第87話・新産業?
これからも、がんばっていきます!
感想など、ありましたらどんどんお寄せください!!
尺の関係で、少し長くなってしまいました。
今は、真夜中。
カイトが、王宮でもらった懐中時計の針は、左方向に直角になっていた。
地球とは違うようなので、はっきりとは分からないが、今の時間は夜の九時過ぎではなかろうか?
この世界の住人なら、大抵はもう、寝静まっている時間だ。
そんな中、ベアルにあるひときわ大きな屋敷に、居を構える、スズキ公たるカイト大公爵は、自分にあてがわれた巨大な執務室にその身を、置いていた。
置いてある品は、一人分の小さなベットと、勉強机のような小さな机と、年期の入った椅子。
後はゴミ箱くらいだ。
広い部屋の、十分の一も使っていない無駄である。
が、そんなことを気にした風でもなく、カイトは机の上で、頭を抱えていた。
「う~~~~~~~~ん・・・・・・・・・・・。」
今日でベアル到着三日目。
今日も、ダリアさんの元でいろいろと教えを乞うた。
どうしたら、この街は発展するだろうか、と。
だが、あまりいい答えは返ってこなかった。
当たり前である。
街往く子供に、「俺の悩み、聞いてくれないか?」と言って、いい答えが返って来ようはずもない。
まあ、見知らぬ子供よりは、見知ったドラゴンの方が幾分、マシと言えるが。
とにかく。
カイトは、この街を発展させねばならない!
なぜなら、発展させないと、鉄道なんかできないから。
逆に言うと、発展させると、この街はどこまでも大きくなるらしい。
鉄道の立地には、最高の環境だ。
が、現状の市民は38人。
領内に視野を広げれば、もう少しは居るかもしれないが、たかが知れているだろう。
税収なんて、考えられない。
今この領地の財政は、家一軒すら立てられないほど逼迫している。
今すぐ、どうにかしてこの状況を打破しなければならなかった。
だが、対応策は見つからない。
誰も来ない街に、誰が店を開いて、商会が来て、人が住み着くというのか。
「あああ・・・・・・・。」
鉄道が遠くなる・・・
だんだんだんだん、遠くなる・・・
カイトの妄想は、早速暗礁に乗り上げ、停滞した。
モチベーションもダダ下がりである。
こんなところで、あーうーと、言っていても仕方がないのは分かっているが、街をどうにかせねば、鉄道はありえない。
そう考えると、寝ても居られなかった。
アリアの計略は、ちょっとカイトには効き目が大きすぎたようだ。
「すまない、俺には、この街を発展させるやり方がわからない・・・・」
血の涙を流すカイト。
この光景だけ見れば、良い領主様が、民のためを思って、それでも至らない自分を責めて民に対し、届かない自責の念と共に、謝罪を民に向けている風に見えるが、当然違う。
鉄道よ、引けそうになくてすまない。
そういう、アホな考えから流している血の涙と、自責の念である。
そんなアホの居る部屋に、来訪者があった。
ノックはない。
遠慮もなく、ガチャっとドアノブが回され、室内へ誰かが入ってくる。
ノックをせずに入って来るのは二人。
それは、ノゾミとヒカリだ。
ヒカリは、基本的にアリアと一緒によくいるので、一人で夜、この部屋を訪れることはないだろう。
と、すると・・・・・・
「カイト、今日も横で寝ていい?」
「まだ起きてたのか。 好きにしていいぞ。 俺はまだもう少し、考えることがあるから。」
入ってきたノゾミを横目に、また考えにふけるカイト。
すると、ガンッ!! ゴンッ!!! ズリズリ・・ズルズル・・・・・・
と、ものすごい大きな音が部屋に木霊する。
何事かと、音の聞こえる部屋の入り口のほうへ視線を向けると、ベットを担いだノゾミの姿があった。
「あ、カイト。 このベット、私の部屋から持ってきた物だから安心していいよ?」
「・・・・・そうか。」
ツッコミどころはそこではないが、ツッコんでも意味なさそうなので、スルーする事にした。
いやでも、ベットはかなり重いはずだ。
それをまったく気にかけた様子も無く、あのように軽々と・・・・
