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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第5章 大公様とベアル
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閑話・それぞれの思惑 その2

これからもがんばっていきます!!

感想など、ありましたらどんどんお寄せください!!


カイトが、ベアルの屋敷で絶叫し、周囲に大迷惑をかけていた頃、はるか山脈を越えた向こうにある王宮の一室は、もう夜も遅いというのに、明かりがともっていた。

中からは、カリカリと、ペンを走らせるような音がすることから、なにやら書類仕事を片付けているようだ。


「ゼイド、良かったのですか?? アリアをあんな辺境の、無法地帯のようになっている地へ送り出してしまって。」


目の前で国の財政などに関する書類に、片端から目を通してはサインをしていく、そんな国王にまったくおくすることもなく、淡々とそう、言い放つ女性。

彼女は、国王の正妻で、アリアの母親である。

いつもなら豪奢ごうしゃなドレスにその身を包んでいるが、いまは寝る前なのか、綿で織られたようなふんわりとした、寝巻きにその身を包んでいた。


「ミカナよ、何度も言っているが、私のことを呼ぶときはだな・・・・」


王妃が部屋にいることに気付いた国王は、走らせていたペンの動きを止め、声のした後ろのほうへ、顔を向けた。

彼女に対し彼は、『自分のことは国王陛下と呼ぶように!!』と何度も言っているのだが、こうして二人の時には、いつも名前を呼び捨てにされていた。

どこで、誰が見ているのか分からない以上、敬称で呼んでほしい国王だったが、王妃のミカナは直す気はなさそうであった。


「ゼイド、あんなにアリアを可愛がっていたあなたが、彼ごとベアルなんかへ送り出してしまったと聞いたときには、私は何かの冗談かと思ったのですよ!?」


「彼らならあの現況をどうにかしてくれる、そう思って彼には大公の地位を与えたし、アリアも任せたのだ。 何より、アリアは彼を・・・・」


「あの子の気持ちは知っております!! そうではありません!!  あなたは、『勇者』称号の代わりに彼を大公にして、その上で魔族領が最も近く、治安の悪いあの地をに彼にお与えになったのでしょう!?」


