第29話・盗賊という者
つたない文章で申し訳ございません。
やっと王都に到着です!!
俺たちは盗賊団、『炎の集い』
縄張りであるこの森、王都まであと一日のこの場所で、通る馬車や商隊を相手に金や食い物、それに命などををいただいている。
今日はそんな獲物の中でも、滅多に無い獲物が通った。
なんと護衛を一人も連れていない、商隊だ。
普通、この世界では俺たちのような盗賊対策として、商隊は護衛を雇うものだ。
これは俺たち盗賊への、良いけん制にもなる。
だが、目の前を通る商隊はそれを連れていない。
もしや馬車の中に隠されているかとも思ったが、乗っているのは御者のほかは、商人や一般人ばかりのようだった。
そもそも護衛は前述のとおり、盗賊のけん制目的にも使用されているため、わざわざ隠す必要なんか無い。
俺たちは思わず、うれしさのあまり舌なめずりをした。
一応、大事をとっていつもどおりに夕方になってから襲撃をすることにした。
これは、夕方に彼らが野営の準備をすると踏んだものである。
目的地も近く移動に疲弊している彼らの、油断も相当だろう。
しかし、俺たちは、信じられない光景を目にするのだった。
「ま、待て! ぎゃああああああああああああああ!!」
ズバン!
俺たちの盗賊団最速の、『瞬腕のゼル』が一刀の元に両腕を切り落とされてしまった。
バカな!?
あいつはAランクの冒険者にも引けをとらないんだぞ!??
それを・・・・
だが、黒目黒髪のその冒険者風の青年は、俺たちのほうに向かってくる。
その目は闇より深く、彼からは強烈な殺気が向けられる。
く・・・来るな!!
今までクズ商人どもに向けていた剣を、その青年に向ける。
しかし、その剣の刀身はいとも簡単に、青年が持っていた剣によって叩き切られてしまった。
こんなこと、Sランクのやつだってできない。
お・・・終わりだ・・・・
俺たちに戦う意思なんて残っていなかった。
俺たちがこの青年に対してできるのはただ、命乞いをするだけ。
それはまるで、悪夢のような出来事だった・・・
◇◇◇
聞こえてくるの、はいつもどおりの馬車の音。
それから俺に、賛美の声をかける同乗者たち。
口々に、盗賊を捕らえたその功績を称えてくる。
馬車には、数人ずつ、目隠しと猿轡をされた盗賊がつながれ、歩かされている。
昨日は戦闘後、そのまま野営をし、朝からまた、王都へと進み始めた。
もう、太陽は一番高いところに上がっている。
王都は城壁が三重になっているらしく、既にさきほど、一つ目の城壁は通過した。
そこで、番兵さんがこの盗賊たちの存在に驚き、俺たちとは別の特別通行証を発行してくれた。
これは倒した俺が持っているべきとかで、俺に持たされた。
王都に変な人間が入らないよう、この門を通過する際はこうして、通行証を発行されるらしい。
これを、もう二つの検問所で見せればよいという。
大変便利であると同時に、王都の警備の厚さを痛感させられる。
ちなみに俺とノゾミ、それに商人さんたちには発行されない。
ギルドカードが、その通行証代わりとなるためだ。
ノゾミが、いつもとは逆に俺の頭をなでている。
その顔は、俺への心配に満ちている。
だが俺はというと、頭をひざの間にいれ、頭を伏せて揺れる馬車の床だけをじっと見つめていた。
昨日の夜から、ずっとこの状態だ。
「もっと早く対処できていれば、死人は出なかっただろうに・・・。」
誰かに言われたわけではない。
感謝こそされ、責められるような事は決してなかった。
だがそれだけ、目の届く範囲で死人が出たという事実に、落ち込んだ。
こんな事で、俺はこの世界で生きていけるのだろうか??
いつしか、俺の目からは涙があふれ出ていた・・・・・。
◇◇◇
「ほう、これをあなたが!? いやはやお手柄です!! 実は当方も相次ぐ盗賊被害に、頭を抱えていたところなんですよ!」
二番目の城壁の番兵さんに、俺のギルドカードと、先ほど渡された特別通行証を渡したら、とても嬉しそうにそう言われた。
盗賊を倒した。
それはこれからやって来る商隊の安全性も高まり、ひいては貿易の円滑化が期待される。
盗賊逮捕は、この世界においては、十分に賞賛に値する事なのだ。
しかし・・・・・・・
「それでも、商人さんたちに死人が出てしまったんです。 激情に駆られて一人の腕を切り落としてしまいましたし・・・」
しかし盗賊さんたちだって、シュミではあるまい。
行為自体に大きな間違いがあったとはいえ、生きるためにやった、という点では俺たちと大差ないように思う。
俺が腕を切り落とした男は、今は猿轡などのせいで顔をうかがうことは出来ないが、腕がなければこの先、どのような人生を歩むのか・・・・
未だにノゾミの件は許せないが、少しやり過ぎたと言う一種の罪悪感のようなものがあった。
障がい者保険制度など、この世界にあるとは思えない。
「なぜ落ち込むのですか、むしろこれは誇ってよいことですよ? 何せ盗賊どもは人権が無いからですね・・・ 腕の一本や二本、たとえ命を取ったって問題にはなりません!」
え、今・・・この人なんて言った・・・・?
番兵の耳を疑う発言に、カイトは盗賊たちを指差して疑問を投げかけた。
「この人たちに人権が、無い?」
「はい。 こやつらは魔物と一緒です。 まさに百害あって一利なし、これを殺したところで誰も困りませんし、むしろ喜ばれるでしょうな。 本当に、ありがとうございます。」
カイトにそう言って、頭を下げる番兵さん。
保険制度どころか、同じ人間なのに、盗賊には人権が無い。
そんなバカなと思う。
この世界では、それが普通なのだろうか。
いや、ここではこうした、俺の考えのほうが間違っているのかもしれない。
ここは日本とは違うのだから・・・・・・
俺は、さらに重くなった口を開く。
「じゃあ・・・今回みたいに、生きて連れてきたらどうなるんです・・・・・?」
「国保有の奴隷となり、その後は死ぬまで鉱山で働くか・・・または戦場の最前線へ送られるでしょうな。 腕がなくても『盾』の代わりには成りますからね!!」
予想していたことを言われ、俺の気持ちはさらに沈んだ・・・・・・
『奴隷』か・・・
カイト君はどうなるのでしょうか、心配です・・・・・
ちなみに『商人のギルドカード』ですが、
カイトたちとは違い、『商会ギルド』という組織のギルドカードとなっています。
冒険者のそれとは少し、意味合いが違います。