いや、よそう。
そんなことを考え出したらキリが無い。
元気なのはいいことだ。 うん。
ベットを、所定の位置(?)へ据え付け終えたノゾミは、ベットに寝ることは無く、そのまま腰掛けて、俺のほうをじっと見る。
そうされると、逆にこっちが気になってしまう。
「どうした、眠れないのか?」
その質問に、首を横に振るノゾミ。
「ねえ、カイト。 この街は、どうして人が居なくなっちゃったのかな?」
「それは簡単だ。 ダメな監督官とかいうやつが、この街を何もかも壊しちまったからさ。」
その、監督官が街の税収を勝手に上げ、人々が逃げてしまったのだ。
間悪く、警備兵団も全滅。
そりゃ、人も居なくなるさ。
俺のそんな答えに、ふーんと、うけ答えるノゾミ。
「じゃあさ、その壊しちゃったことを直せばいいって言うことだよね??」
笑顔で、そういって俺の顔を寄せてくるノゾミ。
そんなに簡単ではない。
街をそのまんまで、修復したって意味が無いと、アリアに昨日、小一時間、説教されたのだ。
市民の税率を少なくしたって、産業の無いこの街に人は来ない。
「産業・・・・・か・・・。」
つまるところ、シェラリータのように、産業を興せれば・・・・・
だが、調査はした。
この近辺は、魔石で産業を興せるほど、埋蔵量は多くない。
掘ったってすぐに枯渇してしまうのだ。
ならば農業を、と思ったが、ここは魔素が少し濃いらしく、作物がうまく育ちにくい。
ようするに、八方塞だ。
山で芝刈りとか、桃太郎じゃあるまいし・・・・・・・
「ねえ、カイト? こんな知識、要らないかもしれないけど、魔力に強い作物があるんだよ?」
それは知ってる。
でもそれらは全部、薬草や錬金術の触媒用のものばかりだ。
栽培の成功例なんて無い。
「ソギクっていう植物、知ってる?」
ん?
今までギルドの依頼では、見たこと無いな。
「パンの材料になる、穀物らしいんだけど・・・・・・」
「ま・・・待て!! どういうことだ!!???」
今まで、パンの材料はコムゴという、小麦粉っぽい物しか知らなかった。
ソギクなんて植物は、初耳である。
「この植物はね、魔力が強い場所でしか育たないの。 王都みたいに魔力が薄い場所では育たないから、パンの材料としては下火みたいなんだけど・・・・・・」
ほうほう。
「ソギクのほうが、パンがふっくら焼けて、美味しくできるらしいの。 高級で、なかなか口にできない物らしいんだけど・・・・・・ねえ、ここで栽培してみようよ!! 私も一度食べてみたい。」
俺も一度、食べてみたい。
じゃなくて!!!!
なんてこったい!
それはベアルの気候(?)に、ぴったりな植物なのではないか!!??
しかも、すごい産業に発展する感じがプンプンする。
いい・・・・これはいける!?
「の・・ノゾミ!! どこでそんなこと知った!??」
「ふ・・・ふえ!?」
ノゾミは字が読めない。
どこでこんな情報を掴み取ったのか、情報の真偽を確かめる上でも知りたい!!
豹変した俺に、目をパチクリさせるノゾミ。
そこでノゾミの口から出てきた人物は・・・・
「厨房のシェフの人が、そんなことをいつも言っていたの。 アレを使って、料理をしてみたいって。」
情報の真偽は明らかになった。 シェフの言葉に偽りなし。
ふはははははは!!!
鉄道は近い!
近いぞ!!!
「カイト?」
再び妄想でトリップしたカイトは、ノゾミの言葉なんか耳に入っちゃいなかった。
「か・・・カイト様!? いかがなされたのです!!???」
「お兄ちゃんがパーになっちゃったーーーーーーー!!!」
「大公様!! お気を確かに!!!」
カイトの絶叫を聞いて、屋敷中が大騒動となったのは、まもなくのことである・・・・
次話は、明日投稿いたします。
おやすみなさい。
ちなみに何ですが、「カイト様!? お気を・・。」と、言ったのはアリア。
「お兄ちゃんがパーに・・・・」と、言ったのはヒカリ。
「大公様!! お気を・・・・」と、言ったのは屋敷の護衛さんです。




