第317話・エルハルド領へ
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接続エラーとかで、一時的に投稿が出来なくなっていまして・・・・
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「おーっ、ここがエルハルド領か!」
乗り合い馬車から降りた瞬間、感嘆と共にカイトは物珍しそうに視線を動かした。
真新しい建物が林立するベアル領とは対称的に、ここは昔のレンガ造りの町並みが、そのままに残されている。
日本に居た頃は興味なかったが、古きよき町並みも好きだ。
「旅行最高! 来て良かった!!」
「・・・・・」
そんな本能のまま生きる領主を、使用人(ヒカリ含む)3人は遠い目で見ていた。
旅行好きの性でテンションがMAXまで上がった彼は、まるで遊び盛りの小さな子供のようだ。
目に付く珍しいモノを、片端から見ては引き寄せられそうになっている。
そんな彼の視線を、供に連れていたメイド―秘書―が強制的に首を右に回した。
「カイト様そちらではなく、こっちです!」
「いぎぎぎぎ・・・・いたい痛い!!」
カイトの視線の先には、大きな屋敷が鎮座している。
ここに居るエルハルド領主に謁見し、鉄道の敷設の許可を取り付けるのが、今日の本来の目的である。
何もベアルから5日もかけて、観光しに来たわけではない。
「急いでくださいカイト様、すでに到着した事は領主様に伝わっているはずです」
「い・・・・良いじゃないか、ちょっぴりぐらい。 少し遊んだら、ちゃんとやるからさ!?」
馬車で街に到着したのは、つい先ほどのこと。
領主様と会う約束はしてあるが、日本とは違って、明確に時間を決めて会うわけでもない。
昼前に会うのも無礼だし、領主様に面会するのは午後のティータイムが良いのではなかろうか。
というわけで、それまで遊ぼう、決定。
しかし秘書サマは、それをヨシとしかった。
「いけませんカイト様、私達がいつまでも訪問しなければ、相手の心象を悪くするばかりですよ」
「だからこそだよ、だから親戚から訪ねるんだ!」
このエルハルド領の領主は、エルフォンド公という。
最初の訪問地にエルハルド領を選んだのは、なにも組合の上申書に踊らされただけではない。
なんと、その人はアリアの実兄らしいのだ!
未だに会った事は無いのだが、まったく見知らぬ領主と話し合うのは、彼のチキンハートにはハードルが高すぎる。
「お兄ちゃん、策士なんだね」
「ヒカリ様、これは策を講じるのとは違います」
「むしろ、ただ逃げ腰と言うべきでしょう」
感心しきりだったヒカリの純真な心を、夢の無い2人組みが踏みにじっていく。
特にノラゴン、お前には言われたくないと思わずには折れないが、今は彼女らとやり合っている場合ではない。
カイトは大きくため息をつくと、観念したように足を踏み出した。
「分かった、行くよ。 でも、その後は好きにしていいだろう?」
「・・・・・」
メルシェードたちの沈黙を肯定と受け取ったカイトは、俄然ヤル気を出して屋敷へと急いだ。
さすがは領主邸とでもと言うべきか、重厚な造りの門構えの更に先に、小さな王宮のような屋敷が建っている。
半壊した前領主宅をリフォームしただけのカイト宅とは、風格から違う。
「さすがは貴族の屋敷だな」
「カイト様も貴族ですが」
秘書の突っ込みを流し、カイトはほぼ顔パスで門を開けてくれた。
彼の顔が有名と言うことではなく、白い貴族用の礼服を着ていたのが、原因だろう。
暑いので、いつもはクローゼットに仕舞いっぱなしになっているが、役立つこともある。
さっそく歩こうと足を踏み出した瞬間、番兵がソレを止めた。
「スズキ公殿下、まもなく迎えの馬車が参りますので、お待ち下さい」
「へ、馬車?」
よく見ると、屋敷のほうから一台の馬車が向かってくるのが見えた。
