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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第13章 ベアル改革・・?
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第289話・鉄道をつくりましょう

投稿が遅れてしまい、たいへんご迷惑をお掛けしました。

今後とも、よろしくお願いいたします。

カイトの午前中の日課。

この頃はカイトも領内政治に参加するため、努力を開始していた。

今のところ彼が読んでいるのは、『ゴブリンでも分かる! 世界の常識100選!!』という子供向けの絵本。

諸国に伝わる有名な神話((のダイジェスト))や国の生い立ち、魔物とは何なのか、などなど・・・・・

絵がたくさん載っていて、実に分かり易く解説されている代物だ。

『異世界』と言うと、ごくマレに紙がとてつもない貴重品だったりするので、ここがそうで無かった事に彼は深く感謝している。


「つれぇ・・」


絵本を読むだけと言っても、量が多ければ読むのに時間が掛かる。

彼には少なからず、疲労の色が見え始めていた。

本から視線を一旦外し、眉間を指でもみほぐす。

これで疲労どうこうと言う事も無いかもしれないが、気分、これは気分の問題なのだ!!

ふと視線を横へやると、ヒカリがベッドの上で遊んでいるのが見えた。

なんか、和む。


「ヒカリ、楽しめてる?」


「うん!」


彼女は彼女なりに、最近は好き勝手やってくれている。

いわゆる趣味も出来たようだし、このまま楽しく過ごせたらと切に思う。


「カイト様。」


対するカイトは、年甲斐もなく幼児向け絵本なんかを億劫になりながら読み進める。

あぁ~あ、この世界にも『マンガ日本○歴史』的な本があったらなー。

なんて思っても、誰も聞いてくれるものは居ない。


「カイト様!」


「うわぁ、いつの間に!??」


とつぜん目の前に現れた妻の姿に、驚愕するカイト。

対して彼女は大きくため息をついて、困ったような表情で頬をかいて一言。


「さっきからノックしておりました。 気が付かなかったのですか?」


「その・・・ごめん。 ところで何か用?」


後頭部に手を回して、悪びれた様子を見せるカイト。

これというのも彼なりに一生懸命になっていた結果だ。

彼の机の上に載せられている、幼児向けの絵本が何よりの証拠。

ともかくアリアは持っていた紙の束を、机の空いた部分へどすん!と置いた。


「ひっ!??」


目の前に置かれた山積みの紙の束に、思わず顔を引きつらせるカイト。

朝食をって私室で勉強を始めた途端、これである。

今となっては、アリアの腕力に感服するほかは無い。


「私たちで内容の整理は行いました。 カイト様、これらに早急に目を通して下さい!」


「え、今すぐ・・・?」


鬼気迫る勢いで、カイトへ迫るアリア。

ベアルの領主様は、またまた何かを『やらかした』らしい。

彼女の発する圧に耐えられなくなったカイトは、言われたとおり上から順番に、紙の束へ目を通し始める。


「あのアリア、気になるんですけど・・・」


「読んでください!」


「はい!!!」


有無を言わさず、アリアは監視でもするように彼の前へ立ち続ける。

絵本は横にのけ、それらへ目に通すと・・・


「ん、これって・・・?」


数枚見て、すぐに分かった。

どれもカイトが、一度は目を通した街の要望書や見積書などである。

既に用紙の隅にはサインがされており、ようは領主のお墨付きのモノだ。

