第276話・戦後処理といいましょうか・・・
本策の前半部分における、アドリブが過ぎてハチャメチャだった一部分を、書き直しました。
大よそ1万字分ほど。
その関係で、内容に矛盾点などが生じていると思われます。
できる限りチェックしてはいますが、見落としなどがありましたら、感想などでお寄せいただけると幸いです。
これからも、『オタクはチートを望まない』を、よろしくお願いいたします。
『あの、俺カイトって言います。 こっちはメイドのダリアです、よろしく。』
『・・・。』
必死で笑顔を取り繕い、何度も頭を垂れる俺。
魔王は寡黙で、重々しいオーラを放つ人物だった。
息をするのすら苦しい言いますか・・・
相対したときは、思わず食われるかと思ってしまったよ。
『モノは相談なんですけど、意味の無い戦争はやめませんか? お互いに平和に行きましょう。』
毅然とした態度で、しかし体は大きく震わせた状態で、臨ませてもらった。
俺の出方しだいで、たぶんベアルの将来が決まる。
しかし彼らも彼らなりに、、相応の言い分があった。
いはく。
どこかの冒険者が、彼らに不利益を被らせ、殺しまでやってのけたのだと言う。
さらに、魔族の1人が人間領に出かけたっきり行方不明に。
言い分はよく分かったが、それで戦争はあんまりだ。
『彼らに代わり、私が代表して謝罪いたします。 でも戦争は良くありません!』
ダリアさんが、なぜか後ろで笑い転げてピクピクしていたがそれは無視。
いつしか彼の横には、地位の高そうな5人の魔族(?)が取り巻いていた。
静観を貫く彼らを尻目に、俺と魔王は対話を続ける。
『貴様に思惑があるように、我々にも信念がある。 攫われ、行方不明となった魔族の捜索も、我々の任の一つだ。 その落とし前は、どうつけるつもりだ人間よ?』
『俺が・・・それは私が責任持って、その魔族を捜索します。 それではダメですか?』
この時、こちらへ向けられた鋭い眼光。
あの時はもう少しで、チビッてしまいそうだったと記憶している。
あれ、絶対に視線だけで人を殺してるって。
マジで。
弱いトコを見せるわけに行かず、俺がどんな思いで彼に視線を集中させたことか。
・・・話を戻そう。
このやり取りの後、魔王は右手で顔を隠し、大きな体を震わせた。
地鳴りのような、この世のものとは思えない唸り声。
最初は怒っているのだと思ったが、すぐに違うと分かった。
『くっははは! よかろう、兵を退かせよ。 全軍を撤退させるのだ!!』
『魔王陛下、まさか・・・!』
傍らの魔族の驚愕の声に答えることなく、魔王は俺へ、その大きな双眸を瞬かせた。
先ほどのそれより、眼光の鋭さは減って居た気がする。
『取り決めは交わされた、此度の侵攻は取り止めとする。』
ダリアさんの言うとおりでした。
魔王、話せば分かるというか、怖いぐらいすんなり話がまとまりましたよ。
そうしてビデオの巻き戻しのように、ザーッともと来た道を戻り始めた魔王軍。
顔は怖いけど魔王様、、けっこう良い人でした。
以上、魔王との談話終了。
別行動だったノゾミとヒカリを、途中で回収して帰ってきましたとさ。
めでたし、めでたし。
「はあ、そうですか。」
俺の命を掛けた話を、聞き流すようにするアリア。
あ、信じてないな!?
確かに信じられないような話だけど、これは真実なんだ。
真実は小説よりも奇なりとも、言うだろう!
「申し訳ございませんカイト様、信じていないわけではないのですが相手は魔王なので、どうも・・・・」
まーね。
確かに、彼は怖かった。
俺も気迫で、押しつぶされそうになったし。
でも、それは過去の話。
「安心してくれ、魔王軍は森の奥に帰って行ったよ。 脅威は去ったんだ!」
「本当ですか!?」
確認のためなのか、アリアはダリアさんへ視線を向ける。
首を縦に振り、肯定を示すドラゴン。
それに補足するように、ノゾミが俺の武勇(?)をアリアに語って聞かせる。
「私は遠くから見ていたんだけど、カイトがダリアちゃんと転移した後すぐ、魔王軍がサッと退いて行ったんだ! カイトの姿はよく見えなかったんだけど、かっこよかったよ!!」
目をキラキラさせて、熱く語る彼女。
よく見えなかったけど、かっこよかったって、何なのだろうか?
「いいなー、私は見られなかった・・・」
対比するように顔をうつむかせて、指をくわえて羨むヒカリ。
恥ずかしいから、やめてくれ。
俺がやったのは、ちょっと魔王さんと話し合いをしただけです。
でも3人が一様に、同じようなことを言ったおかげかアリアは、一応の納得をしてくれた。
「まあ、カイト様ですし・・・? ではカイト様、その魔王と交わしたという約束は、果たせそうなのですか?」
「ああ、アテはある。 という訳でダリアさん、頼んます!!」
「は、わわ、私が!??」
うろたえるなダリアさん、君には世界随一の探索魔法があるではないか!!
