第283話・件の魔石
これからも、楽しんで書いていこうと考えています。
感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい!
「カイト様、昨日は大声を上げていらしたようですが、何かあったのですか?」
「な~んにも。」
アリアの質問を軽く流し、朝の挨拶とするカイト。
彼女が気にしているのは、昨晩に魔族が屋敷に浸入していた件である。
昨日のあの、アホ魔族には力づくでお帰りいただいた。
街の外にも気配は一切無いので、約束どおりに引き払ってくれたらしい。
「お兄ちゃん、今日は機嫌がいいね。」
「そう?」
確かにある意味で、彼は機嫌は良い。
ストーカーもようやくに居なくなったのだし、これで静かな日常が戻ってくる。
そう考えれば、少しは機嫌も良くなるというものだろう。
しかし同時に別の案件も抱え込んでしまったため、自然とカイトからため息が漏れる。
「あの・・体調が優れませんか?」
「いや・・大丈夫。 心配ないよ。」
この辺りで休みたいところだけど、下手に仮病なんか使ったら後が怖い。
なんともない事を伝えると彼女も安心したのか、必要以上に詮索してくることは無かった。
・・・が、それは新たな火種を呼んだに過ぎない。
「ところでカイト様。 話は変わるのですが、お腰の布袋は?」
鋭い洞察力だ。
昨日までは付けていなかったから、不審に感じるのだろう。
ここは正直に言うべきか?
アリアに分からないよう、ほんの少しだけウチのメイドラゴンへ視線を送ってみる。
「(ニタリ)」
好奇心旺盛な限りの、とっても良い笑顔を向けてくるダリアさん。
これはダメなサインだ。
分かりやすくて、助かる。
「中は魔石なんだ。 事情あって持って歩いているんだよ。」
「左様でございましたか。」
ウソは言っていないが、この内容には大きな不備がある。
入っているのは魔石で違いないが、出所は昨日の魔族さんである。
あの女は、魔石を俺に預けたまま帰ってしまったのだ。
魔王に会いに行きたくないし、仕方ないので俺がしばらく保管することになったのだ。
本当はアイテム・ボックスにしまいたい所であったが、魔石から発せられている魔力が途切れてしまったら、あの魔族さんが死ぬらしいので、布袋にしまう形をとることになった。
不安定で落ち着かないが、しょうがない。
次に会ったときに、何としても返すつもりだ。
「本日のご予定は、ありますか?」
「何か用事?」
改まって、アリアが疑問をぶつけてきたので、俺も体裁を整える。
昨日はロクに何もしなかったので、頑張ります!
「いいえ、そうではございません。 どこか向かわれるのであれば、目的地を聞かせていただこうと思いまして。」
「あ、そういう事ね。」
前にアリアたちとは、『出掛ける時には、目的地をはっきりさせる』という取り決めをした。
彼女は、それを実行したに過ぎない。
ごめんなさい、反省してます。
「今日はギルドの冒険者を、鉄道の工事現場に送ってくるよ。 現場で説明をしないといけないから、でも夕方には戻るよ。」
「それに関して、少々お話したい事があるのですが。」
う・・ヤバい兆候。
墓穴を掘ってしまったか?
キラリと光る鋭い眼差しが、俺を狙う。
「お帰りになりましたら、よろしくお願いいたします。」
「・・・ハイ。」
途端に張り詰めていた周囲の空気が、霧散する。
今夜も、俺は眠れそうに無い。
アリアが私室へ引っ込むと、カイトも出立の身支度を整え始める。
用意といっても、持って行くのは貸与するための武器が少しと、今回集まってくれた冒険者のリストだけだ。
後の必要そうな諸々の物品は、既にアイテム・ボックスに入っているので問題ない。
「お兄ちゃん、良い?」
「良いよ、何でも質問してごらん。」
ヒカリは、姿相応に子供のように振舞う。
タマにこうして、俺たちへ疑問などをぶつけてくるのだ。
それがまた、可愛い。
「ねぇお兄ちゃん、その魔石は誰の?」
「・・・え?」
・・・が、今回は少し内容が違った。
視線を上げれば、胸に手を当て、困惑気な表情を浮かべるヒカリの姿が映る。
まさか・・・・昨日、見られていたか??
