第75話・治療過多(自覚なし)
これからもがんばっていきます!!
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ベアルへと至る道から少し外れた森の中。
そこは、いつもなら小動物や、低ランクの魔物が跋扈する場所。
しかし、今はネズミ一匹すらいない。
静まり返ってしまった森の中、冒険者装備のカイトとノゾミがたたずんでいた。
いきなり攻撃を受けたカイトたちは、障壁魔法でその身を守ったものの、その威力は目を見張るものであった。
危険性を感じ取ったカイトは、背中に背負っていた大剣を抜いた。
ガサガサと揺れる二人の前の茂み。
そこから現れたのは、黒目黒髪の、見た目十三歳くらいの黒目黒髪の少女だった。
髪の毛には、所々に赤い房が見て取れる。
彼女は、右足を引きずり、満身創痍といった感じでたたずんでいる。
しかしそんな彼女の姿は、かなり痛々しいものだった。
体中の露出している箇所からは、血がにじみ出ており、特に右足に関しては剣で切られたのだろうか、ぱっくりと開いた大きな傷が見られ、そこからも血がどんどんあふれ出ている。
頭からも少し、血が出ている。
見ていて、彼女に何があったのか、そんなことを考えずに居れぬ者はいないだろう。
彼女の胸の部分に光る、赤黒い魔石が無ければ。
「この子がまさか・・・・・?」
魔族か?
そんなセリフがカイトの口から発せられる前に、目の前の少女は次の行動に移っていた。
「い・・・いや!!! まだ生きてる!? こっち来ないで!!!」
そう、彼女はおびえた様な風に言うと、こちらへおびただしい数の氷柱を撃ってきた。
「ノゾミ!! さがってろ!!」
とっさに、ノゾミに転移魔法で街道に転移してもらい、俺は迫り来る氷柱を剣で叩き落していった。
先ほどノゾミがいた場所にも、多くの氷柱が突き刺さる。
近接戦闘に特化したノゾミでは、この氷柱を拳で叩き落すのは、かなり難しいのだ。
数もかなり多かったので、俺がノゾミの前に立ちはだかるのも無理だった。
転移させていなかったら、ノゾミは氷で串刺しになっていたかもしれない。
ほっとするのも束の間、四方から、先ほどよりも小さな炎の塊が、こちらへ迫ってきていた。
障壁魔法では、炎は弾くだけで、森の木が燃えて、山火事になる危険がある。
先ほどはいきなりだったので対処できなかったが、今はできる。
カイトは、その場で大きくジャンプした。
すると、魔法で作られた四つの炎の塊も、それを追いかけるように上昇した。
そこへカイトが、水の球体をぶつける。
すると、水球を当てられた炎の塊は、大きな爆発を起こして辺りには、熱湯が四散した。
いわゆる、水蒸気爆発が起きたのである。
その熱湯は、地上にいた女の子にモロにかかった。
大怪我をしていた少女に。
痛くないはずが無い。
カイトは、彼女も障壁魔法か何かで、これを防御すると思っていたので、かなり驚いた。
「ぎゃああああああああああ!! 痛い、痛い、痛いいぃぃぃぃぃ!!」
「!?」
全身に、百度を超える温度の熱湯がかかった少女は、体中が赤く腫れ、地面に転がった。
自分が何をしに来たのかも忘れ、カイトはその少女の元に大急ぎで駆けつけた。
怪我の治療をするために。
「く・・・・来ないで!!! 殺されたくない!!!」
こんな事態にもかかわらず、少女は近づくカイトに、小さな赤い球を投げてきた。
これを難なくよけたカイトであったが、その後ろに生えていた木が、大きな爆発音とともに、メキメキと倒れていった。
自分の最後の攻撃手段の、爆裂魔法をかわされてしまった少女には、絶望の色が浮かんだ。
それでも、カイトからどうにか逃げようと、全身をくねらせて少しずつ進む。
体中に大火傷を負ってしまった彼女の体は、地面と接した部分から皮膚がめくれ、鮮血が流れ出る。
少女の治療にかかりたいカイトであったが、近づけば逃げようとする。
これでは、いたちごっこだ。
まずは、彼女の心を落ち着けるのが先だ。
俺は、手に持っていた大剣を背中にしまうと、彼女の近くへ身を寄せた。
「大丈夫だ、殺したりなんかしない!!」
俺はそう言うと、彼女に心療効果のある魔法をかける。 心を落ち着ける効果がある魔法だ。
もちろん、それだけでは体にある傷の痛みがすぐに走ってきて、心療効果がなくなってしまうので、即座に治癒魔法を使って彼女の全身のすべての傷を癒す。
傷だらけで、真っ赤に腫れあがっていた彼女の体は、見る見るうちにきれいなものへと治療されていった。
ついでに浄化魔法も施したので、彼女の体についた土汚れなども今は、きれいになくなっている。
当の彼女は、何が起きたのか分からず、キョトンとしている。
「あなたは・・・・・私を殺さないの?」
その、吸い込まれるように深い、漆黒の瞳をこちらに向けた少女から紡ぎ出された言葉は、先ほどとあまり変わらなかったが、少女の落ち着いた様子から切羽詰った緊張感などは感じられない。
だが、会ったときの事といい、さっきの言葉といい、少女に何かがあったのは間違いなさそうだ。
カイトは、魔族と思われるその少女から、少し話を聞いてみることにした。
カイトは何も考えていなかったのですが・・・・・・
もし、この少女に最上級の治癒魔法を使っていたら、エライ事になっていました。
もちろん、そうはならなかったのですが。
不幸中の幸いです。




