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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第13章 ベアル改革・・?
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閑話・ダリアさんな日々

今日は広島原爆の日。

皆さんは黙祷しましたか?

義務は無いけど、わすれてはならない事はあると思います。

ということで9日のナガサキと、15日の玉音放送日も忘れずに。

今のご時勢、いつ何があるか分かりませんしね。


ウチには、最強を自負するドラゴンが居る。

これだけでずっと以前の俺なら、卒倒していたことだろう。

彼女は人間生活に興味を持ち、意味不明なことにメイドとなり、そして現在に至っている。

一つ屋根の下(といってもバカデカい屋敷の下)で共に暮らす長い時間は、恐怖心はあらかた払拭されてしまった。

種族柄か知らんが、自己中心的思考なのが困りどころ。

ベアルの曇天どんてんと雨が、気持ちをなえさせる。


「溜まりまくりです。」


「・・・。」


そして俺の気持ちをえさせる人物・・もといメイドラゴン。

仕事をサボり、欲求の赴くまま竜生の春を謳歌する彼女。

それに関しては、俺はとやかく言うつもりはない。

しかし時と場所をわきまえると言う事を、少しで良いから覚えて欲しいところだ。


「カイト殿様、無視しないでください。 あなたの可愛いドラゴンの、欲求不満ですよ!」


「ダリアさん、俺は忙しいんだ。 何を言いたいかは、分かるだろ?」


「人間ごときの事情など、ドラゴンたる私には関係ありません。 それより大切な事があるとは、思いませんか?」


なんだよ、ほかの大切なことって。

と聞こうと思ったが、ダリアさんのキラキラと光る目を見て、一種の恐怖を感じてしまった。

恐い、怒ったときのより視線が恐いよ。


「な、何・・・?」


こんなダリアさんは、見たこと無い。

もしや恋、ダリアさんが恋する乙女に!?

笑ってはいけない、これで彼女が円くなるなら、むしろイッツカッモンじゃないか。

さあ言ってみなさい、俺が恋愛のキューピッドになってあげよう!


「お相手願います。」


聴いた瞬間、魔法が解けるように俺の表情が崩れていく。

なんだ、恋わずらいじゃなかったか。

お膳立てしてやろうとした俺が、どれだけアホだったかを痛感させられる。

がっかりする俺を気にも留めず、ダリアさんは腕をぐるぐる回しながら話を続けた。


「最後に手合わせしたのは、一月ひとつきも前ですよ! 腕がなまってしまいます!」


「そんな事、俺が知るか。 ていうか、むしろナマれ!」


破壊狂のドラゴンが、屋敷で普段は大人しく使用人を出来ているのは、理由があった。

こいつは「いつか倒すため」とのたまい、暇さえあれば俺に戦いを申し込んでくるのだ。

しかも彼女とは一つ屋根の下で過ごしているため逃げおおせる事も出来ず、かといって追い出してノラになんかしたら、それこそ危険な予感しかしない。

むしろここで、コ○シキのように太って戦闘不能になってくれれば、どれだけ世界平和に貢献してくれる事か。

この長期作戦を実行すべく、俺は最近は仕事を理由にして、なんとか誤魔化し続けていたのだが、どうやら彼女に我慢の限界が訪れたっぽい。


「カイト殿様、私がいつまでも大人しくしていると思ったら・・・」


「大間違いなんだろ? だから飼い殺しにしてやるって言ってんの、俺は!」


しかし、負けてはいられない。

彼女が我慢の限界なら、おれもそうだ。

俺は戦闘狂ではなく平和主義者。

今までメイドラゴンの鬱憤晴うっぷんばらしに付き合っていたが、それだけ彼女は力を蓄えるだろうし、俺の時間も減る。

良いトコなし!

だからヤメよう、おしまい!!


「分かってくれるね?」


「・・・。」


観念したように、ダリアさんが顔をうつむかせて口をつぐんだ。

俺だって名ばかりだが領主、仕事は山ほどあるし、それは彼女だって知っていることだ。

少しは俺の仕事の大変さを、分かってくれたらしい。

いつもこうだと、助かるんだけどね。

休めていた仕事の手を再開すると、彼女はフラフラと頼りない足取りで部屋を出て行く。

『勝った』、ここでそう思った俺は、まだまだだった。


「仕方ございません、今回はベアルで単独の手合わせをしましょう。 暴れればギルドから討伐依頼が出て、あわよくば強い冒険者が世界中から・・・」


「ちょ・・タンマ、ダリアさんストップ!!」


シャレにならない事を言い出した!!

