッチなことが言える程元気】も付け足しておくわ。揉ませて欲しかったら、私がときめくような喧嘩なんてしない男の人になりなさい」

ムサシが小さく「ケチ」と言うと先生は笑いながら保健室を出て行った。保健室に二人っきりになると、暫くの沈黙があった。そして、ジャンヌはぽろぽろと大粒の涙を流した。

「私…何もできないって言われるのが嫌だった。だけど………私がつまらない意地張ったからトモエのお店をめちゃくちゃにしちゃった」

ジャンヌは嗚咽混じりに言った。するとムサシがジャンヌの頭を小突いた。

「情けないのぅ、そんなことで泣いて。嫌なもんは嫌でいいんじゃ。じゃから終わったことで泣くな。それにわしが好きでしたことじゃお前に責任はない。わしからトモエに謝っとくから安心せい。お前は悪くない」

すると、ジャンヌはムサシの胸でわんわん泣いた。感情が弾けたようだ。

「ムサシくん、ジャンヌ……ゴメンなさい!!」

保健室の扉の前でトモエが深々と頭を下げて謝っていた。

「私が無理やりやらせたのに、うまく行かなくなったら怒るなんて身勝手でした」

ムサシは立ち上がり、鼻の詰め物の位置を直した。

「オドレら、顔を上げぃ。春祭はまだ終わっとらん!いつまでも昼休みしとれんじゃろ。リニューアルの準備じゃ!」

ムサシはジャンヌとトモエの手を引いて保健室を飛び出した。





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