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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第15章・バオラ帝国
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第330話 悪いことは続いて

夜が明けた。

朝ごはんが味気ないとか、床が固くて体が痛いとか以外は特に何事も無く、ただタイクツな時間が過ぎていく。

このまま何も無いことを願いたいものだったが、当然そうはならなかった。


「裁判だ、出ろ」


「え」


あまり突然の事に驚きはしたが、同時にカイトは降って湧いた幸運に感謝した。

死刑判決が下りた後に審議の場に呼ばれるのは滅多に無い、きっと日頃から行いがいいのでワンチャン与えられたに違いない!

だがそんな軽い思いは、一瞬で打ち砕かれた。

4畳半の監獄から出た先には、鳥カゴのような格子の立った小さな台車が入り口を開けていた。

よっぽど昨日の脱獄を警戒しているらしく、ベアル領主もはや猛獣扱いを受けている。


「どこに連れて行くんですか」


「・・・・・。」


前後の兵士は言葉も交わさず台車を押し、カイトの切実な質問は完全に無視された。

何を言っても、答えてはくれなさそうだ。

ここで罪を増やすわけには行かないので、暫く大人しくしているのが良さそうである。

連れて来られたのは昨日、『死刑』を言い渡された審議場だ。

そのまま台車ごと中に入り、正面から向かって左側に固定された。

場所が違う。

昨日は裁判長の真正面だったのに、もしや自分以外の裁判でも始まるのだろうか。

でも誰の?

その答えはすぐ、現れた。


「カイト様っ!」


「ああっみんな、無事か!?」


「静粛に! この場での私語を禁じます!」


ロクに言葉も交わせず、アリアたちは正面の台に立たされた。

ここでカイトはようやく状況を理解した、自分は重要参考人として、ここに連れてこられたのだと。

自分の発言いかんで、彼女らの運命が決まると言っても過言ではない。

ここは、なんとしてでもアリアたちの無実を証明しなくては!

殊勝なのかバカなのか、自分の置かれている状況はスッパリ忘れた。

しかし裁判員が登壇しても、一向に審議はなかなか始まらなかった。 

遅れる事数分、従者を引き連れた、某少女マンガにでも出てきそうな甘いマスクの青年が、おくびもせずに現れた。


「やぁ裁判長殿、随分ご無沙汰だったな。 興味があったので参加させてもらう事にしたよ。 もう始まっているかと思っていた」


青年は壇上に居る裁判長に、皮肉気味にそういった。

物理的には裁判長の頭の方が上だが、まるで彼の方が見下ろしているように見えるのはナゼか。


「勿体無きお言葉でございます陛下、どうぞごゆるりとお過ごし下さい」


「おいおい私は『陛下』などでは無いと言ってあるだろう。 まぁ悪い気分ではないがな、父上の名代として本件を見届けさせてもらうことになった」


フフンと、偉そうな態度でカイトを見下ろすイケメン青年。

コイツ嫌いだ、即座に判断した。

でも性格とかは嫌いだが、少なくとも外見は良い方なのは確かだろう。

目鼻立ちもクッキリしており、街中を歩いていたら俳優と見間違えそうだ。

俺は嫌いだが。

大事な事なので二度言った。


「本件において、パドラフキン皇帝陛下の名代として、本日はギルバート皇太子殿下が審議に参加されます!」


彼のお供として付いて来た黒ローブの男がそう言うと、カイト達を除いた審議場のほぼ全員が一斉に立ちあがり、帝国式伏礼をした。

え、これが皇太子殿下・・・・って事は皇帝の子供かっ!?

