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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第14章 始まる輸送革命
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第316話・鉄道は、平和なシロモノです

諸都合により、投稿が遅れました。


感想や気になる点などがりましたら、遠慮なくお寄せ下さい。


ベアルは肥え太っている。


これは誇張ではない。

住民わずか30名ほどから始まった村は、今や人口百万にも達す勢いの大都市。

グレーツクの鉄鉱や魔石鉱、郊外のソギク栽培など産業も大きく発展し、生み出される富は、月に白金貨千枚分とも揶揄される。

利用しようとする者は後を絶たず、あるいは自らの手の内に、と考える者も少なくは無い。


大抵の領地なら、この時点で攻め滅ぼされるか、血で血を洗う戦場へと変わる。

そうならなかったのは、ひとえにチート領主様の存在が大きい。

街の周りには無敵の防御の障壁魔法を張り、国土全体にトラップ魔法を仕掛けてあり、街道や鉄路以外から近づく者を容赦なく排除する。

さらに数十万の魔王軍を追い返したという逸話いつわは、彼方の諸外国にすらとどろいていた。

こうして、互いに牽制しあうことで丸く収まっている外交面だが。

もし何かの拍子で領主が死に、あるいは力を失ってしまったら・・・・・


「―この事だけは、お伝えしたいと考えました」


駅のベンチで顔をもたげるカイトに、メルシェードは深々と頭を下げて非礼を詫びた。

隣に座っているヒカリも重い空気を感じ取ってか、大人しくしている。

アリアとカイトが喧嘩をして、数日が経過。

彼女は結局、1週間が過ぎても、食事にすら顔を出すことは無かった。

それを、この秘書は見ていられなかったのだ。。

非礼を詫びながらも、『ベアル』という現実を領主に話して聞かせたが、それを聞いて『そうなんだ』で済ますほどカイトと言う人間は、物分り良くない。


「・・・・俺は、戦うのが嫌いだ」


「存じています、しかしソレを疎かに出来ないほどにベアルと言う領地は、大きいです」


「・・・・」


―なぜ、争いは無くならないのか―

兵器とは、呪われた道具だ。

持てば戦争に、持たなくても戦争に巻き込まれる事が珍しくない。

彼女の超絶わかり易い説明で、ようやく国家間の『駆け引き』というモノを少しは理解できたが、平和を愛する鉄オタだったカイトにとって、せないことは多い。


「なんで力を持っていなかったら、それを攻めるんだ? 俺に出来たんだから他の人たちだって、自分の所で大きな街をこさえれば良いじゃんか!」


「それは、そうですが・・・・・」


それをせず、低いところへ水が流れるように楽をしようとするのが、人間のさが

発展した街を取るぐらい、簡単な事は無い。

カイトの言っている事は言い得て妙で、しかし言葉足らずだった。

彼女は感情を何処かに、独り言のように洩らす。


「自衛の力は必要です、ベアルの防御はあまりにカイト様に頼りすぎています。 警備兵の他にも領兵などの整備を、これを機に再考すべきかと」


「・・・・・・!!」


カイトは無責任をしたくなくて、ベアル領主なんかしているが、今でもいつでも身分を返上する用意は出来ている。

それも、自分の考え一つで多くの人々の暮らしが左右されてしまう。

『領地を寄越せ』『あいよ!』で済むなら、あるいは彼ならば、それで済ませてしまおうとするだろうが・・・・。

肩を落とすカイトに向かって、駅員の1人が緊張した様子で声を掛けてきた。


「大公殿下、特別列車の用意に今しばし、お時間をいただいてもよろしいでしょうか!?」


「ん・・・・あぁ、無理を言って悪いね」


カイト達はこれから、鉄道を使ってアーバン法国内の諸領を廻ることになっている。

それも駅馬車組合からの、鉄道延伸の打診があったからだ。

本当なら転移魔法で行きたいところであるが、アポを取るための手紙の到着より先に諸侯の元に着いては、世話ない。

