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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第12章 延伸そして進展
299/361

閑話・副ギルドマスターの受難

これからも、楽しんで書いていこうと考えています。

感想や気になる点などがありましたら、遠慮なくお寄せください。


ボクは、通称ビール。

ベアルで副ギルドマスターをしている。

尖った耳や白い肌など、その風貌でよくエルフと間違われるが、それは違う。

ルーツ的に昔、エルフは居たらしいが、ボクはレッキとした人間族だ。

ボクのこのすがたは、所謂いわゆる先祖がえりというモノらしい。



前置きはこの位にしておこう。

この機会にボクは、はっきりと言わせてもらう。

ボクは副ギルドマスターとして、この街の冒険者ギルドの補佐役をしている。

そのボクを困らせているのは、レンという自堕落な女性だ。


「おい、まだ彼女は来ないのか?」


「はい、まだお姿は見ていませんが。」


既に、出勤時刻は優に過ぎている。

これで何度目か。

彼女が来ない間は決まって、ボクが残業するハメになるのだ。

すごくイライラする。

そんな自堕落が服を着て歩いているようなのが、ギルドマスターだというのだから、世の中、摩訶不思議である。

(決して、嫉妬などではない)


「いつもいつも、何を彼女はやっているんだ!!」


「寝坊じゃないですかねぇ?」


あははと、笑みをこぼす職員の女性。

冗談ではない。

これで15回連続の遅刻だ。

今までのトータルで数えたら、何度、遅刻を繰り返していることか・・・

ギルドマスターには、この街の冒険者を統べる者としての、威厳が必要だ。

今のところ、彼女にそんなものは、欠片かけらも無い。

そんな事では、非常に困る!!

今日という今日は、出勤してきた時にはガツンと言わせてもらおう!!


「すみませーん、おはようございます~~!」


ウワサをすれば・・・・

何が『おはよう』だ。

太陽がてっぺんに昇ったときの挨拶は、『こんにちは』である。

それら全ての気持ちを込めて・・・


「ギルドマスターああああああああああ!!! 今、何時だと思っているんですかあああああああああ!!!!」


「うーん・・・今日はちょっと遅れてしまいました?」


なんだろう、彼女とのこの温度差は。

ボクが熱くなりすぎているのか、それとも彼女の危機管理がどうにかしているのか・・・

いや・・・考えるまでも無い。

どう考えても、現況を見れば後者だろう。

あ~~、そう考えるとスゴくイライラする!


「これで15回、15回連続遅刻の記録です。 一体どうなっているんですかァ!!」


「わー。」


眠そうな瞳を目一杯ひらかせ、あちゃーと擬音がつきそうな態度をとる彼女。

怒り心頭。

ガシガシと、両手で頭をかきむしるビールだったが、糸が切れた操り人形のように、脱力気味に大きくため息をつく。

煙があがる、彼の頭。

完全にオーバーヒートである。

それを彼女は、単なる疲れと受け取ったようだ。


「ビールくん、お疲れ様でした。 後は私に任せて下さい。」


「ダレの、誰のせいだと・・・ハアハァ・・・・・ハア~~~~・・!!」


怒るだけ、無駄でしかない気がした。

そうだ、確かに頭に血が上りすぎているのかもしれない。

原因は、言わずもがなだが・・。


「はい。 ・・・・・いえ、ボクはまだ残ります。 残務処理の手続きがありますから。」


働き者ですねーと、感心してくるギルドマスター。

先日起こった、魔族の侵攻。

何事も無く事態は収束したが、それだけに問題も起こっている。

高ランク冒険者に出された、特級の召集。

自警団の結成など、てんやわんやだったのだ。

これの撤回などの処理は、なかなかに難しい。

その大事な仕事を、寝ぼけ目をこする自堕落マスターに、任したくは無かった。


「それなら、私は・・。」


「眠そうですし、いっそ私室で休まれてはどうですか?」


ボクは忙しい。

彼女に力添えなどを頼んで仕事が遅れたら、大変な事になりかねないのだ。

もう期待しない。

寝るなら、この世の終わりまで寝てほしい。


「うーん、でもそれって職務怠慢になりませんでしょうか~~?」


遅刻魔が何を言う。

彼女の就寝中に、ギルドの査察官が訪れたところで、ボクには関係の無いことだ。

いっその事、そうなってくれはしまいかとすら思う。


「せっかく来たのですし、私も仕事をすべきだと思うんですよねー。」


「じゃあ、受付でもしたらどうですか? 得意でしょ??」


早くあっち行ってください。

なんやかんやで、ゴロツキ冒険者たちにも人気があるような人望厚いヒトではあるし、受付は彼女の天職ではなかろうか?