む、と答えにきゅうする国王こと、ゼイド。

図星だった。

ベアル領とは、地理的に魔族領にほど近く、歴史的にも何度か魔王軍の侵攻もあった場所だ。

大陸でも一番とは言わないが、危険な地帯だ。

カイト位に強い者がそこにいたら、どれだけ安全な地になることやら。

『勇者』はきっと、受けてくれないだろうと踏んで、打算で彼を大公にし、ベアルへ送り込んだのだ。

その際、アリアが一緒なのは、しょうがなかった。

彼を好きなようだったし、何より形式上、一般市民を貴族にするには、何らかのツテのようなものが必要だった。

国益のためなら、愛娘まなむすめの一人や二人・・・・


「くううぅぅぅ・・・・・・・・・」


親バカな彼に、そんな考えはちょっと無理であった。

愛するアリアが、メチャ遠くへ行ってしまったことは、何よりもの悲しみだった。


「ゼイド、今からでも遅くはないわ。 彼の領地をせめて、王都近くのバルア辺りになさってはいかがです?」


バルアとは、王都から南方向にある、岬の入り口に栄える港湾都市だ。

王都から、馬車で五日くらいで着く。

しかしそこにはすでに、領主がいるのだ。


「あんなバカ領主、解爵かいしゃくされてしまえばよろしいのです。 そのほうが民のためになります!!」

解爵かいしゃくとは、貴族としての地位を剥奪はくだつすることである。

バルアの領主は、傲慢ごうまんちきで、自分の私腹が肥えること以外、ほとんど町の整備などに目もくれない典型的なアホ貴族である。


アホという観点で言えばカイトと同じだが、こちらは気に食わないやつを、片端から収監するような人間だったので、その分だけカイトがマシな存在だった。


「そうか・・・ その手があったか。 うむ。 いや、しかしベアルが・・・」


「ゼイド!!!  アリアを手元に置くと、決意していた半年前の勢いはどこへ行ったのです!!??」


国王の受難は、しばらく続きそうである・・・・



◇◇◇



『アーバンの、大公に担ぎ上げられてしまったか・・・・・』


「申し訳ございません、法王様。 私の調べが足りず、彼を勇者にすることはかないませんでした・・」


王都の大聖堂の一室で、聖女のイリスが白く輝く水晶の前で、遠く離れたところにいるマイヤル聖国の法王に、今回の事の顛末てんまつを報告していた。


彼を勇者にし、そして魔王を倒す。

その上で、勇者たる存在の彼を担ぎ上げ、マイヤル教の布教を進める。

これが彼らの、思惑であった。


が、結果は思いがけない形で水をさされてしまった。


彼は国王によって、この国の大公にされてしまったのである。

彼らにとってこれは、最悪の結果といわざる負えない。

いくら聖女とはいえ、これを止める力はイリスにはなかった。


「法王様、本件の失敗はすべて、私の責任です。  いかようにもご処分ください。」


水晶に対し、こうべを垂れるイリス。


『いや・・・本件、お前には落ち度はない。 よって不問とする。』


「し・・・しかし・・・・!!!」


『イリスよ、彼が大公になったということは、領地があるだろう? そこの教会へおもむくのだ。 その場所で引き続き彼を監視せよ。』


「そ・・・それが・・・・。」

法王の言葉に、ばつ悪そうに、萎縮いしゅくするイリス。


『どうした? 教会ならどの領地にでもひとつはあるはずだ。』


「法王様。 申し上げます。 彼の領地というのは、ベアルなのです・・・・・・!」


『何!? ベアル!!??』


ベアルは、数年前に教会が無くなってしまった辺境の街であった。

彼らにとっては、よりにもよって・・・な場所である。

この事実に、言葉を失う法王と、イリス。

どうにか手立ては無いかとしばし、彼らは頭を抱えるのだった・・・・



◇◇◇



「エルが行方不明じゃと!!????」


魔王城の玉座の間で、魔王は地響きにも似た怒声を張り上げていった。

力をこめられた彼の座っていた椅子いすは、一部が欠けてしまっている。


「は。 例の『死の燐光りんこう』が放たれた人間の街へ向かう途中、何者かに遭遇。  その後、行方知れずとなりましてございます。」


魔王の威圧をものともせず、女魔族は淡々と事の経過を報告していった。


「よもや、人間に殺されたというのではあるまいな?」


「いいえ、魔王様。 殺されたのであれば、砕けた魔石が残るはずでございます。 森を捜索しましたが、欠片かけらひとつ見つかりませんでした。」


「ふうむ・・・・・まだ、生きているのであれば、森のどこかで魔力の回復を待ち、再び人間の街へ向かおうと考えているのやもしれぬな。」


しばし、考えるそぶりを見せた魔王は、女魔族に命令を出した。


「おまえはしばし、エルの行方の調査を行え。 我はここで様子を見る。」


「ははっ!!!」


女魔族は、魔王の勅命ちょくめいを受け取ると、足早に玉座の間を後にした。

魔王の胸中には、複雑な念が渦巻いていた・・・・・・・



◇◇◇



「お兄ちゃん、頭大丈夫? パーになっていない??」


「カイト様。 今日はご一緒いたします。 体調が優れないようですので・・・・」


「いや待て、みんな。 俺は正常だ。 っていうか本当に良い考えが浮かんだんだよ!?」


「カイト様がおバカなことは分かっております!!  夢は寝てからになさってくださいまし!」


「いや、だからさ・・・・・・」


その頃、カイトは屋敷中の人間に「頭は大丈夫か?」と心配されていた。

彼はまだ、自分が抱えてしまっている爆弾の存在に気付いていない・・・・

次話、カイトの頭がとりあえず正常(?)であることが分かります。

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