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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第14章 始まる輸送革命
345/361

第319話・鉄道売り込みは、こちらまで

たいへんお待たせ致しました。

これからも、よろしくお願いいたします。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。


鈴木カイトは、良く言えば穏和で頭の中まで平和な、類を見ないほどメデたい奴だ。

異世界に来たときにも最初に心配したのは鉄道の有無で、自身の領地に魔王軍が侵攻してきたときも、鉄道建設の邪魔と追い返したほどに。

そこで言うなら、エルハルド領の次に訪れた領主は、まさに両極に位置するような男だと言える。


「俺はベルランダ地方武官のセイグンです、ようこそベルランダへ大公殿下」


「ああ・・・うん・・・・・どうも、です」


ギラギラとした目、筋肉を着たような見事な体躯と、顔の右側に付いた大きな引っかき傷は甲冑とも相まって強い威圧を、相手に与える。

人食いグマのフレーズが、彼の脳裏を過った。

おおよそ『貴族』などとは程遠い身なりの男性は、カイトの手をガッシリと掴み握手を交わす。

ただソレだけなのに、今にも食いつかれてしまいそう。

恐怖心で顔を引きつらせつつも、カイトはすぐに握手していた手を右胸に当てて、会釈を返した。


「本日はお忙しい中、ご面会の機会をいただきまして、ありがとうございます」


次なる訪問地、ベルランダ地方。

ここはビエーランド辺境伯の治める領地の一つで、周りをシェラリータ領に囲まれた珍しい土地関係に位置する。

ようは飛び地で、大昔の国境の名残なんだとか。

セイグンは地方武官として駐屯し、その飛び地の最高責任者として君臨しているらしい。

つまり領主と同じようなモノで、鉄道建設打診のルート上に被っており、外すことはできなかった。


「これは、これは私のような低い身分の者に、どうも恐縮でございます」


「いえいえ、こちらこそ・・・・」


揃って頭を垂れた瞬間、カイトの背後を寒気が走った。

気付かれないよう、こっそり後ろを向くと案の定、いつも無表情なメルシェードの顔が、更に無表情に・・・・・

セイグンも首を傾げている事から、今の挨拶は、駄目だったらしい事が分かる。


「いやその・・・・性格がら形式ばった挨拶が、どうもニガテで。 固い挨拶はヌキにしてくれませんか、無礼講で良いですから」


あっはっはと後頭部に手をやって誤魔化したカイトの様子を、背後の従者らは呆れたような様子で見ていた。

カイトは王族直系の国一番の大貴族、対するセイグンの身分は世襲制のない一地方武官に過ぎない。

どうしても相手に腰を低くしてしまうカイトは、そのたびに、こうした言い訳で誤魔化しているが・・・・・・。

もしアリアが居れば、今夜は眠れないところだった。

少し訝しげな様子を浮かべていたセイグンは「そうでしたか」と頷いて見せた後、大きく裂けた口を開け、豪快に笑い出す。


「それは丁度良かった、実を言うと私も堅苦しい挨拶はニガテでしてな、先ほどから何度も舌を噛み切りそうになっておりました」


「そ、そうですか」


変わり身の早さに、カイトの方が驚じかされてしまった。

見た目は魔王だが、中身は気の良いオッサンらしい。

スッと重かった肩も軽くなり、カイトは勧められるままに席へ付き話を切り出した。

顔が恐いのは、対面の壁を見てやり過ごす。


「本日は鉄道をこの地に敷設するご許可を願いたく、参りました」


「『てつどう』ですか・・・・」


彼は歯切れ悪そうに腕を組むと、ノドを唸らせた。

この世界に鉄道というモノが走り始めて、まだそう月日は経っていない。

得体のしれない物を作ると聞かされて、二つ返事で了解してくれる領主も居ないだろう。

こうなる事は予想ずくで、カイトはアイテム・ボックスから悟られないよう、持ってきた鉄道の資料などを取り出すと、机の上に広げた。


「鉄道は馬車に代わる、新たな物流の手段の一つです。 最初は駅馬車や商会ギルドからの反発もありましたが、今では彼らが主導で運営などを行っています」


