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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第13章 ベアル改革・・?
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閑話・短な鉄旅


いつか書こうと思って、コロッと忘れていた話。

時系列的に魔王軍が侵攻する前なので、閑話あつかいとしました。


「カイト様、あれは何ですか?」


「『はかり』だよ。 あれで荷物の重さを量って運送料を決めるんだ。」


「そ、それぐらい知っていますわ! そんな事を聞いているのではありません。」


先ほどからアリアたちからの「なんで?」が止まらない。

カイトはその質問に、一つずつ答えていった。

彼らは今、ベアル駅へと来ている。

列車は既にホームに入り、発車待ちをしていた。

カイト達一行はたった一両だけ、つながれた客車へと乗り込んでいく。

車内は真ん中に通路が一本あり、両脇に向かい合わせのボックスシートが並んでいた。

客車が小さいので、より狭さが際立つ。


「カイト様、少し狭くありませんか?」


「そういうもんだよ、気にするな。」


機関車が小さいので客車も小さく、ちょっと手狭感があるだろう。

人間形態で小さくなっているダリアさんでも、天井に手が届いてしまう程だ。

しかし鉄道は『魔石』という希少鉱物で動くので、運賃がかなり高い。

そのせいか客は俺達だけなので、座ってしまえば狭さも幾分は軽減された。


客車の後ろには交易品(主に食料)が満載となった貨車が、何両も連なっている。

その多くにはソギクが満載となっており、これを鉄鉱石と換えるのだ。

ホームでは駅員達が、せわしなく動いて発車の準備を整えていく。

もっと多く乗客が乗れば安く出来るかもしれないが、鉄道の普及はまだ、遠そうである。

客車のドアが駅員によって閉めらる程なく、ポーッという可愛らしい汽笛が鳴り、ガタンと揺れて汽車が走り始めた。


「お兄ちゃん動いた、動いたよ!」


「あぁ。」


これまで何度夢見てきたことかと、カイトは感慨にふける。

鉄道を捜し求めて数年、長い道のりであった。

目下の目的は鉄道に乗って、ボルタへ向かうことである。



もしボルタへ行きたいなら、お得意の転移魔法で移動すればよいとの声もあるだろう。

こうなった背景は、数時間前にさかのぼる・・・




ベアルでは、朝の一番列車の汽笛を基準にして、働き出す者が多くなった。


領主邸から近いところを走る鉄道は、屋敷の中からでも遠くに、汽車が吐き出す煙を望むことが出来る。

最初の頃は使用人が物珍しさから眺めている者も居たが、今はそれもいない。

だがそれを、未だに眺めている人間がここに居た。


「何を見ているんだい?」


通りがかったカイトが気が付いて声をかけると、彼女はビクリと体を震わせて、彼の方を向く。

窓から通過する鉄道を見ていたのは、アリアであった。

何も持っていないところを見て、今は仕事中ということでもないらしい。

汽車が残していった煙が空を黒く染めていたため、窓から外を見た彼もそれを確認することが出来た。


「列車か、住民に受け入れられていると良いけど・・・。」


「そうですわね・・・。」


カイトも鉄道マニアを謳っているでけあって、煙を吐く機関車の不利な点は、少なからず分かっているつもりだった。

今の時点で『無煙化』の運動でも始まってしまえば、そこでオワリだ。

それも簡単に改善できるような事ではないので、今後の課題となっている。


「・・・乗りたい?」


「は!?」


アリアが鉄道へ向ける羨望せんぼうに似た視線を見て、ふとカイトは思ったことを口にした。

彼は鉄道に、当然ながら乗ったことがある。

なかなか時間が取れないので、前に夜間の試運転に参加した一度きりだが・・・。

鉄道建設の立役者がコレなのだから当然、屋敷内で列車に乗ったことがある人間は、誰一人としていない。

当たり前である。

隣町であるボルタに用が出来ることなどまれだし、もしあったとしても大公様が造った通称『どこでも行けるドア』を使えば、ボルタへはすぐ着く。

(※カイトが設定した場所しか行けない制約あり)

鉄道は輸送力増強と、そしてカイトの趣味によって出来たに過ぎないのだ。


「ボルタへ行くなら、カイト様のお造りになったドアをくぐれば良いではありませんか!」


「鉄道が気になるんだろう? 見るだけと乗ったのじゃ、大分違うと思うよ?」


「・・・。」


みるみる顔を赤くしていくアリア。

しかしカイトにしてみれば、別に恥ずかしがるような事ではないと思っていた。

これまでさんざ、『鉄道を造りたい』と耳にタコが出来るほど聞かされ。

しかもやっと出来たソレは、今まで見たことも無いような代物で。

それが目の前を走っているのだから、むしろ気にならない方がおかしい。

急ぐようなことはないし、仕事なんか後回し!


