第281話・不審者
当方の都合で、今週は日曜日更新が出来そうにないので、前倒し投稿しました。
感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せ下さい。
この頃、『何者か』の気配を感じる事が多い。
それは屋敷内ではとどまらなず。
工事現場へ転移したときも、街を散策するときなども。
魔王軍を追い返したあの日から、ほぼずっとだ。
今日も変わらず、まるで影のようにソレ付きまとう・・・
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
挙動不審なカイトの態度に、ヒカリが疑問を口にした。
何もないところでキョロキョロしていれば、怪訝に感じるのは当然の事だろう。
「何でもない。 ところでヒカリ、この間の騒ぎのときには知った顔とかは居なかったかい?」
「うぅん、特に・・・」
結局、ヒカリの素性などは分からずじまい。
魔王には人探しを頼まれてしまったし、どうしたら良いのか分からない事が山積みだ。
これらは追々、違う手段でも考えるとしよう。
「カイト様、お話を続けさせていただいてもよろしいですか?」
「あぁ悪かった。 続きをお願いします。」
そうそう、アリアの事も忘れていた。
今は一日に一回の、定期的な情報交換会が開かれている。
緊急案件以外、この時に今日一日に何があったのかを情報交換するのだ。
しかし情報交換といっても、俺が彼女に伝えるような事は、まずないと言って良い。
つまり、この『会』はいつも、アリアのワンマンショーとなる。
「それでは魔石の運用についてなのですが、多い分の使途はどのように致しましょう?」
「多い分の採掘は差し止めたらどう?」
真剣だったアリアの目が、一転してゴミを見るような目に変わる。
あ、ダメなんですね。
分かりました。
「別の方法を考えよう。 そうだな・・魔導馬車とか?」
「はぁ・・まあ・・・・?」
気の抜けたような返事を返すアリア。
魔導馬車って何だよ、と言いたげだ。
自分で自分の想像力の無さが、悲しくなってくる。
そんな事を考える暇さえ与えられず、アリアは矢継ぎ早に話を続ける。
「船のお話はしましたね?」
グレーツクへ行く商船を増やすのだっけ?
何個かの商会が、船を用立てて欲しいらしい。
「それなら、さっき聞いた。 彼女に任せればいいよ。」
これはダリアさん案件だ。
本人はヤル気満々のようだし、特に問題は無い。
後ろに居る彼女へ目を向ければ背後から、立ち上る火炎が見えた気がした。
うん、大丈夫っぽい。
「他に変わったことは無い?」
「使用人のことなのですが・・・。」
使用人。
それを聞くと、今の時点で話題に上がりそうなのは、一人ぐらいしか思いつかない。
「メルシェードの教育も順調に進んでおりますので、近日中にはカイト様のおそばに置く事もできましょう。」
「あ、そう・・・」
それだけが、唯一の懸念だ。
彼女はきっと、秘書という名の俺への監視役である。
いや、逆に俺なりに教育して味方につけるという方法をとれば・・・
・・・アリアが居るから、ダメか。
「・・楽しみにしているよ、他に住民の要望とかはあった?」
「本日付で届いたものは、以上になります。」
いつもはこの倍ほど多いのだが、今日はそうでもないらしい。
まあ、そんなに毎日たくさん届けられても処置に困るし、こんな日があっても良いだろう。
そう考えていたら、アリアはまだ話を続ける。
「住民の要望ではないのですが、鉄道の経営方針の変革を打診したいのです。 ですがが・・・それはまた別の機会にて、お願いします。」
駅馬車の手による経営に、何か問題があったのだろうか。
気になるが今度というならば、それで良いだろう。
「じゃあ今夜、俺のする事は??」
「いいえ、本日は私たちが内容の吟味を行いますので、カイト様のお手を煩わすことはありません。」
という事は・・・?
つまり。
イェーーイ!
心の中で、ガッッツポーーーーーーーズ!!
珍しく今日は、メシ食ったら寝られるぞ。
今日はぐっすり、眠れそうだ♪
憂鬱気分だったカイトは、一気にご機嫌に。
ゲンキンなものである。
「ではカイト様、私はこれにて。」
「お姉ちゃん、おやすみなさい。」
背中を向けて去っていくアリアに向けて、ヒカリが右手でバイバイと手を振る。
これで概ね、一日の彼女との全てのやり取りは終了だ。
アリアが見えなくなったところで、ヒカリも俺の部屋へ行かせると廊下には、俺とダリアさんの二人だけとなる。
彼女の姿も見えなくなったところで、俺の心の中でのお祭り騒ぎは強制終了させた。
「ダリアさん、分かっているよね? この家には不審者が居る。」
コクリと、無言で首を縦に振るダリアさん。
こうなることはダリアさんも分かっていたようで、ヤル気は十分のようだ。
つい先ほど、去り際のイリスさんに言われたこと。
『この屋敷全体から、魔の者の気配がいたします。 決して隙などを見せぬよう、お気をつけください』と。
屋敷で感じるという、ヒカリ以外の魔族の気配。
こうなったら、徹底的に家捜し!!
