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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第14章 始まる輸送革命
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第308話・『会社』をつくろう

今週、インフルエンザで寝込んでいた影響で、来週の投稿が延期となるかもしれません。

あらかじめ、ご了承下さい。

「ふっふーん♪」


ここ最近、カイトは不気味なまでに上機嫌な様子だった。

傍から見ていれば『ヤバい人間』にも見えてしまう彼の笑みだが、いつものこと。

メルシェードを始めとした屋敷の使用人たちは、傍から生暖かく見守っていた。


ずばり、理由は鉄道だ。


ベアル領という巨大な領地を治めているスズキ公は、領主になる前から『てつどー、てつどー』と鳴いていたのは超有名な話。

領主になった後も大きくは変わらず、『一に鉄道、二に人命、三に政務』というおおよそ定型的な領主とは、一線を画す存在として、その名を轟かせている。

朝からのテンションも鉄道が関連しており、完成した鉄道をより、理想のモノに近付ける事態が、今まさに起ころうとしていた。


「お兄ちゃん、とっても幸せそう。」

「うん、ちょっと羨ましい。」


その姿を見ていたヒカリとノゾミも遠巻きにそれを見るが、決して干渉しようとはしない。

世の中には『隣の芝生は青く見える』という言葉があるのを、彼女らは知っている。

そうとは露も知らないカイトは、ロクに仕事もせずに人を待っていた。


「・・・カイト様。」


ゆえに彼の机には、溜まった仕事が山なりとなって積まれている。

それを秘書のメルシェードは頭上の耳をペタンと倒して、残念なものでも見るような視線を向けた。

だがそんな無意味な時間は、そう長くは続かない。

徐々に近づいて来る足音にメルシェードだけでなく、カイトさえも反応した。


「お忙しいところ失礼致します、アリアです。」


「入ってくれ。」


はやる気持ちを抑えるカイトをよそに、アリアは書類を手に携えて私室へ入ってきた。


「遅くなりましたが、頼まれていた資料諸々を用意しました。 カイト様の仰っていた『リョコーガイシャ』の設立の準備は既に、整えてあります。」


「・・・にしては、薄いね?」


カイトの場合は特にだが、彼は政務の大体を、妻のアリアに任せきりにしていた。

最近は解消されつつあり、彼女は空いた手で、今回のようなイレギュラー対応を一手に引き受けている。

そのわりに量が少ないので、カイトは驚きを隠しきれなかったが、これにも理由がある。


「カイト様は『大公』という、この国において本来であれば大きな発言力を有している貴族なのですよ。 領には自治権が認められていますし、成否はともかく、それに盾突くものがあるとすれば、王陛下だけでございます。」


「こわいね。」


アリアが胸を張って説明した事に、本人のカイトの背中には悪寒が走った。

それは例えば『ベアル領では明日から、女はミニスカしか穿いてはいけません』と言ったら、基本的に現実になるということ。

いや、しないけど。


「今、おかしな事を想像しておりませんでしたか?」


「してない、してない! 何にもしてない!!」


少ししか・・・。

いぶかしんでいたアリアは、しばらく経つと顔を離し、持っていた書類に目を落とした。

考えている事が読まれていたら、半殺しじゃ済まないところだ。

早く話を逸らそう。


「と、ともかく有難う。 苦労を掛けたね。」


「これも務めですから、お構いなく。 申請されていた『視察』の日程の候補を上げておきましたので、後でご確認下さい。」


仕事早いなー、などと洩らしながら、カイトは渡されたカレンダーを受け取り、さっそく目を通した。

彼女に頼んでいた、もう一つのこと。

それは旅行会社設立における、旅行プランの『視察』だ。


何度も説明している通り現状、この世界で旅をしているといえば、旅人と冒険者のほかは、難民ぐらいのもの。

日々を暮らすのに精一杯で、日本で言う『観光』などと言った類のものは無い。

だがカイトは、ここで『そうか』では済まさない。

鉄道と同じだ、無いなら作れば良いのだ。

まずは手始めとして、興味を持ってもらう。

そのためには、自ら被験者となるのが一番だ。

決して休みたいとか、自分が旅をしたいとか、そういう事ではない。

まったくもって無い。

これはあくまで、政務の一環なのだ!