不備なども特に見受けられず、目を通して行くたび頭上に浮かぶ疑問符の数を増やしていくカイトに対し、再度ため息をつくと、アリアがキリッとした表情を向けてくる。


「赤字です。」


「・・・赤字?」


赤字路線とか言うテツ用語で、彼も何度か耳にした事がある。

それ、スゴくアカンやつだ。

あさっての方向を向くことで、カイトがショックを和らげていると、アリアは激昂するように大きな声を上げた。


「承認したこれら全てをこなせば、ベアル領は財政破綻します! まずここまでで、分からない事はありますか!?」


「いえ・・・、続きをお願いシマス。」


アリアは先日の『魔導船』の件も絡めて、要点だけを選びながら説明を始めた。

ゴブリンでも分かるように。

今回の問題は、カイトがロクに領の財政など考えずに、次から次へと新しいことを始めるのが原因だった。

街の整備などもさることながら、『鉄道建設』はこれでもかと言うほど、領内の財政を圧迫。

今まで何とかなったのは、領人口が多いおかげで税収入が多かったのと、ひとえにアリアの手腕のおかげに他ならない。

だがそれも、『限界』を迎えていた。


「鉄道建設とか無ければ、軌道に乗ってたと?」


「いいえ、それだけではありません。」


矢継ぎ早に話を続けるアリア。

これはかなり前の話になるが、カイトはベアルを統治した当時・・・

住民たちの貧困などをうれい、税金を取らなかった時期がある。

その後しばらくして税金というものを設定はしたものの、その税率はわずかに5パーセント。

王都民などの平均税率が20パーセント弱の事を考えると、破格に安かった。

つまり。


①税金が安いので、住民が増える。 審査は領主がアレなので、あって無きようなモノ。

②当然、人が増えるので街の整備などに金がかかる。

③税収が低めだけど領主が首を縦に振らないので、税率は据え置き。 金ばかり無くなる。

④でも全体税収は多いので、大きな赤字にはなりにくい。 ライフラインなどバッチリ。

⑤住民大喜び。 更に人が増え、①へ戻る。


「ふむふむ、見事なピタゴラスイッチ・・・。」


「感心している場合ではありません!!!」


他人事みたいに感心している場合ではない。

ここ数年で大都市へ急成長を遂げたベアルが財政破綻なぞしたら、国家問題にまでなりかねない、由々しき事態なのである。


「今までって、足りない分はどこから?」


「国からの地方調整金や、我々へ支払われる給金を削っているのです。」


「あ・・・そぅ。」


足りない分は、どうやら違うところを削って賄っているらしかった。

それでは、『政治が出来ている』とは到底言えまい。

この自転車操業をどうにかするのが、領主であるカイトの仕事であり、責務であった。

・・・・本人がどの程度それを理解しているのかは、甚だ疑問だが。

ボーッとしているカイトへ畳み掛けるように、アリアは一枚の書類を紙の山から取り出し、彼の前へと突きつけた。


「ベアルの現況に関しましては、以上です。 税率5パーセントはあんまりです、他の領地からも苦情が来ております!!」


「・・・それって税率を、上げろって言うこと?」


カイトの切実な質問に対し、ゆっくりと首を縦に振るアリア。

不思議とカイトは、こういった住民負担に関する政務には、非協力的だった。

使用人のためにと法律変更のため、『鈍器(仮)』を読破する努力は惜しまぬと言うのに・・・

それは彼女も重々承知していたが、今回ばかりは引き下がるわけには行かない。


「カイト様、税率を上げるといっても5パーセントていどです。 今の5パーセントから10パーセントへ引き上げるだけです。 鉄道建設分などに関しましては駅馬車組合との折り合いも付きましたので、収支には入れておりません。」


