第286話・もう一つの計画 その1
これからも、楽しんで書いていこうと考えています。
感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。
最近、グレーツクとの交易がヤバい事になっているらしい。
グレーツクでは先だって、軽便鉄道のようなものが敷かれたのは周知の通り。
この鉄道は鉄鉱石の運搬用であり、それ以外の用途は無い。
その甲斐あってか、鉄鉱石などを積むための商船が前より、多く往来するようになった。
モノの往来が頻繁になり、最近は大陸中から交易品が集まるようになったとか。
その関係で、船の運搬力に限界が訪れているのだ。
「という事情があって、船が欲しいんだ♪」
「へぇ?」
カイトの報告に目を輝かせ、水を得た魚のようにテンションを上げるダリアさん。
ずっと前に船造りにハマって以降、商船建造は彼女に一任している。
彼女が言い出したことだし、毎回ワリと楽しんでやっている様子。
だが今回は、いつもとは趣旨が異なる。
「いや、今回は作らなくていい。」
「えぇ!!」
あからさまに『がーーーん』というテロップを背後に浮かべ、落胆するダリアさん。
船造りからはずされるのが、そんなにイヤなのか?
さっきまでの喜々とした表情がウソのように、顔を薄暗くさせて小さな体が、更に小さくなっていく。
待て、そのままイジけられては困る。
「ダリアさんはすごいよ。 大嵐でも沈まない、世界随一の船だって商人たちが喜んでいたよ。」
ピクッと反応を示す、彼女の小さな体。
マンザラでも無いらしい。
「人間ごときに褒められても、ちっとも嬉しくはありませんが・・、これからも我が芸術をとくと、ご覧に入れましょう。」
「今後もその意気で、頑張って欲しい。」
掌握完了。
ノラゴンを手玉に取るのは、チョロいぜ。
このまま畳み掛けてしまう。
「だから今回も、ダリアさんに手伝って欲しい。 ダメかい?」
「あ!? あ・・・」
話の途中で、転移でグレーツクへとやって来たカイト。
急の事で、ダリアさんは少し混乱している様子。
最近は慣れたからか、片手間でも魔法が発動できるようになったのだ。
俺だって、少しは成長する。
どうせダリアさんのこと、今日はダルいとか言って付いて来ない可能性があった。
なので、簡易的な実力行使を使わせてもらったのだ。
「連れて来ておきながら、わざわざ尋ねるのですか?」
「フフ~~ン♪」
口を尖らせ、軽く抗議をしてくるダリアさん。
だが帰るとは言わないようだ。
あらかじめヒカリには事情を伝えており、ベアルで留守番させているので問題ない。
自信たっぷりに、カイトはダリアさんの前を歩み始めた。
「これから何をされるのですか。 奥様に殺されても知りませんよ?」
「アリアにはもう言ってある。 向かうところは・・、これから分かるよ。」
疑問を口にするダリアさんをよそに、カイトが向かっているのは渓谷の一角。
件の鉄道研究所だ。
既に話は通してあるので、たぶん準備を始めていることだろう。
魔法を使うとギセイが出る危険があるので、ここからは徒歩の移動だ。
その間にと、ダリアさんが疑問を投げかけてくる。
「ところでカイト殿様、話は変わりますが、昨夜はどうでしたか?」
「・・・ナンノコトダイ?」
言っている意味がワカラナイナ。
俺は昨日、メルシェードと仕事して早めにネタンダヨ?
なんて、あさっての方向に思考を持っていこうとするが。
当のダリアさんは全てを見透かしているように、苦笑を漏らした。
「隠してもムダです。 昨夜、件の女魔族が屋敷に訪ねて参ったこと、知っているのですよ?」
「・・・。」
グウの音も出せない。
忘れようとしていたのに、思い出させるなよ。
ええ来ましたよ、彼女の言うとおり確かに。
『アキレス』とか言う魔王軍の将軍を預かる、ミーハーな感じの女魔族が。
1万5000の配下を連れてきたいと抜かしやがったので、問題を起こされる前に早々に、お引取り願いましたよ。
自分で帰しといてアレだが、俺は関わり合いになりたくない。
「『ただで』帰した訳ではないようですね?」
「・・・だから、心を読むなったら。」
ダリアさんが心を読んだとおり・・・。
あのアキレスさんとやらは、どうしてなかなか帰ってはくれなかった。
配下にしてくれるまでは、1000年でもここへ通うとか言ってきたのだ。
そんな事をされては、迷惑どころでは済まない。
つまるところ、俺の方が妥協させられてしまった。
「死にそうな覇気で頼み込んでくるから、こっちが折れたんだ。 今はベアルには居ないよ。」
帰れないからと言って、魔族1万5000を受け入れる余裕はウチの領には無い。
そこで彼女らには、諸国巡りをして頂くことにした。
1万5000も居るのなら、俺の知らない世界の隅々まで見てこれるだろう。
ここの以外の国々も、興味が無くは無い。
世界中を観光して、ときタマその、土産話でも聞かせておくれってね。
いや・・・やはり来なくても良いかなァ。
話が一方的過ぎてヒカリの事は聞きそびれるし、本当にサンザンでした。
「魔王旗下1万5000の軍勢をも手中に収められるとは、私といえども成し得ませぬ。 さすがは我が友、カイト殿様でございますなあぁ・・・!」
俺の感情など関係ナシに、喜び勇む彼女。
口角を上げ、爬虫類のような双眸で、こちらをカッと視線を送ってくる。
元々だけど、可愛い顔が台無しです。
「ダリアさん、雑談は終了。 着いたよ?」
「・・・もうですか? 出来ればもう一周して、聞きたいことが・・・」
「あとで。」
忙しいんだから、もう一周なぞしていられるかい。
渋るダリアさんを押して、鉄道研究所の建物の中へ入ると、そこでは件のおっさんズが、机を囲んで、何やら談議をしていた。
1人が俺たちに気が付くと、彼らは一斉にこちらへ首を回す。
「遅いぞ小僧! ヒトにやらせておいて、自分は遅刻か!??」
「社長様出勤とは、良いご身分だな!」
「昨日はイロイロあって、夜遅かったんですよ!?」
挨拶もそこそこに、彼らは俺へ抗議申し立ててくる。
いつも、俺だって言われっぱなしにはならないぞ。
「カイト様、おはようございます。 本日はようこそ、はるばるお越しくださいました!!」
「やぁルルちゃん、久しぶり。」
声に気が付いた唯一の研究所職員が、部屋の奥から姿を現す。
ルルアムちゃんは、素直でいいなー。
おっさん達も素直になってくれれば、もっと可愛げが在るのに。
「何をニタニタと、しまらねぇ顔してんだ、気持ち悪いぞ小僧?」
・・しまった。
いつの間にか、大いにバカっぽい顔をしていたらしい。
両手で顔を叩いて今一度、気合を入れなおす。
「それでカイト殿様、私に頼みたいこととは??」
「そうだった! ダリアさんにはね・・、一番重要な役回りを任せたいと思っているんだ。」
静まり返る、研究所の室内。
そういえば彼女にだけ、これから何をするのかを言っていなかったけ。
というか俺が言ったら、来なかったもしれなかったからね。
「これから始めるのはね・・・」
重々しい口調で、カイトは話を切り出すのだった・・・・
秋晴れって、気持ち良ぃですよね~。
(誰に言うでもない、戯言)