「そのようですな」


路線図の描かれた地図と、これまでの鉄道の実績をまとめたモノを説明材料として解説を始めるカイトだったが、さすがに鉄道の事はウワサ程度には聞いているらしい。

カイトが思っている以上に、鉄道の知名度は高いようだ。


「ゴレアの領主様などから話は聞いています、輸送の時間が短くなり、盗賊に襲われることも無くなって、財政がうなぎのぼりだと」


「そうでしたか」


話に出たゴレアは王都から西へ、最初に通る街の一つだ。

見渡すかぎりの畑がどこまでも続いており、アーバン法国でも有数の作物出荷量をほこり農業都市とも呼ばれる。

しかし馬車だと輸送に、王都でも2日以上が掛かり、街道には盗賊が出ることも多い。

カイトの鉄道は、列車自体に魔導機関を応用した防御結界を張り巡らし、これを跳ね除けていた。

まさか、ゴレアの領主様がそこまで買ってくれているとは知らなかったが・・・・・・

この際、利用できるものは、何でも利用させてもらおう。


「車両自体に防御の魔法陣を書き込むことで、安全性を高めているんです。 ドラゴン相手にも有効ですよ」


カイトが何の気なしにダリアのほうを見ると、彼女は不機嫌そうにプイッと顔を背ける。

破壊狂も役立つことは在る、造ってはアイツのブレスで試させ、そして改良をさせた。

レールや、それに付随する施設なども同様に。

あの破壊神みたいなドラゴンの攻撃も受け付けないのだ、ちょっとやそっとでは壊れない自信が在る。

セイグンは熱弁するカイトの話を静かに聞いていたが、『ドラゴン相手』という文言に対し、あからさまに反応を示す。


「カイト様は、誰ぞと戦争でもするのですかな?」


「は、戦争?」


今カイトが話しているのは、鉄道が如何いかに優れているかと言う点と、安全に関すること。

アリアよろしく何故そこで『戦争』などという物騒な言葉が出るのか、カイトには分からなかった。

首を傾げる大公を睨むように見ながら、セイグンは続ける。


「気を悪くしないで聞いていただきたい。 カイトどの、ここは特異な場所にございましてな。 街道も一本を除いて閉鎖してているのです、何故だか分かりますか?」


「えェと・・・・」


魔物や盗賊、自然災害など街道が封鎖されること自体は、そう珍しいことではない。

しかしあえて切り出してきたのには、何かしらの理由があるのだろう。 

首を傾げるカイトに、セイグンは厳かに告げた。


―攻められないようにするため、と―


「え、攻める?」


「ベルランダは飛び地、いわばシェラリータと言う領地に囲まれた陸の孤島です。 このような地はいずれ、戦火に苛まれる」


にわか貴族を公言するカイトでは、彼の言っている事はちんぷんかんぷん。

しかもシェラリータを仮想敵として見ている様な言い草だが、ここはアーバン法国の領地の一つ。

だいたい、あのラウゲット伯様がそんな事をするとは、到底思えないのだが。


「どうして、そう思うのですか・・・・・?」


「ここが、そういう土地だからです。 一本だけ開放している街道は警戒を厳重にさせ、領界の砦では検問を徹底させている。 狭い領地はかえって好都合、森を定期的に兵士に巡回させています。 おかげで盗賊による被害はここ30年、発生しておりません」


「・・・・・」


これが、アリアの言う警備の最高潮なのだろうか?という思いが、カイトの脳裏を過った。

比較的平和とされるベアル領においても、街道などの盗賊被害はチラホラ発生している。

いくら領地が狭いとはいえ、何十年もその被害が無いと言うのは、ある意味で驚異的だ。

言うように街道の往来を徹底的にチェックし、領内のパトロールを徹底することで彼は、それをやってのけたのだろう。


「なるほど・・・・、それなら好都合です。 シェラリータとの境に駅を造って、そこで検問すれば検問は易くなるのでは? 魔法防御で列車は守られているので、安全です」


カイトは先ほどの話を交えて、あくまで鉄道の売込みを続けた。

だがセイグンの表情は曇るばかりで、首を静かに横へ振る。


「『ドラゴンの攻撃をも受け付けない』、それは我が方の攻撃もねると同義。 そこへ輸送力も高いとなれば、攻められればベルランダなど物の数ではありますまい。 たとえば、その鉄道自体に攻撃力を付与するとか・・・・」


