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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第14章 始まる輸送革命
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第313話・失敗から学べと、誰かも言った

これからも、よろしくお願いいたします。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。


少し前まで、この世界には『鉄道』という言葉すらなかった。

移動手段といえば馬車が主であり、冒険者などのように金が無ければ、歩いての移動も珍しくない。

無いものを作るというのは、思っていたのよりずっと大変だった。

特に、それが『事故』を起こした時。

カイトはその事を重く受け止めながら、ベアルの駅で出発する列車の見送りに来ていた。


「大公様、車内への設備搬入が完了したようです。 出発準備が整いました」


「そうか」


駅員の報告に、カイトは感情無く相槌を打つ。

試運転列車の編成は5両。

真ん中にハリネズミのような『測定車』を挟み、前後に伴走用の客車と機関車が繋がっている。

鉄道で大きな事故・・・・いや『人災』が起きて以降、彼は眠れぬ夜をずっと、問題解決のために費やしてきた。

天災と違い、人災は失くす事が出来る。


「うまく行ってくれよ・・・・・」


握り拳をつくり、自分に言い聞かせるように呟くカイト。

事故現場を目の当たりにして以降、彼は寝る間も惜しんで原因を探り、解決策を模索した。

メルシェード達の協力も、忘れてはならない。

結果として、今日という日を迎えることが出来たのだ。

その姿を間近で見ていた駅員は、返す言葉を見つけられず、ただ事務的に返答した。


「大公様、まもなく試運転の列車が出ます。 お気をつけください」


「・・・・ああ頼む」


間もなくカイトの横に立っている駅員は緑色の信号旗を出し、ホームの列車へ発車の合図を出す。

ボーッ!

煙を吐き、ズシンと列車は重々しくピストンを動かし、ゆっくりとベアル駅のホームを離れていった。

だが列車は、構内のポイントを切り替える地点で一旦停止する。

カイトたちはソレを確認すると、急ぎ足でメルシェードたちの居る、駅本屋へと戻った。


「準備は、どうなってる!?」


「お待ち下さいカイト様、調整しています。」


カイトはじれったさを抱きつつ、窓の外に居る列車を見た。

あれに挟まれている『測定車』の本来の用途は、新路線が開通した時などに施設が列車に衝突などしないか、という安全確認をするためのもの。

日本などにも昔あった、『建築限界測定車』をヒントに、というか丸パクリで作った代物だ。

車両の5箇所に全周する針のような材木が付けられており、これが万が一に折れると、魔力回路ブレーカーが落ち、魔力が遮断されて記録される仕掛けとなっている。

今回は中に、徹夜で作った魔道具と、その為の測定器や指示器などが載せられていた。

メルシェードたちが悪戦苦闘している魔道具も、そうして作ったモノの一つ。

誰もが触るのは、今日が初めてなので扱いにくそうに、慣れない手で一つ一つの装置を確認していった。


「お兄ちゃん、つまんない」


「悪いけど、今はこっちに集中させてくれないか」


「むー」


技術的なことは、ヒカリには難しすぎるかもしれない。

屋敷で留守番しても良いと言ったのだが、彼女がどうしても付いて来ると言うので、静かにしている条件で連れて来たのだが。

彼女には悪いが、今は大事な時なので構っていられない。

カイトはヒカリを手持ち無沙汰の駅員に預け、自分は魔道具の方へ体を近付けた。


「どう?」


「申し訳ございません大公様、すぐに動かしますので!」


カイトは人懐っこいのでつい、忘れそうになる事もあるが、彼は大公という要職に就く、ベアルの領主様である。

貴族が絶対的支配者で一市民は、どうしても『先入観』があり、このように萎縮してしまう事が多い。

仕方ないのかも知れないが、それがカイトには滑稽にも、バカバカしくも思う事が少なくない。


他人ひとの事は知らないけど、俺の事は『大公』だなんて思わなくて良いよ。 焦らず、ゆっくりやってくれ」


「はい、頑張ります!」


カイトがソレを言うと、むしろ逆効果だ。

焦りは他の駅員たちにも伝播でんぱし、言い知れぬ緊張感と雰囲気が、その場を支配する。

その真ん中に居たメルシェードは、辟易した様子を浮かべ、後ろに居るカイトに意見した。


「恐れ入りますがカイト様は、ヒカリ様のところへ行っていて下さい。 あなた様が居ると、仕事になりませんので」


「ごめん・・・・・」


まさか自分も邪魔者だとは思ってもみず、カイトはしょんぼりと事務所の外へ出て、ベンチで静かにしていたヒカリの横に座った。

彼が居なくなった事でおかしな緊張感が無くなり、駅員たちは素早く魔道具の操作をする。

程なく準備が整ったらしく、1人が魔力電話で列車へ指令だした。

列車はボウッと短い汽笛を鳴らし再び、ゆっくりとシェラリータの方面へ動き始める。

カイトはそれを、寂しそうにジッと見ていた。


「お兄ちゃん、今日は何があるの?」


「うぅん・・・、どう言えば良いかな」


ヒカリの疑問に、カイトは言葉を詰まらせる。

これまでの鉄道は、件の魔力電話による状況把握によって、その運行を行っていた。

ベアル=ボルタの短い区間での運行なら、それで十分に対応できたのだ。

しかし王都の先まで延伸して、取り巻いていた環境は一変。

列車の本数が多くなっただけで無く、距離が伸びたことで遅延なども多くなり易く、電話だけでは状況の把握が難しくなっていた。

列車が衝突してしまったのも、そのような情報の錯綜により発生してしまった『人災』なのだ。


「魔力で列車に指示を出す、信号の試験をするんだよ」


「へェ・・・・?」


話半分で、ヒカリは生返事を返してきた。

実はカイト自身、分かっていない部分も多く十分な説明は出来ない。


「家に帰ってから分かりやすく説明するよ、それで良いかい?」


「うん」


これに関しては屋敷に戻ってから、原案を作ったメルシェードを交えて話してやる、というところでヒカリの質問を回避する事に成功した。

この世界にカイトが身に着けたスルースキルは、日々進化を続けているようだ。

しかし魔法で声は聞こえるものの、駅員達と信号談義することも間々ならず。

大きなため息が漏れる。


「爵位って返納できないのかな・・・・・」


「?」


流れに身を任せ、水に流れる木の葉のように領主ナゾやってはいるものの。

鉄旅どころか、外出すら間々ならないのが現状だ。

貴族ヤメます、はさすがに無責任すぎるが、彼はいわゆる『自由』を謳歌おうかしたかった。

主に、旅をするという意味で・・・・・。

刹那、事務所から漏れ聞こえてきた内容にベンチをガバット立ち上がると、脱兎の如く勢いでカイトは走った。


「信号所に列車が差し掛かるって!?」


「カイト様、お静かに願います」


「はい」


子供のようにはしゃぐ領主を、秘書のメルシェードがたしなめる。

そこには先ほどとは違った、緊張感ある空気で支配されつつあった。

ある者は額から汗を滲ませ、ある者は祈るように腕を前に組む。

魔力で動く信号は正常に作動してくれるか、ここに全てが掛かっているのだから、無理も無い。


カイト達の鉄道は、まだ軌道に乗り始めたばかり。

信号の実用化も含め、これからが、本当の正念場だ。


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