閑話・それぞれの思惑 その2
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カイトが、ベアルの屋敷で絶叫し、周囲に大迷惑をかけていた頃、はるか山脈を越えた向こうにある王宮の一室は、もう夜も遅いというのに、明かりがともっていた。
中からは、カリカリと、ペンを走らせるような音がすることから、なにやら書類仕事を片付けているようだ。
「ゼイド、良かったのですか?? アリアをあんな辺境の、無法地帯のようになっている地へ送り出してしまって。」
目の前で国の財政などに関する書類に、片端から目を通してはサインをしていく、そんな国王にまったく憶することもなく、淡々とそう、言い放つ女性。
彼女は、国王の正妻で、アリアの母親である。
いつもなら豪奢なドレスにその身を包んでいるが、いまは寝る前なのか、綿で織られたようなふんわりとした、寝巻きにその身を包んでいた。
「ミカナよ、何度も言っているが、私のことを呼ぶときはだな・・・・」
王妃が部屋にいることに気付いた国王は、走らせていたペンの動きを止め、声のした後ろのほうへ、顔を向けた。
彼女に対し彼は、『自分のことは国王陛下と呼ぶように!!』と何度も言っているのだが、こうして二人の時には、いつも名前を呼び捨てにされていた。
どこで、誰が見ているのか分からない以上、敬称で呼んでほしい国王だったが、王妃のミカナは直す気はなさそうであった。
「ゼイド、あんなにアリアを可愛がっていたあなたが、彼ごとベアルなんかへ送り出してしまったと聞いたときには、私は何かの冗談かと思ったのですよ!?」
「彼らならあの現況をどうにかしてくれる、そう思って彼には大公の地位を与えたし、アリアも任せたのだ。 何より、アリアは彼を・・・・」
「あの子の気持ちは知っております!! そうではありません!! あなたは、『勇者』称号の代わりに彼を大公にして、その上で魔族領が最も近く、治安の悪いあの地をに彼にお与えになったのでしょう!?」
む、と答えに窮する国王こと、ゼイド。
図星だった。
ベアル領とは、地理的に魔族領にほど近く、歴史的にも何度か魔王軍の侵攻もあった場所だ。
大陸でも一番とは言わないが、危険な地帯だ。
カイト位に強い者がそこにいたら、どれだけ安全な地になることやら。
『勇者』はきっと、受けてくれないだろうと踏んで、打算で彼を大公にし、ベアルへ送り込んだのだ。
その際、アリアが一緒なのは、しょうがなかった。
彼を好きなようだったし、何より形式上、一般市民を貴族にするには、何らかのツテのようなものが必要だった。
国益のためなら、愛娘の一人や二人・・・・
「くううぅぅぅ・・・・・・・・・」
親バカな彼に、そんな考えはちょっと無理であった。
愛するアリアが、メチャ遠くへ行ってしまったことは、何よりもの悲しみだった。
「ゼイド、今からでも遅くはないわ。 彼の領地をせめて、王都近くのバルア辺りになさってはいかがです?」
バルアとは、王都から南方向にある、岬の入り口に栄える港湾都市だ。
王都から、馬車で五日くらいで着く。
しかしそこにはすでに、領主がいるのだ。
「あんなバカ領主、解爵されてしまえばよろしいのです。 そのほうが民のためになります!!」
解爵とは、貴族としての地位を剥奪することである。
バルアの領主は、傲慢ちきで、自分の私腹が肥えること以外、ほとんど町の整備などに目もくれない典型的なアホ貴族である。
アホという観点で言えばカイトと同じだが、こちらは気に食わないやつを、片端から収監するような人間だったので、その分だけカイトがマシな存在だった。
「そうか・・・ その手があったか。 うむ。 いや、しかしベアルが・・・」
「ゼイド!!! アリアを手元に置くと、決意していた半年前の勢いはどこへ行ったのです!!??」
国王の受難は、しばらく続きそうである・・・・
◇◇◇
『アーバンの、大公に担ぎ上げられてしまったか・・・・・』
「申し訳ございません、法王様。 私の調べが足りず、彼を勇者にすることはかないませんでした・・」
王都の大聖堂の一室で、聖女のイリスが白く輝く水晶の前で、遠く離れたところにいるマイヤル聖国の法王に、今回の事の顛末を報告していた。
彼を勇者にし、そして魔王を倒す。
その上で、勇者たる存在の彼を担ぎ上げ、マイヤル教の布教を進める。
これが彼らの、思惑であった。
が、結果は思いがけない形で水をさされてしまった。
彼は国王によって、この国の大公にされてしまったのである。
彼らにとってこれは、最悪の結果といわざる負えない。
いくら聖女とはいえ、これを止める力はイリスにはなかった。
「法王様、本件の失敗はすべて、私の責任です。 いかようにもご処分ください。」
水晶に対し、頭を垂れるイリス。
『いや・・・本件、お前には落ち度はない。 よって不問とする。』
「し・・・しかし・・・・!!!」
『イリスよ、彼が大公になったということは、領地があるだろう? そこの教会へ赴くのだ。 その場所で引き続き彼を監視せよ。』
「そ・・・それが・・・・。」
法王の言葉に、ばつ悪そうに、萎縮するイリス。
『どうした? 教会ならどの領地にでもひとつはあるはずだ。』
「法王様。 申し上げます。 彼の領地というのは、ベアルなのです・・・・・・!」
『何!? ベアル!!??』
ベアルは、数年前に教会が無くなってしまった辺境の街であった。
彼らにとっては、よりにもよって・・・な場所である。
この事実に、言葉を失う法王と、イリス。
どうにか手立ては無いかとしばし、彼らは頭を抱えるのだった・・・・
◇◇◇
「エルが行方不明じゃと!!????」
魔王城の玉座の間で、魔王は地響きにも似た怒声を張り上げていった。
力をこめられた彼の座っていた椅子は、一部が欠けてしまっている。
「は。 例の『死の燐光』が放たれた人間の街へ向かう途中、何者かに遭遇。 その後、行方知れずとなりましてございます。」
魔王の威圧をものともせず、女魔族は淡々と事の経過を報告していった。
「よもや、人間に殺されたというのではあるまいな?」
「いいえ、魔王様。 殺されたのであれば、砕けた魔石が残るはずでございます。 森を捜索しましたが、欠片ひとつ見つかりませんでした。」
「ふうむ・・・・・まだ、生きているのであれば、森のどこかで魔力の回復を待ち、再び人間の街へ向かおうと考えているのやもしれぬな。」
しばし、考えるそぶりを見せた魔王は、女魔族に命令を出した。
「おまえはしばし、エルの行方の調査を行え。 我はここで様子を見る。」
「ははっ!!!」
女魔族は、魔王の勅命を受け取ると、足早に玉座の間を後にした。
魔王の胸中には、複雑な念が渦巻いていた・・・・・・・
◇◇◇
「お兄ちゃん、頭大丈夫? パーになっていない??」
「カイト様。 今日はご一緒いたします。 体調が優れないようですので・・・・」
「いや待て、みんな。 俺は正常だ。 っていうか本当に良い考えが浮かんだんだよ!?」
「カイト様がおバカなことは分かっております!! 夢は寝てからになさってくださいまし!」
「いや、だからさ・・・・・・」
その頃、カイトは屋敷中の人間に「頭は大丈夫か?」と心配されていた。
彼はまだ、自分が抱えてしまっている爆弾の存在に気付いていない・・・・
次話、カイトの頭がとりあえず正常(?)であることが分かります。




