表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第3章 王都
33/361

第31話・恐い目

つたない文章で申し訳ございません。

多くのブックマーク、真にありがとうございます。


「王都の案内料として、お金を受け取ってください。」


「だめです。」


「「・・・・・。」」


さっきからこの押し問答が続いている。

今はもう、昼。

朝に起きたら、ハントさんたちが門が開くのを、外で待っていたので付いていった。

ちなみにハントさんは、俺の目の前にいる商人さんのことである。

王都に来るのは初めてなので、忙しいのは承知で、彼らにはギルドやうまい料理屋などを教えてもらった。

そしてカイトは案内料として、昨日このハントさんからもらったお金を返そうと思っていた。


昨日もらったお金は、金貨三枚。

破格過ぎる。

商人はお金を大切にすると聞いたのに、ぜんぜんそれに合っていない。

護衛料と言っても、俺とノゾミはそれに類するような事は一切していない。

だから、このお金は今は、受け取れなかった。


「だからですね、私がラウゲット様にしかられるんです! そのお金はどうか、どうか!!!

お納めください。」


ラウゲットとは、シェラリータの領主様である。


「黙ってれば大丈夫です! 俺が会ったときにはもらったことにしておきますから!!」


料理中の母の目を盗んで、夕飯のおかずをつまみ食いした子供みたいなことを言ってみた。


「いけません! 僕はこれから王都の紹介で会議があるので、しつれいします! ・・・・それからカイトさん、早く元気を出してくださいね?」


「え? ああ・・・・まってくださいよ~~~!」


意味深なセリフを残し、人の喧騒けんそうへと消えていくハントさんに、手を伸ばす俺。

こんなシチュエーション、日本のどこかのドラマで見たな。


そんなことを考えているうちに、本当に彼を見失ってしまった。

・・・・・まあ、次に会ったときに返そう。

俺はそう、心に誓ったのだった。



◇◇◇



「はい、カイト・スズキ様とノゾミ様、王都到着ですね。 ご報告ありがとうございます。

泊まる場所などは、お決まりですか?」


今、俺はノゾミと一緒にギルドの王都支部にいる。

さすが王都支部というだけあり、建物はすごく大きい。

シェラリータにあったそれとは、比べ物にならない。

もしかしたら、かの街の領主邸よりも大きいかもしれない。


「いえ、宿はこれから探します。 いくつか候補こうほがあるので。」


「そうですか。 決まったら教えていただければ幸いです。 緊急依頼や、指名依頼の際の召集をかける際に便利ですから。」


「分かりました。」


今のところギルドの用事はこれだけなので、受付譲さんに挨拶あいさつしてこの場を後にする。

今宵の宿を決めたら、しばらくゆっくりするのも良いかもしれない。

ノゾミを従え、カイトは王都の繁華街へと繰り出して行った。



「ふぅ・・・・」


ギルドから出ると同時に、風船から空気が抜けるように全身から力を抜くカイト。

いつまでも悶々としていても、しょうがない。

彼は後ろを振り向くと、付いて来るノゾミへ話しかけた。


「ノゾミは、どんな宿が良い? いくつか候補があるんだけど、やっぱり飯が美味いところが良いかな?」


カイトが質問すると同時に、ビクッと体を震わせ、うんうんと頷く彼女。

恐らく彼女は、今の話を聴いていない。

昨日からずっと、この調子だ。

もしや体調でも悪いのだろうか?


「ノゾミ、そんなにオドオドしてどうしたんだ? 何か怖いものでもあったのか?」


なかなか話したがらないので、気にしないからと先を促すカイト。

するとノゾミは、言い難そうにしながら、こんな事を言った。


「カイト、昨日から目つきが怖いよ? どうしたの、まるでガーベアやコンドルウルフみたいだよ??」


「へ!??」


思いがけないノゾミの発言に、目を丸くさせるカイト。

怖いのって、俺の目ッスか。

そんなことを言われるなんて、思っても見なかったのでビックリしてしまった。

俺が魔の森でゴブリンとか、はぐれ狼とかを狩っていたときにも、彼女にそんなことを言われなかった。


この数日で、俺には多くの経験があった。

乗っていた馬車が、盗賊に襲われたこと。

ノゾミが切られ、その相手を俺が切ったこと。

そして目の前で、いくつもの命が散ってしまったこと・・・。

『盗賊は人にアラズ』発言も、未だに脳裏に焼きついている。


自分なりに整理を付けたつもりだったのだが、押し殺していたつもりの心は、表情として表に出てしまっていたようだ。

そうか・・・さっき、ハントさんに「元気を出してください」と言われたのも、そういうことだったのか。


「心配かけてスマン、俺は元気だよ。」


カイトの精一杯のカラ元気を見て安心したのか、ノゾミもいつもの笑顔を取り戻した。

それでいい、俺の悩みなんかに、彼女まで巻き込まれることはないのだ。

でもその姿は、ちょっと羨ましくも映った。


「ノゾミは良いなァ、悩みなんか無さそうでさ。」


何でもない一言だった。

他意はなく、いつも屈託のない笑顔を振りまく彼女は、この世で一番幸せそうに見えたのだ。

だが彼女はこの言葉を聞くと、その歩みを止め、何かを呟いた。

しかしその内容は、王都の喧騒の中でかき消され、よくは聞こえない。

立ち止まった彼女へ歩み寄って、いつものように頭に手を置くと、それを振り払うノゾミ。

カイトには、この行動の現すことが何なのか、まったく理解できなかった。


「どうした、ノゾミ?」


「・・・・思う?」


「へ?」


蚊の鳴くようなノゾミの声は、近くに居ても聞き取ることは出来なかった。

もう一度と、聞き返すカイト。


「私に悩みがないと思う!? 私にだって悩みくらい・・・・!!」


「!!」


ノゾミは顔を上げると、涙をいっぱいに溜めた瞳で俺を、キッと睨み返してきた。

まさか彼女が。こんなに怒るとは思わなかった。

騒ぎを聞きつけてか、王都の群集が遠巻きにして、俺たちを中心にポッカリと穴のような空き地が出来た。

ここで言い争っては、更に注目を浴びてしまう。

そんなのは御免だ。


「ノゾミ、続きは後で聞く。 ひとまずここを離れよう。」


差し出した右手を、再び払うノゾミ。

何気ナシに言った言葉とはいえ、あの一言で深く心を傷つけてしまったらしい。

だがこんな場所でケンカをしては、周囲の皆さんに迷惑を掛けてしまう。


「さァ。」


再び差し出した手を、しかしノゾミはとらなかった。

払いのける拍子に、彼女の指の爪でひっかかれ、カイトの手の甲からは血が滲む。

それを庇いつつ、カイトは彼女へ視線をやった。


「ノゾミ・・・・?」


「き、嫌い! カイトなんか大っ嫌い!!」


少しづつ、俺から距離をとり始めるノゾミ。

このままではイケない、そんな気がしてカイトは彼女との距離をつめようとした。


「うわあああああああああああああああん!!」


しかしノゾミは、俺とは反対方向へ走って行ってしまった。

その方向に居た群衆は、まるでレッドカーペットのようにノゾミの行く先へ道を譲る。


「ノゾミー!!」


すぐに我に戻り、群集を掻き分けて彼女を追うカイト。

しかし彼女の姿は、王都の群衆の中に消えてしまったのだった・・・・・・






王都編は、そこそこ長く書くつもりです。

長い目でどうか、よろしくお願いいたします・・・・・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