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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第13章 ベアル改革・・?
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第295話・試作車両

これからも、楽しんで書いていこうと考えています。

感想などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。


今日は珍しく、カイトは予定が立て込んでいた。(※急用で忙しくなるのを除く)

魔石の諸問題も解決したところで、やっと交通関係に着手できる下地が再び整ったのだが。

それに関係した事で、彼はこれからグレーツクへ向かうことになっているのだが。


「行かないの?」


「お兄ちゃんなんか嫌い!」


ヒカリはアレからずっと、ご機嫌斜めだ。

魔王が突然、屋敷を訪問して居たときの事。

会談中にヒカリが、すごい剣幕で客間に入ってきたのだ。


『お兄ちゃん、また私を置いていったでしょ!?』


『げ、ヒカリ!』


あのときの彼女の顔は、忘れようったって忘れられない。

怒っているときのアリアと同等か、それ以上の迫力があった。


彼女とカイトとは、了解ごとで必ず出かけるときには連れて行くと決めていた。

今回は急用が出来たため連れて行けず、ヒカリはそれを怒っていたよう。

さんざ怒りをブチ撒かせて、台風のように去っていった。

事情が事情のため、どちらにせよ連れては行けなかったのだが、それはそれとして、きちんと彼女へ伝えるべきだったろう。

反省点は山ほどある。


『ごめんなさい魔王様、ウチの子は癇癪持かんしゃくもちでして。』


『なぜ・・・』


突然のことに驚いていた魔王には、もちろんカイトは謝罪した。

こんな場所に魔族の子供が居れば驚くのも、当然であろう。

間違っても『さらってきた』などという誤解を受けたくないので、森で会って保護したなど、これまでの経緯を簡潔に説明はした。

最初こそいぶかしげであったが、こうして今も居るとおり、一定の理解は得られた。


もののついでにと、彼女の素性に関する何かの情報が無いかを聞いてみたのだが、魔王にも、それは分からないとの事であった。

その上で、『見つかった』との事で、彼は少し前に交わした『行方不明の魔族の捜索』の中止を申し合わせてきた。

すっぱり忘れていたので、これに関しては命拾い。


更にこの日、一番の目的であった魔石の採掘についての話についても。


『面白い、掘ってみるが良い。 我が配下の者たちには、周知させておく。』


『ほ、本当ですか!??』


それまでの難色がウソのように、魔王は魔石採掘を認めてくれるような発言をしたのだ。

どういう心境の変化かとカイトは不思議に思ったが、深く考えるのはガラで無いので、すぐ止めた。


そんなワケで肩の荷も下り、魔石が枯渇する心配も無くなり。

魔石の中には莫大な力が秘められており、列車を動かす動力には必要不可欠なので、素直に喜んだカイトであった。




「・・・とうとう、来なかったな。」


「カイト様、まもなくお約束の時間です。」


結局ヒカリは来ず、秘書のメルシェードだけを伴って、グレーツクへと転移してくることとなった。

まあ、過ぎた事は仕方ない。


「・・行こうか。」


「はい。」


そもそも今日グレーツクへ向かうことになったのは、『魔動力機関の試作品』が完成したという情報がもたらされたことに起因する。

鉄鉱石の産地であるグレーツクと、魔法文明の高いオア大陸の文明。

それらの交易の窓口となっているベアル領であったが、それには風だけが頼りの帆船だと、運搬力などに大きな難があった。

そこで収容力も合わせ、船の大型化と定期航路の確立が急務となった。


さらに鉄道。

今はカイトが『1号機関車』と名付けている、豆タンクのような小さな機関車しか居ない。

比較対象が無いので大きさを表しにくいが、この小さな物置にすっぽり入るくらいの大きさと考えて欲しい。

小さければ小回りは利くが、その分だけ運べる荷物は少なくなる。

今は短いので、それでも十分だが、王都まで行くともなると、力不足は歴然である。

これについても、機関車の大型化が急がれた。

あくまで『試作』なので量産はまだだが、カイトが想定していたよりずっと早く出来上がったのは、グレーツクの人たちが頑張ってくれたおかげで・・・


「カイト様、あぶない!」


「え!?」


メルシェードの鬼気迫る声が聞こえた瞬間、カイトの体は空中にあった。

いや、正確には彼女に体を抱きかかえられた状態で、数十メートルを跳躍していた。

刹那、その背後を大きな音を周囲にとどろかせて、列車が通過していく。

カイトはボーッとしていて、接近する列車に気が付かなかったのだ。

秘書が居なかったら、大好きな汽車に、二度目のミンチにされていたところである。


「あ、ありがとう、危ないところだったよ。」


