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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第15章・バオラ帝国
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第326話 お出掛けのようです

「どうしよう」


ベアルに帰還したカイトは、清々しい朝も返上して、頭を抱えていた。

国境をつき合わせている帝国から、使者が来たという報せが来てから、まだ3日と経っていない。

帰ってすぐ彼等と会いはしたが、話は良い方向へ進むことは無かった。

これは仕方が無い、来たのはあくまで皇帝の書状を持参する『使者』であって、全権を委任された大使ではないのだから。


さて、問題はこれからだ。

どうやら帝国皇帝陛下は、俺名義の詐欺に合った後、それを『ベアルの無責任行動』と取ったらしく、それはもうカンカンになっているらしい。

この誤解を解く必要があるのだが、どういった手段を取るか、判断しかねる。

こちらも使者を立てて返事を出すのが通常だが、内容をどうするか。


>鉄道造るなんて初耳ですけど? ケッシーとか諸々、俺は知りませんよ

―うん。

これはない、コレはないな。

怒っている相手を逆撫でしてどうする。

当たり障りないよう、なるべく下出に出てみてはどうだろう。


>そんな事になっているとは露知らず、申し訳ございません。 早いうちに然る対処をさせて頂きます。

―うん、これも無いな。

これでは全部オレが悪いみたいだ、しかも『然る対処』って、帝国が法外な賠償を要求したら、鵜呑みにするのか?

アリアに知れたら、今度こそ地獄で済まない。

平和が一番、愛は何とかを救うとも言うし、穏便に済ませるものなら、出来るモノを考えてみよう。


>ベアル領にケッシーなどと言う人物はおりません。 もしよろしければ、改めてこちらから鉄道建設のお手伝いをさせていただきたいと思います。

―はて、どうしてだろう?

これが一番ダメな気がするっ、お手伝いとか子供っぽいのが原因だろうか。

なかなか良い文面が思い浮かばない。

向こう側では、先ほどからコツコツと乾いた音が鳴り響いている。

部屋の前で工事でもしているのだろうか?

うるさくて適わない、だんだん音がヒドく大きくなっている気がした。

空っぽの頭がごちゃ混ぜになる。


「だああ、うるっせええええええええええ!!! おい悪いけど、工事なら後に・・・・・」


「うるさいとは何ですか! ノックをしているのに、なぜお出にならないのです!?」


ドアを開けた瞬間そこには、怒り心頭のアリアが立っていた。

ここに至って、ようやく乾いた音が工事の騒音でなく、戸を叩いていた音である事に気付かされる。

驚きと恐怖で血の気が引き、もはや手紙の事など忘れてしまった。


「アリア・・・・だよね?」


「そうですが、何か?」


彼女はいつものドレスではなく、黒の燕尾のような服を着ていた。

イメチェンだろうか、いつもの豪奢な感じもいいが、このボーイッシュな感じも中々に。

―っと、いやいや鼻の下のばしてどうする!?


「いや・・・・。 どうしたの、なにか用?」


「出立の準備が整いましたので、参りました」


アリアは出掛けるらしい。

なるほど、それでドレスでなく動きやすい格好なのか。

タマには息抜きしたい事だってあるよね。

いってらっしゃいと手でバイバイしていると、彼女に手首を掴まれた。


「何をしているのですっ、あなたも行くのですよ」


「へ?」


言われている意味が分からず、顔を上げると、そこには絶対零度の視線を向けてくる嫁の姿があった。

『なに言ってんの?』とでも言いたげだ、でも俺だって取り込み中である。

さすがに放っぽり出して、遊びに行くことなど出来ない。


「せっかくだけど、いま皇帝宛に出す手紙の文面を考えているんだ。 悪いんだけど、旅行なら俺抜きで・・・・」


「手紙なら必要ありません、これからその、帝国へ向かうのですから」


そうなんだと返した所で、ふと彼女の言い回しのおかしさに気付く。

だれが、何処に行くって?


「帝国ってアリアだけが、行くんだよね?」


カイトが聞いた瞬間、般若のようだったアリアの顔から、表情が抜け落ちた。

再び何を言っているんだ、コイツみたいな視線が向けられる。

彼女に軽い不信感を覚えていると、やがて目を細め、アリアはヤレヤレと肩をすくめて見せた。

察しが悪いとでも、言うつもりだろうか?


「旅行ではありません。 私とあなた様で帝国に行って、皇帝陛下に直訴しに行くのです」


「え?」


えええええええええええええええ!?

皇帝って、現在めちゃ怒っているって聞きましたけど。

そんな火の中に飛び込むようなことしたら、大ヤケドじゃ済まないぞ。

行きたくない、俺は行きたくない。


「アリア、どうしたんだよ急に! ちょっと落ち着こうよ。 もう少しで良い感じの手紙が書ける気がするんだっ」


文面で謝罪して、若干ほとぼりが冷めたころに行ったほうが、安全だ。

そう提案したつもりだったが、彼女は首を縦に振らない。

逆にこちらを指差し、まくし立ててくる。


「あなたの、その消極的な部分はどうにかならないのですか! 文面では誠意を伝えることは出来ません。 関係ないなら無いと、直接会って皇帝に言うべきです!!」


分かる、アリアの言いたい事は分かるよ。

相手が友達とか、顔見知りなら俺だってそうする。

でも相手は、『帝国』のトップ皇帝陛下様。

城に乗り込んで直談判など、チキンハートの俺には敷居が高すぎる。

無理無理無理無理無理っ、俺は行きたくないよ!


「アリア・・・・すまないが俺は行くことが出来ない。 なぜなら俺は領主、ベアルを長く留守にするわけにはいかないはずだ」


タマに忘れそうになるが、俺は領主である。

ベアルは割と広い領なので、領内の政務だけで1日が過ぎてしまう。

たまには領主として、それらに真摯しんしに向き合うのが、当然だろう。

出来る領主風のキメ顔で、カイトは窓から街を見下ろした。

・・・・・が、当のアリアは首を傾げる。


「はい? つい先日まで国内を回って、ベアルを空けていたのは、何処の誰ですか??」


「あぅっ!」


マズい、墓穴を掘ってしまった。

慣れぬ事はするものでない、固まるカイトに彼女が畳み掛けてくる。


「ほんの数日あけるぐらいなら、問題ございません。 何かあれば、あなた様の得意な転移で帰ればよろしいではないですか」


「そうですね」


日頃の行いが、自分の首を絞める。

いつの間にか部屋にはメルシェードのほか、ダリア、ヒカリ、ノゾミの4人も来ており、カイトを見ていた。

他人の不幸を笑うノラゴンと堅物メイドは敵と見て間違いあるまい、どうにか残り2人に望みを抱く彼に、まずヒカリが太陽のような眩しい笑顔を見せた。


「旅行だってお兄ちゃん、カレーが美味しいんだって!」


ダメだ、説得どころか行く気マンマンだ。

隣でノラゴンが『面白いことが起きる予感が・・・・・』とかほざいているが、冗談ではない。

最後に、ノゾミに望みを託す。


「行ったら、いつ帰ってこれるか分からない」


途端に、彼女の表情は逆に明るく、嬉しそうな笑顔を作った。

・・・・アレ?


「聞いてカイト、今回は一緒に行っていいって、アリアちゃんが言ってくれたの!」


カイトは、ガックリと膝を折って床の上に崩れ落ちた。

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