第57話・ドナドナカイト
少し、時間がさかのぼります。
大体、王様たちが親バカやった後ぐらいです。
この国には、一ヶ月ほど前から、聖女様が来ていた。
これは本来、国を挙げてお出迎えするぐらいの大事なのだが、聖女様直々に『公にしないように』とのお達しが来ていたので、王宮に挨拶に来る程度で収まった。
国内の教会などの抜き打ち検査などで、そういったことは間々あった。
今日、王宮へやってきたのは、王都の孤児院創設に関する案件でらしい。
昨日の、青年やルルアムのことも気がかりだったが、こちらも外交上、はずすことはできない案件だ。
何せ、国内にある教会すべての最高責任者が、『聖女』なのだから。
「・・・・・以上でよろしいかな? 聖女様。」
「はい、ご対処感謝いたします。」
そう言って、マイヤル式の、腹部に手を当てお辞儀をする聖女。
孤児院創設に関しては、別に問題はない。
聖女も、社交辞令として行っているに過ぎない。
これでこの案件は終了だ。
「ふう・・・・・」
「大変失礼ながら、国王陛下、何かあったのですか?」
思わず、まだ聖女が退出していないのにため息をついてしまった国王。
いつもはこんなことはしない。
外交上、他国の使節などの前で、国王がこんな態度をとるのは、大変な失礼に当たる。
だが、聖女とこの国の王は、たびたび会っていたので聖女のほうも、国王の異変に気がついた。
「すまない。 実は昨日、いろいろあってな・・・・・・・・」
「?」
それから、昨日のことを話して聞かせた国王。
本来、国の汚点ともなるほどの事件で、公にしたくなかったが、なにぶん、悩みが多すぎる。 聖女は、口外とかはしないし、職種上、悩みを聞くこと自体も手馴れていた。
だが、その聖女も、『カイト』という単語に、ことのほか反応していた。
「聖女様は、『カイト殿』をご存知か?」
う・・・・と、言葉を詰まらせる聖女。
こんな態度を、聖女様が示すのは初めてだ。
何か、いわくつきの人間だったのだろうか?
それを確かめてみると、首を横に振る。
すると、何かをあきらめたように、言葉をつむぎだす聖女。
「その黒髪の方と、カイト様は同一人物でしょう。 私もこの目で見たことがあります。」
「なんと! 変身魔法まで使えるのか!! これはこれは・・・・」
うれしそうに、それは嬉しそうにする国王。
「彼は、自らの能力の異常さに、気づいておりません。 ですが、あの力があれば、魔王も討伐できるでしょう。」
一転して、真剣な顔つきになる聖女。
「力は、国を、世界をも滅ぼします。 ゼイドさまは、彼に何をさせようとしておいでですか?」
「私は・・・・・私が彼にしたいことは、『礼』だ。 アリアを、王家を守ってくれたことに対する礼だ。 彼を他国との外交の切り札にしようとは思っていない。」
これは本当だ。
外交の手札にするには危険すぎるのでしない。
だが、『礼』は与えるつもりだ。
あのあと、ミカナとも話し合って決めたこと。
でも、これに関して言う必要性はない。
「その言葉を、信じましょう。 つきましては、彼は『転移』で逃亡してしまったとか。 きっと、カイト様は槍を向けられて、死刑にされると、勘違いしておいでなのでしょう。
彼の誤解をといて、私が、ここへつれてきてまいります。」
「で・・・・できるのか?」
「はい。 彼の魔力はたどれますので。 私も転移魔法は使えるのでいけると思います。 では・・・」
国王に会釈すると、聖女は光の中へ吸い込まれるようにして消えていった。
「い・・・・いかん! 誰か居らんか!! 式典の準備じゃ!!」
国王も、王都内にいる有力貴族を集めるなど、着々と準備をすすめた・・・・・・・
◇◇◇
「勘違い!?」
「はい、あのときに槍を向けたのは、この国の王女様と並んで歩いておいでで、不審に思われたからです。」
イリスさんの突然の登場と、カミングアウトに一瞬、呆然とする俺。
待って、王女さま?
俺が助けたのは、茶色の髪と、オレンジ色の瞳を持った、色白の『貴族の娘』だったはずじゃあ・・・
「やはり、そこから勘違いされていたのですね。カイト様がお助けしたのは本名をアリア・ミューゼン。
アーバン法国の第五王女です。 今回の事件は、王位の派閥争いのようなものだったそうです。」
・・・なんか、大事になってる気がする。
俺は、なんつーモンに手を出したのだろうか。
そんなモンに手を出した俺の末路。(推測)
け・さ・れ・る!!!
ダッシュでノゾミをつれて逃げたいが、きっとまた、イリスさんは転移で追いかけてくる。
くそう・・・・
カイト、ここに死すか・・・・・・
「国王様は、おなたへ御礼をしたいとのことですよ?」
ふふ・・・・『御礼』か・・・
よく荒くれ学校とかでそんなことがあるって聞いたな。
『お礼参り』
あれは確か、先生とかを生徒が卒業のときにボコボコにするんだっけ?
こんかいのおれのは・・・・
拷問されて、『絶対に、だれにも口外しません!!』とか宣言させられた挙句、殺されるのだろう。
逃げても、さっきも言ったとおり、何もならない。
うう・・・・せめてノゾミだけは・・・・
「お連れ様もご一緒に、とのことです。」
だめか・・・・
ノゾミ、すまない。
あれのときは俺の魔法でお前だけはどうにかするよ。
こうして、俺とノゾミは、ドナドナ牛のように、王都へと行くことになった。
カイト、気配隠蔽の魔法とか使えばよかったと思いますが・・・・・
存在を知らない上に、『死んだ』という思いが強すぎて、脳内検索ができなかったのだと思われます。




