第71話・重大な一点を見落とした、妄想
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「いや、やっぱり旅するなら鉄道がいい。」
「カイト様、先ほどから聞くその、『鉄道』とはいかなるものなのですか?」
アリアの質問に、カイトは答えることなく、考えにふける。
朝になり、昨日の宴会パーティー(?)の後片付けを済ませて、出発したカイトたち一行は、ビルバス山脈の川沿いの道を一路、ベアルへと向かっていた。
あれだけ昨夜、飲んで騒いでいた騎士さんたちも、朝になると元気ハツラツであった。
あれは、日頃からなれているという感じである。
それはともかく。
昨夜一緒に街道の休憩スペースで、大いに盛り上がったベアルから来たという商隊一行と、ベアルのことについて聞いたカイト。
そこから聞くベアル領という所は、だいぶ過疎化が進んでいる都市ということだった。
前任の大公様が治めていた頃は、魔の森からの素材集めや、隣国のバオラ帝国との貿易により、結構大きな自治都市だったらしい。
その頃は、シェラリータと同等か、それ以上に栄えていたとのこと。
だが大公が死去して以来、後任がなかなか現れず、その間に都市の治安が悪化。
山脈のせいで、交通の便も悪く、治安悪化のせいで貿易が滞り素材売却などが難しくなった。
その結果として、冒険者たちが外へ流出。
そのせいで魔の森が、半ば放置状態となり、さらに治安が悪化。
結果として、ベアルの市民たちも、逃げるようにこの町を出て行った。
今は、ほとんど村みたいな状況になってしまっているとのこと。
ちなみにだが、大公様がいない間は、王家がこの領地を直接管理していたらしい。
でも、その大任を任されていた監督官は、現在行方不明らしい。
・・・・・何、やってんだよ?
その、失踪したやつは。
ここでキーとなるのは、過疎化の原因が『指導者がいなくなったこと』と、『貿易が滞った』ということ。
指導者の有無の件は、この世界の警察がしっかり機能しなくなったことが原因だと思う。
これは、俺がどうにかするというより、その町にいる警察(警備兵)を使って、町をパトロールすれば、治安向上につながると思う。
地球での、治安向上の手段もそれだとか、テレビで聞いたことがあるし。
問題は次の、『貿易が滞った』という点だ。
滞った原因はこれだ。
「アリア確か昨日、商隊の人たちにもらった香辛料が高い原因のひとつに『この山脈があるせいだ』とか、いっていたよな?」
「え? ええ、ここの道は見てのとおり、狭くて土砂崩れも頻発する極めて危険な場所です。 バオラ帝国に限らず、貿易の円滑化には、ここの整備も重要な案件といえるでしょう。 しかし、さすがはカイト様。 この間の話の、そこへ着眼されるとは。 本当にカイト様はただの冒険者だったのですか?」
「・・・・・・そうだよ? なあ、ノゾミ。」
ちょっと、どもってからノゾミに話を振るカイト。
話の輪に加わっておらず、いきなり話を振られたノゾミは、首をうんうんと、無意味に縦に振った。
その際、寝癖でできた赤いアホ毛がユラユラと、揺れる。
ふ~ん?と、アリアもどこか釈然としていない様子ながら引き下がる。
追及は免れたようだぜ・・・・・
それはともかく。
話されたように、今馬車で通っているベアルへと至る街道は、砂利などでガタガタの、狭くて危なっかしい道だ。
一歩、道を踏み外せば川のある谷底へまっさかさまだ。
アーバン法国の、ベアルやバオラ帝国へ至る道は、この道一本しかないらしい。
シェラリータ側へ抜ける道も、あるにはあるが、長年使われていないせいで、獣道と化しているらしい。
この道の整備が、町の発展へとつながる!!
ついでにいえば、ただ整備するのではなく、そこに鉄道を敷いたら・・・・・・・・・
やべえ。
俺って天才じゃね??
町は発展する。
鉄道の夢は広がる。(実現する)
カイトに顔からは、自然と笑みがこぼれた。
「カイト様。 先ほどから笑ったり落ち込んだり、いったい何をお考えなのですか?? もし体調が優れないというのであれば、ナースメイドをここへ寄越しますが?」
本当に心配したような顔で、こちらを伺うアリア。
その言葉に、ノゾミまでこちらに心配した視線を向けてくる。
俺は大丈夫だ、と伝えて再び思案にふける。
というか、冒頭のように旅は鉄道がいい。
馬車の乗り心地はよくない。
俺は転移が使えるからもう、乗らなくて済むが、輸送の方法を鉄道に転換したら貿易も、すごい進むんじゃないかと思う。
そうすれば町も発展し下手したら、前以上に栄えることもできるのではと思う。
うん、我ながらいい考えだ。
自分の領地は、良識の範囲内で好きにしても良いと言われている。
大公にされてしまったときは、己の不幸を呪ったりもしたが、良いこともあるものだ。
俺は、自分の領地に鉄道を敷く!!
カイトは、これからできる異世界初の鉄道開業の妄想で、頭がいっぱいになっていた。
しかし、彼はあることを見落としていた。
鉄道を敷くには、かなりのお金と、人間なども必要となる、ということに。
これらを、自分の魔法一人でこなそうという彼の甘い考えはこの後、すぐに打ち砕かれることになる。
次回は、山脈をやっと抜けます。