今夜は不審者を、とっ捕まえてやる。
「という事でダリアさん、2人で手分けしよう。 君は外で、俺は中。 ターゲットを取り逃がしたりしないよう、しっかりと見張るんだ!」
「そういうことならば・・・逃げようとする者は、引き裂けばよいですか?」
実はスゴく裏方の役回りなのだが、モノは言いようか。
ダリアさんを承服させることが出来て、ともかく良かった。
そう思った瞬間、ダリアさんが怒りの形相をこちらへ向けてくる。
あ・・心読まれたっぽい。
視線だけで、今にも焼き殺されてしまいそうだぜ。
しかし彼女はこちらを一瞥すると何も言わずに、そのまま翼を広げて、外へと向かった。
かなりご立腹の様子だったが、やる事だけは、やってくれるっぽい。
さて・・・
これで『逃げられる』心配は無くなった。
「さて、『出て来い!』って言って出てくるわけ・・・無いよね?」
シーンと静まり返る、うす明かりの灯る廊下。
そうですか、穏便には行きませんか。
でも探索魔法では、影みたいなのが映っているし、逃げる気も無いらしい。
『相手は光学魔法でステルス化しています、効果魔法は上級光魔法です。 行使しますか? はい/いいえ』
便利♪
ピカーッと、やっちゃおう!
ストーカーには、それ相応の報いを受けていただく。
◇◇◇
「ぐ、あああああああああああ!!!!」
床で全身から煙を出しながら、のたうち回る一人の女魔族。
ヒカリ同様、その胸元には赤黒い魔石が光っていた。
廊下で上級の光魔法を行使し、燻り出せたのが、コイツ。
人をストーカーして、何やってんだ?
もしかしてヒマ人なのか??
とりあえず落ち着くまでは、蔑んだ冷たい目で、今は見下してやる事にしよう。
「カイト殿様、先ほどの光は・・・あ!??」
床を転がる魔族を見て、ダリアさんも俺のように彼女を見下ろす。
喰うなよ、絶対に喰うなよ!?
軽い治癒魔法で女魔族の傷を癒して、経過を見守る俺たち。
時間が経つと痛みが退いたのか、女魔族は平常心を取り戻した。
早速、尋問開始である。
「君は何者だ、どこから・・・」
「捕まってたまるか!」
「あ、待て!!」
俺たちを押しのけ、彼女は窓から逃走を図った。
せっかくやって来てくれた、魔族という重要参考人である。
逃がしてたまるか!!
障壁魔法を展開し、彼女を屋敷から逃げられないように・・・
「魔族よ、貴様は我が崇高なる邸宅に侵入し、あまつさえ鬱陶しい事この上ない尾行をしたのだ。 タダで帰れると思ったら大間違いだぞ?」
「があ・・、あ・・・・・ぐうぅ・・!!!」
ゴキゴキと首を締め上げる、鬼の形相のダリアさん。
障壁魔法、いらなかったね。
「ダリアさんストップ、ストーーーーップ!! 殺しちゃダメだから!」
「殺しませんよ、こやつにはジワジワ痛みを味わっていただかなければ。 まずは五体を引き裂いて後、次に全身の皮を・・・(自主規制)」
魔族を締め上げながら、無垢な笑顔をこちらへと向けてくるダリアさん。
そこに先ほどの鬼の形相は、もはや影も形も無い。
でもね、君の言ってる事はこの上ないほどに残酷よ。
このままでは話も出来ないので、首に掛ける手を解いてもらう。
だが、逃げられてはしょうがない。
彼女には背後から、魔族を締め上げて動けないようにしてもらった。
「ぐはっ! はぁ、はぁ・・・・。」
憎しみに満ちた表情を作る、女魔族。
しかしダリアさんの束縛を、そう簡単に引き剥がせると思ったら大間違いだ!!
さて、ようやく尋問開始である。
「君は、どこの誰だ? どうして何日も、俺を付けたりした??」
逃げようとしたヤツに、これ以上の譲歩なし。
このままの状態で、彼女には対応させていただこう。
・・・この後、爆音と呻き声のような音が、屋敷中に木霊した。
今日は日航ジャンボ墜落事故で、500名以上が亡くなった日。
故人に哀悼の意を表しつつ・・・
今回のお盆は人によっては、10日間の連休となるそうです。
渋滞している映像を見ると、大変だなーなんて他人事みたいに思っている自分。
私は断然、移動は鉄道です。




