第70話・交換
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「本日は、我々の同席を認めて下さり、誠にありがとうございます。 ささやかですが、お礼の代わりにお納めください。」
営業スマイルで、小さな小瓶をいくつか渡してくる商人の一人。
彼らは、先ほど俺たちが野営中に、野営の同席を求めてきたものたちだ。
幌馬車が三台に、冒険者の護衛が六名。
この世界における、一般的な商隊の姿だった。
「こちらは西方にある、バオラ帝国の特産品であります、『香辛料』です。」
「「「ほう!!!!!!」」」
商人の言葉に、目を輝かせながら飛んでくるシェフ達。
ドドドドッという、効果音が聞こえてきた気がする。
おまえら、調理中のものはどうした?
こちらへ、困ったような視線を向けてくるシェフの手伝いをしていた、メイドたち。
アリアも、苦笑いだ。
即効で、クレアたちメイド組に、定位置(調理場)へと戻されるシェフ達。
「あいつら、どうしたんだ?」
シェフ達がこちらを名残惜しそうに見つめつつ、調理を再開したのを確認した俺は、アリアにふとした疑問をぶつけてみた。
「この国では、香辛料は大変な貴重品です。 バオラ帝国という、私たちがこれから向かう、ベアル領よりも西方にある巨大国家の特産品なのです。 かの国では家庭料理などに、大変重宝されているようです。」
「そんなものが、何でこの国では貴重品なの?」
その国で、家庭料理で重宝されるぐらいのものならば、少なくとも『貴重』ではなくなりそうである。
「理由は、魔の森とこの山脈にあります。 これら二つに阻まれ商隊の安全ルートが未だ、確立していないせいで、貿易が盛んではないのです。 それに・・・・・」
まだ何かあるように、アリアが口を濁した。
「かの帝国は、この香辛料に対し高額な関税をかけているのです。 そのせいでより一層、『貴重』に拍車がかかっている状況です。
なるほど。
よくありそうな理由だ。
貴重品には、関税をかけて国の財政を潤す。
中学校の社会の授業でも、習ったな。
でもだとすると、そんな貴重品を受け取ることはなお、できない。
俺が、気持ちはありがたく受け取っておくと、これを商人さんに返そうとすると、彼らは決してこれを受け取ろうとはしなかった。
「さっきも申しました通り、これはお礼です。 実は、この先にも別の野営地があるのですが、そこは先日の大雨で土砂で埋まってしまったようで、使い物にならなかったのです。 ここにもあなた方がいて、最悪我々は、街道で夜を明かすことになるところでした。」
どういうこと?と、カイトが頭をかしげると商人は飛び切りの笑顔を向けてきた。
「あなたのような、傲慢ではない貴族様は初めてです。 今回のような場合、我々の要求は突っぱねられることのほうが多いのですよ。」
は??
一緒に一晩、ちょっと近くで寝泊りするだけで??
どこのアホだよ。
まあ、とりあえず彼らが俺たちに感謝していることは分かった。
でも、貴重な香辛料に関しては、タダでもらう訳にはいかないだろう。
今度は金を払おうとすると、アリアに止められた。
「カイト様。 これは、旅をする者の矜持です。 私たちも、それに応えればいいだけなのです。」
言っていることの意味がわからない。
それなら、やっぱり香辛料の対価として、代金を払わなければいけないんじゃ・・・・・
そこまで考えたところで、さっき瞬間移動並みの爆走を見せたシェフの一人が寄ってきた。
その顔には、とても気持ちのいい笑顔が浮かんでいた。
「カイト様。 今日は食材が多く、料理が多く余ってしまいそうです。 卓越ながら、彼らも同席させてはいかがでしょうか?」
・・・・・ああ、そういうことか。
横へ視線を向けると、アリアもうなづいている。
メイドさんや騎士さんたちも、微笑ましいものを見るようにこちらを見ている。
相手の護衛の冒険者たちも、期待した視線をこちらへ向けてくる。
自然と、俺からも笑みがこぼれる。
「いかがでしょう? そういうわけですので、一緒に食事でもいかがですか? 香辛料のお返しには程遠いかもしれませんが、せっかくの縁です。 みんなで食べたほうが楽しいでしょう。」
俺がそう言うと、冒険者たちから、歓声があがる。
商人さんたちも、今までで一番の笑顔を向けてくる。
ノゾミも、今の歓声でずっとウトウトしていたのが、覚醒した。
しばし困惑の表情を浮かべた後、笑顔になるノゾミ。
なんだかよく分からないが、みんなが嬉しそうなので私も嬉しい。
そんな感じだった。
ほかの人たちからも、笑みがこぼれている。
みんなが笑顔だ。
日本での、列車の旅もよかったけど、こういった旅もいいな。
俺は、そう感じ始めていた。
このあと、メイドさんやシェフさん、それに騎士さんたちまで巻き込んだ、宴会パーティーのようなものが催され、街道沿いのこの場所は、夜更けまで大いに盛り上がっていったのだった・・・・・・・・
カイトの、領地到着はもう少し先です。
気長にお待ちください。