門から屋敷までは、目測で100メートル程度か。
まさか、こんなところでも馬車を使うとは。
こんな距離は、歩いた方が早いのではあるまいかとも思ったが、それは黙っていることにした。
ものの十数秒足らずで馬車が屋敷の玄関先に到着すると、屋敷の使用人がズラリと並んで出迎えてくれる。
「「「いらっしゃいませ」」」
「おぅっ!?」
使用人に慣れていないカイトは、ベアルの屋敷でも周りにはメルシェードのほかは、ほとんど周りに来ないようにしている。
彼は少しの恥かしさと、場違い感に肩をすくめていた。
そんなチキン大公の挙動など知る由も無く、先頭で出迎えた齢の高い女性の使用人が、キレイなお辞儀と共に彼らの前へ進み出てくる。
「本日はようこそ、おいでくださいました。 こちらへどうぞ。」
「忙しいところを、ありがとう」
カイトが頭を下げた途端、使用人は訝しげな様子を浮かべた。
言った後で、そういえばアリアが「使用人に感謝の言葉を言ってはならない」と言われたことを思い出す。
メルシェードの視線は、ドラゴンでも殺せそうだ。
すぐにカイトは咳払いをして、体裁を整える。
「う、うん!! 案内してくれ」
「・・・・かしこまりました」
貴族って大変、つくづくカイトはそう思わずにはおれなかった。
最初こそ驚いた様子を浮かべたメイドさんだったが、さすがというか、特に追及することも無く客間へと案内してくれた。
そのポーカーフェイスが、逆に傷つく。
「エルフォンド様は、まもなく参ります。 用事の際は、テーブルの上のベルで使用人をお呼び下さい」
客間に通されると、背の低いテーブルの上に数個のベルが置かれているのが目に入ってきた。
最初はインテリアの一種かと思ったが、これは便利だ。
「どうも」
使用人は深々と頭を下げて、部屋から出て行った。
それを見届けるなり、メルシェードがジッとカイトを見る。
「・・・・・・カイト様、使用人に礼を言ってはならぬと、奥様に釘を刺されていませんでしたか?」
「あっ・・・・ついまた、うっかり」
また、やってしまった。
この世界には『身分』というモノがあり、貴族や市民などは、口を利くのさえ敬遠することも多いと言う。
日本人の感覚そのままのカイトが気にせず、フラットな統治をベアルで敷いているので忘れがちだが、それが常識の世界。
しかも他人の領地、郷に入っては郷に従わねばならない。
「まぁ3人も座れよ、長旅で疲れたろう?」
「カイト様!」
「っ!!!・・・・ヘイ」
トリ頭領主様は、とうとう怒られてしまった。
ピクリと体を動かしたダリアさんが、メルシェードの手によって押し戻された。
貴族はもとより、身分とはなんぞや。
奴隷制度や種族間の溝も深く、もっと仲良く出来ないものかと思わずには居れなかった。
程なくして客間に、数人の従者を連れてエルフォンド公はやって来た。
服装はカイト同様に白を基調とした礼服を着込んでいるが、彼と違って風格もあり、イケメン顔にはよく似合っている。
さすがは王族の貫禄、エセ貴族のベアル領主とはワケが違う。
「お待たせいたしまして、恐縮でございますスズキ公殿下。 少々たてこんでおりまして」
「こちらこそ、今日はよろしくお願いいたします」
彼がアリアのお兄さんで、間違いはなさそうだ。
よく見てみれば彼女と、目や髪の色とか似ている部分も多い。
「・・・・・いかがされました?」
「いいえ、今日はよろしくお願いいたします!」
エルフォンド公は柔らかな笑みを浮かべ、席に着くよう促してくれる。
優しそうな人で、カイトは内心ホッとした。
これなら話はスンナリ済みそうだ。
双方とも席についたところで、まずエルフォンド公の方から話を切り出してきた。
「はるばる、このような辺境までようこそおいでくださいました。 ときに奥方様はどちらに?」
彼はカイトから視線を外し、メルシェード、ヒカリ、ダリアの順に見回した後、またカイトを見た。
メンバーに居なかったので、不思議に思ったのだろう。
