第89話・バルア
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「私、感服いたしました!! さすがは大公様です!!」
「あ~~、分かったから、そろそろ止めてくれない? 恥ずかしいからさ。」
「は・・!! し、失礼しました!!」
俺が、ダダ漏れる『大公様、スゴイ』の話をさえぎると、後ろの騎士三人が、敬礼で俺に無礼をわびてくる。
このやり取りは、今日で十回目。
形式上、俺は今大公なので、貴族の移動用の服を着ている。
といっても、かなりきらびやかな服で、動きづらいったらありゃしない。
メイドさん二人までいるので、まるでまだ、べアルへ向かっている道中みたいな気がする。
しかもその二人は、すごくでかいリュックを背負っているのだ!!
中身はパンパン。
非常食とか、簡易テントだとかが入っているらしい。
俺たち一行は、いったいどこの魔境へ向かうと言うのだろうか?
女性二人にこんなものを持たせるのは、男として忍びないので、騎士の人たち同様、持ってあげようとしたら、断られた。
アリアや、メイド長に怒られるんだってさ。
ちなみに、メイド長とはクレアさんのことである。
俺への忠誠が強すぎて、こんな事態になっているらしい。
そんなに俺に忠誠を誓うほどのことを俺は、彼女にしただろうか?
それはともかく。
「昨日は大変でございましたね、大公様。」
「ああ、今日もな。」
一同が俺に、苦笑いを返してくる。
ちなみに、ノゾミやヒカリも今は、ベアルでお留守番だ。
あれから、お姉ちゃんことアリアを、一緒に連れて行くと聴かないヒカリ。
ノゾミが行くのも、不満があったらしい。
と、いうわけで三人とも置いて行くことにしたのだが、ゴネるゴネる。
最終的に、せっかく直した屋敷を一部、破壊するまでの大ゲンカに。
一晩が過ぎ、ノゾミが譲歩することで決着がついた。
何と言うか・・・・・・・
今日、俺が出発するときの、ノゾミの捨てられた子猫のようなシュンとした表情は、今思い出すだけでも胸が締め付けられる。
いや、早く終わらせて、すぐ帰ればいいだろう!
街道からバルアは、そう遠くはないらしく、しばらく歩いて森を抜けると、目の前には一段低いところに、大きな港湾都市が広がっていた。
「大公様。 あれがバルアの街です。 今見えている海の向こうの対岸も、我がアーバン法国の領土となっております。」
騎士の一人が、俺にそんな説明をしてくる。
目の前に広がる、バルアという街が面した海は、とてもきれいだった。
一面真っ青に染まった海は、表面が太陽に照らされて、キラキラと宝石のように輝いている。
実は、王都も海に面した街なのだが、海はきれいではない。
日本の首都圏近くにある、某海岸のように、海が黒いのだ。
はじめて見たとき、かなりガッカリしたと申し添えておく。
「さあ行くぞ!! いざ海に!!」
目的を完全に忘れたバカイトは、ズビシッと、バルアを指差し、意気揚々と街の見えるほうへ向かって行った。
これには、使用人たちも、苦笑いを隠しきれなかった。
◇◇◇
「ソギクの種ですか?」
「ええ、なるべく沢山欲しいのですが。」
今俺たちは、ギルドへ来ている。
と言っても、俺がよく行っていた、冒険者ギルドではない。
来ているのは、商会ギルドだ。
この街の流通品のほぼすべてを、この場所で取り仕切っている。
卸問屋のような場所だ。
そこの受け付けの女性に、ソギクの種がないか聞いたら、渋い顔をされた。
俺は何か、変な事でも言ったろうか?
は!?
もしや、貴族の服を着ているから、足元を見られている!!??
だめだ、だめだ!!!
貴族だけど、今はお金なんてないよ!?
「実はつい先ほど、ある商人の方が大量に買われてしまって・・・・・ 今、倉庫は空なのです。」
なーーーーーーーーー!!????
「次の入荷は、一ヵ月後となっているのですが・・・・・ それまで待ちますか?」
待てません。
鉄道を一か月分先延ばしなんて、イヤです。
「もしくは、その商人に直接買い付けると言う形になりますが・・・・・」
よし、そうしよう!!
すぐさま、受付嬢さんに、その商人の居所を教えてもらう。
「あの、カイト様? 差し出がましいようで恐縮なのですが、それでは仕入れ値が高騰してしまいますが・・・・・」
メイドの一人が、不安そうに俺を見上げてくる。
だが・・・
「心配するな!! 値切ればいい!!」
得意満面で、メイドに対し、そう言い放ったカイト。
一応言っておくが、カイトはものを値切ったことなんか人生経験上、無い。
ましてや相手は、商人。
アホなカイトは、頭が八十パーセント『鉄道』に埋め尽くされ、そこのところを考えていなかった。
ここにアリアがいれば、きっとこの愚行を止めさせていたことだろう。
だが幸か不幸か、彼女はここにはいなかった。
意気揚々と、スキップ交じりで商人のいると言う場所へと、歩を進めるカイトであった。
使用人たちは、苦笑している。
こうして、カイトの不安しかない『種の買い付け』という、そんなに難しくは無いはずのミッションを遂行するのだった・・・・・
バルアは、もう少し続きます。




