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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第15章・バオラ帝国
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第331話 審理

一般的に言われる『犯罪』とは、おおよそ被告人と原告。

つまり『ダメなことをしてしまった側』と『それによって迷惑をこうむった側』とが存在する。

ただし、その両者が互いに自分の主張をしているだけでは、話は平行線をたどるだろう。

そこで始まったのが、『裁判』だ。

第三者が両者の言い分を聞いたうえで、正当で公平な裁きを、神に代わって下す。

 旧くは聖国から始まり、今では多くの国で採用される『慣例』となっている制度の一つ。

だがアーバン法国のような例外を除き、未だ貴族制度が残る国々では、このやり方が浸透していない地域も少なからず存在する。

 その一つが、西方地域一帯を領する『バオラ帝国』」だ。

皇帝を絶対的指導者として、まるで神のように君臨し、貴族たちはソレを補佐する。

未だに身分差別の強いこの国では、『裁判』というのは体裁を整えるだけの場に過ぎない。


「先にも述べたように、父上を―いや皇帝陛下に対し虚偽を述べることは、わが国では神をも恐れぬ冒涜行為だ、よって死刑。 我が神聖なる土地を許可もなく踏みにじる行為も不敬、よって死刑。 さらにこの男は昨晩、純然たる収監所を脱獄したばかりか、女性に対して下着を見せるというワイセツ行為を働いた、よって死刑である」


 裁判に出席した皇太子のギルバートは、裁判も始まらないうちに断じた。

平静を装い軽く笑みすら見せたが、その目はまったく笑っていない。

アリアはと言えば、罪状を読み上げられるや否や、カイトをジト目でにらんだ。

主に、下半身の辺りを。


「…カイト様?」


「ち、違う、誤解だーーーーーー!!!」


 皇太子のとんでもないバクダン発言に、カイトが絶叫する。

アリアたちの視線が痛い、そしてノラゴン、お前は笑うな!

どうにか最後まで聞いてもらえる言い訳を必死に考えたが、裁判場に居た兵士たちが、始まえりかけた内輪もめを武器をちらつかせることで、強制的に止めさせた。

皇太子は、何ごともないように涼しい顔をしている。


「すべては事実だ、なんなら証人たちをここへ連れてきてもいい。 それで死刑が覆る事もないがね」


「その事について、一つ申し開きたいことがあります!」


アリアが立ち上がり、皇太子の言葉を遮った。


「…さっきからキャンキャンと、躾のなっていない女だな。 まぁ良い、言いたいことがあるならさっさと言え」


 シッシッと子犬でも追い払うようなしぐさをする皇太子を前に、アリアは毅然とした態度で席を立った。

カイトには『後で聞きたいことがある』とでも言いたげな視線を向けたのち、弁明を始めた。

カイトは音が遮断されていたため何も聞こえなったが、陽が傾くころには決着がついたようで、程なくカイトを含めた5人は、同じ牢獄へと戻された。


「4人とも無事で安心したよ、一時はどうなるかと思った」


「はっはっはっ私を誰だと思っているのですか? 人間ごときにどうにかされるような私ではありませんよっ!」


「ゴメン、ダリアさんに言ってない」


「「私たちは大丈夫だよっ」」


 牢屋なんかに入れられ死刑判決も受け、昨日の夜はどうすれば良いかと思ったが、こうして再会できて本当によかった。

1人ではどうしようもないが、4人集まれば心配することもない。

ダリアさんはむくれてしまったが、帰ってシェフの料理を食えば期限も治るだろう。

こんな物騒な国、さっさと逃げてしまうに限る。


「いつまでも居たら本当に死刑にされちまう! このスキに逃げよう!」


「いいえカイト様、あなたは逃げてはなりません」


 すぐにも逃げる準備を始めようとしていたベアル領主は、思いがけないアリアの発言に目を丸くした。

聞かないわけにもいかなそうなので、怖いもの見たさで聞いてみる。


「ど、どうして逃げちゃダメなのさ」


「あなたは明日、バオラ帝国皇帝パドラフキンⅢ世陛下の御前で一件についての釈明と、我々の潔白を証明するのです!」


「え゛っ」


 アリアはビシッと、カイトを指さした。

今、皇帝と会えとか言われた気がしたのだが。

待て待て、なにか聞き違いだと思いたい。


「おおおおおれがっ、いつそんな話を! あぁアレか、さっき聞こえなかったときに!!」


「そうです、『言いたいことがあるから、皇帝陛下をここへ連れてきなさい!』と言わせていただきました!」


 アリアは一旦ここで息を吐き、呼吸を整えてから少し優しい口調で話をつづけた。

取り上げられたはずの鉄道に関する資料を、メルちゃんが差し出してくる。


「不測の事態とはいえ、勝手に話を進めてしまった事については、いずれ問題解決の折にいかようにも罰を受けます。 ですが今の好機、逃してはなりません! 皇帝陛下に、カイト様の本当の『鉄道』を見せつけてやればいいのです!!」


