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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第14章 始まる輸送革命
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第324話・あの人は何なのでしょう?

大変お待たせ致しました。

これからも、よろしくお願いいたします。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。


カイトが国内めぐりを始めてから、1ヶ月以上が過ぎた頃。

ベアルの邸宅には、珍客が訪れていた。


「帝国の奥地でしか摂れぬマボロシの香辛料と、聖国に伝わる特別な技法で作られた寒天スライムです。 謹んで献上いたします」


「は、はぁ・・・・」


アリアの前にひざまずいた魔族女の前には、2つの木箱が置かれている。

彼女の名はアキレス。

カイトがいつの間にか、魔王軍から引き抜いてきた元魔将の1人だ。

最近はもっぱら近隣諸国などへ手腕を伸ばし、不定期でこうして、珍しい物などを持ってくる。


「朝早くから、無礼をお許し下さい。 ベアルは前と比べ、発展が目覚しいようで」


ふっと入ってきたドアのほうを見るアキレス。

そちらには今朝、この荷を大八車に載せて運んで来たデュラハンというモンスターが、静かに控えていた。

聖国の寒天スライムは前に一度だけ、すごく美味しかった思い出が・・・おっとイケない。


「ありがとうございます。 街の人間に見られると、面倒ですからね」


この事は、屋敷でもごく限られた人数しか知らない。

もし魔族が頻繁に街を出入りしていると知れれば、諸国などから『魔王軍と通じている』などと誤解を受ける可能性すらある。

カイトは不思議と世間に疎いが、アキレスは一定の常識があるので、やり易さは比ではない。

それより、木箱の中身について疑問を抱く。


「これほどのモノを、どうしたのです? 香辛料も希少ですが、聖国の国境は?」


モノの価値もさながら、驚くは聖国からモノを持ってきたという点だ。

『入り女に出道具』と言わしめるほど、かの国の警備は出ていく者に対し、厳しい目が向けられる。

子供がなめているドロップですら、取り上げるという話を聞くぐらいだ。

木箱を前に目を泳がすアリアに対し、跪いたまま器用に、アキレスは得意げに胸を張った。


「ああ。 なに、あのような脆弱な警備をくぐれずして我が眷属は勤まりませぬ、ご心配には及びません」


「そ、そうですか」


さすがは魔王軍。

別の意味で心配を抱くアリアをよそに、アキレスが不意にソワソワしだした。

顔を赤らめながら、質問をしてくる。


「と、ところでその奥方様・・・・・、カイト陛下は帰っては居ないのでしょうか?」


「彼なら、まだ王都に居るそうですが、伝言でも?」


アリアの言葉に、アキレスは寂しそうに肩を落とした。

これに近い反応、元王女には見覚えがあった。

現在カイトの横で補佐をしている獣人メルシェード、もしくは寝ている最中に彼が行ってしまい、イジけている人型の魔獣ノゾミとか。

あの男、帰ったら全力で殴ってやろうかと思っていると。


「またお預けかぁ・・・・・これもご褒美なのだろうか。 でも臣下の働きを認めず、それを当然の奉仕だとばかりに愚弄ぐろうされていた頃も、また懐かしいな」


「・・・・・・」


黒い魔族がハアハア言って、顔を紅潮させていく。

当分は彼に会わさない方が良いかもしれない。

アリアが不安げに、その様子を見ていると馬車が通る音がした。

それ自体は珍しいことでもないのだが、その馬車は紺の車体に金で縁取られており、見るからに位の高い人物が乗っているのが分かる。

そして通り過ぎる事無く、ベアル領主邸の前で停車した。

何ごとかといぶかしんでいると、ノックをする間もなく護衛騎士のゼルダが慌てた様子で入ってきた。


「お取り込み中のところ失礼します奥様! 皇帝の使者を名乗る人物が、密書を携えてまいりました」


「帝国から!? どういう事です、ゼルダ?」


