第290話・ウチの秘書
ここまで書いて、つくづく思うこと。
人生でゲームをほとんどしたこと無いくせに、『ステータス』表記を始め、ゲーム的な事を前半で多くしすぎて、現在トンでもない事になっています。
いわゆる背伸びしすぎってヤツ。
つつがなく使えれば、とっても便利な機能(?)ではあるんですがね・・・・
グレーツクから帰って数日。
魔王の侵攻がウソだったように、カイトは平和な日常を送っていた。
「お兄ちゃん、出来たよ! ホラホラ!!」
「やぁ、いいモン作ったね。」
首だけ振り向き、カイトは出来た首飾りを見せ付けるヒカリに笑顔で応えた。
ベッドの上ではにかむ彼女は、高らかに首飾りを掲げて見せる。
黒い糸に、小さな赤い石が通されており、身に着ければヒカリにぴったりだろう。
カイトは笑顔を見せた後、手元へと視線を戻していった。
「さっきから何をしているの?」
持っていた首飾りを横へ置き、首を傾げてみせるヒカリ。
カイトは仕事の手を止める事無く、それに答えた。
「駅馬車組合に出す要請書・・・つまりお願い事かな? 今度完成する鉄道の運行委託を要請するんだ。」
「ふーん?」
先ほどより更に角度をつけて、首を傾げるヒカリ。
こういう時、口下手はソンである。
興味をなくしたように彼女は、俺から背後のダリアさんへと視線を向けた。
「ダリアさん付けてみる? 可愛くなりそう!」
「・・・折角ですが私は、ご遠慮させていただきます。」
欠伸をかみ殺しながら、ヒカリの申し出を断るダリアさん。
『可愛い』と言われのを気にしてか、キゲンは良ろしくない。
こういうあからさまの態度は、確かに可愛い。
などと考えていると俺の心を読んでか、睨みを利かせた視線を、こちらへと向けてくる彼女。
なんだよ、その目は。
「・・・あのさ、睨むヒマがあったら仕事しろよ?」
「何のことですか?」
なんたる職務怠慢。
誰だよ、こんなのを使用人にしたのは!?
・・・って俺か。
「少し休んだら、出て行けよ? クレアさんに絞られても知らないからな??」
「はーい。」
仕事などどこ吹く風と、ベッドの上に寝転がるダリアさん。
居候は図に乗るって、本当だな。
追い出されても、俺はもう知らんぞ。
俺のベッドの上でオヂサンのように『あ゛ー』っと羽を伸ばすダリアさんは、酷く疲れているようにも見えるが、ドラゴンに限ってそれはないと理解を改める。
最近は徹夜で船造りに参加させていたし、少しはお疲れ気味なのかもしれないが。
なお決して、職務怠慢を擁護するワケではない。
のどかな空気が流れる私室だったが、そこへ、コンコンと戸をノックする音が響いた。
「失礼します。」
「や、お疲れ様。」
持っている紙の束を、カイトへ手渡すメイド。
彼女はメルシェードと言う、屋敷の使用人の一人である。
紆余曲折あって屋敷で雇うことになり、馬鹿すぎるカイトの秘書となるべく教育を受け、今やっと彼の元へやって来たのである。
本日付けで、彼女ははれて大公様つきとなった。
「メルちゃんのおかげで、俺も仕事がはかどるよ。 ありがとう。」
カイトの感謝の言葉に対し、何も言わずに深々と礼をする彼女。
サマになってるなー。
職務怠慢ドラゴンに、ぜひ彼女のツメの垢を煎じて飲んでほしい。
メルシェードは俺から視線を外すと、ベッドに横たわるダリアさんへ、さげすむ様な冷たい視線を送る。
「ダリア、クレアがあなたを探しておりましたよ?」
当然彼女は、ダリアさんがドラゴンであることは知っている。
その上でこの態度を取れる、彼女は貴重な存在だ。
なお俺がその1人である事は、今は棚上げしておく。
ダリアさんはぬーっと、スローモーションな動きでベッドから起き上がると、とても気だるげにこの部屋を後にしていった。
うん、動きが完全にオッサンだ。
見た目が可愛げな幼女なだけに、見ている側としては、スゴく残念な気分にさせられる。
絶対に、そんな事は言わないがね。
「メルちゃん、よくダリアさんを帰したね。」
「私は、何もしておりません。」
首を横へ振り、謙遜するメルシェード。
あのアリアですら手を焼いたダリアさんを、鶴の一声で撃退したのだ。
カイトの中で最強伝説はオッサンダリアから、彼女へと委譲される。
これはステータスなどに、何らかの関係があるかもしれない。
今まで人道上、少なからず気が引けていたが思い切って、彼女のステータスを覗いてみる。
すると・・・
名前 :メルシェード
年齢 :18
種族 :人狼族
レベル :15
HP(体力):600
MP(魔力):12000
STR(筋力):5000
DEX(機敏):400
スキル :奴隷上がりメイド・万能
フツーが分からないのだけど、どれもアリアと比べて数字は10倍以上。
これはスゴイ事なんじゃないだろうか!?