「!」


一瞬、カイトの頭を走馬灯のように魔導砲が映り、少なからず動揺する。

図星を付いたと思われたのか、セイグン獰猛な獣のような視線に、先ほどまでの気の良いオッサンの面影は無い。

どこまでも見透かされているような視線を向けられ、特に背後に控えていたメルシェードは肩を震わせていた。


「セイグン・ブラッドロード殿、その言い様はあまりに・・・・・!」


「鉄道は、戦争の道具なんかじゃない!!!」


憤るメルシェードを押しのけるように、カイトは机を叩いて立ち上がった。

その変貌振りにセイグンのみならず、いつも頭の中までメデたい彼の姿を目の当たりにしているダリアたちまで驚きの様子を浮かべる。

怒りが収まらないのか、彼は周囲の驚きをヨソに畳み掛けた。


「人や物を早く、正確に安全に届けられるのが鉄道です。 魔王さんとも話して、あちらからの破壊行為をしないし、こちらからも魔族領域の無断活動をしないと約束しました」


「な、なに!? あの魔王と、不可侵条約を結んだと!??」


セイグンはあからさまに、目を剥いて驚いた様子を浮かべたが、カイトはそのまま自分の話を続けた。


「戦争が起きれば多くの人が死にます、俺は人が死ぬところを、もう見たくありません」


甘い戯言ざれごとと言われるかもしれないが、カイトが『自衛目的』としても兵器を持ちたがらないのは、ここに尽きる。

前線に立てば、誰かが負傷し、死人が出ることも在るだろう。

そんな事になるなら、たとえ鉄道だって要らない。

一領主としては、ほめられた事でない持論だ。


「なるほど・・・・しかし死人の出ない戦などありえませぬ、仕掛けられれば自衛の手段は必須でしょう?」


フフンと落胆のようにも聞こえる息をつき、セイグンは腕を組んだ。

だがカイトは、それでもと畳み掛けた。


「ほんの数年前まで、鉄道なんかありませんでした。 無いものを造れたのだから、今度だってやって見せます! 鉄道をそんな道具には使わせません!!」


そう啖呵を切ったところで、カイトはハッとした。

鉄道の敷設許可を取り付けに来たのに、初対面の領主相手に俺は、何を偉そうにしているのだと。

喧嘩なぞして心象を悪くしたら、元も子も無いというのに。


「あ・・・・・・あぁあ、ごめんなさい! こんなつもりじゃ・・・いや鉄道を兵器にはしたくないんですけど、でもアリアは鉄道は兵器で、魔導砲なんか造ってて、でも俺はそういうの反対と言うか、いや今日はそんな話しをしに来たんじゃなくて!!」


