第31話・恐い目
つたない文章で申し訳ございません。
多くのブックマーク、真にありがとうございます。
「王都の案内料として、お金を受け取ってください。」
「だめです。」
「「・・・・・。」」
さっきからこの押し問答が続いている。
今はもう、昼。
朝に起きたら、ハントさんたちが門が開くのを、外で待っていたので付いていった。
ちなみにハントさんは、俺の目の前にいる商人さんのことである。
王都に来るのは初めてなので、忙しいのは承知で、彼らにはギルドやうまい料理屋などを教えてもらった。
そしてカイトは案内料として、昨日このハントさんからもらったお金を返そうと思っていた。
昨日もらったお金は、金貨三枚。
破格過ぎる。
商人はお金を大切にすると聞いたのに、ぜんぜんそれに合っていない。
護衛料と言っても、俺とノゾミはそれに類するような事は一切していない。
だから、このお金は今は、受け取れなかった。
「だからですね、私がラウゲット様にしかられるんです! そのお金はどうか、どうか!!!
お納めください。」
ラウゲットとは、シェラリータの領主様である。
「黙ってれば大丈夫です! 俺が会ったときには貰ったことにしておきますから!!」
料理中の母の目を盗んで、夕飯のおかずをつまみ食いした子供みたいなことを言ってみた。
「いけません! 僕はこれから王都の紹介で会議があるので、しつれいします! ・・・・それからカイトさん、早く元気を出してくださいね?」
「え? ああ・・・・まってくださいよ~~~!」
意味深なセリフを残し、人の喧騒へと消えていくハントさんに、手を伸ばす俺。
こんなシチュエーション、日本のどこかのドラマで見たな。
そんなことを考えているうちに、本当に彼を見失ってしまった。
・・・・・まあ、次に会ったときに返そう。
俺はそう、心に誓ったのだった。
◇◇◇
「はい、カイト・スズキ様とノゾミ様、王都到着ですね。 ご報告ありがとうございます。
泊まる場所などは、お決まりですか?」
今、俺はノゾミと一緒にギルドの王都支部にいる。
さすが王都支部というだけあり、建物はすごく大きい。
シェラリータにあったそれとは、比べ物にならない。
もしかしたら、かの街の領主邸よりも大きいかもしれない。
「いえ、宿はこれから探します。 いくつか候補があるので。」
「そうですか。 決まったら教えていただければ幸いです。 緊急依頼や、指名依頼の際の召集をかける際に便利ですから。」
「分かりました。」
今のところギルドの用事はこれだけなので、受付譲さんに挨拶してこの場を後にする。
今宵の宿を決めたら、しばらくゆっくりするのも良いかもしれない。
ノゾミを従え、カイトは王都の繁華街へと繰り出して行った。
「ふぅ・・・・」
ギルドから出ると同時に、風船から空気が抜けるように全身から力を抜くカイト。
いつまでも悶々としていても、しょうがない。
彼は後ろを振り向くと、付いて来るノゾミへ話しかけた。
「ノゾミは、どんな宿が良い? いくつか候補があるんだけど、やっぱり飯が美味いところが良いかな?」
カイトが質問すると同時に、ビクッと体を震わせ、うんうんと頷く彼女。
恐らく彼女は、今の話を聴いていない。
昨日からずっと、この調子だ。
もしや体調でも悪いのだろうか?
「ノゾミ、そんなにオドオドしてどうしたんだ? 何か怖いものでもあったのか?」
なかなか話したがらないので、気にしないからと先を促すカイト。
するとノゾミは、言い難そうにしながら、こんな事を言った。
「カイト、昨日から目つきが怖いよ? どうしたの、まるでガーベアやコンドルウルフみたいだよ??」
「へ!??」
思いがけないノゾミの発言に、目を丸くさせるカイト。
怖いのって、俺の目ッスか。
そんなことを言われるなんて、思っても見なかったのでビックリしてしまった。
俺が魔の森でゴブリンとか、はぐれ狼とかを狩っていたときにも、彼女にそんなことを言われなかった。
この数日で、俺には多くの経験があった。
乗っていた馬車が、盗賊に襲われたこと。
ノゾミが切られ、その相手を俺が切ったこと。
そして目の前で、いくつもの命が散ってしまったこと・・・。
『盗賊は人にアラズ』発言も、未だに脳裏に焼きついている。
自分なりに整理を付けたつもりだったのだが、押し殺していたつもりの心は、表情として表に出てしまっていたようだ。
そうか・・・さっき、ハントさんに「元気を出してください」と言われたのも、そういうことだったのか。
「心配かけてスマン、俺は元気だよ。」
カイトの精一杯のカラ元気を見て安心したのか、ノゾミもいつもの笑顔を取り戻した。
それでいい、俺の悩みなんかに、彼女まで巻き込まれることはないのだ。
でもその姿は、ちょっと羨ましくも映った。
「ノゾミは良いなァ、悩みなんか無さそうでさ。」
何でもない一言だった。
他意はなく、いつも屈託のない笑顔を振りまく彼女は、この世で一番幸せそうに見えたのだ。
だが彼女はこの言葉を聞くと、その歩みを止め、何かを呟いた。
しかしその内容は、王都の喧騒の中でかき消され、よくは聞こえない。
立ち止まった彼女へ歩み寄って、いつものように頭に手を置くと、それを振り払うノゾミ。
カイトには、この行動の現すことが何なのか、まったく理解できなかった。
「どうした、ノゾミ?」
「・・・・思う?」
「へ?」
蚊の鳴くようなノゾミの声は、近くに居ても聞き取ることは出来なかった。
もう一度と、聞き返すカイト。
「私に悩みがないと思う!? 私にだって悩みくらい・・・・!!」
「!!」
ノゾミは顔を上げると、涙をいっぱいに溜めた瞳で俺を、キッと睨み返してきた。
まさか彼女が。こんなに怒るとは思わなかった。
騒ぎを聞きつけてか、王都の群集が遠巻きにして、俺たちを中心にポッカリと穴のような空き地が出来た。
ここで言い争っては、更に注目を浴びてしまう。
そんなのは御免だ。
「ノゾミ、続きは後で聞く。 ひとまずここを離れよう。」
差し出した右手を、再び払うノゾミ。
何気ナシに言った言葉とはいえ、あの一言で深く心を傷つけてしまったらしい。
だがこんな場所でケンカをしては、周囲の皆さんに迷惑を掛けてしまう。
「さァ。」
再び差し出した手を、しかしノゾミはとらなかった。
払いのける拍子に、彼女の指の爪でひっかかれ、カイトの手の甲からは血が滲む。
それを庇いつつ、カイトは彼女へ視線をやった。
「ノゾミ・・・・?」
「き、嫌い! カイトなんか大っ嫌い!!」
少しづつ、俺から距離をとり始めるノゾミ。
このままではイケない、そんな気がしてカイトは彼女との距離をつめようとした。
「うわあああああああああああああああん!!」
しかしノゾミは、俺とは反対方向へ走って行ってしまった。
その方向に居た群衆は、まるでレッドカーペットのようにノゾミの行く先へ道を譲る。
「ノゾミー!!」
すぐに我に戻り、群集を掻き分けて彼女を追うカイト。
しかし彼女の姿は、王都の群衆の中に消えてしまったのだった・・・・・・
王都編は、そこそこ長く書くつもりです。
長い目でどうか、よろしくお願いいたします・・・・・・・