例えば、えーっと・・魔力とか1万を超えてるし・・・?
「あのカイト様、なにか・・・・?」
「何でもない、気にしないで。」
他人のステータスを見るのは犯罪だとか、アリアも言っていた。
バレる前に切り上げた方がよい。
ところで朝からずっと俺の横にいるが、『秘書』って具体的に何をする役なのだろうか?
「メルちゃんはさ、俺の何をするの? 仕事の補佐とか?」
あとは、秘密任務で俺の動向を探れとか?
下心みえみえのカイトの質問に対し、彼女は淡々と説明する。
「私が言いつけられていますのは、あなた様のスケジュール管理にお出掛けの際の身支度、衣服の管理に給仕と、大公としての知識による補佐、それに身辺の警護でございます。」
「・・・・へ、へぇ・・」
あまりに任されている業務が多くて、カイトの方が目を回しそうになった。
1人で任されるには、業務が多すぎはしまいか。
顔を引きつらせるカイトをよそに、メルシェードは尚も畳み掛ける。
「私はあなた様に、一度命を助けられた身です。 この命を賭してでも、あなた様に奉公させていただく所存です。 どうかお気になさらず。」
「あーうん、でも命はいらないから。 あくまで無理の無い範囲で・・・ね。」
俺は君に、そこまでの事をした覚えは無いのだけれど・・。
この子は見かけによらず、かなりの情熱型のようだ。
熱く語るって言うより、あくまで信念を胸に秘めって言う方向で・・だがね。
俺が矢で射られたら、本当に前に立ち塞がるような気がするよ。
そんな事、考えたくも無いが。
俺が今できることは、そうならない事を天に祈ることぐらいであった。
さて、仕事に戻ろう。
見本を元に作った、駅馬車組合への要請書は書きあがった。
これが受理されれば、アリアの言っていた『鉄道建設などに係る費用』が大幅に減少させられるだろう。
内容は『交通運輸の、領内における直轄運行について』
ザッと説明すると、『俺が作った鉄道は俺のもので、そこで汽車を走らせる代わりに使用料等を払ってください』などという感じの内容だ。
受理されるかは疑問にしか思わないが、やるしかない。
次にする事は、グレーツクまでの鉄道連絡船の、最終案の吟味。
両港には、どのような施設を整備するのか。
船の仕様はこれで良いのか。
運行に係るマニュアルの草案などなど・・・
するべきことは、たくさんある。
1つのことを成すのには、多大な苦労があるのだ。
そしてこれは、カイトの得手分野外の『船』であったため、彼自身、1人で考えるには相当の無理を感じて始めていた。
いや・・・そういえば適任者が居るじゃないか!??
「メルちゃん、早速だけど相談に乗ってくれない? グレーツクまでの定期航路で、この設計で良いかどうかを決めあぐねていてさ。」
「カイト様、私はあくまで使用人ですので、お力になれるかどうか・・・」
知識は要らないのだ。
カイトはあくまで一般的な考えが・・・。
乗客や荷主側に立ったら、どんな機能が欲しいかなど、この世界の人間が考える一般的な事を聞きたいのだ。
快く了承したメルシェードはカイトと共に、数十枚にも及ぶ資料へと目を通すのだった・・・
一年位前にも書きましたが、一般的な人間のステータスは以下です。
なお、亜人族に関しては不明。
名前 :****
年齢 :31
種族 :人族
レベル :31
HP(体力):400
MP(魔力):150
STR(筋力):750
DEX(機敏):180
スキル :人それぞれ
※あくまで上記は、人間の平均です。
あしからず。