そんな究極の選択されたら、世界中から怒られてしまう!

お願いします、やめてくださいドラゴン様!!


「では、手合わせ願えますか?」


「ぐぅ・・・。」


ニヤリと、こちらへ悪い笑顔を向けてくる彼女。

上手い事ドラゴンに、手玉に取られたような気分だ。

しかし辞退すれば、ベアルの命は無い。

策士、いつの間にかダリアさんが策士に進化されているぞ!


「ではカイト殿様、さっそくながら・・・」


「まぁ待てよ、忙しいと言っているだろう? 手合わせするなら、明日だ。」


パアッと輝いたダリアさんの顔が、一瞬にして曇る。

今日だと思ったのだろうが、冗談ではない。

さっきも言ったけど領主の仕事をしているのは、一応だが本当なんだからな!?

シッシッとダリアさんを追い出して、俺は手元の仕事を片付けに取りかかる。

今日は徹夜になりそうだ。


あ~あ、誰でも良いからダリアさんを討伐してくれないかなー!



◇◇◇



翌日。

俺とダリアさんは街外れの森深くへとやって来ていた。

この辺は安全のために障壁魔法で入れないようにしており、生物などは何も居ない。

昨日の雨によって湿った土を踏むたびに、グチャグチャと泥がはねる。

いやはや、最悪のコンディションだ。


「カイト殿様、始めますよ!」


今日は一日、うちのメイドラゴンに溜まった鬱憤うっぷんを晴らしてやるのが外出の目的。

それをしないとベアルが危険なので、気が進まないけどしょうがない。

見る見るうちに幼女は姿を変え、天をも仰ぐ巨大な体躯の赤いドラゴンになる。


「お覚悟!!」


「お手柔らかに~~。」


臨戦態勢に入るダリアさんに、飄々(ひょうひょう)とした様子で相対するカイト。

毎度の如く

「グオオオオオオオーーーーーーンンン!!!!!」

と森をドラゴンの咆哮ほうこうが震わせると、口の中が真っ赤に光る。


彼女の名物技、ドラゴンブレスだ。

他人に言わせると、ブレスには幾つか種類があるようで、彼女のは『炎属性』である。

まんまだね。


ブオオオッと口から吐かれた炎が、森の木々や土を焼き焦がしていく。

しかし攻撃範囲は一直線上なので、難なく回避。

続けざまに連続して、多くの魔法攻撃が俺の周囲に次々に着弾して、爆裂していく。

ダリアさんは『精度』より『火力』を重視する。


当たらなければ、どうと言うことはない。

その攻撃、見切ったぞ!

・・・・なんちて。

いつも通りに最後に魔力切れを起こしたダリアさんを軽くぶっ飛ばして、森を再生させれば、それで終了・・・

と、思ったそのときだった。

魔法攻撃でもうもうと舞った土ぼこりの中から、赤い棍棒のようなモノが飛んできた。

魔力の気配は無かったので、これは物理攻撃か!?

あまりに突然の事に避けられず、ドゴーンという大きな音と共に何十メートルも吹き飛ばされてしまった。

勢いよく大木に打ち付けられ、体に強い衝撃と痛みが走る。


・・・なんてこったい、ガク。


「はーっはっはっは、油断めされましたなカイト殿様! 何度も私を思い通りに出来るなどと思うでか!??」


「ぐぐ・・・ちく・・しょ・ぉ・・・っ!」


バカの一つ覚えみたいに、今まで魔法をバカスカ撃っていたのはどこの誰だ?

と抗議の声を上げたかったが、体が言うことを聞かない。

ダリアさんはフェイントを掛けて、魔法攻撃の合間からフツーの拳骨を繰り出して来たようだ。

とんだ俺の、失策である。

障壁を張るのがもう一瞬遅かったら、俺は死んでいたかもしれない。

そうとはいえ体のあちこちが悲鳴を上げている。 骨が何本かイッてしまっているかもしれない。

声を出そうにも、口すらマトモに動かせなかった。


「げほっげほっ・・・!」


「フフ、カイト殿様お覚悟を・・・!」


ズシンズシンと赤いドラゴンが、こちらへ歩み寄ってくる。

両手には文様のような魔法陣、口には火球。

・・・ウソ。

いやいやダリアさんもぅ止めよう、俺の負けで良いから!  ね!??