なぜそんな彼女が、Aランク冒険者の資格を持っているのか、世界の七不思議のひとつだ。


「それもそうですねー」と、飄々(ひょうひょう)とした様子で空いていた受付の席へ腰を下ろす彼女。

ボクと出会うずっと以前から受付をやっていたと聞くし、サマになっている。

制服をそろえれば、浮いた様子も無くなるだろう。

持ってないから、しょうがないか。


「おっ、今日は受付にレンちゃんがいるのかい?」


「そうですー、今後もよしなにー。」


彼女が受付に立つと同時に、たむろしていた冒険者たちが窓口へと向かう。

人気者だなー。(棒読み)

せっかく静かになったので、ボクも仕事に徹することにする。

契約の一方的解約に対する、冒険者に払う違約金の手配を、ギルド本部に申請して・・・。


「ギルドマスターさんよ、ウチのパーティーメンバーの腕慣らしをしたいんだ。 ワイバーンの討伐依頼とかはあるか?」

「ワイバーンは無いですねぇ、よかったらガーベアの・・・」


「急に悪いが、回復系の薬草が群生している場所は、近くには無いのか?」

「そうですねぇ、魔の森の近くになら・・・」


「すみませんギルドマスター、違約金を払えないという方が・・・」

「はあ、私が対処しましょうかぁ?」


無気力げに、テキパキと業務をこなしていく彼女。

建物の中を埋め尽くしていた冒険者たちは、依頼のために街を離れていき、ひと時の間、冒険者ギルドを平穏な空気が支配する。


「レンさん久しぶりー!」


「誰かと思ったら、カイトさんでしたかー。」


「「「領主様!??」」」


しかし平穏な空気は、彼の到来によって破られた。

ボクと職員たちの声が、一斉にハモる。

これがボクらの懸念事項その2。

過去に何があったのか知らないが、ギルドマスターがベアルの領主様に馴れ馴れし過ぎるのだ。


ギルドは、一般的に治外法権の組織であり、領主やまして国王などに縛られることは無い。

・・・が、それはあくまで形式上の話。

貴族を怒らせるようなマネをしようものなら、いくらギルドマスターでも身の安全は保障できない。

このヒトは、それを分かっているのだろうか??

対面的に、ボクが何もしないわけにはいかず、彼に腰を折って挨拶する。。


「お久しぶりでございます領主様、今日は奥方様はお連れではないのですか??」


「出不精なんですよ、あっはっは!」(領主様)


「まあそうなのですか、フフフフ。」(ギルマス)


笑い事ではない。

今日は奥様を連れていないのか・・・・

彼と彼女の調停役が、今日は不在とは。

領主様は大公という、諸国でも高位の身分を持っているに関わらず、我々に分け隔てなく同じヒトとして、接してくださる。

反面、彼の沸点などが分からず、その対応がコワい。

マズイぞ、ここは唯一の常識人であるボクが、何とかしなければ!!


「領主様、本日はどういったご用件でしょうか?」


「そうそう、忘れるところだった。」


ボロが出る前に用件だけを聞いて、なるべく早くお帰り願おう。

それが、現状を打開する、唯一の解決の糸口だ。

職員たちも、驚きのあまり仕事が手についていないのだ。


「この間の事件(魔王軍侵攻)で魔物を少し倒してさ、ギルドで買い取ってもらえたらと思って。」


・・・え??

確かに領主が、趣味の範疇はんちゅうで狩りをすることはある。

しかしそれを、第三者に売り渡す・・・

ましてギルドで売るなど、フツーはありえない話だ。

そんなレートの低い事をしなくとも、領主であれば商会組織などへ売却すれば・・・

いや、そもそもボクには関係の無い事か。


「分かりました、では私が査定いたします。 お持ちいただいた討伐証明と、ギルドカードをご提示願えますか??」


「ちょっと多いんだ、邪魔になりそうだから、裏でいい?」


「ええ、かまいませんが?」


領主様が懐から出したギルドカードを受け取り、ギルドの裏へと回るボクたち。

しきりに周りを気にした後、彼は何も無い空間から湧き出すように、ゴブリンやオークなど、多くの魔物を取り出した。

これは・・まさか収納魔法!?