悲痛なアリアの表情からは「限界なんです」というベアルの心の声が、聞こえてくるようだった。

こうなったのは自分のせいであるだけに、カイトもこの時ばかりは反論することは出来ない。

これまで頑張ってくれたのは、他でもないアリアなのだから。


「お兄ちゃん・・・?」


「「・・・。」」


静かに領主様の部屋で行われる、税率変更に関する住民や王宮などへ出す資料の作成。

一つの問題解決と共に、また違った問題が浮上したような気がしてならない・・・




なお後日談なのだが、

「皆さん、ウチの領の財政が切迫してるんです。 ごめんなさい!」


「いや、その・・・」

「領主様、頼んますから顔上げてください・・!」

「今まで低すぎただけだし、倍に上がっても十分安いし・・。」


領主様自ら、税率を上げる旨を記した通知を謝罪しながら、領地中の建物に貼って回ったと言うウワサは、あっという間に大陸中に広まっていく事となるのだった・・・


ウソかホントか、判断は千差万別のようだが。



◇◇◇




おおよそ同じ頃。

ベアル領の隣に位置するバオラ帝国の帝都、『ノクレタ・エルバオラ』には、お馴染みのバルカンたち闇コンビの総勢4人が、訪れていた。


「悪い悪い、アタイが先に入ってちゃ、みんなが入れないんだったね~~。 ケシシシ!!」


少しも悪びれた様子もなく、不気味な笑みを洩らし続ける、元聖国研究団のケッシー・レアノール。

バルカンたちの一足先に、帝都内へと入った彼女だったが、なんと、彼らの身分証(偽造)は、彼女が持っていたのだった。

それにより、バルカンたちは帝都の城壁の前で右往左往するハメに。

危なく門番に、不審尋問されるところである。

中でも相当に腹が立っているのか、闇大帝は彼女に対して憤慨した。


「お前のせいで、いつまでも街に入れなかったんだぞ!」


「そう怒りなさんなって、ちょっと面白・・インヤ、ど忘れしていただけさ。 ケシッシシシシシ!」


「「「・・・・・。」」」


きっと、ワザとやったに違いない。

ケッシーの不気味な限りの含み笑いからは、彼女の陰湿さが垣間見えた気がした。


「まァ過ぎたことはいいさね。 それよりも、この帝都ではする事があるんだろう?」


ドーラがケッシーに対して質問すると、それに同調するようにバルカンたちも首を縦に振る。

するとケッシーは笑いを止め、小さな紙切れを取り出した。

大きくサインがされたその紙は、高級な羊皮紙が使われている。

そんじょそこらでは、滅多にお目にかかれない代物だ。


「アタイの方の準備は、とっくに済んだよ?」


「なんだ、コレは?」


疑問を口にするバルカンは、提示された紙を食い入るように見つめた。

世界共通言語である『大陸共通語』ではなく、バオラ帝国の公用語である『ノクレタ語』で書かれたソレは、バルカンには読むことは出来なかった。

頭上に疑問符を浮かべる彼をさしおき、闇大帝が背後から物申す。


「こりゃあ、バオラ帝国の皇帝のサインじゃねぇか?」


「「なに!??」」


「ケシッ♪」


ケッシーは1人、帝都へ入っているスキに『聖国研究団』という地位(追放されたけど)を悪用し、この国の皇帝に謁見したらしい。

この国の皇帝のサインは、その許可証のようなものである。

もちろん内容は、『鉄道建設』に関係するモノであり、実質的に鉄道の建設が、帝国が容認した事になる。

凄いぞケッシー、腐っても聖国研究団の名は、詐欺に有用じゃないか!


「やったじゃないかケッシー、あんたを見直したよ!」

「さっきは馬鹿にして悪かった。」


「ケシシシシッ、でも困った事になっちゃってねぇ。」


この陰湿娘の『困った』発言で、体を硬直させる彼ら。

バルカンたちが城壁の前で足止めを食っている間に、何があったのか。

戦慄せんりつを覚える彼らに対し、ケッシーは悪びれるように後頭部をかく。


「あのケチ臭皇帝、『謝礼は鉄道が出来てから』とか抜かしてさ、さっさとズラかるこっちの計画が、パアだよ、ケッ!!」


「「「・・・・。」」」


多分というか、きっと彼女こいつが原因だろうと3人とも感じた。

いくら『聖国研究団』の名をひけらかしても、この女が相手では、ホイホイ金を渡す方がどうかしている。

そもそも聖国が『謝礼』などを求める時点で、どうかしているのだ。

これは、人間としてしょうがない。

憤るケッシーを、バルカンがなだめるという、珍しい光景が繰り広げられた。


「まァまァ、良い出だしではないですか。 資料はあるのですし、造ってやっては如何でしょう?」


「・・・。」


バルカンに対し、睨みつけるような視線を送るケッシー。

彼女はズル賢いので、どこかで縛り付けられるということが、人生で一番イヤな事であった。

ただし、それに勝るほどに彼女は、『金』というものが大好きだった。


「ケッッ、しょうがないね! せいぜい造ってやるかい、その『てつどう』とやらを。」


悪態をつき、地面をザッとける彼女。

建設費用や人足は帝国側が出すらしいので、彼らは『鉄道建設』とやらの現場監督さえすればよかった。


こうしてアーバン法国の隣国、バオラ帝国では、『ベアル領公式監督工事』の名の下、非公式で鉄道の建設工事が始められる事となるのだった・・・・・・。




本当に出来るかどうかは、甚だ疑問だが。



まだしばらく、出てきます。

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