第72話・しっかりしてください!
これからもがんばっていきます!!
感想など、ありましたらどんどんお寄せください!!
「むっふっふふふふふふ・・・・・」
馬車内に、下卑た笑い声が響きます。
先ほどから、いえ、数日前に街道途中の休憩所で、商隊の方々と交流して以来、カイト様はずっとこの調子です。
何かよからぬことを考える、横領貴族にしか見えません。
「アリアちゃん、カイト、大丈夫なのかなあ?」
私の隣にいる、赤毛の女の子が困ったような表情でこちらに、顔を向けてきます。
彼女はノゾミというそうです。
なんでも、カイト様がシェラリータで飼っていたトビウサギが、魔石を拾い食いし、魔力が暴走。
その後、人型に変体したのだそうです。
・・・・意味が分かりません。
はっきり言いますが、魔力が暴走したって、巨大化したり凶暴化したりすることはありますが、人型になるなど、聞いたこともありません。
「ん? アリアちゃん、私の顔に何かついてる?」
彼女が、赤い双眸を大きく見開き、こちらを伺ってきます。
こうしてみると、普通の女の子にしか見えません。
これも魔石の力だというのでしょうか?
・・・・・・・・考えるのはよしましょう。
カイト様のステータスからして、よく分からないことだらけだったではないですか。
レベル8。 すべてのステータス値は無限(∞)。
彼がきっと、何かしたのでしょう。
ええ、きっとそうです。
「何でもありません。 カイト様も、きっとお疲れなのでしょう。 もうすぐ目的地のベアルへも到着します。 そうすればカイト様も、いつもの調子へ戻るでしょう。」
「そっかーーーーー。」
今、馬車は山脈地帯を抜け、森を進んでいます。
ここを抜ければ、目的地のベアルへと着きます。
そうすればカイト様も、横領貴族から、アホで考えが浅い、いつもの調子に戻るはずです。
「ふふっふっふふふ・・・。」
・・・・もしかしたら、今はまさにその状態なのでは?
表情が、どうもバカっぽいです。
だとしたらいけません。
領主がこんなでは、市民は不安にしかなりません。
横領貴族よりは、幾分マシですが・・・・
ここはひとつ、釘を刺しておきましょう。
「カイト様、その下卑た薄笑いはいい加減、おやめください。 私をはじめ、領主がそれではベアルの民たちも、不安になります。」
「え、ああ・・・・すまん。 ちょっと鉄道が・・・・・・」
またです。
『てつどう』。
この頃、カイト様は口を開けば必ず、この言葉を口にします。
何のことなのか、護衛の者たちを含め、さっぱり分かりません。
一国の王女として、かなり高水準の教育を受けた私ですら聴いた事のない言葉です。
「カイト様。 何度も聞くようで、大変恐縮なのですが、その『てつどう』なるものはいったい何なのですか??」
「ええっとお・・・・・・・ なんていうのかな? 自走する馬車? いや、こうレールが・・・」
「自走する馬車?」
もう意味不明もここまで来ると、理解する気すら失ってきます。
自走する馬車って・・・・・・
魔法で動かす気でしょうか?
確かに、カイト様の魔力量ならば、きっとできるでしょう。
でもそれをしたいならば、今すぐすれば良いだけの話です。
先日、これを言ったら、『馬車ではないんだ!!』と、すごい剣幕で言われました。
馬車だといったり、馬車ではないといったり・・・・・・・・
「ああ、もう少しで鉄道が引ける。 鉄道は近い!!」
カイト様は、また悦に入ってしまわれました。
『てつどう』は結局、分からずじまいです。
ここは、妻として冷ややかな視線を送るとしましょう。
コンコン!
おや、外からノックですか・・・・・
きっとこれは、メイドか護衛の者でしょう。
何か用事がある際、彼らには馬車のドアをノックするように言い付けています。
普通なら、私ではなく、最高地位者たるカイト様が対処すべきなのですが、軽くトリップされているカイト様には、まともな対処などできないので、毎度のごとく、私が対処します。
「失礼いたします。 まもなくベアルへ至る街道の、最後の休憩所を通過致します。」
「分かりました。 そこで、昼の休憩をいたしましょう。 皆の者に、休憩の準備をさせてください。」
「かしこまりました。」
恭しくこちらに一礼すると、メイドの彼女は後方の列へと戻っていきます。
その際、彼女は「お大事に。」というのを忘れません。
これは、カイト様へ送っている言葉です。
従者たちにここまで、心配をかける領主というのも珍しいです。
私も心配してますし。
でも、ここにいる者全員が彼のことを慕っています。
彼は、王宮内で数々のことをしたそうです。
曰く、破壊された王宮を修復した。
曰く、足りない食材を補填してくれた。
曰く、一人の騎士の命を救った・・・・・
などなど・・・・
真偽の方は定かではありませんが、王宮内での新大公様の、使用人募集でありえない人数の者たちが応募したらしいので、確かに、何かをやったのは間違いなさそうです。
かく言う私も、カイト様に命を助けられました。
彼がいなかったら、私は今頃、ここにはいないでしょう。
その一件で、彼をお慕い申し上げ、こうして私も彼に付いてきてしまったのですから・・・・・・・
「そうか、もう少しで着くのか。 そう、もう少しで・・・・・・」
バカっぽい笑みを浮かべるカイト様。
あのときがウソのようです。
私の紅潮した顔も、すぐさま平常に戻ります。
でも彼をお慕いする気持ちの変わりはありません。
だから、こうして彼に凍てつきそうな視線を向けるのも、彼にはしっかりしていただきたい一心からなのです。
ガクン!
そのときでした。
馬車が急に止まり、前方が騒がしくなりました。
何か、あったようです。
カイト様も、何かを感じ取ったようで、目つきが真剣になります。
間髪いれず、先ほどのメイドがある報告をしてきました。
その報告に、カイト様以外の全員が、背筋を凍りつかせるのでした・・・・・・・
次回、ベアル到着(?)です。




