第288話・それぞれの新たな道
これからも、楽しんで書いていこうと考えています。
感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。
「と言う訳で、連絡船を走らせることにしたから♪」
「は!??」
帰るなりカイトからの突然の報告に、アリアは目をむいた。
前からそうなのだが、彼は全ての計画がある程度進展した時点で、アリアへと報告する形をとっている。
もし彼がフツウの領主であれば、それで一向に構わない。
だが、現時点でベアル領内の財政などの一切は、領主婦人であるアリアが舵取りをしているのだ。
この様な突然の報告などには、アリアは特に手を焼かされているのである。
『お小遣いが足りないんだ、もうひとこえ!』
『・・・まったく、程々にして下さいませ。』
みたいな感じにはいかないのである。
たとえそれが、どれだけ大切な事業であったとしても・・だ。
「申し訳ないのですがカイト様、何が如何様に話が運ばれてそのような話になったのか、一からご説明を願えますか?」
今日カイトはまた、トンでもない話を持って、屋敷へと帰ってきた。
誰か、この自由奔放な領主を、今スグどうにかすべきと思う。
そんな彼女らの悲痛な思いは届く事無く、領主様の突撃は止まることを知らない。
今回も例に漏れず、まるで欲しいおもちゃをねだる子供のように目を輝かせる。
「ボルタとグレーツクの間の航路で、最近特に、船の往来が多くなったろう? だから輸送力増強として、大きな魔導船を造ろうと・・・」
「幾ら、ですか?」
カイトの説明の最中、アリアが質問を投げかけた。
アリアとしては、彼が何を考え立案しようと、さしたる問題ではない。
問題なのは、本当にソレを実行するのか、それにどれだけの金が掛かるのか。
大事なのは、その2点のみである。
そしてカイトは大抵、これらを見落としているのだった。
「へ、いくらって??」
「・・・。」
このように。
もはや呆れを通り越して、考える力が削がれてしまいそうになる。
それをどうにか引き戻し、アリアは彼への『尋問』を続けた。
「その『まどうせん』とやらの開発に、一体どれほどの金額が掛かるのかと、聞いているのです!!」
「ああ、それね!!」
『それね』ではない。
諸々の鉄道の建設工事などは、ベアルの税金で賄われているのだ。
きっちり領民に還元されているとはいえ、だから何でもして良いとはならない。
今回は公式の図面を含めた資料があるらしく、カイトはそれを、アリアに提示して見せた。
これを一瞥すると、アリアは見る見るウチに顔色を変えていく。
そこには前回のダリアさんが図面を引いた船を含め、建造費や専用施設などにかかる見積もりが、事細かく記されていた。
船の開発に掛かる経費。
船を受け入れるための、港湾施設の拡張費。
量産された場合、一隻に掛かる建造費の見積もり。
などなど・・・
ザッと言うと、それは、どこかの国の国家予算並みの額に膨れ上がっていた。
さも既に決まったかのように、こんなものを提示してはいけない。
「・・・カイト様、これは、ムリです。」
顔を目一杯しかめ、その計画が出来えぬものである事を強調するアリア。
カイトはこれに、『信じられない』と驚愕の表情を浮かべた。
もはや彼らの一連のやり取りは、お笑い芸の域であると言える。
目指せ一発屋!
「予算が掛かりすぎです、たとえカイト様が一部を魔法でこなされたとしても、この領では賄いきれません!!」
「えぇ、そこまで!?」
アリアの切羽詰った様子に、ようやく事態の重さを感じ取ったカイト。
いい機会だと、アリアはダムが決壊するように、彼に対して意見を申し立てた。
ずっと黙っていたのでは、この先のことを考えても良くない。
包み隠さず、これからの策も含めて、説明をしていくアリア。
「カイト様、今造っている分も含めて鉄道は建設後、どのようにしていますか?」
「どうって・・・駅馬車組合に運営を任せて、後はヨロシク・・」
ここまでカイトがモノ申したところで、『まさにそこです!』と言わんばかりに、アリアがビシッと彼を指差した。
現在ベアル領の財政が切迫しているのも、それが原因なのです。
「諸々の鉄道建設に掛かる費用は、そのほとんどが本領で負担されております。 お分かりですか、この異常さが!!?」
「言われてみれば、何となく・・・」
いままで締まらなかったカイトの顔が、少しだけ真剣味を帯びてきた。
だが、事の異常さはそれだけに留まらない。
駅馬車組合へは、鉄道を『委譲』という名目で、『無償譲渡』をしているのが、今の現状だ。
彼らに課せられる義務も無ければ、こちらへは何の見返りすらない。
身もふたも無い言い方をすれば、店で購入した服を着もせずに、ゴミ収集に出すようなモノである。
