第310話・広がる夢と闇
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「次は、何処が良いかなァ~♪」
王都まで鉄道が出来てひと段落したので、次に何処に敷けるかと妄想を膨らましているカイト。
机の上に地図を広げ、バカの一つ覚えみたいに締まらない笑みを浮かべ続けている。
諸々の問題が解決した途端、これだ。
ここに鉄道を、あそこにも路線を。
日本に無かった『国際列車』というのも、地続きのアーバン法国なら可能だ。
建設できれば、夢ではなくなると思うと、ロマンを感じずにはおれない。
ちなみに今のカイトのような状態を、俗に『妄想テツ』という。(マジ)
政務の小さな暇を、如何なく趣味に費やしている姿勢は正しくもあり、また間違ってもいた。
それでも彼は、マイペースを崩す事はしない。
「南のレベッカとか良いな、もしかしたら海底トンネルを掘れば、鉄道だけで連邦にも・・・」
「あのカイト様、そろそろ手をつけませんと」
もうちょっとだけと、メルシェードの忠告を聞き流すカイト。
むろん造るワケではないのだが、机上の空論ほど無駄で、そして金も何も掛からない気張らしは無かった。
彼女も彼の人となりは理解していたし、その行為自体を咎めるつもりは毛頭無い。
・・・ただしソレは、あくまで『すべき事を済ませたら』の話である。
「カイト様、こちらを先に」
「・・・・はい」
地図の上に容赦なく、メルシェードが書類の山を置く。
さしもの彼も野生の勘が働き、遊びモードは強制終了して、仕事の手を動かし始めた。
内容はその全てが、領民からのモノだった。
ご近所が騒がしいので対処して欲しい、馬車が通る際の土ぼこりが、どうにかならないか。
果てや野良スライムを駆除してほしい、などなど・・・
領民達からの要望や苦情は、毎日のように寄せられてくる。
って言うか、スライム駆除はギルドの管轄やろがい。
「・・・もう仕事を、やりたく無いでござる」
ポツリと本音が漏れた途端、メルシェードの冷たい視線が突き刺さってくる。
「何か仰いましたか?」
「ナニモ」
こうなったのは、鉄道が開通する少し前。
アリアが『仕事量を3倍にする』と宣言してから。
あの悪魔は、本当に仕事の量を増やしたのである。
逆に、それだけ今までアリア達に、負担を強いていたとも言えるのだが・・・・。
ベアルの領主として、やるべき事は責任は、あまりにも多い。
忘れがちだが彼はベアルの領主であって、鉄道建設会社の社長にはあらず。
『政務』には、終わりなど無いのだ。
そんな風にやっと気持ちが引き締まりかけたところで、部屋の扉がドカンと開けられた。
ノックもせずにこんな事をしてくるヤツは、現状で1人しか居ない。
「カイト殿様、『れんらくせん』が完成したと聞き及びました!」
メイドラゴンなダリアさんが、血相を変えて部屋に突入してきた。
かなり乱暴に開けられたようで、部屋の扉は真っ二つに割れてしまっている。
後で直さないと・・・・・
「ダリアさん、戸を壊すなよ」
「それどころではありません、鉄道を運搬する船が出来たと聞いてきました!」
「あァ、はいはい」
バンバンと机を乱暴に叩き、メイドラゴンが詰め寄ってくる。
王都方面への鉄道が開通したことで、すっかり下火になってしまっているのだが、もう一つ、この領では大きなニュースがあった。
それが彼女の言う、『鉄道連絡船』である。
出来たのは、鉄道の開通したのと同じ数日前のこと。
アレのおかげで、グレーツクまでの交通の便は飛躍的に向上するはずだ。
飄々(ひょうひょう)とした彼の姿に、メイドラゴンは更に怒りを募らせる。
「ご存知でしたか。 私が造ったというのに、まだ私は乗れて居ないのです!」
「そうだったね」
実はこの連絡船、設計ほかそのほとんどをダリアさんが手がけていた。
新しい物好きの、好奇心の塊の彼女だ。
よくぞ今まで我慢していたと、むしろ賞賛に値するのではないだろうか。
「そんなに乗りたきゃ、乗ってくれば? 手配ならしてやるよ」
「はぁ?」
カイトがそういった瞬間、ダリアは殺気を含めた視線を向けてきた。
彼女は自己中で馬鹿だが、プライドが許さないのかメイドの仕事には精を出していた。
使用人は一般的に、領主とはまた違った意味で、ハードな仕事。
休みなど取れることは無いし、あったとしても2日だけなど、短い場合がほとんどだ。
まして『船に乗りたい』などと言う理由で、メイド長のクレアさんが、首を縦に振るはずも無かった。
「俺の視察にかこつけて、自分も便乗しようって言うのか?」
「だって、ヒマでしょう?」
「ヒマじゃねーし!!」
先ほども言ったように、アリアに仕事の量を3倍以上増やされた影響で、カイトの手元にはうず高く積まれた書類が、山を造っている。
これをやっつけないウチは、今日は休むことも許されない。
繰り越せば次の日に回るだけなので、後回しには出来ないし。
そんなワケで前とは違い、メイドラゴンと遊んでいる時間は無いのだ。
「ホラ、用が無いなら帰った、帰った!」
シッシッと平手で追い出す仕草をすると、彼女はさらに不機嫌そうにする。
しかし、無理なものはムリなのだ。
とうとう根負けしたダリアさんは、それ以上物申すこともなく、そのまま部屋を出て行く。
なんとか仕事が持ち越しになるような事態は、避けることが出来たようだ。
「よし始めるか・・・うん?」
机上の書類に手を伸ばしたカイトは、その内容に目を疑った。
打診元は、ギルド総督会と駅馬車組合のそれぞれから。
鉄道の延伸建設について。
・・・って、え?
