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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第14章 始まる輸送革命
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第307話・ダリアさんと休戦しまして

これからも、よろしくお願いいたします。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。

ダリアは最近、ずっと虫の居所が悪い。


それを肌で感じた使用人の多くは、彼女から距離を置いていた。

見た目こそ可愛げのある出で立ちなので、おおよそ忘れられがちだが、彼女は地竜というドラゴンの亜種。(自称)

その力を持ってすれば、一夜にして王都を灰に帰すという・・・(ウソか誇張か、それは別問題として)

当然ベアルがそうなっては一大事なので、領主のカイトと彼女との間には、ある”取り決め”がされていた。


それは定期的に、街外れの森でストレス発散する事である。


そのドラゴンは初めて彼に会ったとき、驚いた。

自分より強くある存在に、そして人間1人に負けた自分に。

破壊狂で向上心もプライドも高い彼女が、素直に『弟子にしてください』などと言える筈も無く。

身を寄せて現在に至る。


「うぅ・・・、頭痛が痛い。」


だが最近になって、カイトは忙しいため時間が取れないらしく、そのストレス発散がおざなりになりつつあった。

では逆にモノづくりと言っても、得意だった船作りは魔導船の設計をさせられて以降、見るのも億劫に。

頭痛が痛いなどと言うところにも、そんな彼女の心理が顕著に現れていた。

それもこれも、全部カイト殿様のせいである!

そうを思うと、ダリアは今まで自分を制してきた事が、バカみたいに思えてきた。


「あぁ、馬鹿馬鹿しい!」


このままではストレスで死ぬとか、暴れるとか言えば彼はしぶしぶでも、付き合うだろう。

私は誇り高きドラゴン、なぜ約束を守らねばならない?

俄然、元気が出てきたダリアは、脱兎のごとく勢いで彼の居る私室へと向かった。


「カイト殿様、お話があります!」


バーンとノックもそこそこに、領主の私室に入るメイドラゴン。

しかし中には確かにカイトは居たものの、少しもこちらに気付いた素振りは見せない。

まるで、無視されているみたいな気分だ。

それが更に、彼女のカンに障る。


「カイ・・・!」


「シー!!」


カイトと言いかけた瞬間、彼の傍らに居るヒカリによって、それは阻まれた。

胸元には魔石が淡く光っており、彼女が人ならざるものである事を物語っている。

ダリアはガシガシ頭を掻くと、暴れるでもなくヒカリの横へと付いた。

ともあれ彼が何をしているのかが、とても気になったのだ。


「何ですか、これは。」


「ダリアさん、いつの間に居たの?」


本当に気付いていなかったのか、驚いた様子を見せるカイト。

さしものダリアも気が立っていた関係で、とげのある言葉を返した。


「それでも領主ですか? これまで何人もの人の王を見てきましたが、いささかカイト殿様は気配察知などに優れているからと言って、無防備が過ぎるのでは? いつか暗殺されて死にますよ。」