「おおおおっ、そうだな! よっし、俺の日本式鉄道技術(※未発達)を見せつけてやるぜ!!」


「…ニホン?」


 いろいろ危うい言葉を残しながら、ベアル領主は牢獄の中で雄たけびを上げる。

アリアに完全にノセられた領主様の力説は、巡回の兵士に厳重注意を受けるまで続けられたのだった。

 そして翌日。

誰かさまのせいで寝不足になった4人ともども、カイトたち一行は『予定通り』皇帝陛下に謁見するため、前後を警備の兵に挟まれる形で牢を出された。

 最近お馴染みになりつつあった裁判場も通り過ぎ、ついに小さな入り口から外まで連れ出される。

一体どこまで行くのだろう?


「あの、どこに行くのかって、教えてもらえませんよね?」


「……」


 やはり教えてはくれないようだ。

募る不安とともに、同じく連れられているアリアたちの無事が気になる。

昨夜、長話をしたせいで4人は完全に寝不足に陥っていた。

連日の牢屋生活もあり、疲労はピークに達しつつあるだろう。 自業自得。

 口下手なカイトだが、今日は何としても、皇帝陛下の信頼を取ってやる、と意気込んでいた。

だがソレも、目的地らしい敷地内の建物を前にして、不安の方が勝ってきた。

ドーナツの様に丸く縁どられた円形の内部に、階段状に設置された物見席がならぶ。

カイトたちは、その底に当たる露天で、ようやく自由にされた。


「ここは・・・闘技場?」


「そのとおり!」


 カイトの疑問に応えるように、頭上から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ギルバートっ!」


「敬称の皇太子を付けないか、俗物!」


「やめんかギルバート、一国の皇太子たるものが見苦しいぞ」


 カイトの呼び捨てに過剰反応したギルバートを、右隣に立つヒゲの立派なオジさんがたしなめた。

カシャリと手に持った杖を鳴らし、その姿を見るや兵士たちが平伏する。

―そうか、この人が。


「皇帝陛下、本日は御足労いただきありがとうございます。これから私の用意した余興を、どうぞお楽しみください」


「待てや! 話をするんじゃなかったのか!?」


「これはこれはスズキ公殿、奥方から聞いておりませなんだかな? 貴方様にはこれより始まるショーに登場するモンスター達に勝利いただくごとに、一言ずつ皇帝陛下への釈明が許されるのです!」


「はっ?」


 言われた意味が分からず、生返事になる。

もう一度周りを見てみると、先ほどの兵下たちは居らず、すでにギルバートたちの居る客席側あんぜんちたいに避難を済ませていた。

い や な 予 感 し か し な い 。


「ちょっと待てよ!! アリアが、4人を避難させてからにしろ!」


 彼女らは誰かさんのせいで、完全にグロッキー状態だ。

もし何かが始まるというなら、それに対処するのは自分1人で十分なハズである。

ギルバートからスッと笑みが消え、さげすむような視線が投げかけられた。

まるで『何を言っているのか』とでも言いたげに。


「そのような事は知るか。 国土を不当に踏み汚した罪は、お前たち1人1人全員にかかっている。贖罪を求めるというなら、この場の全員でショーに勝つことだ。…もっとも、戦えそうなのは貴君のみのようだがな」


「ヤロウ…」


 高笑いしているギルバートに、そして鎮座強いている皇帝に殺意を覚える。

だが今、感情に任せた行動をとれば、状況はもっとヒドくなるだろう。

ギリギリのところで理性をつなぎ止め、矛先をまだ見えぬモンスターに向けられた。

 そうだ勝てば良い、勝ってアリアの言う鉄道の知識をご披露すれば良いのだ。


「ふむふむ準備は良いようだな、扉を開けよ!」


 ギルバートの合図で、向かって右手の鉄格子が、ごんごんごんと重々しいきしみを上げながら開き始める。

それと同時に、暗闇の奥から体全体を装甲で覆った緑色の生物が、のしのしと地面を踏みしめながら現れた―。

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