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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第13章 ベアル改革・・?
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第288話・それぞれの新たな道

これからも、楽しんで書いていこうと考えています。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。

「と言う訳で、連絡船を走らせることにしたから♪」


「は!??」


帰るなりカイトからの突然の報告に、アリアは目をむいた。

前からそうなのだが、彼は全ての計画がある程度進展した時点で、アリアへと報告する形をとっている。

もし彼がフツウの領主であれば、それで一向に構わない。

だが、現時点でベアル領内の財政などの一切は、領主婦人であるアリアが舵取りをしているのだ。

この様な突然の報告などには、アリアは特に手を焼かされているのである。


『お小遣いが足りないんだ、もうひとこえ!』

『・・・まったく、程々にして下さいませ。』

みたいな感じにはいかないのである。

たとえそれが、どれだけ大切な事業であったとしても・・だ。


「申し訳ないのですがカイト様、何が如何様いかように話が運ばれてそのような話になったのか、一からご説明を願えますか?」


今日カイトはまた、トンでもない話を持って、屋敷へと帰ってきた。

誰か、この自由奔放な領主を、今スグどうにかすべきと思う。

そんな彼女らの悲痛な思いは届く事無く、領主様の突撃はとどまることを知らない。

今回も例に漏れず、まるで欲しいおもちゃをねだる子供のように目を輝かせる。


「ボルタとグレーツクの間の航路で、最近特に、船の往来が多くなったろう? だから輸送力増強として、大きな魔導船を造ろうと・・・」


「幾ら、ですか?」


カイトの説明の最中、アリアが質問を投げかけた。

アリアとしては、彼が何を考え立案しようと、さしたる問題ではない。

問題なのは、本当にソレを実行するのか、それにどれだけの金が掛かるのか。

大事なのは、その2点のみである。

そしてカイトは大抵、これらを見落としているのだった。


「へ、いくらって??」


「・・・。」


このように。

もはや呆れを通り越して、考える力が削がれてしまいそうになる。

それをどうにか引き戻し、アリアは彼への『尋問』を続けた。


「その『まどうせん』とやらの開発に、一体どれほどの金額が掛かるのかと、聞いているのです!!」


「ああ、それね!!」


『それね』ではない。

諸々の鉄道の建設工事などは、ベアルの税金でまかなわれているのだ。

きっちり領民に還元されているとはいえ、だから何でもして良いとはならない。

今回は公式の図面を含めた資料があるらしく、カイトはそれを、アリアに提示して見せた。

これを一瞥いちべつすると、アリアは見る見るウチに顔色を変えていく。


そこには前回のダリアさんが図面を引いた船を含め、建造費や専用施設などにかかる見積もりが、事細かく記されていた。

船の開発に掛かる経費。

船を受け入れるための、港湾施設の拡張費。

量産された場合、一隻に掛かる建造費の見積もり。

などなど・・・

ザッと言うと、それは、どこかの国の国家予算並みの額に膨れ上がっていた。

さも既に決まったかのように、こんなものを提示してはいけない。


「・・・カイト様、これは、ムリです。」


顔を目一杯しかめ、その計画が出来えぬものである事を強調するアリア。

カイトはこれに、『信じられない』と驚愕の表情を浮かべた。

もはや彼らの一連のやり取りは、お笑い芸の域であると言える。

目指せ一発屋!


「予算が掛かりすぎです、たとえカイト様が一部を魔法でこなされたとしても、この領では賄いきれません!!」


「えぇ、そこまで!?」


アリアの切羽詰った様子に、ようやく事態の重さを感じ取ったカイト。

いい機会だと、アリアはダムが決壊するように、彼に対して意見を申し立てた。

ずっと黙っていたのでは、この先のことを考えても良くない。

包み隠さず、これからの策も含めて、説明をしていくアリア。


「カイト様、今造っている分も含めて鉄道は建設後、どのようにしていますか?」


「どうって・・・駅馬車組合に運営を任せて、後はヨロシク・・」


ここまでカイトがモノ申したところで、『まさにそこです!』と言わんばかりに、アリアがビシッと彼を指差した。

現在ベアル領の財政が切迫しているのも、それが原因なのです。


「諸々の鉄道建設に掛かる費用は、そのほとんどが本領で負担されております。 お分かりですか、この異常さが!!?」


「言われてみれば、何となく・・・」


いままで締まらなかったカイトの顔が、少しだけ真剣味を帯びてきた。

だが、事の異常さはそれだけに留まらない。

駅馬車組合へは、鉄道を『委譲』という名目で、『無償譲渡』をしているのが、今の現状だ。

彼らに課せられる義務も無ければ、こちらへは何の見返りすらない。

身もふたも無い言い方をすれば、店で購入した服を着もせずに、ゴミ収集に出すようなモノである。

凹むカイトに対し、アリアは尚も畳み掛けた。


「今回の『まどうせん』とやらも、同じく駅馬車組合へ譲渡なされるのですか?」


「そのつもりだったんだけど・・・」


幾らバカでも分かる、アリアはそれをしとしていない事くらいは。

どうやら俺は、パンドラの箱を開けてしまったようだと、カイトは思った。

・・・が、それも後の祭り。


「カイト様、どうか今後は無償譲渡などではなく、我々にも何らかの形で残るようにして頂きたいのです。 一番良いのは売却ですが、叶わぬならば組合との共同事業として・・・・」