ベアル領主は慌てふためき、意味不明な言い訳をメチャクチャに述べ立てた。

これでは形無しというか、全て台無しだ。

その様子を見ていたセイグンはニヤニヤと笑みを浮かべ、先ほどまでの殺伐とした雰囲気は霧散していた。


「大公様は、面白きお方のようですな」


「・・・・・・」


ベアルに帰ったら、アリアに対人スキルと貴族式の礼儀作法を教えてもらおう。

そう決意するカイトだった。



◇◇◇



「ここは・・・・どこだ?」


白く光る森の中。

一番に目を覚ましたバルカンは、周囲を見渡した。

心地よい風が体に当たって吹き抜けていく傍で、腹黒パーティーがウルサく寝息を立てている。

そして横には昨日、揃って落ち込んだ穴がポッカリと口を開けていた。


「な・・・・いつの間に!??」


穴の深さは、少なく見積もっても10メートルはあろうかと言う深いもの。

4人が肩車しても届く深さではなく、とうとう諦めて寝入ってしまったのだが・・・・

どうして朝になって、4人とも地上に居るのだろう。

驚愕するバルカンを横目に、他の3人もモゾモゾと体を起こし始めた。


「うっさいねー、モーニングコールなんか頼んじゃいないっての!」

「あー、よく寝たぜ」

「ケシッ?」


3人が3人、それぞれマイペースに起き出す中。

いち早くケッシーがバルカン同様、周囲の異変に気が付いた。


「ん~、どうして穴に落ちているはずのアタイらが、地上に居るんだい?」


「なにっ、お前がどうにかしたんじゃ無かったのか?」


てっきりバルカンは、この女が怪しげな発明で、また窮地を脱したと考えていた。

だが彼女に、その様子は微塵もない。

だとすると、誰かが引き上げてくれたと以外には考えられないのだが・・・・・


「・・・・・エルフが、助けてくれた?」


ポツリとバルカンが洩らした言葉に、闇大帝と、シラケ盗賊改めドーラは鼻で笑った。


「はっ、あんたバカじゃないの、私らがエルフに見つかったら、はりつけにされて今頃は土神の供物にされているわ!」

「シラケの言うとおりだ、何かがアーなってこうなって、助かったんだろうぜ」


「おぉん、誰がシラケだってクソドワーフが!」

「やるかシラケアマ!!」


取っ組み合いを始めた2人はさておき、バルカンはどうも腑に落ちなかった。

彼女らの言うとおり、エルフに追い回されている現在、見つかったのなら殺されるか投獄されるか、いずれにせよロクな目には遭っていない。

だからと言って、ここはエルフ以外は滅多に出入りしない土地、通りすがった商人などが救出してくれたとも考えにくい。

バルカンが首を捻っていると、袖をケッシーがクイクイッと引っ張る。


「何でしょう?」


「エルフじゃなさそうだけど・・・・この跡は最近できたばかりだよ?」


バルカンたちの横、よく見ると穴の周囲などを中心に、ナニカに踏まれたように草が窪み獣道が出来ていた。

その道は、まっすぐ森の中へと続いている。

断定は出来ないが、無関係とも思えない?


「んなこと、どーでも良いだろ? エルフに見つかっちまう前に、さっさとズラからないと!」


取っ組み合いのせいで髪をボサボサにしたドーラが、凛とした佇まいで森の反対方向を指差す。

そちらを真っ直ぐ進めば、一日ていどで帝国の自治領に出られる。

しかし出来ている跡は逆の、ずっと森の奥深くへと続いていた。

気にするバルカンに、自己中ドワーフの闇大帝様が、声を荒げる。


「いい加減にしろ、命の危険なんだぞ! ほとぼりが冷めるまで、自治領で大人しくするんだ!!」


帝国でも指名手配されているが、あそこは連邦制を敷く巨大国家。

自治領は実質『国』のようなもので、目立つ行動さえ控えれば、エルフの森よりはずっと安全である。

さしものバルカンも事態の危うさを思い出し、ようやく逃げ支度を始めた。


「おや、お前さんら行っちまうのかい?」


「なんだ、ケッシーはここで自殺するのか?」


闇大帝のイヤミを聞き流し、ケッシーは相変わらずの不気味な笑い声を上げながら、ふところからおかしな道具を出した。

興味津々に3人が顔を覗かせるのを見計らい、彼女は森の奥を指差すと。


「これはアタイが開発した、魔力に反応する特別製の魔道具さ。 かなり強い魔力が、あっちに反応しているよ」


「へー、で?」


興味なさそうに耳をかっぽじる闇大帝に、ケッシーはヤレヤレと肩をすくめる。


「ニブいヤツだね、マナで満ちている森の中で、これだけ反応する魔力保持者といったら魔族か、あるいは・・・・」


「魔石持ちかい!?」


ドーラが割り込むように、話に食いついてくる。

魔石、魔核やマナタイトとも呼称されることも在るそれは希少鉱物の一つだ。

錬金術や大魔法の媒介物として使われる他、貴族が権力を示す為に手にすることもある。

正規ルートはもとより、モノが大きければ大きいほど高値が付く。

しかしエルフの膝元である森の中、下手に動いて見つかってしまえば、文字通り命は無いことをバルカンは戦々恐々としていた。


「関係ありません、今は一刻も早く森を出ましょう・・・・・・?」


「ナニやってんだ闇貴族、置いてくぞ!」

「エルフの魔核・・・・高く売れそうだわ、クフフフフ♪」

「ケッシシシシ」


旅支度を整えた闇大帝たちは、ケッシーを先頭に獣道を進んでいた。

もはや彼らの頭の中は、魔核を売却した算段で埋め尽くされており、自分達の状況など、忘れてしまったようだ。

ここでボッチになれば、エルフに見つからなくても死ぬ。


「ま、待ってください、私も行きます!!」


バルカンは鈍重な走りで追いつくと、そろって魔道具が示す方向へと進んでいった。

※重要なお知らせ

 投稿中の『オタクはチートを望まない』

    『魔王様は出稼ぎに行っておられます!』

 最近の仕事の関係で、また来年度の大学などの兼ね合いに合わせて、両作品は不定期更新となります。

基本的に1週間に一度、日曜日夕方の投稿を目指しますが、ほぼリアルタイムのような投稿としているため、更新頻度の約束が出来なくなりました。

 

 この場を借りて、お詫びと共にご了承下さい。


 なお、両作品以降の新作については、完成しだい投稿開始としますので、この限りではありません。

これからも、よろしくお願いいたします。

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