第280話・かわるがわるで・・・
これからも、楽しんで書いていこうと考えています。
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「え、じゃあイリスさん、帰っちゃうの!?」
屋敷へ帰った途端、教会の司教イリスさんが訪れていた。
用件は、街を離れる前のご挨拶とのこと。
何かの用事で、聖国から呼び出しがあったとの事で、帰国せねばならなくなったらしい。
寂しくなるけど、しょうがない。
「今日中には、出立する予定です。 急にこのような事になってしまい、痛み入る次第でございます。」
「とんでもない、こちらこそ何のお礼も出来なくて。」
互いに深く腰を折って、最後の挨拶とする。
ヒカリも何か思うところがあるのだろう、まるで泣きそうな表情になる。
それをなだめるように、優しい口調を繰り広げるイリスさん。
「代わりの司教は準備が整い次第、聖国を出立するとの事です。 転移でやってくるはずなので、恐らく数日中には到着すると思いますが・・・。」
「そうなのですね・・・」
それを聞いてアリアも、とても残念そうに、ポツリと呟いた。
俺のあずかり知らないところで2人は、結構仲良くしていたらしいので、彼女の別れの寂しさも、ひとしおなのだろう。
今の俺たちに出来ることは、彼女を快く送り出すことくらいだ。
「あっちでも、どうかお元気で。 タマに遊びに行っても良い?」
「・・・・カイト様?」
刺すような視線を、こちらへ向けてくるアリア。
遊ぶ時間なんか、ある訳あるかいと、その目が雄弁に語っている。
た、ただの冗談じゃないですかアリアさん・・・。
その光景を見て、イリスさんは微笑を浮かべた。
「お2人は、本当に仲がよろしいのですね。」
「そぅ見える?」
このピリピリした空気の、どこを見てイリスさんはそう思ったのだろうか?
アリアは顔を伏せており、その顔色を窺い知る事は出来ない。
コレは、かなり危険な兆候だ。
彼女が何かを言う前に、話題を元に戻す。
「あー・・ところで、その間の教会は大丈夫なのかい?」
「ご心配には及びません、司教が幾日か不在であっても、説法をとく司祭が常駐しておりますので。」
屈託の無い笑顔を浮かべ、俺たちへ問題ないアピールをするイリスさん。
俺が聞いたのは、教会の警備とかの話だったのだけど・・・・
心配はしていなかったけど、どうやら口ぶりからして大丈夫みたいだ。
そもそも俺は教会という組織を、未だによく分かっていない節があるし。
ボンヤリと聞いていると、彼女が俺の耳へ顔を近づけてくる。
『奥様を、大切にしてあげてくださいよ?』
「え・・・?」
「ではすみません、私はこれで・・・。」
「すみません、何のおかまいも出来ませんで。」
話の意味を聞く前に、イリスさんは急ぎ足で屋敷を去っていった。
どうやら聞けるのは、次の機会となるだろうか?
次に彼女と会うのは、いつになるだろう・・・・
「カイト様、おかえりなさいませ。」
「え!? あぁ、ただいま。」
アリアが頭を下げてきたことで、我に返るカイト。
そうそう、俺はアリアの追及を逃れるために工事現場へ転移して・・・
・・・・しまった。
一気に鉛のように重くなる、周囲の空気。
「あの・・アリア、俺が王様に領を賜りそうになったというのは、別に・・・」
「それはもう、結構です。」
大きなため息をついて、話題を切り替える彼女。
右手に持った便箋を、まるで俺に見せびらかすように、ヒラヒラと振る彼女。
その便箋には、王家しか使えない紋章が刻まれていた。
これは、もしかしなくても王様からの手紙・・・?
このタイミングで見せるということは、領に関する関連事項なのだろう。
渡された便箋から、中身を取り出すカイト。
「こ、これは・・・!!」
そこには、目を見張るような内容が記されていた。
つられるように、ダリアさんたちも顔を覗き込ませてくる。
内容は、大まかに言うと以下のとおりだった。
・密偵の情報を総合するに、この手紙が着くころには魔王軍が、既にそこまで来ている事と思う、それを知った上で・・・
・王国軍や増援部隊は、すぐに着く。 それまで死なないで欲しい。
・世間体など気にせず、もし逃亡してきても罪に問うような事は・・・
・・・すごく聞き覚えのある内容だな。
俺が読んでいる最中、アリアが腕を組んで口を開く。
「この手紙が到着したのは、イリスが来る少し前のことでした。」
「・・・そうかい。」
一様に、何とも言えないビミョーな空気が室内を支配する。
侵攻が始まる前に出したのだけど、到着が間に合わなかったという展開だろうか?
とりあえずは何事も無くてよかったよ、本当に。
手紙をポケットにしまい、再びアリアの方へと向き直る。
「留守中に、何か変わったことは無かった?」
「いいえ特には。 しかしカイト様、うるさく言うつもりはありませんが、お出掛けになるときには、行き先などを告げてからにして下さいませ!」
「ご、ごめん。」
プンスカ怒る彼女を、どうにか宥めるカイト。
しかし先ほどのアレは、目的があって転移をしたわけではないので・・・
・・・よそう。
威張って言うことじゃない。
「善処するよ。」
「・・・それは、やらない人間の言い訳です。」
凍りつきそうな視線を、こちらへ浴びせてくるアリア。
そんな俺に対し、今日何度目かのため息をつく彼女。
この頃は彼女に愛想つかされていないかだけが、ただただ心配・・・
「お姉ちゃん、怒ってる?」
「怒ってはおりません、少し脱力しているだけです。」
不安げなヒカリを前に、淡々と言ってのけるアリア。
ここ最近は、心の中まで見透かされているようだ。
本当に、すみません。
「あなたは領主なのです、少なくとも、職務だけは果たして下さい。」
「了解です。」
俺の職務。
つまるところ進行中なのは、鉄道建設に関することだな。
工事は進んでいるが、人手が少ないのだ。
この問題を・・・
「鉄道だけでなく、街の整備などにも耳を傾けて下さいね?」
「・・・イエッサー。」
間違いない。
心を読まれてしまった。
俺には、従う他に生き残る道は無い。
かねてからの市民たちからの要望は数知れないし、地道に見ていこう。
アレのときはまた、先日のように法律でも変えてもヨシ。
道のりは遠いけど、決して見通せないほどでは無い様に思う。
「ところでカイト様、先ほどイリスに何を耳打ちされていたのですか?」
「あはは・・・アリアは気にしなくていいよ。」
『大した』事ではないしね。
頭上に疑問符を浮かべるアリアをよそに、カイトは私室へと向かった・・・
ところで俺、なんで工事現場になんか転移したんだっけ?
気が付けば、もう累計で300話突破。
早いものです。