「我がブレスで冥土へ送ってくれる。 メイドだけに、『めいど』だけにだ!!」


「ぎゃあああああーーーーーーーーーー!!!!!!」


メイドラゴンのつまらない親父ギャグを聞かされ、俺ことカイトは炎に焼かれながら、この世を去った・・・




「何すんだよ、クソドラゴン!」


「生き返りましたか、そうでなくては面白くない。」


俺は女神のご加護で、寿命までは死んでも生き返る特権が与えられている。

でもね・・・

あの駄女神に「これで何度目ですかー!」って怒られてしまったんだ。

最悪、もうチョー最悪!

しかも生き返っても、死ぬ直前までの体を焼かれる痛みは、そのままなのだ。

そっちがその気なら、こっちにも考えがあるんだからな!?


「さあ第2ラウンド開始ですね。」


「そう上手くいくかな?」


舌なめずりするダリアさんへ、開始のゴング代わりに大きな閃光を見舞ってやる。

一瞬ひるんだダリアさんの隙を狙って、俺は彼女の前から姿を消す。

姿を消したといっても透明になったのではなく、息を殺して木陰に潜むだけだ。


「むぅ、どこに行かれたか!? 出て来いカイト殿様!!」


これからの反撃のため、木陰でゆっくりと魔法を練り上げていく。

今日という今日は、もう許さない。

俺が編み出した新魔法(というか今日が初撃ち)を見舞ってくれるわ!


「出て来い、卑怯者オオオーーーー!!!」


ブオオーンと炎を辺りに撒き散らし、激昂するダリアさん。

ふふ、わめけ!  頭に血を上らせろ!!

彼女が何も無い方向へ魔法の攻撃を繰り返している間に、俺は魔法の準備は整えた。

くっくっく覚悟しろ、クソドラゴンめ。


俺が木陰から魔法を撃つと、それはスッと虚空こくうへ消えていく。

もちろん不発ではない。

放った魔法攻撃はダリアさんの予想しない方向から飛び出し寸分違わずに、彼女へ直撃する。

さすがは的が大きいだけに、当てやすい。


「グオオオーーーーーーーーンン!!???」


攻撃が当たると同時に、間髪を入れずにブレスを吐くダリアさん。

かたきでも討つように、攻撃が来た方向へ猛烈な反撃を繰り返す。

しかし当然、そこに俺は居ない。

見たか、これぞ新必殺技『魔法直撃砲』。

魔法攻撃を発射すると同時に転移魔法を展開し、任意の場所へ攻撃技を出現させる。

こうする事で射程が長くなる上、相手からはこちらの居場所が割れない。

まさに一石二鳥だ。

魔王軍侵攻の際のハンデや弱点を元に編み出した、俺の魔法。

実に有用な攻撃ワザと言えよう。

特に、ダリアさんのような大きいターゲットには。


攻撃の有効性が示されれば、こっちのモノだ。

続けざまにあらゆる方向へ『直撃砲』を撃ち、ダリアさんへ命中させる。

さすがはドラゴンと言うべきか、この攻撃では傷一つ付けられないはしない。

だが撹乱かくらんは十分だったようで、ダリアさんは狂ったように攻撃を始めた。

アブないので、俺は安全地帯へ・・・

これで魔力切れを起こせば、難なく終了だ。


今日は思ったより、早く終われそうだな。

おかげさまで俺も有意義な一日を送れたし、後で彼女のろうねぎらって魔石でもくれてやろうか。

お、そう言っているうちにブレスが不発ぎみに・・・フフ、思ったとおり魔力切れか。


「グオォー・・・、ブホハッ!」


「・・・そろそろかな?」


顔を出そうとした、まさにその時だった。

ダリアさんは大きな翼を羽ばたかせ、超空へと上がっていく。

そして両手を振り上げ、巨大な魔法の球体が出現する。

あれは・・・『元○弾』!?

アカンアカン、それはアカンてダリアさん!!

その攻撃は、あらゆる方面から怒られてしまいます!