なんという収納力だろうか、しかも倒してから幾ばくも経っていないようにしか見えない保存状態。

時間の調整もしているのか?

なぜそのような方が、一領主を・・・

マズい、頭痛がヒドくなってきた気がする。


「ビールくん、査定を手伝いましょうかぁ?」


「ひ、一人で大丈夫です!」


早急に査定をした上で、買取額を提示。

了承をしてもらえたので、これで売買契約は成立だ。

領主様から渡された、ギルドのカードを認証して報酬を渡せばすべて終わり・・・。


・・・ん???

おかしい、領主様のギルドカードが、反応しない!

ビールの背中を大粒の汗が、滝のように流れ落ちる。

ど、どうしよう!?


「おやぁ? カイトさんのカードが使用不能になっていますね、なぜでしょう?」


「え、マジ!!?」


背後から、グーッと顔を覗き込ませてくるギルドマスター。

そうして彼らは、意見交換をはじめた。

原因はどうやら、領主様が3年以上もの間、ギルドに来ていなかった事にあったらしい。

ギルドでは規定として、3年以上、本人からの生存報告などが無いと、自動的に資格を抹消されることになっている。

もちろん、身分などは関係ない。

領主様にも、それが適用されてしまったようだ。


沈黙と共に、ギルド内を重苦しい空気が支配する。

領主様を含め誰も、一言も言葉を発さない。


死んだ・・・。


思えばなんと、短い人生であった事か。

領主が資格喪失したなど、恥さらしもいいところの行為。

不可抗力とはいえ、査定係を買って出たボクが、無事で済もうはずも無い。

この自堕落女がギルドマスターでなければ、あるいは生き残る道もあったかもしれない。

ははは・・・。

せいぜい、あの世で呪詛を吐くとしよう。


「そうなると、買い取りは無理ですか?」


「いいえ、領主様とあらば身分は保障されておりますので、問題ありません。」


「よかった、お願いします。」


滞りなくギルドの買い取りが済むと、領主様は早々に屋敷の方へと戻って行った。

いま、何が起きた!?


呆気にとられたように、それを建物の中から見送るビールたち。

ギルドマスターは、建物の前で彼を深くお辞儀をして見送ると、視線をギルドの中へと戻し、いたずらっ子のように笑みを浮かべた。


「良い方ですよね、カイトさんは。」


「「「・・・。」」」


・・・どうやら命ばかりは助かったらしい。

寿命が、10年は縮んだよ。

領主様が帰ると、嵐も過ぎ去り再びギルド内を、平穏な時間が流れ始める。


・・・・・・って、させるかあああ!!


「ギルドマスタあーー!! もう限界です、ボクはもう限界です!」


「まあまあビール君、お茶でも飲んで、一息ついてはどうですか?」


いいや、もう騙されないぞ!


こんなところ、ボクは辞めてやる!!

ギルドマスターはしゅっちゅう遅刻してくるし、領主様にはなんだか知らんが、なれなれしいし。(決して嫉妬ではない)

彼女も領主様も、とんだ爆弾である。

こんな職場で働いていては、命がいくつあっても足りはしない!!


「まあまあビール君、彼は良いヒトですから。」


「知りません、ボクは決意したんです。 邪魔しないでください!!」


「待ってください副ギルドマスター、あなたにまで居なくなられては、このギルドは終わりです!!」


離せ、離さないの、ループする押し問答。

帰ろうとするビールを、まったく違う内容で引き止めるレンたち。

副ギルドマスターたちはこう着状態に陥り、その行為はしばらく続くのだった。



◇◇◇



数時間後。

今後は領主様と、一線を画した付き合いをするとの取り決めで、どうにかギルドに留まることを了承したビールは、未だにギルドの中に居た。


「副ギルドマスターは、家にお帰りにはならないのですか?」


「ああ、ギルドが閉まったら帰るつもりだ。」


彼の返答に、苦笑を浮かべる職員の一人。

ギルドとは基本、緊急事態などに対応可能とするため、閉まるということはない。

レンが信用できないのは、なんとなく分からないでもないが、仕事熱心にもホドがあるのではあるまいか?


