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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第14章 始まる輸送革命
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第323話・王様はお疲れのようです

これからも、よろしくお願いいたします。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。


「この度は長旅ご苦労であった、ついては国王陛下の命により、王都における工事に着いての免状を交付するものなり」


多くの国の重鎮が見守る中、ベアル領主カイトは恭しく宰相から書状を受け取った。

王都近くに居を構える貴族達は、それを羨望の様子で見ている。

だが謁見の間にある玉座に、肝心の王様達の姿はない。

なんでも体調を崩して、私室で休んでいるらしい。

現在、面識が在るのは宰相さんぐらいで、より超アウェイな場に彼の汗は吹き出て止まらなかった。


「如何されました殿下?」


「あ・・・っ。 ありがたき幸せ、でございます!」


はーっと深呼吸して気持ちを落ち着ける。

大丈夫、俺はまだ出来ると自分に言い聞かせて、昨日の練習の一場面を思い出して臨んだ。

しかし緊張ゆえか胸が苦しく、いつも以上に小声しか出ない。


「これで胸を張ってベアルに帰れます。 ありがとうございました」


後でメルちゃん達には、お礼を言っておかねばならない。

もしロクに練習もせずに、この場を迎えていたらと思うと、恐ろしい。

本来ならば、3人とも傍に連れて来たかったのだが、さすがに王宮の謁見の間への同行は許されず、今は街で休暇を楽しんでいる事だろう。

やる事をやったら、カイトもその輪に加わるつもりだ。


「国王陛下にお会いできず残念ですが、このような機会を作っていただき感謝に絶えません。 さっそくベアルに持ち帰り、しかる報告を上げさせていただきます」


決まった、演習のおかげでボロが出る事無く、場を切り抜けることが出来た。

交付された免状を手に早々と、舞踏会などに呼ばれぬうちにカイトは玉座の間を出る。

ただし大公といえど、王宮の中を勝手に歩くことは許されていない。

老齢のメイドの先導で、外へと続く廊下を進む。

だが途中で、違和感を感じた。


「あれ?」


メイドさんの案内している順路が、雪と違うことに。

広大で、ウッカリすると迷ってしまいそうな王宮。

だが王様に謁見する部屋から、外へとつながる順路は何度か通ったことが在るし、何となく覚えていた。

王宮はどこも造りが似ているので、このメイドさんは、道に迷ってしまったのだろう。

人間、誰にだって間違いはある。


「あの・・・・」


言いかけて、ハッとカイトは言葉を切った。

そして、他家の使用人の行動には、口出ししてはならぬとアリアに、口酸っぱく言われたことを思い出す。

教えるぐらい親切で良いではないかと思うが、他人の家で間違いを正せば、その使用人だけでなく、家自体のメンツも丸つぶれとなってしまうのだとか。

じきに気付くのを待って黙っていたがカイトだが、しばらくもしないうちに彼女は「こちらです」と言って頭を下げた。

そこには比較的小ぶりな扉があり、外玄関でないのは明らか。


「たいへん恐れ入りますが、少々お待ち下さい」


「あぁ・・・うん」


なぜここに案内されたのか、不思議でならない。

カイトが混乱している傍らで、メイドが軽く二回ノックし、静かに扉が開かれる。

そして、中から出てきた女性を見て、二度ビックリした。


「ご苦労様です、この事は口外しないように」


「はい、承知しました」


中から出てきたアリア激似の女性の指示に腰を折って、畏まるメイド。

ここまで案内してくれた彼女は、そのまま仕事へと戻っていった。

呆然とするカイトへ、アリアの母である王妃が向き直る。


「お久しぶりね、カイトくん」


そう言って王妃様が、柔らかな笑みを浮かべて迎えてくれる。

だがよく見れば目の下にはクマが出来ており、どこか憔悴しているようにも見える。

どこかおぼつかない足取りで、カイトを部屋へと案内すると、奥のベッドではゼイド王が静かに横になっており、妃がその手を取る。

王妃様の体調が優れなさそうなのは、夜通し看病でもしていたのだろう。

カイトの入室に気が付いた王様が、妃に体を支えられて体を起こそうとする。


「すまないな、本来なら出迎えてしかるべきだと言うのに・・・・・」


「俺の事はいいですから! 気にせず休んで下さい」


お妃様の顔色が優れないと思ったが、王様のはもっとひどい。

前に会った時の健康的で赤く熟れた様子とは打って変わり、彼の顔は痩せこけ青白くなっている。

体調が優れないとは聞いていたが、病気なのでは在るまいか。


「このごろ体調がすぐれず、このザマだ。 笑ってくれ」


「病気ですか?」


もし体のどこかが悪いというなら、魔法でどうにかなる。

大丈夫、謁見の練習とは違って前に、アリアがカゼを引いた時だって元気にした前例が在る。

しかしカイトの申し出に、ミカナ妃は苦笑交じりに手を払った。


「フフッ、たいしたこと無いのよ、この頃暑いでしょう? 彼も年だから」


「ナニを言うか、それを言うならお前の方が年う・・・・げぶっ!」


何かを言いかけた王様が、言い終える前に王妃の放ったパンチが腹に叩き込まれ、ベッドの中で悶絶する。

違う意味で心配だが、思ったよりは元気そうでホッとした。