なんて俺の意向など届くわけも無く、彼女は我を失ったように球体を黒く、そして巨大にしていく。


「大地もろとも灰塵はいじんに帰すがいい。 『ファイン・ボール』!!」


「わあああああーーーーーーーー!!?」


放たれた黒い魔球。

立場上、避けられず。

でも威力がすさまじすぎて、弾くことも出来ず。

ただ俺は、成すがままにされるだけ・・・

・・・・・・・と言っても障壁魔法を張るから、大丈夫なんだけどね。


ドドドドオドドドオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーンンンンン!!!


しかし思ったよりも威力のすさまじさは尋常ではなく、障壁を張っただけのカイトは生じた爆風により、森の遥か遠くまで吹き飛ばされてしまう。

しかしもっと大変なのは、撃ったダリアさんの方だった。

これを放ったことで魔力切れと体力切れを起こし、火の海と化した森へ落下してしまう。

ようやっと正気を取り戻したようだが、もはや遅い。


「うあああーーーーーーーー!!」

「ぎえええええーーーーーーー!!???」


赤々と燃える森からは、2つの悲鳴が轟く。

こうして世界滅亡級の戦闘訓練は、森を焼く音を伴いながら、幕を下ろしたのだった。



◇◇◇




「おらー、休むな! おらー!!」


「む、無理です、動けません。 私は体力も魔力も体もボロボロです。」


ウソこけ。

君にはさっき、貴重な魔石の大きなカケラを食わせてやったではないか。

体どころか、魔力も体力も万全のはずである。

むしろ回復魔法以外に何もしていない俺の方が、よっぽど疲れが溜まっているぞ。

体が泥だらけになるのも気にせず、肢体を地面へ投げる彼女。

コイツは、意地でも働かないらしい。


「大体、言いだしっぺはダリアさんじゃないか。 しかも森を全部焦土に変えちゃって。 まったくダリアさんは火力過多なんだから!」


「これからは、私を崇め奉りなさい。」


「謝れっつってんの、俺は!!!」


途端にキョトンとした表情を浮かべる彼女。

これだけの事をして、反省の気持ちがカケラもないとは。

もう、イロイロとダメかも分からんね。

彼女は無視して、俺は燃えてしまった森の復旧に全力を傾ける。

必殺『魔導直撃砲』は、ダリアさん相手にはお蔵入り決定だ。


「カイト殿様、私は今日の結果にナットクしていません。 今一度お手合わせを・・」


「今度!」


少し睨みつけてやると、途端にダリアさんは静かになった。

これだけ日常的に素直なら、森も焼けずに済んだろうに。

被害範囲が実に広大だったが、運よくというか何と言うか。

しょっちゅう森の修復をしていたため、直すのにそう時間はかからなかった。


あー疲れた!

・・・おや、俺のステータス表記に『要確認』のランプが付いてるぞ?

久しぶりに見てみるか。

頭の中に映る画面をタッチし、別のウインドウを開いてみると・・・


高位人間ヒューマンロードに進化できます。 実行しますか? はい/いいえ』


・・・・はい。

駄女神様よ、お前もか。

・・・何だよこの表示、俺に人外になれってか?

ダリアさんが喜びそうだな・・・。

って冗談じゃない!

答えはむろん、『いいえ』に決まってる!!


俺はフツーに、人間のままで人生を送りたいのだ。

さっさとウインドウを閉じ、俺は帰宅の途に着く準備をする。

泥のようになったダリアさんを無理やり立たせ、辺りに何も忘れ物が無いかをチェック。

持ち物は全てアイテム・ボックスの中だけれど、こういうのは習慣化しておかないとイザという時にとんでもないあやまちにつながってしまう。

でも今日は取り出したものも無いし、欠品は無い。


「ほらダリアさん、帰るぞ!」


「連れてって下さい~。」


「甘ったれるな!」


おぶってもらおうとでも思っているのか、ダリアさんは俺へ体を預けようとしてくるが、それを俺は必死でかわす。

油断もすきも、あったモノではない。

今日は本当につかれた。

屋敷に帰ったらダリアさんじゃないけど、さっさと帰って寝よう。

俺は土色のダリアさんを引きずりながら、ベアルへの帰途に着くのだった・・・




ところで『高位人間ヒューマンロード』って聞いたこと無いけど、いったいナニ者や?


ちょっと伏線の話。

大したものでもないので、閑話扱いとしました。

もっと前に投稿しようとしていたのですが、忘れていました。


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