「いいじゃないか、乗ろうよ。 ヒカリも鉄道に乗ってみたいだろう?」


「乗ってみたい!」


最後の一押しにと、ヒョコヒョコ付いて来ていたヒカリにも声掛けするカイト。

今日は大きな用事はないので、時間は作ろうと思えば作る事が出来る。

彼女も窓から外をボーっと見ていたくらいなので、同じだろう。

ヒカリの一押しには大きな効果があったようで、かたくなだったアリアが、それならばと首を縦に振った。

自分に素直じゃない心を動かすのは、一苦労だ。


「ヒカリがそう言うのであれば・・・。」


「おし行こう、今すぐ行こう!!」


善は急げと、ほぼ手ぶらで屋敷を飛び出して現在に至るワケだ。

あまりに急な話で驚いたのは使用人達の方だ。

結局、熱望したダリアさんを護衛兼世話係として連れて行く事となったのだが・・・。

メンバーは他にヒカリと、ノゾミを足した計5人のおなじみ精鋭。

この2人は勝手に、思い思いに時間を過ごすので、意外や手は掛からなかった。

問題は、もう2人のほうである。


「カイト様、大丈夫でしょうか? 魔石の呪いは無いでしょうか??」


「問題ないから、大丈夫だから。」


まずアリア。

馬車ではすました顔をしている彼女だが、鉄道が動き出した途端にコレである。

どうやら自分に理解できない理屈のものを、とことん信用しないタチのようだ。

気持ちは分からないでもないが、ガタンと揺れるごとに死人のような顔をするのは、カイトとしては即刻で止めて頂きたかった。


「フフ、奥様は小心者でございますな。 それよりカイト殿様、もっと速くは走れないのですか?」


「だったら、自分が走ったら良いだろ。」


2人目、ダリアさん。

動き始めてすぐに「遅い、もっと速くならないのか」とオウムのように同じ事を繰り返す彼女。

そのくせ「イヤなら帰って良い」と言うと暫く大人しくなる、実にメンドクサイ奴である。


しかし以上の事を加味しても、鉄道の旅というものは楽しいものだった。

カタンカタンと小気味良い音を辺りに響かせ、窓の中まで煙の匂いが香ってくる。

こんな短い区間に橋あり、勾配あり、そしてトンネルあり。

カイトはしばしの間、至福のときを過ごしたが、列車はモノの1時間程度で終点のボルタへと到着する。

前に馬車移動だった頃は、峠越えのせいで一日がかりだったのを考えると、速達性がいかに向上しているのが分かるだろう。


「もう終わり?」


「ボルタは近いからね、でも近い内に今度は王都まで伸びるよ。」


残念そうにするヒカリたちをなだめつつ、降り支度を始めるカイト。

列車はスムーズにボルタ駅へと進入し、キキーッという甲高い音を響かせて停車した。

長いようで短い、なんとも充実した時間を過ごす事が出来たと彼は感慨にふける。


「どうだった、鉄道は?」


ぜひ感想をと、カイトは降りるなりホクホク顔で質問をぶつけた。

自ら手を下した部分は少ないが、やっと出来た鉄道。

その感想はどうしても、聞かずに居られなかった。


「遅いですね、これでは転移は元より私が・・・」


「ゴメン、ダリアさんじゃなくてアリア。」


KYノラゴンは横にやり元気を取り戻しつつあるアリアへと質問の矛先を向けるカイト。

しかしよく見ると彼女の顔は顔面蒼白であり、目は雄弁に内なる感情を、語っていた。

彼女が鉄道に慣れるには、もう少し時間が掛かるであろう。

なるべく足早に駅を出て、今日という日の締めくくりに掛かる。


「お兄ちゃん、駅からドンドン遠ざかってるけど、帰らないの?」


「帰りは列車には乗らないんだ。」


カイトが向かっているのは、ボルタの郊外である。

本当は列車で帰りたいところではあったが、次の旅客列車は2時間後の出発。

そのためだけに臨時列車を出してもらうのも忍びないので、転移で帰る事にしたのだ。

大きな魔法なので巻き込み事故を防ぐため、街の外へ出るのである。

そこへすかさず、ダリアが口を挟んできた。


「おヒマとあらば、私が造りし芸術鑑賞には参りませんか?」


「見ねーよ。」


どうせ見せられるのは、船とか船とか船とかに違いない。

何が芸術作品かと、カイトはこの申し出を足蹴にした。

そんなモン見て、どうしろと言うのか。


ノゾミは疲れたのか、彼の背中で寝息を立てている。

ヒカリはともかく、事の発端となった妻は、体中から黒いオーラがにじみ出ている始末。

汽車旅は結局、振るわずに終わってしまった。


好き勝手言い続けるノラゴンを無視しつつ、彼らは粛々とボルタの外れへと歩むのだった・・・。



何事にも、下準備は大事です。


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