「いえ・・・。」


地面に下ろされて感謝するカイト。

怒らせてしまったのだろう、彼女の顔を伺う事は出来ない。

デリカシーのないカイトが、それをうかがおうとした瞬間、それは止められた。

メルシェードのせいではなく、横方向から与えられた打撃によって。


「げぶほっ!??」


「バッカヤロウ、かれてぇのか貴様は!」


機関士らしきドワーフのおっさんは、怒声を張り上げてカイトを殴りつけた。

領主の彼が轢かれていれば、鉄道の試運転どころでは無くなっていた。

こうなれば相手が領主だろうが何だろうが、そんな事は彼らには関係ない。

だが一切の躊躇ない行動に、メルシェードは驚きを禁じえなかった。


「な・・、カイト様になんて事をするんですか! 彼は領主様なのですよ!?」


「なんでぇお前は! 小僧ならなおさらタチが悪い、子供が真似したらどう責任とってくれるんだ!?」


「何を言っているんですか、あなたは!」


頭に血が上っているためか、互いに冷静な判断が出来なくなっていた。

ドワーフの間でカイトは『とんだバカ』扱いされていたので、それを加味すれば彼の言っていることも分からなくはない。

だがその彼を尊敬してやまないメルシェードが聞けば、意見の衝突は免れなかった。

もはや殴り飛ばされた本人は、蚊帳かやのそとである。



「お怪我はありませんか、カイト様!?」


「おー痛・・・、あれ君は?」


ケンカを傍目に、カイトの方へ駆けつけたのはルルアムであった。

真っ黒に汚れたツナギを着たその風貌からは、かつて貴族だった頃の面影は無い。

どうやら機関車を運転していたのは、この2人だったようだ。


「こちらこそゴメン、考え事をしていたんだ。」


「カイト様といえど、注意確認をしなきゃダメではないですか!」


そしてルルアムにも、カイトは怒られた。

これでも彼は領主だし、既に20はたちは超えている。

そんな貫禄、どこかに置き去ってしまっている気はするが。


「気をつけるよ。」


「こんな事で命を縮めるようなことは、しないでくださいね?」


まったく、と口を尖らせるルルアムだったが、怒っているというより呆れた様子が感じられた。

いろいろ前科があるので、そういう含みがあるのだろう。

それよりカイトには、気になる事があった。


「ところで今日は、機関車が出来たって聞いて来たんだけど、別の仕事してたの?」


「そうでした、この機関車がそうです!」


「・・・・へ?」


彼女の思いも掛けぬ発言に、領主様はヘンな声を出した。

彼が轢かれかけた列車は、よく見ると先頭が客車。

ついで空の貨車の次位に、大きな機関車がつながれていた。

ようは『推進運転』である。


なかなかカイトが来ないので、一足先に出来た新しい機関車の試運転をしていたらしい。

カイトの目の前に止まっている機関車は、黒光りするその巨体を、どっしりとレールの上に乗せていた。

先述の豆タンクの5倍はありそうで、これならベアル近くに出来る坂を登って王都へも、スイスイ行けそうだ。

もう少しで、そのピカピカの機関車を、カイトの血で汚すところである。

危ない危ない。


「大っきいね・・・びっくりだよ。」


「お褒めに預かり光栄です、でも大きさだけではなくて性能もグンと上がっているんですよ?」


念を押すように人差し指を立て、機関車を誇示するルルアム。

それに呼応するかのように、メルシェードとケンカしていたおっさんも仁王立ちして、横に立った。

いわゆる、職人気質しょくにんかたぎってヤツなのだろう。

彼女もここでの暮らしが、板についてきたようだ。

ホっとしたら、カイトは無性にこの新型車両に乗りたい衝動に駆られた。

こっちは職人と言うより、マニア心をくすぐられたくちである。


「ね、ねぇこの機関車・・・」


「お前には乗せねえ。」


言い終わる前に、希望はバッサリと切り捨てられてしまった。

カイトは残念に思ったが、あくまで『機関車に乗せない』というだけで、死重目的でつないでいた客車なら乗っても良いとの許可が下りた。

乗り込むと中はレトロ調というか・・向かい合わせの4人掛けボックスシートが並ぶ、整然とした光景があった。

客車が大型化したおかげで、窮屈だった前の客車の弱点も克服されていた。

これで長い旅路も耐えられる、居住性はグッと増すだろう。


「あの・・、大丈夫でしょうか?」


それよりもカイト的には、ガクブル状態のメルシェードの方が気になった。

考えてみれば彼女を鉄道に乗せるのは、初めてのことである。


「大丈夫さ、口は悪いけどドワーフさん達の腕は確かだよ。」


ボーッという大きな汽笛が鳴ると同時に、体が大きく揺さぶられる。

どうやらこのまま、試運転列車は港へと向かうらしい。

カイトを乗せた列車は彼の乗る客車を先頭にして、ジェットコースターのような高架橋の坂を滑り降りていった。



一応、補足で。

カイトが最初に列車にひかれたのは、第1話のちょっと前です。

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