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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第13章 ベアル改革・・?
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第283話・件の魔石

これからも、楽しんで書いていこうと考えています。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい!


「カイト様、昨日は大声を上げていらしたようですが、何かあったのですか?」


「な~んにも。」


アリアの質問を軽く流し、朝の挨拶とするカイト。

彼女が気にしているのは、昨晩に魔族が屋敷に浸入していた件である。

昨日のあの、アホ魔族には力づくでお帰りいただいた。

街の外にも気配は一切無いので、約束どおりに引き払ってくれたらしい。


「お兄ちゃん、今日は機嫌がいいね。」


「そう?」


確かにある意味で、彼は機嫌は良い。

ストーカーもようやくに居なくなったのだし、これで静かな日常が戻ってくる。

そう考えれば、少しは機嫌も良くなるというものだろう。

しかし同時に別の案件も抱え込んでしまったため、自然とカイトからため息が漏れる。


「あの・・体調が優れませんか?」


「いや・・大丈夫。 心配ないよ。」


この辺りで休みたいところだけど、下手に仮病なんか使ったら後が怖い。

なんともない事を伝えると彼女も安心したのか、必要以上に詮索してくることは無かった。

・・・が、それは新たな火種を呼んだに過ぎない。


「ところでカイト様。 話は変わるのですが、お腰の布袋は?」


鋭い洞察力だ。

昨日までは付けていなかったから、不審に感じるのだろう。

ここは正直に言うべきか?

アリアに分からないよう、ほんの少しだけウチのメイドラゴンへ視線を送ってみる。


「(ニタリ)」


好奇心旺盛な限りの、とっても良い笑顔を向けてくるダリアさん。

これはダメなサインだ。

分かりやすくて、助かる。


「中は魔石なんだ。 事情あって持って歩いているんだよ。」


「左様でございましたか。」


ウソは言っていないが、この内容には大きな不備がある。

入っているのは魔石で違いないが、出所は昨日の魔族さんである。

あの女は、魔石を俺に預けたまま帰ってしまったのだ。

魔王に会いに行きたくないし、仕方ないので俺がしばらく保管することになったのだ。

本当はアイテム・ボックスにしまいたい所であったが、魔石から発せられている魔力が途切れてしまったら、あの魔族さんが死ぬらしいので、布袋にしまう形をとることになった。

不安定で落ち着かないが、しょうがない。

次に会ったときに、何としても返すつもりだ。


「本日のご予定は、ありますか?」


「何か用事?」


改まって、アリアが疑問をぶつけてきたので、俺も体裁を整える。

昨日はロクに何もしなかったので、頑張ります!


「いいえ、そうではございません。 どこか向かわれるのであれば、目的地を聞かせていただこうと思いまして。」


「あ、そういう事ね。」


前にアリアたちとは、『出掛ける時には、目的地をはっきりさせる』という取り決めをした。

彼女は、それを実行したに過ぎない。

ごめんなさい、反省してます。


「今日はギルドの冒険者を、鉄道の工事現場に送ってくるよ。 現場で説明をしないといけないから、でも夕方には戻るよ。」


「それに関して、少々お話したい事があるのですが。」


う・・ヤバい兆候。

墓穴を掘ってしまったか?

キラリと光る鋭い眼差しが、俺を狙う。


「お帰りになりましたら、よろしくお願いいたします。」


「・・・ハイ。」


途端に張り詰めていた周囲の空気が、霧散する。

今夜も、俺は眠れそうに無い。


アリアが私室へ引っ込むと、カイトも出立の身支度を整え始める。

用意といっても、持って行くのは貸与するための武器が少しと、今回集まってくれた冒険者のリストだけだ。

後の必要そうな諸々の物品は、既にアイテム・ボックスに入っているので問題ない。


「お兄ちゃん、良い?」


「良いよ、何でも質問してごらん。」


ヒカリは、姿相応に子供のように振舞う。

タマにこうして、俺たちへ疑問などをぶつけてくるのだ。

それがまた、可愛い。


「ねぇお兄ちゃん、その魔石は誰の?」


「・・・え?」


・・・が、今回は少し内容が違った。

視線を上げれば、胸に手を当て、困惑気な表情を浮かべるヒカリの姿が映る。

まさか・・・・昨日、見られていたか??