「急にごめんなさいね。 こんなに体調が悪いのに、どうしても一目会いたいというから、頼み込んで案内してもらったの。 混乱させちゃったわよね?」


「はい・・・・・・いいえ、お会い出来て光栄です」


恭しく2人へ向かって一礼したカイトだったが、不満があったのか揃って顔をしかめていた。

言い回しを間違ったかと不安に思っていると、お腹を押さえながら、復活した王様が静かに首を横へ振る。


「他人行儀はいい、いつものフラットな口調で構わん」


「そうですか、ならお言葉に甘えさせていただきます」


正直、貴族式の礼儀作法は難しい。

アリアやメルシェードがこの場に居たら、きっと待ったを掛けられていたに違いないが、礼を失しないていどに以降、話すことにした。


「それでは改めて・・・・お久しぶりです。 オレに何か用事ですか?」


王様が体調を崩しているというのに、どうして連れて来られたかが気になった。

アリアも言っていた、体調が万全で無いときには王たる者、醜態を民衆にさらしてはならぬと。

カゼぐらい誰でもひくじゃんとその時は思ったが、客観的に考えれば、それもこれも無闇に民衆などに不安を与えないための、策なのだろうと理解できる。

無理を押してでも会うという事は、なにか事情が在るに違いない、厄介ごとは御免被りたいが・・・・

すると王妃様が、ニッコリと笑みを浮かべたまま、質問に答えてくれた。


「その後、アリアとは上手くいっているかしら?」


「へ?」


思いもよらぬ質問に、目が点になる。

これはナニカの隠喩・・・・と言う訳でも無さそうだ。

病床の王様も、顔をのぞかせ、激しく首を縦に振っている。

上手くいっているかと聞かれても、最近は暇がなくて会っても一言二言かわすぐらいで。

・・・・そして出てくる前、ふと彼女とケンカした事を思い出した。


「なにか、あったの?」


「すみません、ここに来る前にケンカをしました。 いろいろ意見にすれ違いがありまして・・・・」


声が細くなって、最後はカのなくような声になっていた。

セイグンさんの言った国防と責任、エルハルド様の寛容さ、圧倒的にカイトには、この2つが欠如している。

鉄道を武器にしたくない気持ちは変わらないが、ベアルに帰ったらもう一度話し合いたいと、今なら思える。

さすがに姫を怒らせたとあっては、王様達からも叱責を受けるだろうと身構えていると。


「ふふ、良かった。 うまくいっているようね」


王妃様はニッコリと顔を綻ばせ、王様のほうを見た。

彼も怒った様子はなく、とても満足そうだ。


「え、あの・・・・・・あれ?」


「とっても順調じゃないかしら、ねぇあなた?」


「そうだとも、供に暮らしていれば、そのようなことは幾らでもあるさ」


2人は顔を見合わせ、笑いあっている。

てっきり厳しい言葉が返ってくるかと思っていただけに、カイトは拍子抜けした。


「ケンカしたのに、ですか?」


「本当にイヤな相手なら、言葉を交わそうともしないものよ?」


少しだけ王妃様の言葉に、納得してしまう自分が居た。

そんなモノなのかと。

しかし思い返すと、アリアとは業務連絡以外の日常会話が数えるくらいしか無く、また不安に苛まれる。


「忙しくて、最近は話すことも少ないのですが」


「あらあら、カイト君はアリアが嫌いかしら?」


「とんでもない、大好きですよ! 最初は見た目がキレイだな、位でしたけど今は彼女自身を愛してます。 たとえどんな見た目になっても、俺はアリアが大好きです!!」


言い終わった後で、ハッと自分がどれだけ恥かしい事を言ったか気付いた。

なにも、こんな場所で告白せずとも良かろうに・・・・

固まっているカイトを前に、王妃様たちが笑う、どうやら冗談だったらしい。

余計に恥かしいが、ふと気持ちが明るくなったことに気付く。


「すいません失礼しました、とんだ事を口走ってしまって」


「いいえ、良い事を聞かせてもらったわ。 あぁ、それとカイトくん、私がここに居たことは内緒にね?」


「宰相にでも知れたら、大事になるからなぁ」


「なるほど、了解しました」


やはり面会謝絶中とあって、こうして会っているのは良くないようだ。

誰かに気付かれる前に、出て行かねばならないらしい。

後ろ髪ひかれる気もするが、しょうがない。

しかし去り際、背後から王妃様はとんでもない爆弾を落として来た。


「ねぇカイト君? そろそろ私達、孫の顔を見たいなーと話し合っていたところなの」


「そうだな、天に召される前にアリアの子の顔は見たい」


「なっなにを縁起でもない事を! 今度はアリアを連れて来ますから、それまで元気で居て下さい」


不意にセイグンさんのところで、1人娘のシルビナに迫られた光景を思い出した。

なるほど、最近はベビーブームなのだろうか。

1人勝手にナットクして、カイトは握手して帰途に着いた。


「子供・・・・・俺に子供ねェ」


額に手を当て熟考しようとしたが、気恥ずかしさが勝り首を横へ振った。

子供みたいな自分が父役など、到底勤らないのだ。

だが、ずっと後になって思うことなのだが・・・・・

この時もう少し、王様たちと話していれば。

たとえ魔法には制約があるとしても、何かは出来たのではなかろうか。



これが結局、最後になってしまう事を考えると、それが悔やまれてならない。


ちょっと今後の展開等について、ワリと真面目に検討を始めています。

詳細が決まり次第、改めて報告させていただきます。

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