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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第14章 始まる輸送革命
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第304話・仕事が長引いて、寝られない

これからも、よろしくお願いいたします。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。

ベアルから、王都の先まで鉄路で一筆書きにつながって数週間が過ぎ。

カイトことスズキ公は、夜のとばりが下りてもなお、私室で机に向かっていた。

彼は一国の領主、いつも遊んでばかりに見られるが、やるべき事はいつも山積みなのだ。

今日も政務を終わらせることが出来ず、こうして夜まで掛かってしまったのである。

眠気や疲れは回復魔法などで誤魔化しているが、体に悪いに違いない。


「寝たい・・・。」


彼の心の声が漏れる。

既にベッドでは、魔族っ子のヒカリが静かに寝息を立てていた。

少し前なら「よし、寝よう」と、本能の赴くままベッドにダイブしていた事だろう。

しかし、今はアリアの台頭で仕事量を大幅に増やされている。

寝ても仕事は『繰り越し』になるだけなので、イコール明日の寝る時間が遅くなるだけ。

ひいては休みの日を、無慈悲に無くされる。

アクマだ。

王宮で初めて会ったときは天使光臨とか思ったけど、アリアの前世は地獄の鬼に違いない。


「・・・カイト様。」


「おぁぁああぁあ!? す、すみませんごめんなさい、ちょっと出来心なんです!」


カイトは自分の名を呼ばれた事にひどく動揺し、脇目も振らずに必死に釈明をした。

これ以上、仕事を増やされてたら過労死してしまう!