凹むカイトに対し、アリアは尚も畳み掛けた。
「今回の『まどうせん』とやらも、同じく駅馬車組合へ譲渡なされるのですか?」
「そのつもりだったんだけど・・・」
幾らバカでも分かる、アリアはそれを善しとしていない事くらいは。
どうやら俺は、パンドラの箱を開けてしまったようだと、カイトは思った。
・・・が、それも後の祭り。
「カイト様、どうか今後は無償譲渡などではなく、我々にも何らかの形で残るようにして頂きたいのです。 一番良いのは売却ですが、叶わぬならば組合との共同事業として・・・・」
「待って、ちょっと待って! 考えるから待って!!」
矢継ぎ早に言葉の弾丸を浴びせかけてくるアリアに対し、カイトはただ、考えるための時間を要求することしか出来なかった・・・・
◇◇◇
「おぅ闇貴族、遅いぞ!!」
一人だけ先を進み、後ろを歩むバルカンたちへ悪態をつく闇大帝。
魔王侵攻前にトンズラした彼らは、からくも被害を免れ、アーバン法国の隣国、バオラ帝国へとやって来ていた。
幸いにも国境は、先述の侵攻騒ぎで手薄となっており、スンナリ通過することが出来た。
まさにゴキブリの如きしぶとさと、悪運の強さであると言えよう。
「お、お待ち下さい闇大帝様、私は、もともと貴族の出で・・・はァはァ・・・」
「なっさけない男だね~~」
後ろを歩んでいるのは、闇貴族ことバルカンと、途中で再会したドーラと言う盗賊団の頭領(現:ぼっち)である。
ここまで彼らは、ずっと徒歩による移動であった。
しかも逃亡の途中なので、1日の移動距離は長く、しかも取れる休憩の時間は短い。
盗賊のドーラと、昔から自由奔放であった闇大帝はともかく、バルカンにとっては人生史上、一番歩いたで事であろう。
彼の足は、既にパンパンにつっていた。
しかし闇大帝たちは気に留めた様子もなく、目の前に広がる帝都の城壁に対して、感嘆の言葉を洩らした。
「これが世界に名だたる、バオラ帝国の帝都かい・・・これだけ人がいりゃ、スリし放題だね♪」
「あぁ、懐かしいぜ。 こうして来るのは、前にスラッグ連邦の代表として交易の話を持ちかけた時以来だ。」
「私は疲れました、少し休ませていただきたく思います・・・・・・」
三者三様で、好き勝手言うトリオ。
ここまでくれば、ひとまずは安心である。
と、ここで闇大帝が、ある事に気が付いた。
「おいシラケ盗賊娘よぅ。」
「あ゛ぁ!? 誰に口利いてんだい腐れドワーフが!!」
突っかかって来るドーラを、面倒くさそうにあしらう闇大帝。
今のところ、彼女らが打ち解ける兆しは無かった。
しかし今彼らは、世界に名だたるバオラ帝国の帝都の前に居る。
そのような所で口論など起こせば、イヤでも目立ってしまう。
もしそれが元で身元がばれる様な事になれば、この国をも追われることになる。
現時点では、それは避けねばならなかった。
事情が事情だけに今回ばかりはドーラも、すぐに矛を収めた。
「なんだい、つまらない事を聞いて来たら、タダじゃおかないよ?」
「おう、『ケシシシシッ!』て笑う、ブキミちゃんはどこ行った?」
闇大帝の言う『ブキミちゃん』とは、ケッシーと言う名の白装束娘の事である。
元々は聖国で権威ある研究団に属していたらしく、故か頭だけは良かった。
今は縁あって闇大帝たちと行動を共にし、彼らをここ、帝国まで連れてきた。
ちなみに人が嫌がることが好きなど、性格は最悪で、闇大帝には何となく彼女に苦手意識があった。
アダ名の『ブキミ』という部分も、ここに由来する。
「あの子なら、先に帝都に入っているはずだよ。 準備する事があるんだってさ。」
「ふーん。」
元々変わったヤツだったので、わざわざ気にかけるような事は、特に無さそうだ。
疲れを訴え、駄々をこねる闇貴族を無理やり起こし、彼らも城壁の中の、帝都を目指す。
・・・・が。
「ドーラ、私らの偽造した身分証はどこにあるんだ?」
「そうだシラケ盗賊! ソレが無くちゃ、街へは入れねーぞ??」
先頭切って歩いていたドーラは、後ろのコンビ2人のセリフを聞いて、ピタリと歩みを止める。
それを見て、イヤな予感が彼らの頭をよぎった。
ま、まさか・・・・・・?
「悪ィ、ケッシーの奴に預けたままだ。」
「「なんだとーーーーーーーーーー!!???」」
後ろ手に、困惑したような表情を向けるドーラ。
闇トリオは、呆気に取られたように、あんぐりと口を開けた。
帝都の城門の規制は厳しく、身分証が無ければ、誰であろうと入ることは出来ない。
つまるところ、身分証(偽造)が手元に無い彼らは、帝都を目の前にしながら、入ることが出来ないのだ。
ご愁傷様です。
彼らの迷走は、しばらく続くことになろう・・・
1週間後は所用により、投稿が月曜日の夕方以降となります。
ご了承下さい。




