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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第13章 ベアル改革・・?
321/361

第296話・知らぬ間に


295話の一部の予定が、長くなりすぎたので分割独立。

その代わり、内容を増やしました。

というわけで通常話扱いですが、閑話みたいな内容です。


カイトがグレーツクで轢かれそうになっていた、おおよそ同じ頃。

屋敷に残ったメイドラゴンは、その足でヒカリを伴って魔の森へと来ていた。

何か目的があるようで、その足取りにはまったく迷いが無い。

ヒカリは不安を覚えながらも、それに付いて行った。


「ねえダリアちゃん、どこまで行くの?」


「もう少しはいったところで待ち合わせをしているので、そこへ向かいます。」


「・・・?」


しばらく進むと、森の中に木の生えていない、小さな広場のようなものが姿を現す。

薄暗く気味の悪い森とは打って変わり、そこは天からの光が差し込み一種の清浄さがあった。

そこからは、眼下に小さくベアルの街が見えた。

目的の場所はここのようで、既に先客の姿がある。


「ドラゴン様、お待ち申し上げておりました!」


そこに居たのは、元魔王軍六魔将の一人『闇獄』アキレスの姿だった。

初見のヒカリは思わず、ダリアの背後へと隠れようとする。

しかしそれを許さず、彼女はヒカリをアキレスの前へと突き出した。


「挨拶なさいヒカリ、彼女はカイト殿様の新たなる臣下ですよ。」


「あ、そうなの? こ、こんにちは、私ヒカリです・・・。」


スゴスゴと、会釈して自己紹介をするヒカリ。

それを見た『闇獄』は零れ落ちんばかりに目を見開いたが、のどから出掛けた言葉はそのまま、目の前のドラゴンによって塞がれた。

不気味にニヤつく彼女の顔は、さながら悪魔のようである。


「分かっていますよ、あなたが何を言いたいかはね。 ですが騒ぐなら、あなたを引き裂きます。」


「・・・。」


ダリアはそのまま彼女の口を魔法で縫い付けると、ヒカリともども再び森の中を進んだ。

どうやら本当の目的地はここではなく、更にこの先にあるよう。

ずっと薄暗く、森の気味悪さは先ほどの比ではない。

昼間のはずなのに、まるで夜のようだ。

その一角に立ち止まったダリアはフッと息を吸い込むと、小さな体に見合わぬ、大きな声を張り上げた。


「そこに居るのは分かっている、姿を現さねば森を業火で焼き尽くすぞ!」


ビリビリと空気を震わし、森中に彼女の声が響く。

すると森の一角にパンという弾ける様な音が響き、そこに隠れていたモノが姿を現す。

彼女はその声に魔力を乗せ、周囲に掛かっていた魔法現象を吹き飛ばしたのである。

そこで人質アキレスは、驚愕の声を上げた。


「ま、魔王陛下・・・!」


ただし声を上げたのは彼女だけで、ヒカリをはじめ、嵐の前の静けさのように押し黙る。

相手の魔族たちも警戒しつつ、ダリアたちへ攻撃する素振りは見せなかった。

まるで、来るのがあらかじめ分かっていたかのように・・・

その沈黙を最初に破ったのは、魔王だった。


「来る事は分かっていた、私は逃げも隠れもしない。」


「それは良かった、今日は戦争に来たわけではありませんからね。」


言うなりダリアは、背後の2人の魔族を自分の前へと引きだす。

その内の1人のヒカリは首を傾げており、もう1人のアキレスは顔面蒼白となっている。

だが魔王は顔色一つ変えず、連れて来たダリアへと睨みつけるような視線を送った。


「ドラゴンよ、貴殿は何を望む? それとも魔族が内部崩壊していく様を嘲笑あざわらいに来たのか。」


「ここは魔の森でも人間の居住地の近く、そこに建造物とは随分と好戦的ですよねぇ?」


魔王の質問に応える事無く、ダリアは周囲を見回す。

彼らは森のなかに、遮蔽ステルス化した基地のようなモノを設置しようとしていた。