「ボクなんかの事より、君はどうなんだ? もうすぐ退勤時間じゃないのか?」


声を掛けてきた彼女は、まもなく仕事を終える時間だというのに、帰り支度を始めた様子は無い。

忙しければ当然だが、暇な今なら、それをしても誰も文句は言うまい。

再び苦笑に満ちた顔を、こちらへと向けてくる彼女。


「私は・・・マスターの職務の補填をしないと。」


「まったく・・・・!!!」


職務怠慢のしわ寄せが、実害として出ているようだ。

職員たちに信頼されていないギルドマスターなど、前代未聞の話である。

早速、彼女に抗議を言いに行こうとすると、横の女性にそれを手で制された。


「自発的にやっているのです。 このような時です、皆で助け合わないと。」


「・・・・・ふーん。」


日がなダラけているだけなのに、このカリスマ性は何なのだろうか?

一体彼女の、何に惹かれるというのだろうか??


世界は非情だ。

ボクの頑張りに比例するように、彼女の人気が上がっていくばかりではないかと、感じてしまう。

いや・・・人知れず、ギルドマスターは努力を重ねているという事も・・・あるいは?

そういえばずっと、姿を見ないな。


「今ギルドマスターは、どうしている?」


「二階の私室です。 先ほど前を通ったときには、中からペンを走らせる音がしましたので・・・」


そうか、やっと仕事に身を入れ始めてくれたのか!

さっきまでの奇行は、もう水に流そう。

せっかくヤル気になってくれたのだし、ボクとしてはできる限り、力を貸したい。

お茶でも、お出ししようか?


千里の道も一歩から。

一つ一つの積み重ねが、ゆくゆくは大いなる結果をもたらすのだ。

まずは、環境をより良く整えたい。

ギルドの中の台所からティーカップ一式を出し、あらかじめ用意されていた茶を淹れる。

おしぼりと菓子は、功労賞みたいなモノだ。

それらを手に、二階のギルドマスターを訪ねるビール。


「スゥゥ・・・・」


「・・・。」


机の上に小さな魔力灯を点け、なかば薄暗くも感じるギルドマスターの私室。

その中心に、彼女の姿があった。

体をゆっくり上下させて、重厚な机を枕に顔を突っ伏す彼女。

ビールは、この光景に思わず絶句した。

って言うか寝てるし!!?


「~~~~~!!!!」


頭を抱えてしまう。

ギルドマスターを、少しでも信じたボクがバカだった!

もー信じない、もー彼女は信じない!!

ツカツカと歩み寄り、怒りに任せて彼女を起こしにかかる。


「ギル・・・!! ん!??」


よく見ると彼女の顔の下には、うず高く積まれた書類の山があった。

ここからでは一番上の紙しか見えないが、とても多くの書き込みなどがされているのが、目に付いた。

慣れない事をして疲れ、いつの間にか眠ってしまったといったところだろうか。

頑張っても、それで寝てしまっては本末転倒だ。

まったく仕様のないギルマスである。


起こすのは忍びない気がしたので、部屋のひざ掛けを背中に掛け、持ってきたティーセットには保存の魔法を掛ける。

こうする事で、茶が冷えてしまうような事を防げる。

ボクの実戦でちっとも役立ってくれない魔法も、こういう時にだけは、ありがたく感じる。


起きて後、ゆっくり職務を再開してほしい。

少し・・・・。

もう少しだけ、彼女を信じてみても良いかもしれない。

ダラダラして自堕落で、職務怠慢なギルドマスターだが、やれば出来る人なのだから・・・。


・・・・。


待て。

そもそもボクは仕事明けで、彼女は仕事中だろう。

ボクが働いて、彼女が休むなどという事が、いい筈が無い。

今度は、力任せに彼女の体を揺すり動かす。


「ギルドマスタアアァァァーーーーーーーーーー!!! 何を気持ちよく寝ているんですかあぁぁ、早く起きてくださいぃ!! ギィルドマァスタァァーーーーーーーーーー!!!!」


「ふわぁ?」


寝ぼけ気味に目をこすりつつ、ゆっくりとした動きで顔を上げる彼女。

こんな時もスローテンポを崩さない。

ボクの心へ、たぎるようなイライラが募っていく。


副ギルドマスターの受難は、しばらく続きそうだ・・・・・。



これからも、ドタバタ劇は続きます。

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