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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第13章 ベアル改革・・?
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第300話・乗り遅れた場合の、大公様の手段

まもなく2017年も終わります。

1年が経つのは、早いものですねー。

年の瀬に『第300話』を投稿するとは、区切り良くてビックリ。

皆さんも、良いお年を!

ボルタからベアルへ向かう道中には、2つの信号所えきがある。

そのうちボルタ側に位置するのが、レフル信号所だ。

隣のブレン駅と違い、行き違い設備の他は駅員が常駐する小さな建物があるだけの、小さな交換駅。

そこに今、大きな機関車が数両の客車を従え、物々しい出で立ちで発車を待っていた。


「おい駅員、まだ動けねぇのか!」


「もう30分もしたら貨物列車が来ます、それまで待ってもらえませんか?」


チッと舌打ちし、運転室へと戻る機関士役のドワーフ。

中では同じくイライラした様子の数人のほか、ただ一人の女性がいた。

彼女は戻ってきたドワーフに視線を向けると、機関車の操作の片手間、疑問をぶつけた。


「良かったんですかー? カイト様を放って出発してしまって。」


「はん、小僧ナゾ知るか。 それより遅々として出発できねぇ、どうなってんだ!」


まだ停車して10分と経っていませんよという言葉がノド元まででかかったが、彼女はそれを飲み込んだ。

彼らは気が短いのだ、常識なんか通じない。

気に入らないことは、ともかく気に入らないと言う。

今回もそうだ。

前もってボルタに来るとカイトは言ってあったのに、それを待たず駅員の静止も聞かず、半ば強引に彼らは汽車を出発させてしまったのだ。

これだけで相当イジワルだが、その上まだ、彼らには考えがあった。


「これじゃ、小僧に追いつかれるんじゃ?」


「まったくだ、ヤツの居ない屋敷の裏まで汽車で乗り付けて、イヤガラセしてやろーと思ってたのによ。」


彼らには、更に根暗な計画があった。

ベアルでは鉄道の延伸工事の真っ最中であり、すでにシェラリータまではレールもつながっている状態。

つまり、ベアルの駅に着いてもそのまま通過し、北へ伸びるレールをカイトの屋敷近くまで走る。

そして騒音公害ヨロシク、ボーボー汽笛を鳴らしてやろうというのだ。

船で聞かされたときは、ルルアムは呆れて返す言葉も見つからなかった。


「何だよルルアム、言いてぇ事があるなら言えよ。」


「いぃえ、みなさん素直じゃないなーと思いまして。」


「はぁ?」


ヤレヤレと肩をすくめて見せるルルアムを前に、怪訝けげんな表情を浮かべるドワーフたち。

そんな風に彼らが暇つぶしをしていた、まさにその時だった。

線路脇にまばゆいばかりの光が現れ、辺りを白く照らす。

何事かと最初は周囲も警戒したが、中から現れた人物の姿を見て、そんな緊迫感はすぐに霧散した。


「カイト様!」


「居た!」


ボルタから転移でやって来た大公様は、恍惚の表情を浮かべて汽車へ駆け寄る。

そこに領主の貫禄などといった類は、カケラも感じられない。

いや、そんな事はさておき。


「小僧、とことんお前ってヤツは空気が読めねぇな。」


「どうして?」


画策していた騒音公害がこれでご破算になり、ドワーフたちは面白くなさそうに、口を尖らせた。

事情を知らないカイトは聞こうと、ルルアムへ視線を送ると、苦虫を噛み潰したような表情で、手を横に振る仕草を見せた。

知らない方が良いと言う事であろう。

そんなやり取りをしていると、おっさんの1人が声を掛けてきた。


「お前、アレだろ。 この列車に乗りに来たんだろ?」


「そうですよ、置いていくなんて酷いじゃないですか!」


先ほども述べたように、あらかじめカイトが来ることは知らされていた。

テツの亡人と化している彼は、理屈など関係なしに、珍しく腹を立てている。

どーせこの後、彼らはイジワルを言うのだ。


「乗せないつもりだったんですか?」


「めんどくせぇ、乗りたきゃ好きに乗れ。 どーせあと何十分かは動けねぇ。」


「お?」


珍しく突っかかってこないおっさんに、カイトは拍子抜けする思いだった。

いつもなら『お前は乗せない』とか言ってイジワルするのに、なんだか嬉しい。

反面で、毎回こうだったら良いのにとも思う。


「そんな事より・・、そっちのゴミは何だ?」


「し、失敬な。 私は大公様付きの従者です!」

「そうだよ!!」


あんまりな発言に、激昂を返すメルシェードたち。

さんざ連れまわされ、ヒカリを含めた2人は心身ともにクタクタだった。

おっさんたちは、知った事ではないと言うであろうが。


「アホな小僧には、お似合いかもな。」

「だな。」


「大公様を罵るのも。大概にしてください!!」


「やるか、灰色獣人!?」


双方の激しい意見のぶつかり合いは、それこそ辺りの森にも響きわたる。

思い返してみれば、彼女が怒っている姿を見るのは、これが初めてである。

などと明後日の方向に思考を持ち、カイトはこれを傍観した。


「線路からは離れてるし、大丈夫だろ。」


「カイト様・・・。」


ルルアムが残念なものを見るような視線を、カイトへと浴びせかける。

だが日和見主義ひよりみしゅぎの彼に、一切の期待は無駄だ。

終わりの見えぬ応酬に、周囲が遠巻きにする中。

はるかベアルに向かうレールの彼方より、ポーッという汽笛が聞こえてきた。

くだんの交換列車のおでましである。


「あのぅ・・、まもなく列車が来るようですし、ケンカは切り上げて乗りませんか?」


ケンカを仲裁したのは、ルルアムであった。

本数が少ないとはいえ、試運転列車はダイヤ進行上の妨げとなっている。

線路の上で口論などされていようモノなら、邪魔どころの話ではない。

彼らは熱が冷め、、ケッと舌打ちすると運転室へと戻っていく。


「さっ、メルちゃんも乗ろう。」


「・・・・はい。」


カイト達3人も、後ろにつながれた客車へと乗り込んだ。

ほどなくして進行方向より、汽車がレフル信号所へと進入して来る。

炭をたく匂いを残し、列車は止まる事無く、あっという間にガタンガタンとボルタ方面へ走り去っていった。

駅員がポイントを切り替えれば、発車準備は完了である。


「お兄ちゃん、もう帰るだけ?」


「もちろん。」


一連の事後中、空気となっていたヒカリは、屈託の無い笑顔を浮かべる。

だが同行のメルシェードは未だ腹の虫が収まらないのか、どこかピリピリとした空気が感じ取れる。

まあ、家に帰り着くまでには収まるだろう。

カイトはそう考えて、流れ行く景色を窓から眺めた。



なおこの後、2人を連れ回したことがバレ、彼はアリアにこっぴどく叱られる事となる。

「今後は自重しよう・・」彼はそう自戒させられた。

トリ頭の彼が忘れなければ、の話だが。



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