だが彼女と目が合った瞬間、その心配は杞憂だったことに気が付いた。


「な、なんだ・・・・、メルちゃんか。」


「?」


通称メルちゃんこと、秘書のメルシェード。

カイトが道端で助けた5番目の獣人女性で、今はカイトの仕事の補佐をしている。

今も例に洩れず、カイトに頼まれた資料を持って、部屋に戻って来たところだった。


「いかがされました? 汗がスゴイですが。」


「いや大丈夫・・・、問題ない。」


大丈夫。

さっきは心で思っていただけで、声には出ていなかったはずだ。

カイトは必死で笑顔を取り繕い、平静を装った。

彼が『大公』という役職でなかったら、即通報レベルに怪しさ満点な顔で。

だが怪しいのはいつもの事なので、メルシェードは気にせず頼まれたモノを机の上に置いた。


「いつも、ありがとう。」


「・・・カイト様、奥様が困惑しておりましたよ。 使用人に対して、あなた様の腰が低すぎると。」


自然と漏れたカイトの感謝の言葉に、思わずメルシェードは苦言を呈した。

だが当の本人は、どこ拭く風といった様子。


「どうして? 何かしてもらったら『ありがとう』って言うの、当然でしょ?」


それはそうですが・・と、メルシェードは言葉を詰まらせたように、押し黙った。

あんまりカイトに貫禄が無さ過ぎて、そう思えないのだが彼は、アーバン法国という諸侯でも最上位くらいに位置する『大公』という爵位につく貴族。

使用人勢は彼に感謝どころか口を利くのも、目に触れるのすらはばかられる。

本来であれば。

未だに自分を平民ぐらいにしか考えていない男に、その考えは無茶かもしれないが・・。

元王女だったゴリゴリ貴族のアリアにとってすれば、たまったモノではなかった。

もはや使用人たち含め、彼に面と向かってソレを言う者は、どこにも居ないのだが。


「それよりメルちゃん、知恵を貸してほしい。」


「はあ。」


言うなりカイトは、後ろに下がろうとしていたメルシェードに数枚の紙を見せた。

上質の羊皮紙に手書きされたソレには、彼の手によって赤線が、そこかしこに引かれている。

彼女は食い入るようにそれを見つめたあと、浮かんだ疑問について質問した。


「これは・・・?」


「ただの報告なんだけどさ・・・、ついでに5日前と10日前のも見てくれ。」


それは、駅馬車組合からの『報告書』だった。

大きなため息をつきながらカイトは、同じように書類を彼女の眼前に持っていった。

ほんの少し目を通して後、メルシェードは困惑する。


「ほとんど・・・同じですね。」


「日は違うのに、同じような報告が上がっているんだよ。問題は早めに解決しておきたくてさ。」


メルシェードも彼の言わんとしている事が、やっと理解して首を縦に振った。

同じ報告が上がると言うことは、そこに問題があるという事に他ならない。

問題は正されるべきだ、と彼は言いたいのだろう。

この領主様の良いところは愚痴るが、問題を解決する為に日々、こうして努力する事である。

愚痴って、考えなしのバカで、かなりテツオタだけど。


「微力ながら、私などで良ろしければ是非。」


「良かった、メルちゃんが居れば百人力だ! 早速なんだけど、この1枚目から頼む。」


そう言って、彼は山積みの書類から数枚を抜き出して、メルシェードに渡した。

受け取ったメルシェードはめくるたびに、影を帯びていく。

それを見ていたカイトの表情からも、色が消えていった。


「あ・・、メルちゃんにも難しい?」


「いえ・・、そういうワケではないのですが。」


議題その1。

魔物ほか野生動物との衝突事故。

ほぼ毎日のように事故は起きているようで、ときおり汽車に驚いた魔物による魔法攻撃がある辺り、異世界ならでは。

特にこの辺りは魔物が多く出没するので、今後の事も考えると傍観は出来ない。


「しかし相手は野良です。 野生生物の中には上位種のドラゴンなども居ますし、根本的解決を図るには・・・。」


「まあ、そうだよねェ~~。」


野良の上に落ちこぼれっぽいダリアさんですら、あの強さだ。

いくら路線上に障壁なんか張っても、もたないだろう。

魔物の嫌がる臭いや音は、無いものか?


「それさえどうにかなれば、盗賊も解決して、一挙両得なんだけど。」


「それが、もう一つの問題ですか?」


魔物同様、手を焼いているのが盗賊の存在だ。

ボルタへ鉄道が出来た時もタマに出没していたのだが、王都へ延伸した後の被害は、その比ではない。

前は半年に一度あるか無いかだったのに、開業3日目にして5件も発生していたのだ。

連想するのは、西部劇に出てくる列車強盗。

銃声を聞けば、魔物も追い払えるか?


「となると、ガンマンが・・・。」


「我慢?」


カクンと首を傾げるメルシェードを無視して、カイトは思案にふけった。

目には目を、西部劇では腕利きの保安官が強盗から列車を守っていたらしい。(※彼らが守っていたのは正確に言えば、現金輸送車の方だが)

魔法ありきの世界なら、剣士や魔術師がソレに当たるだろうか?

もし頼むなら冒険者ギルドだろうが、報酬ほうしゅうが高くついてしまうし・・・

考えていたら、また頭がボーっとしてきた。


「カイトさま?」


「あ、あぁゴメン。」


下がりそうになるまぶたを開け、カイトは眠気を誤魔化した。

しかしそれをメルシェードは、見逃さなかった。

疲労は仕事や政務の、大敵である。


「夜も遅いですし、もうお休みになられては? ギルド関係の書類の準備は明日までに、私が整えておきますので。」


「いやいや、それはダメだよ! 俺の仕事を君に任せるだなんて。」


「違います、あくまで私は、補佐をさせて頂くだけでございます。」


「・・・うーん・・・・・。」


カイトは考えた。

彼女の言うとおり、この辺で寝ないと明日がキツくなるのは明白。

下手に頑張ったら、ここぞという時に踏ん張りが利かなくなってしまう。

ここは従ったほうが吉か。


「分かった、よろしく頼むよ。」


これは仕事を円滑に進めるため。

戦術的撤退であると、意味不明な理論を自分に言い聞かせ、カイトはメルシェードと共に後片付けを始めた。

これで心置きなく、休める。

彼女が見ておきたいと言うので、報告書の一部を彼女に渡した。


「ではカイト様、おやすみなさいませ。」


「あぁ、おやすみ。」


慣れたものでカイトが寝支度に入るのを見計らい、メルシェードはお辞儀をして部屋を去ろうとする。

・・と去り際、彼女は背中を向けたまま口を開いた。


「それとカイト様、先ほどの事は聞かなかったことにします。 ・・・が、奥様の前では言われぬように。」


「え゛・・・?」


先ほどの愚痴は、ガッツリ彼女に聞かれていたらしい。

言葉に出てしまっていたか・・・

寒気を覚えるカイトを尻目に、秘書のメルシェードは戸を閉める音だけ残して、それ以上は何も言わずに去って行った。


今年度中には『諸国編』に突入!

・・・したいです。

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