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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第14章 始まる輸送革命
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第311話・起こるべくして

これからも、よろしくお願いいたします。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。

カイトの主導で作られた、アーバン法国を東西に縦断する鉄道。


この路線は、その全線にわたって単線方式を採用している。

建設費を税収と地方公金などで賄っている以上、出来る限りやすく抑えねば成らなかった。

むろん単線と言うことは、レールの上は一本の列車しか走れない。

運行形態などにおいて、これは大きな制約となる。


だから幾らか定められた距離ごとに、駅とはべつに『信号所』と呼ばれる設備が置かれていた。

ここには『旗係』と呼ばれる役職の者が常駐しており、やってくる列車に進行や停止などの指示を出し、あるいは対向列車とすれ違う。

既にベアル~ボルタ間にも2つの信号所が設けられており、そのノウハウが今回開業した路線でも、いかんなく発揮されていた。


だが鉄道の技術自体は、まだまだ発展途上。

付け焼刃の技術習得も多く、ずさんな管理なども横行しつつあった。

問題と言うのは、往々にして少々の『慣れ』が生じた時に始まるのである。


「事故!?」


真夜中。

ベッドから飛び起きたカイトはメルシェードの、その報せに目を剥いた。

報告に来た彼女は顔色一つ変えず、報告を続ける。


「詳しい事は存じません、駅馬車組合から報告が来たのも、たった今ですので」


「鉄道の事故・・・・!」


なんとかカイトはボンヤリする頭を、両手で抱えた。

事故が本当なら何処どこで、その規模や被害は如何いかがなものか。

ともかく今は、より正確な情報を集め、あるいは対処するのが先決である。


「悪いけどメルちゃん、集められるだけ情報を集めて来てくれ!」


「かしこまりました」


腰を深く折り、メルシェードは部屋の外へ出て行く。

その間にもカイトの心中は、まるで沸騰した湯のように沸きかえっていた。

事故とは何なのか。

自分が現場に行って、あるいは事態の収拾に向かった方が良いのではないか、など。


「こうしちゃ居られない、俺も一刻も早く・・・!」


「お兄ちゃん、どこか行くの?」


半ばパニック状態だったカイトに待ったを掛けたのは、ベッドから起きて来たヒカリ。

その声を聞いて、彼に少しの冷静さが戻った。


「ああ、ゴメン起こした?」


「何かあったの・・・・?」


いつも笑って休んでばかり居るカイトの姿を間近で見ている彼女にとって、真夜中に取り乱している姿は、異様に映ったらしい。


「ここから少し行った場所で、列車が事故を起こしたらしいんだ。 詳しい事は分からないけど、死傷者も出ているって・・・あぁあ、どうしよう!」


鉄道で事故など、未だかつて無い事だった。

カイトの頭の中をよぎるのは凄惨な事故現場と、市民からのバッシングの嵐(妄想)。

自分が主導している鉄道だ、その責任はとらなければならないだろう。


「ヒカリは留守番してくれ、ひとっ走り出掛けて来る!」


「こんな遅くに、今から何処へ行かれるのですか」


部屋を出ようとカイトが戸を開けた瞬間、アリアがそこに立っていた。

彼女も事故の報告を受けているようで、表情は暗く、威圧感はいつにも増して上昇している。

しかし彼は猛牛の如く、その横をすり抜けていこうとした。


「そこを退いてくれ、急いでいるんだ!」


「私も報告なら受けています。 あなたが落ち着かなくて、どうするのですか!」


こんな時でも、アリアは冷静な判断だった。

彼女は混乱するカイトの頭を両手で押さえ、顔を近付ける。


「まずは落ち着いて下さいませ、ご自分の立場と責務を果たして下さい」


アリアに言われて、カイトはハッとした。

今までも先走った行動をして、どれだけの失敗を繰り返してきたことだろう。

まずは頭を冷やすべきだ。


「ごめん・・・、俺がしっかりしないとだった」


彼は頭をかいて、悪びれた様子を見せる。

これを見てアリアも、彼がいつもの調子を取り戻したらしい事を悟り、無言で首を縦に振った。


「事故の状況は分かりませんが、今の時点でも我々に出来ることはあります。 それは―」


「救護、だよね?」


前にグレーツクで同じ事をやっているので、カイトはすぐに答えを出すことが出来た。

経験はカイトをも、成長させていたようだ。

アリアは首を縦に振った後、それに付け加える。


「それだけではありません。 各ギルドとの確かな情報交換の後、原因究明の調査団の編成も成さねばなりませんし、領民への動揺も抑えなければなりません。 情報を統制する方法は幾つか選択肢がありますが・・・・・」


