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CAMELOT  作者: 甘崎みかん
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「アーサー、ちゃんととーちゃんとの約束守るんだぞ」

「うん」

「神様はいつもアーサーを見ておられるから、とーちゃんがいなくてもかーちゃんとエミリーを守るんだぞ」

「うん」

眩しい斜陽がさす雑木林の中、父と交わした最後の会話。この光景は一度きりのようで何度も見た。

「じゃあな」

去りゆく父を引き止めることはできずただ拳を握りしめて下を向いた。ふと、顔を上げるとそこに父はおらず、涙が溢れ目の前が見えなくなった。そしてもがくように暴れた。すると徐々に景色は薄れていき、目の前には妹のエミリーがいた。

「怖い夢でも見たの?起きてこないから起こしに来たんだけど…寝かしといた方が良かった?」

エミリーはアーサーベッドのシーツをたたみ、アーサーの横に腰掛けた。エミリーはアーサーの目に付いた涙の雫を親指で拭き取った。微笑むエミリーの頬にはうっすらと赤い手形が付いていた。

「おばさんにやられたのか?」

「こんなのたいしたことないよ」

エミリーは左の頬に手を触れた。父が行方不明になり、母が死んで、ペンドラゴン兄弟には不幸が続いた。さらに不幸だったのは二人を引き取った親戚が意地悪で、さらに力の弱いエミリーばかりに当たることだ。二人はひきとられてから八年間、一人用のベッドに体を押し込んで寂しい夜を過ごしてきた。

「ごめん。僕がたよりないから…」

すると、アーサーとエミリーの部屋のドアが乱暴に開かれた。

「アーサー!いつまで寝てんだい?エミリーもちんたらしてないで、皿を割った分きっちり働いてもらうからね」

叔母はドアを乱暴に閉めて、台所に向かった。

「行こう、オムレツが待ってるわ」

エミリーはアーサーの手を引いた。アーサーはエミリーに手を引かれ台所に歩き出した。台所にはテーブルが二つあり、小さく角がささくれているのがアーサーたちの机、きめの細かい上品なカシの木でできたのがおばさんと二人の娘のための机。エミリーがパンとサラダ、そしてオムレツ型に盛り付けたスクランブルエッグをテーブルに置いた。オムレツと聞いていたアーサーは目を丸めた。

「こうゆうオムレツが今は流行りなの」エミリーは笑かけた。二人は顔を近づけてくすくす笑った。

「さっさと食べて、さっさと出掛けな。私も暇じゃないの」

叔母が二人に言い放った。二人は素早く朝食を済ませた。

「ねぇ、アーサー」

エミリーが着替えているアーサーに提案をした。

「私も中学を出たら働こうと思うの」

アーサーはエミリーの肩に手を置いて少し咎める様に言った。

「エミリー、君はハイスクールに行くんだ。とーちゃんとかーちゃんが残してくれたお金にあと少し足せば行けるんだから心配しないで」

アーサーは優しくハグした。

「行ってらっしゃい、エミリー」

「行ってきます、アーサー」

二人はいつもの挨拶を交わし、別れた。

エミリーが歩く後ろから彼女と同い年で同じ学校に通う叔母の娘、セーラがエミリーに飛びついた。

「ねぇ、エミリー。カバン持ってよ。いいでしょ?あんたうちのご飯食べてんだから」

セーラはエミリーにカバンを押し付けた。セーラはスキップした。セーラはエミリーやアーサーを見下しており、たびたび嫌がらせをする。

「私ね、キャメロット受けるの。そしたらさ、マーリン・ヘグストロムに会えるかもしれないじゃない?どーしちゃおっかなー。マーリンと付き合えたりなんかしたら」

マーリン・ヘグストロムは国立魔導魔術騎士養成学園キャメロットの現主席で高等部一年にしてキャメロットでも歴代最強と謳われる人物である。ティーンエイジャーのほとんどがマーリンに憧れ、キャメロットの試験をうける。

エミリーはぼんやりと空を眺めてセーラのたられば話を聞き流した。


******************


電車を二本乗り継いでアーサーは彼の職場である、ベーカリーに着いた。彼は愛想が良く働き者なので、このベーカリーでは人気店員である。

「おはよう、アーサー」

店主のオスカーがアーサーの肩を軽く叩いた。

「おはようございます」

アーサーはオスカーに挨拶を返した。

「おはよう、アーサー」

オスカーの娘、デイジーがアーサーに優しく微笑んだ。デイジーは大柄で、針金の様な体毛の生えたオスカーの娘とは想像もできないほど作りの細かい、繊細で美しい顔をしている。顔だけではない。少しカールした金髪はアーサーの少しくすんだ金髪と違い純金色だ。健康的な牛乳色の肌で、瞳はサファイアの様に青く澄んでいる。