いや、それは無いな。
ヒカリが近くに居たら、気付かないはずが無い。
そうか、彼女も魔族だから、何か感じるものがあったのかもしれない。
同じ魔族の持つ魔石で、共鳴しているとかね。
これは、隠せない。
「実は昨日の夜、お客さんが来てね。 その人の忘れ物なんだ。」
「私のと同じ・・・コレ鼓動してる。」
俺の手の中の魔石へ、熱い視線を送るヒカリ。
取り出されたとはいえ、持ち主は生きておりますからね。
ちなみに傷をつけると、当人にも実害が及ぶとの事。
まったく厄介なモノを置いていってくれたよ。
「ダメだよこれ、早く持ち主に返してあげて!!」
「!!」
ヒカリが声を荒げるなど、初めての事だ。
びっくりしてしまった。
ヒカリは俺の服の裾をつかみ、切羽詰ったような様子を浮かべた。
しかし現状で、どうにもならない事もある。
「持ち主の居場所が分からないんだ。 ここへ戻ってきたときに返すつもりだよ。」
「本当・・?」
「信じてくれ。」
納得してくれたようで、それ以降、ヒカリは静かになった。
正直、置いていったときはすぐにでも返そうと思ったのだ。
しかし魔族は、魔石にその全てを内包しているらしく、彼女の気配を辿ることができなかった。
簡単に俺の持っている魔石が、彼女自身なのだ。
しかし魔石と体の間をつなぐ気配も、薄すぎて感知できずじまい・・・・。
彼女がここに来ない限り、どうにもならないのです。
「この魔石は、責任持って俺が預かるよ。 それで良いかい?」
「うん・・・」
彼女はストーカー。
俺に付きまとって、ダリアさんを怒らせるという大罪を犯した阿呆な魔族だ。
しかし犯罪者とはいえ、俺の失態で彼女を殺したりしては一大事。
罪意識のせいで、寝つきが悪くなってしまうのは、避けねばならない。
魔石と彼女のつながりを断ちかねないので、魔石は収納ではなく、腰の布袋へ。
なんとも面倒ごとを押し付けられてしまったような気持ちだ。
この借りは、何十倍にもして返してもらおう。
カイトたちは身支度を整えると、すぐに街へと繰り出して行った・・・・
◇◇◇
ちょうど同じ頃。
森の先にある魔王城では、叱責するような大きな声が、玉座の間に響いていた。
「『闇獄』よ、なぜ戻った!? 貴様は魔王様直々の命を受けたはず、よもや失敗したのではあるまいな!??」
「・・・。」
総参謀の怒号に似た言葉に対し、『闇獄』の魔将は床に頭を擦り付ける。
その彼女の姿に対し、総参謀の怒りは頂点に達し頭を踏みつけた。
「何のマネだ貴様。 魔将の名を頂きながら、用の一つも果たせぬのか?」
激昂するもう一人の魔将を、魔王が片手で制する。
「申し開きたき事があるならば、申すが良い『闇獄』よ。」
魔王のズシリと重々しい言葉が、この場の空気を支配していく。
それに伴い、総参謀の魔族も頭に乗せていた足を、床へと下ろす。
満足げに、ゆっくりと首を縦に振る魔王。
「『地響の』、貴様は下がれ。」
「しっ、しかし魔王様、魔王軍総参謀を預かる身として、この様な失態を見過ごすわけには・・・!!」
「二度は言わん、下がれ!!」
魔王の言葉に一度、体を震わせた後、総参謀は臣下の礼をとって退室していった。
部屋に残るのは、魔王と『闇獄』2人だけ。
しばしの沈黙の後、魔王が疑問を口にした。
「さて『闇獄』よ、貴様の魔石はどうした?」
「!!」
顔を蒼くさせ、体を震わせる『闇獄』と呼ばれた魔将をあずかる彼女。
ちなみにカイトに預けてしまったことで現在、彼女の胸元には在るべき魔石は無い。
魔法で出来る限り隠蔽していたのだが、魔王の目は誤魔化せなかったようだ。
「魔石は我ら魔族の根源であること、よもや忘れたのではあるまいな?」
「め、滅相もございません、魔王陛下。」
すべてを見透かしたような口調で、畳み掛ける魔王。
魔石が無い状態で魔族が生きていると言うことはつまり、石そのものは無事である証拠。
それを失くしたとは、到底考えられない。
すると、自ずと想像されることは限られてくる。
「その上で戻ってくるとは、良い度胸だ。 覚悟は出来ておるな?」
「・・・。」
魔王が右手を振ると、その手に紫色に光る大剣が現れた。
彼女が平伏するその場所へ、魔王は剣を携え近づいていく。
『闇獄』は逃げる素振りも見せず、そのままの姿勢で床にひれ伏す。
裏切りは即、死を意味するのが、彼らの常識。
それはオークの子供でも知っていることだ。
覚悟を決める彼女をよそに、魔王は無慈悲に剣を振り下ろす。
「!」
ガキン!!!
まっすぐ振り下ろされた剣は、彼女の首スレスレをかすめ、火花を散らして止まった。
床はあまりの衝撃に、クモの巣状に割れ、大きなくぼみを形成する。
一連の事態に、何が起こったのかが分からず、『闇獄』は、ゆっくりと顔を上げた。
「『闇獄』よ、貴様に最後のチャンスをくれてやる。 早急に魔石を取り返してくるのだ。 それまで魔族領の土を踏むこと、相成らぬ。」
「か・・寛大なる魔王様のお言葉、痛み入ります! 必ずや!!」
「フ・・・・」
彼女の言葉に対し、大きく口角を上げてみせる魔王。
それは暗に、これからの彼女の行く末をも見透かしているように見えた・・・
一言
『闇獄』が魔王の元に帰った理由について
どうしてもカイトが自分を配下にしてくれないので、ならばと戻るフリをして魔王のスパイを考え付いたようです。
それで少しでも手柄を立て、配下になろうとしたよう。(カイトが喜ぶと考えたっぽい)
しかし結果は、上記のとおりでした。
死ななかっただけ、マシかも。