「すみません。 政務の関係で手が離せないそうで、今回は連れて来ていないんです」
「それはそれは・・・・・ベアル領は大きいですし、なりあがりの領主様では手に余ることも多いでしょう」
ズバリと気にしていた事を言われ、グウの音も出せない。
政務の大体をアリアに任せっきりにしている現状、彼女が居なければベアルは立ち行かなくなる。
いや、決して自分を卑下しているワケではなく。
今にもダリアたちが飛び掛りそうになるのを、なだめて静止する。
ちょっと落ち込んだが、今はカイト一個人の感情より、ベアルや鉄道輸送のほうが優先だ。
「そうだ、これつまらないモノですが・・・・」
カイトはアイテム・ボックスに仕舞っていたモノを出した。
しかしエルフォンド公は怪訝な様子で、出した袋を見ていた。
「ベアルでは、つまらないものを寄越すのですか?」
最初はナニを言っているのだろう、とカイトも怪訝な様子を浮かべたが、すぐに理解した。
どうやら『つまらないモノを』という言葉を、そのままの意味で受け取ったらしい。
アリアの兄さんは、ずいぶん素直な方のようだ。
「いえいえ、ちょっとした挨拶のようなモノでして。 全部ベアルで作られたお菓子で、とっても美味しいんですよ!」
「それは、それは・・・・」
箱に入っているのは、グレーツクあんぱんにベアルせんべい、ボルタ魚肉ソーセージなどなど・・・・・・。
どれも、この数年に皆で頑張って作った特産品の数々だ。
最初こそ怪訝だったエルフォンドさんだったが、土産をメイドに渡すと、彼女はソレを持って部屋を出て行った。
スベッたと思ったが、なんとか踏みとどまれたようだ。
「ご丁寧にどうも、ところでご用件と言うのは?」
「そうなんです、こちらの領に鉄道を通したいと思いまして、今回はその許可を頂きに参りました」
カイトが話を切り出した途端、彼はあからさまに表情を曇らせた。
鉄道なぞ見たことも無いだろうから、そんな得体のしれないモノに許可は出しあぐねているのかもしれない。
こうなる事は想定内、早速カイトは持ってきた鉄道の諸資料をテーブルの上に広げた。
しかし領主様はさらに、その表情を硬くさせ、口を一文字に結んだ。
「恥ずかしながら我が領は、財政が潤っているとは言い難い現状でして。 一切の資金調達などは出来ません。 土地を空けるだけでも無料という訳には参りませんから?」
ごもっとも。
しかも鉄道は、造ってオワるのではない。
建設には土地が必要だし、運行や維持にも多くの費用や人材が必要とされる。
燃料となる魔石を掘り出すのだって、タダと言うわけにはいかない。
このせいでベアルの財政も芳しくなかったのだ、同じテツを踏むほどカイトも愚かではない。
「無論です。 建設などに掛かる費用に関しては、ギルドが工面することになっています。 詳細はこちらに」
テーブル上に山なりとなった資料をかきわけ、関連している資料を見やすいよう、彼の前に提示する。
これまではベアルの主導で造られてきた鉄道だが、今回はあちらからの『要請』という事もあり、工事などは全てギルド総督会主導で行われることが決まったのだ。
スゴイだろう!?
(ただし技術教育などの理由で、工事を請け負うのはカイト達)
異世界に来てから幾年月、ようやく鉄道の市民権も確立した来たのだ。
そしてカイトに課せられた仕事は、諸侯への敷設許可の申請(いわゆる話し合い)だけ。
何よりメルシェードたちは、鉄道のためなら実力の120%を出すこの領主の変貌振りに、ただ呆れていた。
今ここに在るのは、立派な一領主の姿だ。
「どうでしょう、お手は煩わせません。 ご許可を願えませんでしょうか?」
最近スランプ気味な上に、仕事などの兼ね合いで書く時間が取れていないです。
見切り発車のシワ寄せが、ここに来て大きく出ているようで・・・・・
投稿は出来るかぎり、週一のままで、なんとか続けさせて頂きます。