ノラゴンも行った事が無い場所も多かったため、多少は時間が掛かっても鉄道移動を選ばせていただいたのだ。

決して、鉄道の旅を楽しみたかったわけではない。

あくまで、転移が使えなかったためと言う非常措置だ、大事なことなので2度言った。

そんな訳で今、列車の手配をしてもらっている。


「貴賓室をご用意しました、どうぞ、そちらへお越し下さい」


「いや、お構いなく」


たとえカイトが気にしなくとも、相手が気にする。

市民たちの日常生活に支障が出るから、街をそのまま出歩くなと、何度アリアに注意を受けたことか。

そして領地を守るためと、独断ではあるが防御力強化を図っていたのだ。

これまで先延ばしにしてきた事を、彼女が尻拭いしたと言っても過言ではない。


「駅員さん、俺か大公夫人名義の所有で、この駅に『何か』がある筈なんだけど・・・・今から見られないか?」


そういえば、彼女が造ったとか言うモノを、カイトは少しも見たことが無い。

待っている間、出来ることなら見ておきたいと思ったわけだが。


「はい? す、すみません。 私には分かりませんので、駅長を呼んでまいります。 こちらで少々お待ち下さい!」


言うなり彼は、脱兎の如く勢いで、事務室から駅長さんを連れて来た。

そして目論みどおり、カイトの名義で検車庫の中で保管している特殊車両があるらしい。


「忙しくて現物を見たことが無くて・・・・・・、忙しいなら今度でも構わないけど」


「いえいえいいえ、滅相もございません! ご案内いたします」


そういうと駅長さんが先導する形で、カイト達3人はホームへと出た。

・・・・と、ここでカイトは、1人欠けている事に気が付いた。


「そういえば、ダリアさんは何処に行った?」


「使用人の方なら、ホームに居られますよ」


今回のメンバーは4人、カイトを含めた3人ともう1人がダリアさんだ。

なかなか出発しないので郷を煮やして、別行動をとったのだろう。

整然と並んだベンチの一つ、駅員の指差した一番奥に彼女の姿はあった。


「ダリアさん、勝手にどこか行っちゃ・・・・・あ?」


というか、ダリアさんは、絶賛ヨダレを垂らしながら爆睡中である。

どうりで静かだと思えば・・・・。

あまりに気持ち良さそうなので、彼女はこのままにしとこう。


「検車庫は遠いの?」


「いいえ、駅の隣です」


駅長の指差した先には、レンガ調の大きな建物が3棟ほど並んで建っている。

安全を確認しつつ、数本のレールを越え小さな扉から中へと入った。

中はドラゴン形態をとったダリアさんでも入れるかもしれないほど、広々としていた。

その中で、奥に置かれた『車両』は一際、異彩を放っていた。

多くの機関車や客車が整備を受ける中、一番奥にひっそりと、それは鎮座していた。

3人は一様に頭を上げ、これを見上げた。


「お兄ちゃん、これナニ?」


「俺にも、よく分からないよ・・・・・」


列車・・・・正確には貨車に据え付けられた巨大な魔導砲は黒光りしながら、独特な雰囲気を漂わせていた。

大砲の口径はカイトがすっぽり入れそうなほど大きく、砲身の長さは全長の身長の数倍規模の巨大さである。

魔導機関車を作るためにと、ひとしきり研究した後は棄てたつもりだったが、どこかで改良が続けられていたのだろう。

これにはメルシェードも珍しく、感嘆を洩らした。


「移動式の大砲とは・・・・・鉄道にこのような使い道があったとは・・・・・・・」


それは他意はない、ごく当たり前の感想に過ぎなかった。

だが武器と言うものに過敏な領主は、自分の造った鉄道がそのように利用されるのが、フクザツでならなかった。

領の安全を図るか、自分の信念を貫くか。

その選択の時は、そこまで来ていた―



◇◇◇



領主邸からは、街が一望できる。


ベアルから出て行く鉄道の吐く煙は、まるで雲のように街の空へ広がっていく。

あれに彼は乗って行るのだろうか。

それとも別の列車だろうか。

諸侯への挨拶回りに行ったカイトのは、当分は帰って来ないだろう。


だが、間違った事をしたとは思っていない。

いずれは軍備の拡充が必要だった、それに関しての後悔は無い。