「留守は、クレアさんたちに任せるんでしょ? 投書箱も設置しておかないとね。」


ここ、重要。

アリアと俺が居なくなったら、屋敷は使用人の人たちだけになってしまう。

無用心だとか言うのではなく、留守中の問題発生を未然に防ぐのが目的。

封書などが届いた際、入れておく『箱』を用意しておくのは、ごくごく当たり前の事だったが、アリアは首を傾げた。


「留守とは・・? 私が残っているので、心配は無用と思いますが。」


「え゛、アリアは来ないの!?」


「はい?」


少しの間、2人の間に静寂の時間が流れる。

てっきりアリアも来るものと思っていただけに、カイトは驚きを隠しきれない。

考えの齟齬そごを理解したアリアは、いち早く彼に反論した。


「私は領主の妻です。 お出掛けになっている際の留守を預かるのは、婦人としての責務です。」


「いやいや、そうかもしれないけど!」


伊達に領主はやっていない、幾らカイトが馬鹿でも、この世界の常識などは勉強済みだ。

その中には当然、王や爵位などの既述もあった。

領主が出張や召喚で屋敷を留守にする際、その妻(婦人)が領内の責任を引き受け、代行すると云う事も。

だが、これまでグレーツクの災害救援などの時も、彼女は付き従ってきてくれた。

『行けない』という彼女は、言い訳にしかならない。


「アリアも行こうよ! 旅の企画には、より多くの視点が必要だ。」


「メルシェードを供に連れてください、ノゾミやヒカリも居るではありませんか!」


せっかく整備したバルアに、まったく客が入らず。

では客を作ろうとエイチア○エスやJT○よろしく、この世界初の旅行会社を立ち上げようとしたのが、そもそもの今回の発端だ。

客層は老若男女、冒険者から貴族まで全て。

だがアリアは頑として譲らなかった。


「私は不適任だと言っているのです。 そもそも私は元は王女でして、俗世から離れた生活を送っていた者としては・・・」


「・・・・。」


目を泳がせ、言い訳を始める彼女に、いつもの勢いは無い。

こんなアリアを見るのは、カイトもこれが初めてだ。

だが、そんな彼女アリアだからこそ、カイトには見えて来ない、例えば貴族達の視点から物事を見ることが出来る。

旅行会社の成否は、鉄道にも直接に関わって来るので、カイトはいつになく必死になっていたのだ。


「会社はメドがついて、組合にも話の主旨は伝わった、あとは旅行の企画が必要なんだよ! 分かるだろう??」


「ですから私は・・・私は、鉄道というモノが苦手なのです!」


「ごふ・・・っ!」


アリアの口を突いて出てきた言葉に、カイトは目眩めまいがするようだった。

そして一つ、忘れていた。

彼女を前にボルタまで鉄道に乗せた際、それは難儀をした事を。

それでも協力してくれていたのは同情なのか、若しくはそれこそが、彼女の優しさなのか・・

いずれにせよ、これ以上の押し問答は無駄のようだ。


「分かったよアリア・・・、俺たちだけで行く事にする。」


「では日程の調整等は、こちらでお任せください。」


自分の主観を、他人に強制すべきではない。

自分がされて嫌なことはしないのが、カイトのスタンスだった。

・・・迷惑は掛けてしまっているけど。


「お姉ちゃんは行かないの?」

「みたいだね。」


アリアを抜いたとして、メンバーはヒカリとノゾミ、メルシェードを含めた最小で4人。

多くてもプラス4人と言ったところか。

アリアとテツ旅が出来ないというのは、残念な事このうえ無いが仕方ない。

でも、これだけは言わせて欲しいと、カイトは口を開く。


「いつか休みを作って、またバルアに行こう。 その時は俺が転移で連れて行くからさ。」


別に、他意はない。

楽しいことは共有したいし、旅行はたくさんで行った方が良いに決まってる。

だが去り際だったアリアは足を止め、彼の方に向き直った。


「・・・もしや、それが目的だったのですか?」


「え? いや、どうせ行くなら皆との方が良いなって。」


アリアと出かける事はあっても、『旅行』という感じはしなかった。

いつも仕事漬けの毎日なのだから、タマの家族旅行ぐらい・・

はっ、しまっためられた!

俺が遊び感覚だと云う事を、アリアにバラしてしまった。

彼女が策士だということを、失念していたよ。


「ごめんなさいアリア。 ちょっと楽しみにしてました、久しぶりに鉄道で旅が出来ると思っていたら浮き足立っちゃってと言うか・・・!」


「・・・きます。」


「え?」


カイトは怒られる前に、全力で四肢を床につけて土下座した。

そのせいで、アリアが言った事が上手く聞き取れなかった。

カイトが肩を震わせて、恐る恐る顔を上げ首を傾げると、アリアはソッポを向いてこう言った。


「私も行くと言っているのです、何度も言わせないでください!!」


「・・・え、良いの?」


それ以降、アリアは背中を見せながら何も言わず、カイトの前に立ち続けた。

かたくなだったアリアが、急に考えを変えた理由。

そんなものはカイトには関係ない。


「本当、でも大丈夫??」


「その代わり出発まで、政務を片付けて行かねばなりませんが。」


俺とアリアが居なくなるのだ、それは当然だろうとカイトは思った。

夏休み最後の日みたいに、泣きを見るのはゴメンだ。

むろん、異存は無い。

背後を向いているアリアをよそに、カイトは後ろに控えていたメルシェードへ指示を飛ばした。


「メルちゃん頼む、大事な順番に仕事を持ってきてくれ!」


「既に纏めてあります。」


すべては遊ぶ・・もとい旅行会社の成功のため。

カイトはいつもは見せないヤル気を全身からみなぎらせ、机に向かった。

普段からこれなら、或いはカイトは王宮勤めになれるかもしれない。

だが自分のペースでやるのが一番では無かろうか。


すっかり置き去りにされたアリアたち3人は、振り回され損と言えるかもしれないが。

みなさんも、体調管理には気をつけてください・・・・。

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