「うおおーーーーーーー!??」
驚きのあまり、カイトは奇声を上げた。
これぞ正夢。
少し前まで交渉すら難航していたのに、あちらから打診が来る日が来ようとは。
「メルちゃん、これ本当? ウソじゃない!?」
ぬか喜びだったら、さすがに凹んで立ち直れないかもしれない。
それはもう、輪をかけて必死だった。
念押しするカイトの姿を前に、メルシェードはさすがに、彼から距離を置く。
「うわ、地図まで。 すごいな、すごいなー」
書類の中には、多くの細い線が書き込まれた、アーバン法国の地図も同封されていた。
ウチ、黒いのが既存の『ボルタ~バルア』までの路線。
王都を中心として、枝のように分かれた赤い線が、需要が見込める計画の路線。
幾つかは国外へ伸びる線もある。
ああ・・・夢は広がる。
当時のカイトのテンションは、マックスまで上がっていた。
鉄道が認められたことに、気持ちが大きくなっていたのだろう。
まさかこのとき、出来たばかりの鉄道の存続すら危ぶまれる事件が王宮で起きていたなど、予想だにして居なかった・・・・・。
◇◇◇
遠くベアルで、カイトが妄想を広げていた頃。
ゼイド王たちの居る王宮では、彼に関して意見の衝突が起きていた。
「あのような冒険者あがりの者に爵位をお与えになるなど、お戯れにも程があります。 このまま置いては、我が国の品位は落ちるばかりです!」
「では聞くぞエルフォンド、貴様の言う『品位』とは何だ? 貴族という立場に固執し、保身しかしない国に未来があると言うのか!?」
「まぁまぁ2人とも・・・・・」
ミカナ妃が止めるのも聞かず、激昂する白服のエルフォンドに、寝起きのゼイド王は声を荒げる。
王の子息にあたる彼は、現在のところ王位継承1位に相当する立ち位置にあるはずの、この国きっての貴族であった。
しかし『器ではない』と彼は下り、王位継承権を放棄し、立場を弟へ譲った。
現在では王都近郊のアルベーレの、小さな領を治めるに至る。
哀しきかな、ベアル領のカイトとは差が開いており、それが面白くないのだろうとゼイド王は見当を付けていた。
諸侯とて同じだ。
「そんなにスズキ公が妬ましいか? 冒険者あがりでも立派に責務を果たしている者なら、他にも例はある!」
「そうは言っておりません、事情も伺っております。 ですが不用意に市民に地位を与えては、貴族の在り方に異を唱える者も現れるでしょう、そうなってからでは遅いのです!」
エルフォンドは解体したスラッグ連邦(現在のゴルバ連邦)を引き合いに、王に畳みかけ続ける。
現在のゴルバ連邦は、市民達の蜂起で前帝は失脚し、今も行方不明。
遠い国の話ではない、現に幾つかの街では、市民がデモと称した暴動も起こしいるのだから。
小さいとはいえ彼も一人の領主として、これらに少なからず危惧を抱いていた。
「才あるものに領を治めさせることに、依存はありません。 しかし爵位まで与えていては、他の諸侯の反感を買います。 一部では『王はご乱心されている』とも・・・・・」
「私は乱心など・・・! む・・・・・」
「ゼイド!」
話の途中で王はフラフラと、崩れ落ちるようにベッドへ横たわった。
病み上がりで、無理が祟った結果だろう。
ミカナ妃が咄嗟に支えなければ、転がり落ちてしまうところであった。
ホッと一息つく間もなく、妃は珍しく感情的になる。
「そのような話は、公式な場でなさって下さい! 常識もなっていません!!」
いつもはおっとりとした王妃。
王はもとより、この変貌ぶりにはエルフォンドも返す言葉を失い、タジタジとなる。
しかしそこは、王の血筋と言うべきか。
咳払いを一つして、すぐに佇まいを直した。
「確かにこの話は、公な場で議論すべきかもしれません、非礼は詫びます。 またいつか、ゆっくりとお話したいものです陛下」
形式ばった礼式でエルフォンドが私室を出て行き、ミカナも見送りのため付いて行く。
別れ際に彼女らは、会話を交わした。
「申し訳ありません大公殿下、陛下も意固地になってしまったのだと思います。 ご容赦ください」
「今回は残念でしたが妃殿下、私が憂いているものは陛下となんら変わりありません。 ところで・・・・・アリアは息災ですか?」
この質問に、意表をつかれたような表情を作るミカナ妃だったが、すぐにその顔を綻ばせる。
アリアを可愛がっていたのは、何も王陛下だけでは無かったらしい。
「はい、あちらの大公に良くして貰っているようですよ?」
「そうですか・・・・、私はこれで帰ります。 殿下もお元気で」
妹の事を今でも気遣っているエルフォンドの姿を、彼女は誇らしげに見送った。
だが彼が何を考え、目指しているのかはまだ、誰も知らない―
今後も飲んでいたコーヒーが空を飛んだり、作者がインフルエンザで幻を見て休載など、超展開があるかと思いますが、末永くよろしくお願いいたします。
あっ、でもさすがにコーヒーは飛びません。
たぶん・・・・・・