「いや・・・・、事実を整理し終えたらすぐ、街に掲示して貼りだす」


カイトは言葉を被せるように、彼女の『情報を統制する』部分について否定した。

自分がもし領民の立場なら、起こった事実を知りたいと思うだろう。

それに。


「俺はダメ領主だからさ。 根も葉もないウワサが立つ前に、事実は公言しておくべきだと思うんだ」


「・・・なるほど」


目指せ透明政治。

次なる目標は、税金の使い道の公示だ。

出来るかぎり、早い感じで。

いつもは意見を挟んでくる彼女も、今回ばかりは感心しきりと言った様子を見せる。


「これからも領主として、末永くよろしくお願いいたします大公殿下」


「どうしたんだよ、改まって」


アリアとの出会い、思えばベアルとの縁はあそこから始まった。

あの時のカイトは今以上に、場の空気に流されやすい性質たちであり、川を流れる木の葉の如く、あれよあれよという間に大公などになり、辺境へ。

最初は『やめたい』としか思わなかったが、今は『もっと、やれるのではないか』とすら思う事も多い。

―と、話が脱線した。


「ともかく情報が欲しい・・アリア、どうしても行っちゃダメかい?」


「ダメです」


今から屋敷の誰かをカイトの転移で送るにしても、夜遅いだけに、準備等に時間が掛かってしまうだろう。

かと言って領主自ら行くのは、言わずもがな悪手だ。

ブレーキ役のアリアは、これを制止する。


「領主のあなたが出払っては、緊急の対応に難が生じてしまいます。 ここは駅馬車組合からの報告を待ちましょう。 その間に私は、所見を纏めますので」


「分かった・・・・・」


うつむき気味に、カイトは気持ちの籠もっていない返事をした。

理解しきれて居ないのだろう事は雰囲気で分かったが、これだけ言い聞かせたのだから無茶はしないだろう。

・・・・・などと考えていた彼女は、少し考えが甘くなっていた。


「居るんだろうアキレス。 頼みがあるんだ!」


「ここに」


言うが早いか、カイトの影の中からは臣下の礼をとった女魔族が現れた。

元は魔王の配下だったが、カイトへ下った後は日頃、いつでも命を聞けるようみとこうして、影に付いて周っていた。

隠密行動に長けた彼女だが、それより頭に被った平たいモノが気になる。

帽子ではなさそうだが・・・・・・いや、今は関係ない。


「あのカイト陛下、なにか・・・?」


「いいや・・その、ゴメン。 事故の事は知っているか?」


「はっ、失礼ながらお聞かせ頂いておりました」


陰に潜んで付き回っていたのだろうか。

いつもは怒ってしかるべきだが、ドMにご褒美をくれてやっても仕方ない。

それより今は、彼女アキレスの能力を借りる時だ。


「ご苦労だけど、現場に行って来て欲しいんだ。 場所は魔の森の近く、という事しか分かって居ない」


「事故原因の排除をすれば、よろしいのですね?」


一転して黒いオーラを体中から滲み出すアキレス、さすがは元魔将なだけはある。

もし事故原因が単なるヒューマンエラーだったら、どうすうる気なのだろう。


「違うぞ、あくまで見てくるだけだ。 見てきたありのままを俺に、報告して欲しい」


昔なら『大事に備えて周辺の警備も頼む』などと、頼んでいただろう。

そして今まで、それで痛い目にも多く遭って来た。

状況を見てソレを判断して、行動を起こすのはその後だ。


「仰せのままに」


「うん、頼んだ」


話が済むと、アキレスはき消えるように影の中へ、その姿を消していった。

カイトの隣で棒立ちになっていたアリアが、代わる様にして声を出したが。


「屋敷内に居るとは気が付きませんでした。それに、あの殺気は・・・・」


「さっき?」


いつもの調子を崩さないカイトの姿に、アリアは世の理不尽さを感じた。

さっき彼女が『排除する』と言ったときは、その気迫で息すら間々ならなかったと言うのに・・・・・。

言ってもせん無き事なので、それは言わないが。


今は只、魔物災害などが起きていない事を、祈る他ない。


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