第332話 決闘裁判
自分たちの無罪を証明するため。
決闘裁判のような場を設けられたカイトの、最初の対戦相手が現れた。
緑の体に、体を覆う殻をもった、特徴的なその姿はまるで。
「亀??」
見た目だけではない、動きのノロさなどといった動きも、遠くて見にくいが大きさも。
日本でも友達の家などで飼われているのを見たことがある、亀そのものだった。
緑色だからミドリガメか、よく分からん?
「え、こいつと戦うの?」
「その通り、もし勝てたら一言ずつ話を聞いてやろう」
どうやら間違いでないらしい。
いきなりこんな場所に連れてこられるので、どんな相手かと思ったが。
これなら楽勝でパスできそうだ。
「―ちなみに、ひっくり返すだけじゃダメ?」
「どちらかが、動けなくなった時点で終了だ。 まぁそうだな…、自力で起き上がれなくなったのでも、それと認めよう」
良いのか、それで。
ありがたい、亀を踏みつぶすなんて事はしたくなかったカイトは、ホッと安堵した。
『終わったら起こしてあげるから』と、若干の申し訳なさを感じながら、そっと歩み寄ってきた亀の腹へ手を伸ばした。
―瞬間、体に大きな衝撃が走った!
「シビビビビーーーーーーー!???」
ブシュウウッと体から白い煙が上がる。
幸いと言うべきか、自分からカメに歩み寄ったおかげで、アリアたちに危害が及ぶことは無かった。
焦げ付いたカイトを気にした様子もなく、無表情な白服の男が、解説を始める。
「南海原産のサンダーノロスであります。身の危険を感じると、ご覧のようにカミナリを落とし、そのスキに逃げおおせます」
「このヤロ優しくしようとすれば! 待ちやがれ、投げ飛ばしてやる!」
「ちなみに、それでも追いかけると鋼鉄をも噛み砕く牙に噛まれます」
「イデデデデッ!??」
ふん捕まえようとしたカイトの手を、カメは渾身の力を振り絞って噛んだ。
さすがは女神チートと言うべきか、鋼鉄も砕く力を以ってしても、彼の腕が砕けることは無かった。
しかし痛いものは痛い、なんとか振り払おうとするが、カメは決して離そうとしない。
地味な彼とカメの戦いはイツまで続くかと思われたが、ほどなくカメの方が力尽きたのか口を離した。
ゴロリと地面で1回転半したカメは、腹を見せたままの体勢のままグッタリとしていた。
よく見ると小刻みに指が動いており、ただ気絶しているだけという事が分かる。
「勝ち・・・で、良いんだよな?」
カイトは倒れたカメを、なるべく自慢げに皇太子へ見せ付けた。
まずは一勝。
ギルバートは横に居る皇帝に許可を得てから、彼に『1つだけ』発言を許した。
「じゃあ、まずは―」
「よしっ、次のモンスターを出せ」
「ちょっと!?オレまだ何も話してないっ」
「話せるのは『1つだけ』と予め申し述べたはず。『じゃあ、まず』ふむ―これだと2言になってしまうな? まぁ良いだろう、勉強になったら次を倒す事だ」
こ、これが帝国のやり方か!
黒い笑みを浮かべる皇太子に、軽い殺意を覚える。
歯噛みするカイトだったが、無情にも目の前の扉が軋みながら開いていった。
初戦のカメ登場に、すっかり油断しきっていたカイトの前に、天蓋を作らんばかりに巨大な、3つの首を持つトカゲのような生物が姿を現す。
「え、デカ・・・・」
巨大な白銀の体躯に、巨大な皮膜。
3つの首はそれぞれに意志を持つようにうねり、咆哮が空を震わす。
今まで大きいと思っていたダリアさんより、二回り以上は大きいように感じる。
「キングギ・・・」
「アボガリスだと!? 封印されているはずの獣がなぜここに!」
闘技場に居る誰かが叫んだ。
カイトの知っている宇宙怪獣とは違うようだったが、『封印された』辺りが問題だ。
大きさもそうだが、カメから落差激しすぎるでしょ。
「待てよ、こういうのって、最終決戦とかで登場するラスボスだろう!?」
「宮廷魔導士、説明を」
「はい皇太子殿下! 我ら世界最高を誇る魔導師団によって異界より召喚せしめた巨大魔獣でございます、封印中のアボガリスとは、近似種かと」
おぉ・・・、と会場中から歓声が上がる。
その中でただ一人、皇帝陛下だけが未だ微動だにしないのが、逆に気になった。
まさかカカシではあるまいな?
