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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第14章 始まる輸送革命
338/361

第312話・失敗は成功の母とも言う・・・・よね?

投稿が遅れました、大変お待たせ致しました。


これからも、よろしくお願いいたします。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。


焦げ臭いニオイが、鼻を突く。

焼けた鉄と、炭化した木の臭いだ。

カイトの眼前には無残に変形した2つの列車の姿があり、1つは完全に横倒しになってしまっている。

まだ熱が残っているのか、ところどころ白い煙が立ち上っていた。

カイトは哀しげに眉をひそめた後、近くにある信号所の責任者から来た男性に話し掛けた。


「事故の被害は?」


「はい、衝突したのは貨物列車だったのが幸いしました。 乗っていた機関士4名も直前に飛び降りたので、軽症を負っただけです」


死傷者が出たと聞いたときは肝を冷やしたが、フタを開けてみれば怪我人が4人。

それも列車から飛び降りた際に出来たモノで、既に回復魔法によって治療は済んでいるとの事だった。

客を乗せていない貨物列車の事故だったのが、不幸中の幸いと言えよう。


「機関士の人たちは?」


「現在はベアルの治療院にて安静にさせておりますが、お会いになりますか?」


「いや、回復のほうを優先させてくれ」


事故が起きてから、まだ半日と経っていない今。

怪我が無いといっても、事故のストレスは大きいだろう事が予想され、ついたばかりの傷に塩を塗るようなマネはしたくない。

少し期間を置いたほうが落ち着いて、話も的確になるだろう。


「もう少し現場から分かった事を聞きたいんだけど・・・・・・」


「エリットさん、組合からギルドマスターが到着しました」


カイトが質問したところで、駅員の1人が駆け寄ってきた。

ベアルの市街から距離にして20キロという近距離の場所とはいえ、ここに至る道は無く、鉄道以外での到達手段は無いに等しい。

馬車が使えないとあっては移動は徒歩など限定され、その結果として現場への到着は遅くなってしまう。

転移魔法が使えるカイトなどは例外だ。


「分かりました、少々お待ちになって頂いてください。」


「いや俺の事は良いよ、ギルドマスターさんに会いに行ってくれ」


「そ、そうですか・・・?」


恐縮しながらも信号所の人も最後には、もと来た道を信号所の方へと向かっていった。

それを見送ったカイトは、連れてきたメルシェードたちにここに居るようことづけして、自分は森の中へ分け入り誰も来ない事を確認すると、何も無いところへ一人事のように呟く。