どうりで偉そうなワケである。

彼はカイトと対面する位置に座り、それを確認してから裁判長が開会を宣言した。


「では早速、審議に移らせていただきます。 本日の被告人は4人。 不法入国罪と不敬行為ほう助罪にて立件されております。 なお重要参考人として特別に、カイト=スズキにも証言台に立っていただきます」


「あ、あのぅ・・・・」


気にあることがあったので、カイトはおずおずと手を伸ばした。

会場内がザワめき始め、そこにすかさず木槌の音が鳴り響く。


「静粛に! 参考人の証言は後です」


「良いではないか裁判長殿、他国からはるばる来たんだ。 人生最期のワガママくらい聞いてやれ」


「ははっ仰せのままに、証言を許可します」


「今日は俺の裁判じゃないの?」


言った瞬間、あからさまに裁判長の表情が凍りついた。

いや彼だけではない、会場全てがシンと静まり返る。

カイトだけが、あまり状況を分かっていなかった。

裁判長がゴホンと咳払いして、カイトと視線を交わしながら断罪した。


「あなたの審議は、昨日で全部終了しました。 再審はありません、では特に何も無ければ、本日の審議を続けます」


そっ、そんなバカな!

抗議を込めてカイトは騒いでみたが、誰も気にしないばかりか、急に周りから音が消えた。

口は動いているのに、声が何も聞こえない事に気付いた。 鉄の格子が目に入る。

そうか魔法かっ、この鉄格子が俺とみんなの居る世界を区切ってしまったのだ。

おかげで姿は見えても、音としてあちらを認識することが出来ない。

異変を察知したアリアたちが不安そうにこちらを見た。 ここで俺がビクビクすれば、無駄に彼女達に心配かけることになる。

男カイト、ここはドンと構えようではないか!

―などという潔さが分かるはずもなく、外からはただ腰が砕けたようにしか見えなかった。

4人の裁判が始まる。


「―以上が、被告人に掛けられた罪状になります。 一つをとってしても極刑に値する重罪であります」


「検察側の言い分は分かりました。 被告側は何かありますか?」


裁判長がそう言うと、間髪居れずにアリアが挙手した。


「では私が代表して。 その前にカイト様の防音結界を解きなさい! 私達の証人と言うなら、彼にも裁判を聞く権利がありますわ!」


裁判長は皇太子のギルバートを睨みつけた。

たいていの国での裁判は裁判長が決定を下すものだが、格上の相手を絶対的とする帝国では少々事情が異なるようで、その場にいる最高権力者に一度、判断を仰ぐらしい。

この異様な裁判の中にあって、ギルバートも『もう良いだろう』と裁判長に、右手を上げるフリを見せた。

カイトの周囲に、音が戻る。


「あれ、音が…」


「すみませんカイト様、今は私の発言をお許し願いませんでしょうか?」


久しぶりの般若、なまじ美人なので怖さがより一層際立つ。

見える、彼女の後ろに立ち上る火柱が見えるよ。

カイトが素直に「どうぞ」と譲るなり、彼女は頭を下げ、まずは裁判長たちに謝罪をした。


「まずは帝国領内への不法入国については、面目次第もございません。 あらかじめ正当な手続きを踏み、訪問を報せるべきでしたわ」


自分の罪を認めるとは往生際が良いな、と皇太子が鼻で笑う。

アリアはですが、とギルバートを睨みながら続けた。


「全ては帝国の使者により届けられた、この絶縁状の内容と状況を確かめるため。なのにこの仕打ちは何ですか、帝国という国は招いた客をおとしめるような国なのですか!」


アリアの暴言ともいえる発言に、議場の中は騒然となった。

あちらこちらから怒号が飛び交い、彼女を罵倒する声が上がる。

一方、少しの間表情が抜け落ちていたギルバート皇太子はヤレヤレと肩をすくめ、余裕の態度を取り戻していた。


「ここは正当なる裁判場だぞ、お前こそ無礼にも程があるんじゃないか」


「弁護人も居ない裁判のどこに、正当性があると? 皇太子殿下あなたは・・・いいえ、皇帝陛下は一体なにをお考えなのですか?」


あ・・・・とカイトが洩らす。

そういえば、昨日も俺を擁護ようごしてくれる人は1人も居なかったっけ。

よく気付いたなアリア、とカイトは思った。


「ハッハッハ、そうか失念していたな。 しかし形だけ体裁を整えようとしてもダメだな、陛下の酔狂にも困ったものだ」


裁判長含め笑う皇太子を前に、全員がたじろぐ。

ひとしきり笑った後、彼は大手を振るって場を制した。


「ではお望みどおり下してやろうじゃないか、帝国式の裁きを!」


余計に大変なことになったのではないか、カイトはそう思わずに居れなかった。



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