彼女が来たのも、それを事前に察知したからに他ならない。

魔王も痛いところを突かれたのか、押し黙ってしまう。

それを見て満足したのか、ドラゴンは一転して笑みをこぼした。


「その戦争の火種を、魔王様に引き取っていただこうと思いまして、こうして来ました。」


「・・・急に腰が低くなったな、ドラゴンよ?」


魔王は思わず、苦笑を洩らす。

『闇獄』は知っての通り、魔王軍の裏切り者である。

それをかくまったとあっては、ベアルもただでは済まない恐れがあった。

たぶん、引き取ったベアル領主本人は、それを分かっていない。

まず、それが一つ。


そしてヒカリ。

本名をエルガンティアと言う、元をただせば魔王の娘である。

紆余曲折あって記憶と粗暴性が失われ、現在は往時の勢いは見る影も無い。

ダリアは、それを知っていた。

彼女の存在は戦争の火種どころか、存在そのものが爆弾である。

以上の2人をベアルから遠ざけるのが、今回のメイドラゴンの大きな目的であった。


「引渡し後、この2人をどうしようが我らは構いません。 ですがベアルには、手を出さないで頂きたい。」


「・・・断れば?」


魔王が質問するなり、ダリアは体をドラゴン形態に変え、口を大きく開けた状態で魔王の寸前に迫った。

魔族たちが臨戦態勢に入るが、当の魔王は微動だにしない。

それで満足したのか、ドラゴンは再び人間形態に姿を変え、大きく口角を上げて、背後の2人へ向き直った。


「話は纏まりました、あなた達はあるべき場所へ帰りなさい。」


「え!?」

「バカな!」


承服できるわけが無かった。

ドラゴン様の思惑が見えないのはさておくとしても、記憶を失ってしまっているヒカリにとっては魔王は知らないオジサンである。

さらに言えば、アキレスはもっとヒドい。

このまま戻って、裏切り者がただで済もうハズがないのだ。

そうなれば各地に居る1万5千の配下は野放しとなり・・・その先は考えたくも無い。


「『闇獄』はカイト殿様が煙たがれていましたからね、火の粉払いの上に厄介払いです。 裏切り者の末路と、諦めるのが肝心でしょう。」


「・・・。」


冷え切ったドラゴンの視線を前に、アキレスは自らの死を悟った。

言ってみれば、こうなったのは自らの潜伏スキルの低さが原因。

今まで生きていた方が、逆に不思議なのである。

そう自分をいましめられる彼女は、まだいい。


しかしヒカリは記憶喪失の影響で、自分が『魔族』だという事すらイマイチ分かっていない節がある。

魔王など、初対面同然だ。

それがある日突然、信用していたドラゴンに連れられたと思ったら、ベアルから出て行け発言。

混乱する彼女をよそに、ダリアは残酷な言葉を畳み掛けた。


「あなたはカイト殿様が嫌いなのでしょう、ここはいさぎよく去るべきではないですか?」


「・・・。」


今にも泣きそうな顔をするヒカリだったが、ダリアはまったく同情する素振りすら見せない。

いや、彼女にとって大事なのは『横のつながり』ではなく『いかに竜生を楽しむか』なので、それを求めるのは間違っているのかもしれないが・・・

だが魔王は、それを阻むように口を開いた。


「待てドラゴンよ、私は裏切り者のことなど知らぬ。 もしそのような者が居るのなら、何処どこへなりと行って果てるが良いと伝えよ。」


「ホウ・・・?」


ヨダレを口いっぱいに溜め、捕食者の目で闇獄アキレスを見つめるダリア。

身の危険を感じたのか、アキレスは体をよじった。

魔王の機転を利かした一言のせいで、彼女の身は一層、危険になったと言えよう。

彼はついでヒカリへと視線を向けると、ビクリと体を震わす姿を見て、ため息をついた。


「その娘子も連れて戻れ。 我が魔族領に彼女の居場所は無い。」


「!?」


魔王のこの発言に、ダリアを含めた魔族たちは言葉を失う。

しかし発言が撤回されるような事は無かった。

物申そうとする魔族を黙らせると、再び目の前のドラゴンへ頭を垂れる魔王。