「アキレス、姿を現してくれ」


「ここに」


カイトの声に呼応するように、木の陰から魔人が姿を現した。

魔族は人間や他種族とは敵対関係にある者の総称で、ベアル領主の隠された領民でもある。

人目のある場所だと恐がる人が多いので、こうして森の奥で会うことが多い。

彼女には昨晩、鉄道の事故を調べてくるよう言ってあったのだが。


「今の時点で、分かっていることを教えてくれ」


眷属けんぞくが見ておりました、どこからご報告いたしますか?」


さすがは1万5000の眷属けんぞくはダテではない。

カイトは関心する反面、腹が冷えるような気すらした。

しかし、今はその恩恵を受けているのだから、深く考えるのはよす事にする。


「最初から。 ピンからキリまで頼む」


「では機関士たち4人が朝、起きたところから・・・・」


「列車が発車したところからで頼む」


アキレスの『報告』は、昨日の日没から始まった。

事故を起こした当該の列車のうち、ボルタ方面へ向かっていた貨物列車がシェラリータを、1時間以上も遅れて発車した。

遅れた理由が気になるかもしれないが、今は重要ではない。

貨物列車は回復運転もむなしく、終着のベアル近くに着く頃も数十分の遅れが出している状態で、ベアルに至る最後の信号所に差し掛かりつつあった。

一方その頃、ボルタから来た貨物列車は1つ目の信号所で、足止めを食らっていた。

対向の列車はいつ来るか分からず、ロクに連絡すら取れず何処を走っているのかも定かではない。

とうとうしびれを切らし、列車はシェラリータへ向け北上を開始したのだった。

すぐソコに、その貨物列車が近づいて来ているとも知らず・・・・・。


機関車には闇に潜む魔物を避けるため、前方を魔力灯で照らして進む。

この灯りは遠くからでも視認できるため、近づいて来る列車はまるで、こちらへ突進してくるように映っただろう。

ブレーキを掛ける間もなく機関士たちが飛び降りる刹那、両貨物列車は正面衝突して一台は転覆した。

ボイラーの火が回り、貨車の一部が焼ける被害があった。

しかし、これだけの事故でも大怪我を負った人は出なかった。

信号所から出たばかりだったので、速度が出ていなかったのは、不幸中の幸いだろう。

アキレスの報告は以上だったが、その事実はカイトの肩に重くし掛かった。


「俺のせいだ・・・・」


「一連の事故を起こしたのは、無能な人間達の不徳の致すところ。 閣下には責任などありません」


アキレスはあくまで、カイトをヨイショしたが、そんなものは彼の耳には届かない。

これまでに何度か、駅馬車組合の方からは定期報告は来ていたのだ。

急な鉄道の延伸開業で人手が足りず、従事者の練度が下がり、またはオーバーワーク気味だと。

二次的な問題として、輸送取り扱いのミスや、列車の遅れも目立っていたらしい。

いつか時間が解決してくれる、そんな楽観的な考えが、今回の事故を招いたと言えなくも無い。


「ありがとうアキレス。 ほかの魔物たちにも、そう伝えておいてくれ」


「ははっ! あの・・・・?」


用事が済んできびすを返したカイトだったが、アキレスは顔を上げ、カイトの方を何度も見る。

まだ用事があるのだろうか、モジモジと体を揺すっている。


「言い残した事があるなら、聞くけど」


「僭越ながら閣下、その・・・・褒美を賜れればと思うのですが。」


「あ」


これまでゾンザイに扱いすぎたせいだろう、ドMの市民権を得たアキレスは、何かやり遂げるたびにカイトに、『褒美』をねだる様になっていた。

ちなみにここで言う『褒美』はモノではなく、物理的制裁(拳骨など)の事である。

アキレスたちの意向が分かった今は、その彼女達に手を上げる事は出来ない。

・・・たとえ、本人たっての希望だったとしても。

パワハラ反対。


「今は忙しい、また・・・・・今度な」


「ははっ、楽しみは後にとっておきます!」


後で屋敷にでも来るのだろうか。

なんとか弁解して止めさせようとしたが、カイトが引き止める前に、アキレスは姿を消していた。

頭は痛いが、考えなければならない事は、他にある。

再び事故現場まで戻り、そこで待っていたメルシェードに、ある事を聞く。


「なぁメルちゃん、魔石の中にある魔力と空気中の魔素は、違うものなのだろうか?」


「はぁ・・・いえ、本質的に同じものとされていますが、しかし両者は濃度が異なります。」


彼女の言うことは、この世界での一般常識だ。

魔法を使うとき、この『魔力濃度』が非常に重要になってくる。

特に大きな魔法を使うとき、空気中の魔素が多い場所だと、効果が増幅することが多い。

カイトの鉄道は魔石という魔力結晶を媒体に、安定した魔力供給を行うことで、魔素の薄い地域でも、安定した走行を可能としている。

ただし魔石を用いるのは、あくまで『列車を動かす』時だけ。


魔力電話が良い例だ。

あれは伝道抵抗の弱い、魔石ガラを精錬して棒状に伸ばしたものを回線として使用し、離れた場所から、情報が伝達、共有できるようにした代物だ。

通話先のイメージさえ出来れば、少量の魔力でも遠く離れた相手とも話すことが出来る。

苦言を呈すとすれば、魔力消費が大きいのでMP不足を回避する意味で、通話時間が短く制限されてしまっている点だろうか。

その結果から来た情報伝達不足も、今回の事故と無関係ではない。


「今後こんな事が無いよう、できる事は改良したい」


「私もお力になれれば」


カイトは鉄道に関しては特に、より良くしたいと常日頃から考えている。

事故は哀しい事だが、この機会に改良できる事もある。


一番いけないのは、失敗から学ばず放置する事だ。


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