「帝国内の建設事業に関する督促状を持ってきたようですが。 ご存知ありませんか?」


むろん初耳だった。

領主は出立する際に任された事と言えば、ベアルの市民議会設置に関する事だけ。

彼が帝国とつながりがあると言うだけでも、十分に驚きだ。


「面会します、すぐに案内して下さい」


「では、こちらへ」


アキレスに失礼を詫び、アリアは使者を待たしてあるという客間へと急いだ。

ちょうどメイドが給仕から戻るところ、入れ替わりに入室した。


「お待たせして申し訳ございません。 大公夫人のアリア=スズキと申します」


「こちらこそ、急な訪問の非礼をお許し下さい」


督促状と聞いて肝が冷えたが、さすがは大国の使者と言うべきか。

法国のソレより一挙手一投足が優雅かつ、洗練されている。

彼は軽く会釈をした後、来たのがアリア含め2人だけという事に気が付いた。


「恐縮ながら、大公殿下はどちらに?」


「申し訳ございません、彼は出張中でして。 私が留守を預かっております」


「なるほど」と首を縦に振り、使者はアリアと握手を交わして、再びソファへ腰を下ろす。

背後に居た女使用人の1人が、彼の前に黒い重箱を置き、また背後に戻っていった。

使者はおもむろにソレを開けると、中の書状を広げ、読み上げた。


「偉大なる皇帝陛下パドラフキンⅢ世の命を伝える、我が帝国における交通整備に掛かる工事の責任者不在で、工事が滞っており、ここに新たな責任者ないしの派遣を求める。 なお返信に関しては、1ヶ月以内に使者に渡すことを要請する。 以上であります」


使者は尊大に、高圧的にそう言った。


「・・・・皇帝陛下の要請?」


ちょっと信じられず、アリアは呆然とした。

まだ王宮に居た頃、一度だけ法国を訪問した際に会った事はある。

そうは言っても何も権限を持たない王女、チラリと見かけただけなのだが。

あの時は何かを要請していたようだったが、あくまで高圧的で、大国の後光をチラつかせていたのが印象に残っている。

大変だ。

使者は読み上げた書状をキレイに畳み、アリアの前へ差し出した。


「私どもは、しばらく街に宿泊しておりますので。 御用の際は『白狐の館』へおいでください」


「お部屋なら、すぐに用意させますが」


「いいえ、そこまでの非礼を皇帝は望みません。 よい返事を待っております」


帝国から来た使者は、くれぐれも大公殿下によろしくと言い残し、屋敷の前に止めていた馬車に乗り込んでいった。

アリアたちは見えなくなるまで見送り、そして頭を抱えた。


「ゼルダ、カイト様の居場所は分かりますか?」


「現在は王都に居るようです、しかし連絡の手段が・・・・・・」


「そうでしたね」


彼はドラゴンをも凌駕りょうがする、化け物じみた魔力を持つ。

それでも定期的には転移魔法で帰ってくるか、彼の私室につながる転移魔法で移動可能な範囲だったが、王都は範囲外。

すぐに王都のカイトの元へ使いを出そうとすると、黒い魔族も見送っていて・・・・


「アルレーナのカイト陛下に、ご入用とか?」


「早急に連絡を付けたいのですが・・・・・」


今から使者を王都へ向かわせるとして、鉄道で一日半といったところか。

困った事になったとため息をつく間もなく、後ろでアキレスが何ごとか独り言を呟き、不敵な笑みを浮かべた。


「承知!」


「え?」


振り返ったときには、そこに魔族たちの姿は無かった。

事情を知らない兵士の1人が、アリアへ質問する。


「奥様、今の方々は?」


屋敷の使用人で、あの魔族たちのことを知る者は少ない。

これからも、知る必要性はないだろう。

気苦労をするのは、自分だけで十分だ。


「心配には及びません、それより使者の持ってきた書類の整理をお願いします」


「了解しました!」


指示を受けた兵士も、深々と頭を下げて屋敷に入っていく。

とても寒天スライムを作るどころではなくなってしまった。

この同じ空の下、遠くに居る彼は、まだこの事を知らないのだ―。


そう思うと、無性に腹が立った。

次話は、まだ決まっておりません。

これからも、よろしくお願いいたします。

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