アテにしていますからね!?
「我が探索魔法は、私が知っている相手にしか使えません! 人間世界に紛れた魔族一匹を見つけるなど、鬼畜の所業です!! それは海に落とした水を探させるようなものですからァァ!!!」
半ベソをかきながら、俺をポカポカ殴りつけてくるダリアさん。
俺が悪かったって、泣く事ないだろ・・・?
しかし彼女がダメとなると、その行方不明の魔族というのは、探しようが無いな。
俺?
ダメダメ、ドラゴンの彼女が出来ないことが、人間の俺に出来るわけないだろ??
しょうがない。
魔王さんには『すんません』と詫びを入れに・・・
「かか、カイト様、魔王に詭弁を申したのですか・・・・?」
アリアが顔を真っ青にして、俺を指差す。
詭弁とはまた、聞こえの悪いことを・・
ちょっと、急に事情が変わっただけだよ。
「命知らずですね、カイト殿様は。」
「俺、そんなに変なこと言った!?」
なぜ、メイドさん含め皆、揃ってそんな真っ白になるのか、分からない。
確かに怖い人ではあったし、侵攻もしてきたけど話せば分かる人だったよ。
今回のコレだって、きっと早いウチに話せば分かってもら・・・
「魔王がソレを知れば、きっと烈火のごとく怒るでしょう。 そうなればベアルは・・・ベアルは・・・!!」
「え、ウッソ!??」
ヤバイ、またも知らずに地雷踏んだの俺!?
何かに追い詰められたように、涙を流すアリア。
使用人さんたちもそうなのが、現状を色濃く物語っている。
「カイト殿様、ご心配には及びません。 魔族の探索に期限は設けられておりませんでしたから、このまま知らん振りしておけばいいのです。」
「あぁあ・・。」
危険な香りしかしませんが、そんな方法で大丈夫なんですかね?
アリアたちも、顔をひきつらせているし・・・
いや、深く考えるのはよそう。
成せば成るとも言うではないか、はっはっは!
「命知らずだね、カイト。」
「・・・。」
ノゾミ・・・
今後が、今後がすごく不安だよぉー。
◇◇◇
「魔王様、我が全軍の後退、完了しましてございます。」
「ご苦労、貴様は隊を引き連れて人間勢の観察を続けよ。」
「御心のままに。」
サッと翼を広げ、窓から外へ飛び出す『風翔の』魔将。
それを一瞥すると、魔王の後ろを歩いていた一人の魔族が、魔王の横へと歩み寄る。
「魔王陛下、よろしかったのですか? なぜ人間の小童一匹ごときに・・・」
「あの人間に手を出してはならぬ。」
疑問を口にする参謀の魔族に、クギを刺す魔王。
その射抜くような強い視線に、言葉を失う彼ら。
魔王様がこんな態度を示されるのは、初めて見るかもしれなかった。
「あれは人間ではない、ヤツは人間に見えるが人間を超えた存在だ。」
「はあ・・・」
言っていることが分からず、生返事をしてしまう彼ら。
魔王様には、恐らく自分たちには、とても理解の及ばないモノが見えているのであろう。
それ位しか、自分たちには分からなかったのだから。
「魔王様、かの者からはエルガンティア様の残痕が垣間見えました。 恐らくは、ごく最近に接触したように見えましたので・・・」
「・・・・分かっている。」
魔将の1人、『闇獄』からの報告に、首を縦に振る魔王。
なぜあの人間から、彼女の気配がするのかは気になるところではある。
だがあの人間の力は、我が魔王軍が束になってかかっても、敵わないほどのレベルだった。
その圧倒的な力と、一瞬で間合いを詰めた、あの魔力センス。
そして魔族の王を前にして物怖じしない、その豪胆さ。
あれは、決して敵対してはならない存在。
そう、本能が訴えかけてくる。
「闇に紛れ、かの者を離れたところより観察せよ。 しかし決して、機嫌を損ねるようなことをしてはならぬ。 他の魔将は軍のとりまとめをせよ。」
「「「ははっっっ!」」」
闇の中に溶けるようにして、姿を消していく3人の魔将。
世界を崩壊に導くほどの力を持つ、摩訶不思議な人間の男。
魔王の懸念事項は、それだけに止まらなかった。
彼がその傍らにおいていた、使用人の格好をした幼女。
巧みに魔力を隠していたが、あれは間違いなく『要のドラゴン』であった。
内包する圧倒的な魔力と、撒き散らしていた殺意。
数百年前に相対した、破壊竜のソレに酷似していた。
ドラゴンは、世界一プライドの高い生き物である。
なぜそれが、人間に付き従っているのかは、まったく分からない。
今はエルガンティアどころではないのは、確かだ。
魔族、そして未来のこの世界にすら、影響が出かねないこの事態。
世界に終末をもたらす存在が、魔族の土地から近い場所に、2人もいるのだから・・・・。
ちなみに今は、六魔将は5人となっています。
欠員分は、ダリアさんに食われました。