「今日、うちでご飯食べてかない?シチュー作りすぎちゃったの」

デイジーは朝の光をバックに優しく問いかけた。その様子はまさしく大天使の降臨の様だ。

「ごめん。妹のことがあるから…」

アーサーは食べたいのはやまやま、照れ臭く思い、エミリーのことを口実にした。

「こんな優しいお兄さんがいるなんて、幸せな妹さんね。今度エミリーに合わせて」

「い、いやぁ、会わせる様な妹じゃないから!」

アーサーは後ろに後ずさりしながら言った。このままではエミリーをそっちのけに誘惑に負けてしまいそうだ。するとある新聞記事を見つけた。【ミイラ死体、吸血鬼のしわざか】これが見出しだった。最近、吸血鬼による被害が増えてきた。政府もキャメロットも対処に尽力を尽くしているが、吸血鬼の人口が増えているのか、一向に混乱が収まらない。

「最近物騒ね。アーサーもあまり遅くなりすぎない様にしなきゃ」

暫くの沈黙のあと、デイジーが口を開いた。

「じゃあ、今朝の配達お願いね」

アーサーはデイジーから配達リストとパンを受け取り、スクーターで配達に出掛けた。スクーターで風邪を切りながら煉瓦造りの風景を抜けると一軒目のカフェがあった。だが様子がおかしい。この時間はいつもなら遅めのモーニングやブランチで賑わうのに誰もいない。それにカーテンが締め切られており、やけに暗い。アーサーがカフェの裏口の扉を開けると、真っ暗で鉄の匂いが立ち込めていた。すると奥から湿ったものが落下する音がした。そして足元に生暖かい赤い液体が飛び散った。血だ。

「ダメじゃない。レディの食事を覗き見なんて。ジェントルマンのすることではないわ」

妖艶な声がしたあと、カーテンの隙間から射した斜陽が声の主の血まみれの顔を照らした。その女は全身フリルの衣装に身を包んでいた。アーサーは恐怖で足がすくみ、その場に尻餅を着いた。その瞬間、邪悪なオーラと魑魅魍魎たちが噴き出す様に飛び出し、空を紅く、雲を黒く染め上げ地獄絵図と化した。アーサーは吹き飛ばされ、広場にそびえる剣型のモニュメント【聖剣の像】にぶつかり、口の中に血の味が広がるのを感じながら気を失った。


******************


あれからいくらか時間がたった。アーサーにとっての空白の時間である。アーサーがまだ意識が明確でないままうっすら目を開けてみるとあたりは吸血鬼の死体がそこらじゅうに転がり、地面は血で真っ赤だ。

「状況終了」

騎士団員の一人が無線に連絡をした。連絡をした騎士団員がアーサーに駆け寄った。

「生きていたか。ラッキーだったな」

その笑みはアーサーを励ます様だった。

「もう大丈夫なんですか?」

「あぁ。我が国家騎士団の大勝利だ」

「あの女の吸血鬼も倒したんですか?」

「何言ってるんだ。今回は皆、男の吸血鬼だったぞ」

騎士団員がアーサーに寝ぼけてないでしっかりとしろというそば、レーダーを読む女性の騎士団員が叫んだ。

「キング級の反応アリ。こちらに向かっています!!」

その刹那アーサーに語りかけた騎士団員の心臓のあたりが貫かれた。

「んふふ。お馬鹿さん」

フリルの女はキャンディーの棒を首の動脈に突き刺した。すると全身の血が絞られる様に干からびた。そして棒を抜き取ると血が丸く固まり、ロリポップになった。女はそれを咥えて言った。

「申し遅れましたわ。私、マリーと申しますの」

マリーはハンカチで血に塗れた手を拭いた。

「あら、かわいい坊や。きっと甘くてとろける様な血なんでしょうね」

マリーはアーサーの頭を像に万力の様な力で押さえつけ動脈みぺろりと舐めた。

「楽しみだわ」

マリーはそう言ってアーサーの首筋をなぞり、つき刺そうとした。

「逃げて!!!」

女性騎士団員がマリーに飛びつき、剣型のヴァッフェルガングを突き刺し、そして至近距離からこめかみに弾丸をたたき込んだ。

「逃げて!!」

女性騎士団員はアーサーの背中を押した。だが、彼は走ることができなかった。彼の心は初めて見る吸血鬼の恐怖に支配され尽くしていた。

「レディの顔を傷つけるなんていい根性じゃない。お仕置きしてあげるわ」

マリーの顔は瞬時に再生した。通常のヴァッフェルガングではキング級は致命傷を与えることができないのだ。

アーサーはぎゅっと目を閉じた。そして言い聞かせた。

ーー このままだとあの人が殺される。逃げるな、アーサー。

ーー 弱き者よ、貴様は何を求める。

誰かの声がアーサーの頭に耳を通さず直接語りかける。

ーー誰だ!?