「まがりなりにも同胞だ、危害を加えずに居てもらえると助かる。」


「・・・残念ですが、それはカイト殿様の采配次第でしょうね。」


頼みを流すように聞き流し、彼女は腕組みをしてそれに答えた。

憤慨する魔族を諌めると、彼女らに背中を見せ、手を払う仕草を見せる。

これは魔王軍の『引き上げ』の合図で、付き従っていた魔族たちは意見を申し立てる事も無く、それに従う。

その姿を鼻で笑いつつ、ダリアは追い討ちを掛けるように背中へ言葉を掛けた。


「ここに監視のための、施設は建てるのでは無かったのですか?」


「・・・すべては、お見通しか。」


魔王は何も、ダリアさんを待って森にいたわけではない。

カイトが魔石を掘るなどと言ったので、動向を見るための遮蔽基地ステルスベースを設営していたのだが・・・

それも知られてしまった今、もはや秘密基地は意味を成さなくなってしまっている。

ヒカリたち内心ホッとしたような様子を見せており、去り際に魔王はしかと、それを見ていた。

少し前ならば到底、信じがたい光景である。


「しかしドラゴンよ、貴様が人間を気に掛けるとは面妖な事よな?」


「そうでしょうね。 ただの・・余興です。」


彼は大きな笑い声を残し、森の中へと消えていった。



◇◇◇



「何処へ行っていたのですか、あなたは!」


「もも、申し訳ありません、これには大なり小なり、多くの事情がありまして・・・。」


屋敷に帰るなり、ダリアはメイド長のクレアに激しく叱責された。

使用人が私用で職務放棄して出かけるなど、言語道断である。

カイトは許しても、クレアは決して許さなかった。


「聞く耳持ちません! あなたにはもう一度、使用人の心得を叩き込みます!!」


泣き叫ぶダリアを、ずるずる屋敷の中へ引きずり入れるクレア。

そこに先ほどまで、魔王相手に毅然きぜんとした態度をとっていた姿は見る影も無い。

その姿を呆然と見ていた2人の姿を見て、クレアは足を止めた。


「これはヒカリ様、どこへいらしていたのですか? そちらの方は??」


ヒカリから背後に居る女性へ視線を向け、そしてクレアはうたぐるような視線を浴びせかけた。

ここは大公家の屋敷なので、怪しい者は決して入れることは出来ない。


本当なら、屋敷などに来ず、現地解散すべきだったかもしれない。


魔王の「何処へなりと行って果てるが良い」発言のせいで命は風前のともしびで、もしカイトに捨てられれば、メイドラゴンのエサになる事が決まっていたのである。

・・明確ではないが、少なくともそうなる確率は十分に高い。

今一度だけカイトへ配下の件を頼み込むべく、彼女はやって来たのである。

といった思いを込めて。


「黙れ人間。 私はカイト陛下にお目通り願いたく来たのだ。 分かったら早急に退くが良い。」


「ここはスズキ大公殿下の公邸です。 残念ながら素性の知れない方は、お会いにはなれません。」


一触即発の2人だったが、ここでヒカリが仲介に入る。


「この人は、お兄ちゃんの知り合いの人なの。 怪しくないよ!」


「エルガンティア様・・・。」


先ほど自分と同じ境遇に陥りかけていたので、同情のような感情が、生まれたのかもしれない。

思い掛けない助け舟に彼女は驚きつつも、その優しさを甘んじて受け入れた。

この言葉を信じ、クレアも剥きかけていた牙をしまい、彼女らを屋敷の中へと入れた。

(なお、アキレスはヒカリが記憶を失っていることを、まだ知らない)


「あのクレア様、お手を離していただきたく・・」


「ダメです、あなたには押し置きを受けていただきます!」


「ぎゃあああああ~~~~!!!」


ダリアは首根っこを掴まれ。

ヒカリたちはメイド長の後を付いて行き。


それぞれの思いを抱いて、カイトの帰りを待つ事とした。


冬の童話祭2018に参加します。

よろしければ、どうぞ。

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