「ぐ・・・、ビシッと痛いところ突くなぁ。」


いつ寝首をかかれるか分からない、それを暗に指摘されたカイトは、思わずダリアに苦悶の表情を見せた。

いつも彼女とは命をかけた死闘を繰り返しているので、(そのままの意味で)その言葉には妙に説得力があるのだ。

彼女が来て良いことは無いので、早々にお引取り願う事にする領主カイト


「お帰りは、あちらだよ。」


「そうは参りません、今日こそは取り決めを守っていただかねば。」


何の事だろう、とカイトは首をかしげた。

彼は素で忘れてしまっているらしい。


「・・・用事って何だよ?」


「私と戦って下さい。 このままでは、ベアルに災いが・・・」


上からだか、下からだか分からない言い回しで、ダリアは邪悪な笑みを浮かべ迫ってくる。

だがカイトも、こういった対応には慣れたものだった。


「もたらすな、俺は忙しいんだよ!」


何を言うのかと思えば。

あまりに一方的な話に、カイトの興味は一気にくしたように視線を外した。

むろんダリアは、このまま引き下がるつもりは毛頭ない。

今日こそは我が身の鍛錬を・・・


「ダリアお姉ちゃんも食べる? さっき料理の人にもらったの。」


「・・・。」


憤慨しているダリアにヒカリが差し出したのは、皿に並べられたクッキーだった。

バカにしてはいけない。

この屋敷で働いている使用人は、みな王宮から引き抜いてきた選りすぐりエリートばかりで、みな能力が高い。

それは料理人に対しても言えることで、彼らの出すものは、パン1つにしても極上の一品。

このクッキーは、恐らくお茶菓子として出されたものだろう。

自然、メイドラゴンの腹の虫が鳴る。

でも勝手に食ったことがクレアなどにばれたら、叱りを受けるかも・・・

この一瞬の困惑に、カイトはすかさず付け入った。


「ダリアさん、戦うのはよさない? 休戦のしるしとしてそのクッキー、全部やるから。」


「(ゴクリ。)」


考えろ、メイドラゴン。

クッキーは、そうそう食べる機会は訪れない。

戦うのは、明日でも出来る。

ダリアは一瞬の迷いの末、クッキーを頬張った。

交渉成立である。

カイトはその光景を、邪悪な笑みを浮かべて見ていた。


「ほほほでハイホほろはま、ふぁにほひへおいへへ?」


ボリボリとクッキーを噛み砕く音を響かせながら、ダリアはカイトへ質問をぶつける。

しかし口の中にはクッキーが入っていたので、くぐもって内容は聞き取れない。

カイトは眉間みけんにシワをよせて、行儀の悪いメイドをたしなめた。


「話すか食うか、どっちかにしろよ。 汚いな。」


「(モゴ・・・。)」


彼女は食うことを優先したようで、飲み込んではクッキーの載っている皿に手を伸ばした。

まったく、今度は何を言い出すのか・・・。

心を読めば早いかもしれないが、彼女を相手にそんな事をしたら、後で弱みに付け込まれるばかりだ。

ダリアは食べたものを飲み込むと、すかさず質問をぶつけた。


「ところでカイト殿様、何をしておいでで?」


「ああ、コレか。」


カイトの警戒に反して、ダリアが聞いてきたのは、何の邪気も無いことだった。

珍しく一生懸命、仕事をしていたので不思議に思われたのだろう。

特に隠すような事でもないので、カイトはそれを見せた。


「旅行会社を作ろうと持って、組合へ協力をお願いする打診書を用意していたんだ。」


ちなみに彼の言う組合とは、駅馬車の事である。

ホレ、とカイトは書いていたものを見せたが、ダリアは首を傾げるばかりだった。


「『リョコーガイシャ』とは、何ですか?」


数百年の時を生きてきたダリアでも、そんな単語は知らなかった。

旅行も、会社という概念さえ無いのだから、無理もない。

だが幸い、カイトが『異世界を渡ってきた者』である事をダリアさんは知っている。

その分だけ、口下手な彼でも説明は幾分、容易だった。


「俺の世界では誰でも好きに、どこへ行っても良いんだ。 たとえ貴族や冒険者でなくても、外国でもどこにでも行けるんだよ。」


「それは面妖な・・・。」


ダリアは目を細めて、感嘆を洩らす。

そしてカイトから流れてくる、断片的な記憶の景色を垣間見た。

いくら天下無双の2人組みでも、世界を渡るすべはない。

魔法も錬金術も無い、代わりに『カガク』が発達した世界。

好奇心の塊ともいえるダリアに、それは興味を持つなという方が無理な話だ。

まその一つが、これなのだろう。


「なるほど。 つまり旅の仲介をするのが、その『リョコーガイシャ』なる存在なのですね。」


「大体そうだね。」

「へー?」


旅は疲れるだけだと言う人も居るが、旅は何も物見遊山だけが目的ではないと思う。

いつもとは違う場所へ行き『非日常』を過ごすことで、良い意味でのストレス発散にもなる。

あるいは見知らぬ土地で、見識を広めると言うのも良い。

以上、新生カイト旅行会社をどうぞ、よろしく!

ヒカリには分かっていないようなので、また後で改めて説明しよう。


「さっきアリアが来てね。 いくつかの領内で売り込む許可を取り付けてきた。」


「はあ、なるほど。」


ベアル領のみで売っても、領民のほとんどは元を辿れば、バルアの出身。

旅行会社を作ってもこれでは、すぐに潰れてしまう。

そこで鉄道の通るシェラリータや王都などを中心に、これを売り込もうと目論もくろんだのであった。

そのための、『許可』である。


「これで利用客を増やせば、お客1人当たりの運賃が下げられる。」


現在の汽車賃はベアルから王都までを例にすると、その金額は銀貨八枚に達する。

この世界における一般的な稼ぎが、一月ひとつきに銀貨十枚前後である事を考えても、その運賃はあまりに高い。

だが人や物を多く載せれば、輸送単価は安く抑えることもできる。

むしろそうならないと、カイトの鉄道に未来は来ない。

夢だけでは、飯は食っていけないのである。

ダリアもその辺りの事情には、一定の理解を示した。


「そういう事ですか・・・しかし金に左右されるとは、人間とは面倒なものですな。」


「ああ、そうかい?」


貯金を楽しみにしているヤツが、何を言うか!

・・と言いかけて、彼は止めた。

『中○国』でもドラゴンが黄金を貯めていたし、似たようなものだろう。

銅貨風呂に入っているのを偶然に見た時は、さすがに引いたが。


「そうだ、ダリアさんも手伝ってくれよ。 チラシを作ってるんだ!」


「何ですかソレは、断じて嫌ですよ!!」


このノリで、前の魔導船の設計の時にはヒドイ目に合わされたのだ。

ダリアはカイトの申し出を、にべもなく断った。

だが、彼女は未だに分かっていない。

クッキーを始め、自らがモノに(特に食料)釣られ、いつも彼の手玉に取られている事に。


知らぬが花かも、しれないが。

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