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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第15章・バオラ帝国
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第329話 投獄

国は王など、方向性を決める指導者を立てるのが一般的だ。

カイト達の訪れたバオラ帝国も例に漏れず、皇帝という王を頂いている点では法国などとも大差ない。

ただ一つ大きく異なるのは『偉大なる帝国を強くした存在』として、神格化されている事だろう。

皇帝陛下は現人神、神が遣わされた唯一絶対な存在であると。


「これなるカイトという人物は、他国の領主と言う立場を悪用し、神聖なる帝国領内において工事と称した侵略行為を行った!」


超アウェイな空気の中、カイトは立たされたまま、告発内容を静かに聞いていた。

いや、声が出せないと言った方が正しい。

弁護人すら居ない裁判で、白のベストを着た男性が読み上げる罪状だけが、法廷内に響く。

男は身振りや手振りを駆使して、自分の主張を大きく魅せていた。


「これだけでも万死に値するが、それだけではない! この男が関わったのは国の威信をかけた事業なのだ、つまり偉大なる皇帝パドラフキンⅢ世陛下を謀ったのと同義である!!」


男が天を突くように拳を振り上げる。

同時に傍聴席から「なんて奴だ!」「不敬にも程がある!」「殺せー!」と怒号が沸き立った。

この傍聴人は、あらかじめ用意していたのだろう。

罵声を浴びせては来るものの至って冷静で、飛び掛るどころか席を立つものもおらず、規律は守られているのが逆に異様だ。

彼等にとっての帝国、そして皇帝への畏敬が否応にも伝わってくる。

ヒートアップしてバンバン煽っていた男は、大きく深呼吸して、冷静になってから話をこう締めくくった。


「さらに何らかの手段で、適正な検問を受けずに神聖な帝国の地を踏んだ。 楽な死など生ぬるい『ヨウカイ』の刑を求刑します! 私からは以上です」


「あのー・・・・・」


「被告人の発言の許可は下りていない!」


聞き慣れない『ヨウカイ』なる言葉に、不穏な空気を感じたカイトは、左手を上げてアピールした。

検問を受けなかった理由の説明など、あっという間に忘れた。

だが、これもまた忘れているようだが、これは裁判であり許可の無い発言はご法度である。

裁判長はザワつく法廷を手で制し、静かに告げた。


「何か申し開きたいことがあるようだ。 検察の告発も済んでいるし、良いでしょう。 それで、カイト殿は告発内容に異議でも?」


「いえ『ヨウカイの刑』って何ですか?」


「「「・・・・・・・」」」


言った瞬間、法廷の中は本当の意味で静まり返った。

見れば熱く語っていた白ベストも、呆気に取られたようにポカンと口を開けていた。

おおよそ、この世界の大体の国の司法や刑罰は、一つの国のモノを祖として作られている。

細かい部分は国柄や種族分布などで異なるが、刑罰の種類は同じだ。

当然この法廷に居るすべての人間は、目の前に立っている人物が陛下の顔に泥を塗った者であると共に、隣国の領主である事は知っている。

つまり、領主が刑罰の内容すら知らないなど、ありえないのだ。

まァ、それはあくまで『この世界の常識』であって、我を行くカイトからは遠い考えなのだが、そんな事は誰も知るはずも無い。

大半は『バカ』を装っているか、しらばっくれるため話題を濁したと受け取ったようで罵声が上がる。


「傍聴人は静粛に! 『ヨウカイの刑』が如何なるものかと言う質問ですが、刑罰については貴公の国と大差ない。 文字通り、液化釜に入れられ溶けます」


「え・・・ええええええええ! 溶けたら死んじゃうじゃん!??」


「皇帝陛下を謀った時点で、本国では極刑に値する!」


「お、俺は無実だーーーーーーーーーーーーー!!!」


絶叫と共にカイトは目を覚ました、目覚め最悪である。

裁判が夢だったらと思うが、牢獄に入れられてる時点で、そんな楽観思想も吹っ飛んでしまった。

窓も時計も無いので時間が分からないが、下は地面ではなくフローリングの4畳半一間で、前の牢獄と比べかなり快適だ。

―なんて、悠長なことを考えている場合ではなかった。

ここに居ればいずれ、俺はワケの分からない罪を着せられて殺されてしまう。

アリアは、ノゾミやヒカリ、メルシェードたちは大丈夫だろうか?(ダリアはどうでもいい)