いや、それは無いな。

ヒカリが近くに居たら、気付かないはずが無い。

そうか、彼女も魔族だから、何か感じるものがあったのかもしれない。

同じ魔族の持つ魔石で、共鳴しているとかね。

これは、隠せない。


「実は昨日の夜、お客さんが来てね。 その人の忘れ物なんだ。」


「私のと同じ・・・コレ鼓動してる。」


俺の手の中の魔石へ、熱い視線を送るヒカリ。

取り出されたとはいえ、持ち主は生きておりますからね。

ちなみに傷をつけると、当人にも実害が及ぶとの事。

まったく厄介なモノを置いていってくれたよ。


「ダメだよこれ、早く持ち主に返してあげて!!」


「!!」


ヒカリが声を荒げるなど、初めての事だ。

びっくりしてしまった。

ヒカリは俺の服の裾をつかみ、切羽詰ったような様子を浮かべた。

しかし現状で、どうにもならない事もある。


「持ち主の居場所が分からないんだ。 ここへ戻ってきたときに返すつもりだよ。」


「本当・・?」


「信じてくれ。」


納得してくれたようで、それ以降、ヒカリは静かになった。

正直、置いていったときはすぐにでも返そうと思ったのだ。

しかし魔族は、魔石にその全てを内包しているらしく、彼女の気配を辿ることができなかった。

簡単に俺の持っている魔石が、彼女自身なのだ。

しかし魔石と体の間をつなぐ気配も、薄すぎて感知できずじまい・・・・。

彼女がここに来ない限り、どうにもならないのです。


「この魔石は、責任持って俺が預かるよ。 それで良いかい?」


「うん・・・」


彼女はストーカー。

俺に付きまとって、ダリアさんを怒らせるという大罪を犯した阿呆な魔族だ。

しかし犯罪者とはいえ、俺の失態で彼女を殺したりしては一大事。

罪意識のせいで、寝つきが悪くなってしまうのは、避けねばならない。


魔石と彼女のつながりを断ちかねないので、魔石は収納ではなく、腰の布袋へ。

なんとも面倒ごとを押し付けられてしまったような気持ちだ。

この借りは、何十倍にもして返してもらおう。


カイトたちは身支度を整えると、すぐに街へと繰り出して行った・・・・



◇◇◇



ちょうど同じ頃。

森の先にある魔王城では、叱責するような大きな声が、玉座の間に響いていた。


「『闇獄』よ、なぜ戻った!? 貴様は魔王様直々の命を受けたはず、よもや失敗したのではあるまいな!??」


「・・・。」


総参謀の怒号に似た言葉に対し、『闇獄』の魔将は床に頭をこすり付ける。

その彼女の姿に対し、総参謀の怒りは頂点に達し頭を踏みつけた。


「何のマネだ貴様。 魔将の名を頂きながら、用の一つも果たせぬのか?」


激昂するもう一人の魔将を、魔王が片手で制する。


「申し開きたき事があるならば、申すが良い『闇獄』よ。」


魔王のズシリと重々しい言葉が、この場の空気を支配していく。

それに伴い、総参謀の魔族も頭に乗せていた足を、床へと下ろす。

満足げに、ゆっくりと首を縦に振る魔王。


「『地響の』、貴様は下がれ。」


「しっ、しかし魔王様、魔王軍総参謀を預かる身として、この様な失態を見過ごすわけには・・・!!」


「二度は言わん、下がれ!!」


魔王の言葉に一度、体を震わせた後、総参謀は臣下の礼をとって退室していった。

部屋に残るのは、魔王と『闇獄』2人だけ。

しばしの沈黙の後、魔王が疑問を口にした。


「さて『闇獄』よ、貴様の魔石はどうした?」


「!!」


顔を蒼くさせ、体を震わせる『闇獄』と呼ばれた魔将をあずかる彼女。

ちなみにカイトに預けてしまったことで現在、彼女の胸元には在るべき魔石は無い。

魔法で出来る限り隠蔽いんぺいしていたのだが、魔王の目は誤魔化せなかったようだ。


「魔石は我ら魔族の根源であること、よもや忘れたのではあるまいな?」


「め、滅相もございません、魔王陛下。」


すべてを見透かしたような口調で、畳み掛ける魔王。

魔石が無い状態で魔族が生きていると言うことはつまり、石そのものは無事である証拠。

それを失くしたとは、到底考えられない。

すると、おのずと想像されることは限られてくる。


「その上で戻ってくるとは、良い度胸だ。 覚悟は出来ておるな?」


「・・・。」


魔王が右手を振ると、その手に紫色に光る大剣が現れた。

彼女が平伏するその場所へ、魔王は剣を携え近づいていく。

『闇獄』は逃げる素振りも見せず、そのままの姿勢で床にひれ伏す。

裏切りは即、死を意味するのが、彼らの常識。

それはオークの子供でも知っていることだ。

覚悟を決める彼女をよそに、魔王は無慈悲に剣を振り下ろす。


「!」


ガキン!!!


まっすぐ振り下ろされた剣は、彼女の首スレスレをかすめ、火花を散らして止まった。

床はあまりの衝撃に、クモの巣状に割れ、大きなくぼみを形成する。

一連の事態に、何が起こったのかが分からず、『闇獄』は、ゆっくりと顔を上げた。


「『闇獄』よ、貴様に最後のチャンスをくれてやる。 早急に魔石を取り返してくるのだ。 それまで魔族領の土を踏むこと、相成らぬ。」


「か・・寛大なる魔王様のお言葉、痛み入ります! 必ずや!!」


「フ・・・・」


彼女の言葉に対し、大きく口角を上げてみせる魔王。

それは暗に、これからの彼女の行く末をも見透かしているように見えた・・・


一言

『闇獄』が魔王の元に帰った理由について


どうしてもカイトが自分を配下にしてくれないので、ならばと戻るフリをして魔王のスパイを考え付いたようです。

それで少しでも手柄を立て、配下になろうとしたよう。(カイトが喜ぶと考えたっぽい)

しかし結果は、上記のとおりでした。

死ななかっただけ、マシかも。


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