「待って、ちょっと待って! 考えるから待って!!」


矢継ぎ早に言葉の弾丸を浴びせかけてくるアリアに対し、カイトはただ、考えるための時間を要求することしか出来なかった・・・・




◇◇◇




「おぅ闇貴族、遅いぞ!!」


一人だけ先を進み、後ろを歩むバルカンたちへ悪態をつく闇大帝。

魔王侵攻前にトンズラした彼らは、からくも被害を免れ、アーバン法国の隣国、バオラ帝国へとやって来ていた。

幸いにも国境は、先述の侵攻騒ぎで手薄となっており、スンナリ通過することが出来た。

まさにゴキブリの如きしぶとさと、悪運の強さであると言えよう。


「お、お待ち下さい闇大帝様、私は、もともと貴族の出で・・・はァはァ・・・」


「なっさけない男だね~~」


後ろを歩んでいるのは、闇貴族ことバルカンと、途中で再会したドーラと言う盗賊団の頭領(現:ぼっち)である。

ここまで彼らは、ずっと徒歩による移動であった。

しかも逃亡の途中なので、1日の移動距離は長く、しかも取れる休憩の時間は短い。

盗賊のドーラと、昔から自由奔放であった闇大帝はともかく、バルカンにとっては人生史上、一番歩いたで事であろう。

彼の足は、既にパンパンにつっていた。

しかし闇大帝たちは気に留めた様子もなく、目の前に広がる帝都の城壁に対して、感嘆の言葉を洩らした。


「これが世界に名だたる、バオラ帝国の帝都かい・・・これだけ人がいりゃ、スリし放題だね♪」


「あぁ、懐かしいぜ。 こうして来るのは、前にスラッグ連邦の代表として交易の話を持ちかけた時以来だ。」


「私は疲れました、少し休ませていただきたく思います・・・・・・」


三者三様で、好き勝手言うトリオ。

ここまでくれば、ひとまずは安心である。

と、ここで闇大帝が、ある事に気が付いた。


「おいシラケ盗賊娘よぅ。」


「あ゛ぁ!? 誰に口利いてんだい腐れドワーフが!!」


突っかかって来るドーラを、面倒くさそうにあしらう闇大帝。

今のところ、彼女らが打ち解ける兆しは無かった。

しかし今彼らは、世界に名だたるバオラ帝国の帝都の前に居る。

そのような所で口論など起こせば、イヤでも目立ってしまう。

もしそれが元で身元がばれる様な事になれば、この国をも追われることになる。

現時点では、それは避けねばならなかった。

事情が事情だけに今回ばかりはドーラも、すぐに矛を収めた。


「なんだい、つまらない事を聞いて来たら、タダじゃおかないよ?」


「おう、『ケシシシシッ!』て笑う、ブキミちゃんはどこ行った?」


闇大帝の言う『ブキミちゃん』とは、ケッシーと言う名の白装束娘の事である。

元々は聖国で権威ある研究団に属していたらしく、故か頭だけは良かった。

今は縁あって闇大帝たちと行動を共にし、彼らをここ、帝国まで連れてきた。

ちなみに人が嫌がることが好きなど、性格は最悪で、闇大帝には何となく彼女に苦手意識があった。

アダ名の『ブキミ』という部分も、ここに由来する。


「あの子なら、先に帝都に入っているはずだよ。 準備する事があるんだってさ。」


「ふーん。」


元々変わったヤツだったので、わざわざ気にかけるような事は、特に無さそうだ。

疲れを訴え、駄々をこねる闇貴族を無理やり起こし、彼らも城壁の中の、帝都を目指す。

・・・・が。


「ドーラ、私らの偽造した身分証はどこにあるんだ?」


「そうだシラケ盗賊! ソレが無くちゃ、街へは入れねーぞ??」


先頭切って歩いていたドーラは、後ろのコンビ2人のセリフを聞いて、ピタリと歩みを止める。

それを見て、イヤな予感が彼らの頭をよぎった。

ま、まさか・・・・・・?


わりィ、ケッシーの奴に預けたままだ。」


「「なんだとーーーーーーーーーー!!???」」


後ろ手に、困惑したような表情を向けるドーラ。

闇トリオは、呆気に取られたように、あんぐりと口を開けた。

帝都の城門の規制は厳しく、身分証が無ければ、誰であろうと入ることは出来ない。

つまるところ、身分証(偽造)が手元に無い彼らは、帝都を目の前にしながら、入ることが出来ないのだ。


ご愁傷様です。



彼らの迷走は、しばらく続くことになろう・・・


1週間後は所用により、投稿が月曜日の夕方以降となります。

ご了承下さい。

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