皇太子が説明を受け、より増長し始める。
「素晴らしい、帝国の魔法技術は世界一!伝説級の怪物すら手懐ける魔獣を手懐けたのだ!!」
皇太子がそう叫ぶなり、そこかしこから「帝国万歳」とか「皇帝陛下万歳」とか歓声が上がった。
カカシではない人間だったが、まるで皇帝たちの操り人形だ。
全てを仕切ろうとするその姿は、まさに独裁者。
しかしそれも、アボガリスが闘技場の一部を破壊したことで、シンと波が引いたように静まった。
「…おい何をしている魔導士、敵はあっちだ」
「手懐けては居りません」
「今、なんといった?」
「ですから、手懐けては居りません。ともかく世界一強いのを用意しろと言われたので、我らは定時にも帰らず、家に帰っても魔法陣の復活研究を続け、休日も礼拝も返上してアボガリスを召喚したんですよ! 充分でしょう、だから褒めてほめちぎって、時給アップしてください!!」
「このっ、不敬罪で投獄するぞ!? おいっどうした、寝るな!!」
眼の下にクマを作った魔導士さんとやらは、言いたいことをいい終えるなり、バッタリとその場に倒れ伏した。
お勤めご苦労だが倒れるのなら、せめてこのギ〇ラを何とかしてからにしてほしかった。
再び咆哮が辺りに響き渡り、会場全体を悲鳴の渦に巻き込む。
幸か不幸か、大喧騒の中で寝ていたアリアたちが4人とも目を覚ました。
彼女らは一瞬何ごとかと寝ぼけ気味だったが、でかい怪物を目の当たりにするなり、声をそろえてカイトを見た。
「「「「ナニあれ!???」」」」
「知らん、すぐ逃げてくれ!」
伝説の封印魔獣の危険指数は未知数だ。
カイトでも対処できるかどうか…アリアたちを巻き込まないためにも、なるべく遠くへ逃げるよう促した。
予想通りとういうか、アリアたちは渋っているようだったが、真っ先に野生本能で危険を察知したらしいダリアさんは、それは素直に従った。
「いや、ダリアさんは残ってよ!」
「何故に!?あんなに面倒くさそうな相手とやりあうなんて御免です!」
「いや見た感じドラゴンそっくりだし、竜語とかで意思疎通してくれ」
「知りませんよっ、あんな首が3つもある生物!」
いつもの好戦的なダリアさんはどこ行ったのか。
頑なに戦闘を拒絶し、この場から逃げようとするダリアさんだったが、まるで逃がさないと言わんばかりに、目のあたりがまばゆく光ると、その進行方向に紫色の光線を直撃させた。
「コイツ、目からビーム出るとか反則だろ!」
いや、ダリアさんが口から火を吐くのだ。
全く予想外だとは言わないが、今回の相手は首が3つ。
再び双眸が光り輝き、ビシャァッと闘技場が切り裂かれる。
阿鼻叫喚、まさに地獄絵図。
この際、闘技場も監獄も全部焼き尽くしてしてもらおうかと思ったカイトだったが、それでコイツが止まるとは考えにくい。
枷を外されている今、アリアたちと転移してベアルに帰ることはたやすい。
しかしこうなった一端は、こちらにある。
思い出せ、自分たちが何のために帝国まで来たのか!
「ギルバート、こいつ倒したら話したい事全部話して良いよな!」
「なっなに!?お前のような一領主に何ができる、もし倒せたら栄誉帝国臣民権だってくれてやるわ!!」
よしっ、言質とった!
勝てば俺は、鉄道の話をおおっぴらに話せる!
カイトはやる気をたぎらせ、目の前の脅威に立ち向かうことに決めた。




