第90話・商人との交渉
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「おや? どこの貴族様かと思えば、カイト様ではありませんか??」
「え・・・あれ!?」
ソギクと言う、パンの材料になるらしい穀物の種を買い付けるため、べアルからここ、バルアの街に着いたのがつい先ほど。
しかしいざ、商会ギルドへ赴くとそこには、ソギクの種の在庫は無かった。
落胆した俺たちだったが、つい先ほど、その種を買っていったと言う商人さんの、居場所をギルドの受付嬢さんに教えてもらった。
意気揚々と教えてもらった場所へ向かった俺たちは、そこで思いがけず知り合いの人に会ってしまった。
「ハントさん!? 何でこんなところに!!?」
俺とノゾミを、シェラリータから王都へ運んでくれた、商隊メンバーの一人、ハントさんである。
領主の命令だからと、俺たちから運賃をまったく徴収しなかった、いい商人さんである。
「私は商人ですからね。 商人というのは、世界各地から品物を仕入れて、売りさばくのが生業なのですよ。 カイトさんこそ、どうしたのですかその格好は?」
微笑を浮かべながら、俺にそんなことを聞いてくるハントさん。
ハントさんとは、王都ではぐれて以来、会っていない。
そうっすよね、なんで冒険者だったはずなのにコイツ、貴族の格好してんの?って、なりますよね・・・
『この無礼者が!!』と、今すぐ飛び掛らん勢いの護衛の三人を押しとどめ、こちらも笑顔を返す。
「そうですよね。 俺も聞きたいです。」
本当に、俺も聞きたい。
何で俺は今、貴族なんかやってるのだろうか?
しかも、この国で指折りの権力者を。
・・・・・・住民は38人だけど。
「しかし、こんなところでどういった用件ですか? 王都へ行かれると言うなら、これから私も向かうところなので、お乗せしますよ?」
そう言って、馬車の荷台部分を指差すハントさん。
悪気は無いんだから!
だから、そのハントさんに向けている刃を、今すぐおろしなさい。
この三人の護衛は、どうも血の気が多くて困る。
俺なんか、ただの同僚くらいに考えてくれれば十分なのだ。
「いえ、ハントさんには、ソギクの種を売っていただきたいんです。」
「ソギクの種を・・・・ですか??」
怪訝な表情を浮かべるハントさん。
俺は、順に自分に降りかかった災難をハントさんに話していった・・・・・
◇◇◇
「はああ・・・それはまた・・・・・・・・ いえ、先ほどは大変失礼をいたしました。 大公様。」
「よしてください。 こっちも何がなにやらさっぱり分かっていないのですから。」
ソギクの種の話をするには、俺が大公になって、ベアルという村に居を構えていることを話さねばならなかったので、順を追って説明した。
毎度のごとく、俺を大公だと知ると、目の前の人はハントさん含め、地面に平伏をしてくる。
本当にやりずらい。
次からは、身分詐称して『私は、男爵です』とか言ってみようか?
響きもそっちのほうが、かっこいいし。
バカなカイトは、すごくバカな算段を頭の中でしていた。
「ソギクの種の件は、すぐにでも大丈夫です。 必要量には遠く及ばないかもしれませんが、どうぞ、お納めください。」
「ありがとうございます、助かります!!」
目配せすると、本来の交渉役だったはずの騎士が、懐からお金の入った袋を出す。
できる人ってすごいな・・・・・
そんな、どうでもいいことを、カイトは考えていた。
「いえいえ。 お代はいただきません。」
「は?」
ハントさんが、王都でも聞いたような、そんなことを言ってきたことに、変な声を出してしまった。
そのまま俺たちに、巨大な布袋を三袋を渡してくるハントさん。
「いやいや、タダでなんていただけませんよ!! 仕入れ値もだいぶ張ったのでしょう!?」
バカなカイトでも、それくらいの算段はつく。
それをタダでなんて、ありえ無すぎる!!
「いいのです、もらってください。 しかしさすがはカイト様です。 あの荒れた街の産業にソギクの栽培を起用されるとは。 これは我々商人からの餞別とお考えになってください。」
餞別でそんな貴重なものをタダでなんて、いただけません!!
どうにか、お金を払おうとすると、根負けしたようにふう・・・・と、ため息を漏らしたハントさん。
これで、少しは受け取ってくれるかな?
そう思ったら・・・・・
「わかりました。 カイト様、ではこういたしましょう。 もしべアルが、耕作都市として大成した暁には、私どもの商隊に、ソギクの優先した購入権をください。 それが、これをあなた様に渡す条件です。」
そんな曖昧な・・・・
と思ったが、これ以上、押し問答を続けても王都の二の舞だ。
「ありがとうございます、きっとべアルを発展させて見せます。 そしてハントさんに、出来たソギクを優先的に売ることを約束します。」
「ええ、がんばってください。 応援していますよ?」
これだけ言って、ハントさんは、馬車を他の商隊のメンバーに任せ、街の喧騒の中へ、その姿を消していった。
俺たちの元には、ソギクの種がびっしり詰まった、袋が三つ。
思いがけず、びた一文もかからずに、手に入ってしまった。
俺たちはしばしの間、呆然とするのだった・・・・・
ちなみにこの日以来、使用人たちの『大公様フィーバー』が過熱したのは、別の話だ。
次話も、バルアです。