「くそぅっ!」


いても立ってもいられず、ガチャガチャと意味も無く独房のドアノブをいじくり回してみる。

当然カギが掛かっていたのだが、魔王の防御よりは弱かった。

二、三度ノブを回したところでゴキンという鈍い音が鳴り、同時にパンと弾けるような音が鳴った。

どうやらドアノブごと掛けられていた魔法陣を壊してしまったらしい。

少しマズい気もするが、これで外へは出られる。

もはやタダの飾りになってしまったドアノブに手を掛け―、一旦その手を引っ込めた。


「念には、念を入れよう」


妙なところで慎重なカイトは、脱獄するにあたり準備を整えることにした。

といっても手の込んだことはせず、自分そっくりな人形を作りだして布団に寝せただけ。

鍵が壊されている時点で怪しまれるとか、近づいたらバレるとか、大事な想定はされていなかった。

そんな無意味な『念押し』を経て、カイトの脱走劇は始まった。

気分はジェーム○・ボ○ド、ミッションインカイトブル第二幕の始まりだ!


「魔法って、ホント便利だよな」


映画と違うのは、『魔法』という特殊能力のおかげで姿や気配を消せる事にある。

おかげで地下水道とか壁伝いとか、手の込んだ脱走でなく、兵士の巡回もある通路を堂々とパンツ一丁で脱走できた。

残念ながらパンツ以外、着ている服は無い。

バカイトは布団を被せて寝せている人形に、「念には念を」と自分の服一式を着せていったのだった。


そんな穴だらけでも、魔法だけは宮廷魔術師並みなので脱走だけなら成功したも同然だ。

しかしカイトには、もう一つ目的があった。


「アリアたちは、何処に居るんだ?」


彼女達も、おそらくは同じ建物内のどこかに監禁されている筈だ。

しかし探せど、牢獄の中は迷路のように入り組んでおり、あっという間に迷子になってしまった。

脱獄犯に備え、たとえ逃げられても逃げ出せないような建物の造りにする基本的な罠に、カイトは真正面から掛かってしまっていた。

だが悠長にはしていられない、こうしている間にもアリアたちが、死刑宣告されているかも知れない。

いつも鉄道を敷くだけしか考えないスポンジ頭を、カイトはフル回転させる。

そして、ある結論に至った。

計画の実行のため警備の兵が2人、常駐している部屋の前で、普通の音量で声を出す。


「しまったー道に迷っちまったー。 白服のナイスガイと3人の美女が入れられている牢って何処だー」


「なんだ、寝ぼけて迷子になったのか?」


反応があった!

しかも運よく2人はボードゲームに夢中で、こちらに来る様子はない。

チャンス、カイトは哀れな迷子兵を装って、話し続けた。


「すまーん、ちょっと疲れが溜まっているみたいだー。 でも巡回だから仕方ないのだー」


「中でナイスガイと美女なんか居たか?」などと会話がされる。

なぜ分からないんだ、一目瞭然だろうに。


「あいつらじゃないか、バカで怪しい4人が昨日、ここにショッ引かれて来たろ」

「ああ、あのアホ面ったら無かったな!」

 

話が弾んでいるようだ、カイトは飛び出しそうになるのをグッと堪え、あくまで平静を装う。

いまは、アリアたちの救出が先だ。

口頭で行く道を教えてもらい、カイトは牢へと続く階段を降りた。 どんなもんだい!

ダリアさんも居るし、この分ならベアルまで逃げおおせるかもしれない。

そんな一瞬の油断が命取りとなった。

牢屋へと下りた瞬間にカイトは見事に張り巡らされていた『破邪』に引っ掛かり、姿を消す魔法が解けてしまった。

牢獄に突如現れたパンツ一丁の変質者に、最初に気付いたのは運悪く、巡回中の女兵士だった。


「キャアアアアアア変態! 誰か、変質者が!!」


「え、ウソ見えてる!?」


気付いた時には時既に遅し、カイトはあっという間に牢番の兵士達に囲まれてしまった。

いつもなら護身するのに、なぜかここでは魔法が発動せず、抵抗もままならないまま、あっという間に全身を縛り上げられてしまう。

残念ながら、ここでゲームオーバーらしい。

元の独房に、カイトは無造作に放り投げ入れられた。


「ハァハァ凶悪犯め、次に脱獄なんかしやがったら切り刻んで丸めて鍋に放り込んでやるからな! いいか大人しくしろよ!?」


「・・・・あい」


魔法が不発だった原因が分からない現状、素直に大人しくしている方が良さそうだ。

大丈夫、まだ打つ手はある。

前にアーバンの法律を読み込んだとき、死刑囚は刑の執行前に一つ、願いを叶えてもらう制度と言うものがあったはずだ。

おめおめ殺されるつもりは無いが、『その時』をカイトは静かに待つことにした。



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