ーー我は王に仕える者。貴様は今、何を願った。

アーサーは再び目を閉じた。覚悟を口にするために、心を落ち着かせる必要があった。そして彼は再び目を開いた。

ーー僕を助けてくれた、あの人を助けたい!!

圧倒的恐怖を目の前にアーサーは立ち向かう覚悟を決めた。

ーーならば名を示し、我を抜剣せよ。

アーサーの目が彼の元々の目の色から黄金色に変わった。

「僕の名はアーサー・ペンドラゴンだ!」

アーサーの声とともに、聖剣の像が砕け中から黄金色のヴァッフェルガングが現れた。アーサーは目の前に現れたヴァッフェルガングをつかんだ。ヴァッフェルガングな現代の騎士の武器として使われる携帯型武器ユニットで、剣型の物は柄に形で収められている。それを展開してエネルギーブレードを形成し 、戦闘に用いる。

アーサーは黄金のヴァッフェルガングを展開し、エネルギーブレードを形成した。そして彼の本来の力ではないヴァッフェルガングにより強化された超人的な跳躍力で間合いを詰めた。アーサーは剣を翻し、マリーを弾き飛ばした。

「逃げて!」

立場が入れ替わった。彼は黄金色の剣を父から教わった独特な構えで構えた。

「やってくれるじゃない…」

マリーに多少のダメージを与えた様だ。マリーは手首に切れ込みを入れ、そこから噴き出した血を固めて血のサーベルを作った。そして宙に浮き上がり、ぐるぐると回りながら、アーサーの隙をつこうとした。だが、アーサーは剣を構えたまま動くくとはなく、宙に浮き、クラゲのように舞うスカートを目で追った。

「お仕置きよ!」

マリーがアーサーの背後から心臓をして目掛けて飛びかかると、アーサーは瞬時に体の向きを変え、右から左への体重移動に乗せて強烈な剣撃を見舞った。焦って防御しようとしたマリーはアーサーの剣の直撃を喰らい、血のサーベルが砕けてしまった。さらにアーサーは建物を物凄い勢いで駆け上がり、そのてっぺんから跳び、マリーに雷が如し一撃を浴びせた。

「もう……我慢の限界だわ!!」

マリーの背中が裂け、そこから腕が四本生えた。

「これでどうかしら?」

すべての腕が血のサーベルを携え、アーサーに襲い掛かる。強烈な突きの嵐の中、アーサーは一人無心に剣を振るい、すべての攻撃をかわした。

「今度は僕の番だ!」

アーサーは一歩後ろに下がり体を回転させながら剣を振るい、すべての血のサーベルを砕いた。だが、これはマリーが狙っていたことだった。サーベルに気をとられている間、隙を狙い本命のヒールをみぞおちに叩き込むのだ。アーサーが蹴りの直撃を悟った時にはすでに遅かった。アーサーが死を覚悟仕掛けた時、光の球がマリーの足を弾いた。

「へぇ、イクスカリバーかぁ……」

杖型のヴァッフェルガングを構えた少年がにぃと笑った。キャメロットの制服を着ている。

「俺が探し求めてる王かもね」

少年はおどけたような口調で追加攻撃を加えた。

「マーリン・ヘグストロム!何をしに来た?」

マリーは声を荒らげた。相当頭に来ているようだ。

「吸血鬼騒動っていうんで出動要請がでたからね。まぁ、【七つの大罪】相手じゃ学徒兵は即時撤退だけどね」

マリーは高笑いした。どうやら怒りが頂点に達したらしく、目が煌々と赤く光った。

「二人まとめて墓場いきよ」

マリーが血の弾丸を放とうとすると真紅の炎がそれを遮った。

「やめろ、ブラッド・グリード。これ以上は貴様らの汚点になる」

黒いコートを来た謎の男が炎を放った。「ちっ、ブラッド・ラースか……」

マリーは舌打ちして消えた。

「あーあ、狙いは男の方だったのにな」

マーリンはだらしなく杖を担いで言った。アーサーはヴァッフェルガングのブレードを収めるとめまいを感じた。とても疲れた。その時、彼の目は緑色に戻っていた。

「やぁ、王様。覚醒おめでとう。さてさて今後はどーする?」

マーリンはにぃと笑ってアーサーに言った。








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