領主がやりたがらない仕事を補填ほてんするのも、領主婦人の責務。

・・・・・・・・たとえそれが、汚れ仕事だとしてもだ。

それでもアリアは思った。


―もっと、他にやりようがあったのではなかろうか―


いくら進展が無いからと言って、領主であるカイトに無断で進めて良いもので無いのは確か。

意味の無い事ばかりが頭に浮かんでは消え、『後悔』の2文字が、彼女の心を大きく揺さぶる。


「奥様」


「っ!?」


振り向いた先には、使用人が立っていた。

驚いた様子を浮かべるアリアに対し、彼女は両手を前で組んでお辞儀する。


「ノックをしても返事がありませんでしたので・・・・あの、お体は大丈夫ですか?」


どうやら窓から景色を見ている間に、来たらしい。

他人の部屋を訪問する際はノックをしてから、が常識なのは言うまでも無い。

むろん迎える側も、出来るかぎり早く返答するのが望ましい、でないと今回のように、要らぬ誤解を受けることになる。


「心配はありません、何か用ですか?」


「ギルドから入札公告の通達が来ております。 屋敷の改築の件についてです」


「ご苦労様です」


渡された手紙には厳重に封がされ、切り口には魔封じの掛かった焼印が押されている。

こうすることで、第三者の閲覧を防ぐのだ。

むろんアリアは『関係者』である。


「3社ですか・・・・、こんなものでしょう」


中の書面に目を通したアリアは、屋敷改築工事の入札業者のリストを見て、そう洩らした。

仕事をやりたがらない領主様ではあるが、彼こそ仕事を増やしている元凶でもある。

今回は典型例で、ベアルに市民が政治参加が出来る施設を造るという彼の考えに従い、屋敷の使っていなかった部屋を改築することになったのだ。


そもそも政治とは官職が遂行するもので、住民は意見すら認められない事も珍しくない。

平々凡々(ごくふつう)に見えて侮れない、常識に全く縛られないのが領主様カイトの不思議な点であり、最大の特長だ。

屋敷の改築において、公共性の高い『入札方式』などという手段を先導したのも、そもそも彼なのだ。

―と、まだ使用人メイドが視界に映る。


「他にも、何かありますか?」


「はい。 駅馬車ギルドから、鉄道の旅客が増えたとの報告が」


現在、鉄道は領の直轄でギルドに『貸し出し』という形をとっている。

先日の事故から影響は免れないと踏んでいたが、フタを開けてみれば鉄道の知名度が上がった事で逆に、利用者が増えたようだ。

災い転じて福と成すとは、まさにこのこと。

しかし王都までの運賃は、領民1人の月収が銀貨10枚のご時世に銀貨8枚。

乗っているのは客ではなく、大体は荷物などがほとんどを占めている。


「収入決算は月締めに提出するとの事です」


「そうですか、カイト様が聞いたらお喜びになるでしょう」


帰ってきたら一番に報告したい。

そして無断で魔導砲の開発などを進めていたことは、きちんと謝りたいと思った。

領主の居ない間、アリアにもできる事はたくさんある。

まずは彼が向かっていった諸領のメモに目を通して・・・・

1番目に訪れる予定だと言う領地の名を見て、思わず息を呑んだ。


「エルハルド領!? カイト様はあの領地に向かったのですか!??」


「はい、最初に訪れるのは此処ここであるべきだと申されまして・・・・・」


彼女メイド)は、あくまで一介の使用人であり、カイトの訪問先を熟知しているわけではなかった。

アリアとて今、初めて知ったのだから。


「なにも、無ければよいのですが・・・・・・」


エルハルド領、この名を聞いて彼女の胸中には『不安』の2文字が過る。

それはこの国でカイトのほかに、唯一『大公』の爵位につく人物の治める領地。

そして、アリアの実兄エルフォンドの支配地域だった。


※本編中の補足


魔封じの焼印は、開封の際に魔力を弾くことで不正を防ぐもので、それ以上の付加効果はありません。

(例えば。 一度開けたものを、魔法で開ける前のような状態にするなどの復元が出来ない等)

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